追記 (2020, 3/6 22:14)
実は本作品のこれからのことについて、皆さんから意見を聞きたいことがあるんです。本日より追加した、活動報告の方にそれらの詳細が記してあります。もし良ければ、私のマイページの方から活動報告に飛び、次いでにそこに記してある、私が皆さんに聞きたいことの詳細を見て、ご意見を頂けると助かります。
失礼致しました。
吹雪たちとの一悶着があったその後。特に状況は変わりなく、依然として向けられてる視線達は気になるものの、腹が減っていたせいかすぐに平らげてしまった。
今までであったなら、艦娘たちに囲まれた状況で食べるなんて言語道断だったのだが、先ほどの吹雪と夕立の絡みで一緒に笑い合えたのが理由なのか、今はそこまで恐怖感などその他諸々の感情は湧き上がってこなかったので、なんの問題もなく昼食にありつけられた。それに、側に大和と翔鶴も居てくれたおかげで、比較的リラックスした昼食を楽しむことができたのもある。
このひと時で、こうも人というのは心情が変わっていくのか。
「……ふぅ。美味かった」
そんな様々な因果があって平らげた今日の飯は、この頃で一番美味かった飯だと言える。そんな余韻を乗せた満足気な俺の言葉に、翔鶴も丁度平らげたのか、反応してくれた。
「……はい。美味しかったですね」
「なんだか、いつもより……美味く思えた」
率直な本音を溢すと、翔鶴は「だから度々、提督のことを誘っていたんですよ。みんなと食べるご飯は美味しいですから」と、静かな笑みを溢した。
「ああ……そうだったな。すまなかった。今まで断ってしまって」
「いえ。良いんですよ。提督に非があるわけではありません。これは、私と大和さんの……提督と出来れば昼食を共にしたいという我儘に過ぎ無かったのですから」
「それでも、翔鶴と大和が今日誘ってくれていなかったら、俺はこれからも、恐怖心という狭い牢の中に閉じ籠っていたかもしれなかった。今日、俺は一つ、吹雪と夕立と接することで、今まで気付かなかった……いや、気付かないフリをしていた自分の過ちを、再度認知することが出来たんだ」
「……このひと時が、提督の心中で何か変われたきっかけになったのであれば、私は幸いでございます」
「ああ。ありがとう翔鶴」
そう。俺がここ一年間。艦娘たちのことを救済しようと尽力しようとしたが、当の艦娘たちには認められなかったこと。
先程の、吹雪と夕立との会話で分かったことである。それは、艦娘たちに、『理想の提督』という一つの軍人として接してしまっていたということ。なにも反論もせず、ただ無視や暴力をされているのに、上官として罰則を与えなければいけなかったことを黙認していたということ。これは罪なんだと。しょうがないんだと心の中で諦めて、これまで前任が犯してきた艦娘たちへの人間たちの罪を、この身一つで無理やり清算させようとしたのだ。
当然、艦娘たちからしたら上官という立場ではなく、上官という立場でありながら、まんまと艦娘たちからの酷い行いを受けにきた、そんな胡散臭い人間が提督として着任してきても、誰も信じるはずがないのだ。
部下である艦娘——能代に、階段から突き落とされたあの騒動も、これまでの積もりに積もった不信感などが災いしているのだろう。
被害者の皮を被った加害者だったのだ。俺は。
「……」
そんなことを自覚すれば、当然かなり気が落ち込んでくるが、自分の過ちの全容を理解し、これで先に進める手立ての一つとなると思えば、そう悲観はしなかった。これまで紐解け無かった、絡みに絡まった糸のような、俺と多くの艦娘たちとの辛く、暗い過去からなるすれ違いの関係に、今回の出来事を皮切りに、新しい一歩を踏み出せる気がする。
今はまだ不安要素しかないこの鎮守府だが、小さな希望の光が灯ろうとしている。俺がこれからすべきことは、その灯りを消えさせず、大きく、そしていつの日か、艦娘たち全員が『帰りたい』と思える鎮守府を作り上げることだ。
その為の第一歩として、やはり艦娘たち全員との和解をしなければならないだろう。
問題は山積み。だけど、着任当時と比べれば、まだ希望がある。
——必ずやり遂げて見せる。
「……」
「提督?」
自然と力が入る拳を見ていると、翔鶴が不思議そうな顔色をさせてきた。
「あ、ああ。どうした」
「いえ、なんだか少し呆けていたので、不思議に思っただけです」
「いや。まあ……大丈夫だ」
「なんですか。その釈然としない返事はっ」
「す、すまん」
頬をむくらせる翔鶴への反応に困っていると
「——二人とも。麦茶を持ってきました。食事終わりに一杯如何ですか?」
その時、氷が入った麦茶を持って大和が来てくれた。
ナイスタイミングだ。
「ありがとう大和。頂くよ」
「大和さんありがとうございます」
俺と翔鶴は礼を言い、麦茶を一口含む。「ふぅ」と、落ち着いた余韻に浸っていると、翔鶴はゆっくりと顔をこちらへ向けた後に口火を切ってきた。
「ですが、実は今回もそうでしたけど、提督はご飯の時になると、今のように呆けていたり、いつもそちらに夢中になるもんですからね。話しかけても無視されることもしばしばありますし」
——と、少々揶揄うような微笑みを浮かべながら、そう言ってきた。
「え。それは……本当なのか」
翔鶴に驚きながらそう聞き返せば、直後に「はい」と返答してくる。どこか様子がおかしい。もしかしたら、先程俺に話しかけてくれたが、飯に夢中になってて気付かなかったために、少し気に障っているのかもしれない。
「そ、そうなのか」
そういえば確かに、俺が最後のスパートでご飯をかき込んでいたとき、隣から声がかけられた覚えがあるような。しかし、食堂は今、先程のピークは去ったものの、まだまだ他の艦娘達が談笑をしながら食べている。
多分だが、翔鶴が俺へ話しかけたとき、丁度真後ろの席で、背を向けて談笑に勤しむ、二人の艦娘の声が重なってしまい、俺の耳に届かなかった可能性もあるが。
「……ごめん。今日はさっきまで何も食べてなかったから、しかも久々の間宮さんの料理となって、余計に飯に集中してしまって」
そんなことを長ったらしく語っても意味がないというか、ねちねちそんな言い訳を吐く生き物は海の男じゃない。なのでここは素直に謝る。
「……」
そんな俺の謝罪に、依然として無言の『笑顔』なのだが、それは普段から向けてくる優しげな『笑顔』とは程遠いものだった。
なんだか。こう、冷たい感じである。率直に怖い。
「あの……翔鶴、さん」
「はい。なんでしょうか。提督」
「えーっと……」
「……」
またもや完璧な『笑顔』。いや、完璧すぎる『笑顔』だから尚更怖い。これほどまで『笑顔』に威圧感を感じるのは翔鶴くらいなものだ。
「——ふふ。翔鶴。その辺にしないと、提督が可哀想ですよ」
と、そこで翔鶴のいる右隣の反対側。俺の左隣で何故か微笑みながら、こちらの様子を静観していた大和が、助け舟を出してくれた。
「提督は騙せますが、私は騙されませんよ? 困っている提督を見て、本当は面白がってるあなたのことは」
「は?」
「えへへ。バレてしまいましたか。流石はこの横須賀鎮守府最強の船。その数十キロ先の敵もお見通しな『目』は誤魔化せませんか」
拍子抜けして素っ頓狂な声を出した俺とは違い、二人はなおも話を続ける。
「今のはそんな事関係ありませんよ。寧ろ、こんな簡単な演技にまんまと嵌ってしまう提督に心配するほどです」
「……え?」
てっきり助け舟かと思えば、大和は呆れたような顔で俺にそう言ってくる。
「そうですね。指揮能力は見事なものですが、まだまだ若いところが見受けられますよ提督。頑張って、日々精進ですよ」
「……はい?」
そして、原因である翔鶴も大和のその言葉に便乗して言ってくる始末である。
え? 今の俺が悪かったの?
そんな疑問をはっきりと浮かばせているような困惑顔な俺に、翔鶴は気付いたのか、耳元にその口を近付けて
(ふふ……申し訳ありません。提督)
「ふぇっ」
と、そんな小悪魔が囁くように言ってくる。しかも、俺は耳が弱いことを知っていながらである。
「っ! しょ、翔鶴!? あなた今提督に何をしましたか!」
咄嗟に大和がそれに気付き、声を張り上げるが、時すでに遅し。その時には、翔鶴は机にあるお茶を何知らぬ顔で啜っていた。素早い動きである。
「いえ。ただ謝罪を申し上げただけですけど」
「態々耳元で囁くほどのものではないですよね!」
「申し訳ありません。つい」
「『つい』とはなんですか『つい』って! 絶対反省してないですよね!」
「してますよ。ごめんなさい大和さん。ふふ」
「してないですっ! 大体翔鶴はですね——」
必死に頬を赤らめながら抗議する大和と、それに冷静に、あくまで微笑みを絶やさず対応する翔鶴の対極的な二人の口論に、それを見守る周りの艦娘たちの反応は様々であり。
——大和はこの鎮守府では、能力的にも練度も最強の一角の艦娘。
——そして、翔鶴は鎮守府内で一航戦の赤城に次ぐ、練度を誇っている熟練艦。
そんな二人が、間に俺を挟みながら、なんとも度し難い議題で言い争っているのだ。
普段、この鎮守府を牽引し、貢献しているはずの二人がこうしているのを初めて見る駆逐艦たちや巡洋艦たちは、予想通りあんぐりとした感じで、驚いているのか、呆然としているのか分からない反応をしている。
一方、戦艦たちや空母たちはどう反応して良いのか分からないので、瞠目させているか、苦笑させているのが大半であった。
「……」
しかし、普段から冷静な大和がここまで踊らされるとは。
なんと末恐ろしい人なんだろうか。翔鶴は。
俺はその内、この人に骨抜きにされているのかもしれない。
そんなことを考えながらも、流石にそろそろヒートアップしてきたので止めに入る。
「二人とも。一旦落ち着い——」
「「——提督には関係ありません!」」
「……」
が、二人から同時にそんなことを言われてしまった。この場合また俺が悪いのかと内心困惑する。というか、冷静に対応していたはずの翔鶴もムキになってしまっている。このままじゃ後の祭りだが、かと言って俺もそうだが、艦娘内でも古参で武勲艦であるこの二人を止めに入れるような度胸がある艦娘はこの食堂にはいないという状況である。
赤城さんと加賀さんがこの場にいれば、止めに入れるかもしれないが。
「大体翔鶴は最近提督との距離が近いんです! 自粛してください!」
「私は普通にしているはずですが。大和さんの意識的な問題なのでは?」
「はーん。……朝早く起きて提督の寝顔を拝みに行ってるようなあなたが『普通』だなんて冗談でも甚だしいですよ!」
ん? 今聞き捨てならないものを聞いたぞ?
「っ!? ……たとえ、もしそれが本当だとしてですけど。なんでそんな事を知ってるんですか? もしや大和さんも覗きに来てたんですか?」
「っ……ち、違うに決まってるじゃないですか! あの時はたまたま朝早く起きて……ああっもう! ああ言えばすぐこう言いますね! あなたは減らず口多連装砲でも付いてるんですか!」
なんというか、反応を見るに翔鶴も怪しいが、大和も充分怪しいな。
「大和の方こそ……提督と私の話してるところに妬いちゃって、すーぐ私に突っかかるじゃないですか。突っかかり多連装魚雷でも付いているのではなくて?」
「は、はいぃ!?」
——さて。空の食器とトレイを片付けてこよ。
● ● ●
食堂では大和と翔鶴のヒートアップした口論を止めれそうになかったので、現在俺は一人で工廠に向かっていた。まだ吹雪との、16時に執務室で、これまで鎮守府でなにがあったのかを話し合うという約束まで早いので、野暮用というよりは個人的な用事を済ませに来たのだ。
最近ではすっかりご無沙汰なのだが、階段から落ちる前まで、毎月に五回は通っていた。何故かというと建造も、開発もそうなのだが、一番は俺の個人的な理由でもある。
それは——提督でありながら、『妖精さん』が見えない体質が関係している。
実は工廠には、大和たちと一緒に行動するようになる前に、俺のことで親身になってくれた一人の艦娘がいたのだ。
そんな彼女の名前は——
「——〜♪」
工廠に着くと、そこで独りでに軽やかな鼻歌を響かせながらも、艤装の修理だろうか。夢中で作業をする艦娘——明石がいた。
「明石!」
「〜♪ ……あ、提督!」
俺がそう呼ぶと、直ぐにこちらへ振り向き、作業を中断してまで小走りで迎えにきてくれた。
「こんにちは!」
「こんにちは。悪い……今忙しかったか?」
相変わらず、着任当初の最悪な鎮守府の状況だった時からも、快活で、こちらも元気を貰える良い挨拶と笑顔だ。しかし、先程まで夢中で作業していたようにも見えたのだが。
「いえ。忙しいとは言っても、そこにいる妖精さんたちが、なんだかんだ、金平糖をあげれば、必死になって手伝ってくれますから大丈夫です。あと、私もそこまで職人気質ではないので、別に作業中に話しかけられても、鬱陶しいなぁとか思いませんからね。なのでこれからは別に無理に気を遣わなくても大丈夫ですから!」
「……そうか」
そんな言葉に、下手に俺から気を遣わせようとさせない、人の好さが滲み出る彼女らしい返答に、俺もそれ以上追求はしなかった。
「はい! ところで提督。今日は何をご入り用で?」
「いや、何か欲しいものがあるわけじゃなくてだな」
そこまで言って、明石も察したのか「あ、なるほど。ではアレですね」と言ってくれた。
「ああ。久しぶりなのだが頼みたい。今出来るか?」
「はい! 当然です! ……明石の出番ですね。準備しますので、どうぞこちらに座ってお待ちになってて下さい!」
言われた通り、脇に置いてあったパイプ椅子に座り、待つことにする。
今からやることなのだが、至極単純なものである。
明石が妖精さんを俺の目の前に置き、俺がその妖精さんに色々なコンタクトを取るというもの。つまり、妖精さんが見えない体質な俺のリハビリみたいな感じである。
と言っても、これが上手くいった試しはなかった。これまで何十回と繰り返してきたが、全て見えもせずに終わってしまっている。
「——はい。準備完了です! どうですか? 見えますか?」
明石が準備したのは、金平糖が数個置かれている皿がある小机だ。しかし、俺には今見えていないだけで、明石からして見れば、実際には今そこに、金平糖をかじっている妖精さんがいるのだという。
「……いや、全く」
「うーん。一応今ので、試行回数は116回目ですね。提督、何か話しかけてみてください」
「……」
そう言われてみると弱る。何せ相手は妖精さんだ。人間の世間話、しかも俺という世間話という話題もないつまらない男の話である。興味を持ってくれるとは考えにくい。
はて。何を話そうか。
「え、えと。提督の趣味とかは」
見かねたのか、話題の助け舟を出してくれる明石。
「……すまん。趣味という趣味はないんだ」
だが申し訳ない明石。ここ数年は趣味にも充てる時間がないのだ。
「では昔話とかはどうでしょうか。なにか、学生時代の話は」
「学生時代か……」
学生時代。別に特筆すべき思い出という思い出はない。ただ学校に行き、学友と一緒に遊んだり、勉強したり、協力して文化祭をやり切って、楽しんだり。友達も余り多かったわけでもなく、2、3人くらいでいつも行動していた。
至って普通な学生生活であった。まだ提督候補生だったころの話であれば、覚えていることも多いし、少しは話せるのかもしれないが。
「明石」
「はい」
「……すまん。思いつかない」
「そ、そうなんですか」
やはり妖精さんが興味を持つような話題が見つからない。たとえ見えていないが、ごく普通の学生生活を話したとしても、多分小首を傾げてもなお金平糖をかじっている妖精さんの姿が容易に想像できる。
「それでしたら……——」
——ヂリリリリリリ
また、なにかの話題を提示してくれようとした明石だったが、突然工廠に鳴り響いた電話の音に遮られる。
「あ、す、すみません提督」
「いや、俺に構わず。ゆっくりでいいぞ」
「はい。少しの間失礼しますね」
と、広い工廠の入口の方にある固定電話の受話器を取りに行った明石を尻目に、とりあえず勇気を出して。俺は少し妖精さんに話してみることにした。
依然として、皿から独りでに宙に浮いたまま、妖精さんなのだろうか。少しずつ削られていく金平糖。そこに妖精さんがいるのは確実だった。
不自然に、皿から宙に浮いている金平糖を真っ直ぐに見つめながら、俺は口火を切った。
「妖精さん……こんにちは」
挨拶しても、特に宙に浮いている金平糖に変化は見られなかった。
「多分、明石から聞いているとは思うが、俺はここ横須賀鎮守府の提督という地位に就いている者だ。
先ず何から話そうか。であれば、俺がここに来た時の話だろうか。別に話しても良いが、いきなり空気が重くなるのも忍びない。何せ指揮する筈の人間が、部下たちにひたすら無視されているという話だ。話している方もそうなのだが、その話を聞いてる方も悲しくなる。そしたら別の——
そこまで考えて。やめる。ここは率直に聞こう。
「妖精さん。実は君だけではなくて、この工廠にいる全員にも聞きたいことなのだが」
そんな俺の真剣な雰囲気を察したのかは知らないが、宙に浮いていた金平糖が、元の皿の上にゆっくりと戻されていく。
実体は見えないが、気を遣ってくれているのが分かる。
「妖精さん。実は提督でありながら……俺は、君たちの姿を視認できないんだ。生まれて来てからずっと。そこで、君たちに質問なのだが、どのようなことをしたら、この先後天的に妖精さんを見える時が来るのか教えてほしい」
君たちを見えるようになれるのにはどのようなことをしていけば良いのか。本人たちに聞くというのも中々に滑稽に感じるが、今まで明石にこのような実験を116回も続けてきて、未だに何も尻尾さえ掴めれずにいる。しかし、形振り構ってはいられないのだ。これから鎮守府が変わっていく為には、今のような、俺が認知していないところで妖精さんが支えてくれているこの現状ではなく、互いを認知し、フォローし合わなければならない。このままでは妖精さんだけが俺のことを認知して支えてくれるが、俺は妖精さんのことを認知していないので、一体何をフォローされたのかすらも分からずにいて、自分が何か、余計なことをしでかしてしまうかもしれない。艦隊運営の効率的にも悪ければ、最悪艦娘の命さえ脅かしかねない現状だ。
現在はまだ、人間と深海棲艦たちの最前線での攻勢は見られないものの、あと数年もすれば、大規模な海戦が起こり得る可能性が高い。今のうちに、身内の厄介ごとは終わらせておかないと、いざと言う時にそちらへ集中できなくなり、結果敗戦してしまうのだ。
「……」
しかし、妖精さんから一向に返事がこない。それはそうだろう。見えない状態でそもそもあんな質問を投げかけたって意味がない。
であれば。
咄嗟に胸ポケットから、手帳と鉛筆を取り出した。
「話せないのであれば、ここに言いたいことを書き記してくれるだろうか」
たとえ見えなくとも、そろそろコミュニケーションくらいは取っておきたい。そんな気持ちで咄嗟に機転を利かせた結果、筆談という方法を取ったのだが、そもそも妖精さんたちは字を書けるのだろうか。
ああ。くそ。行き当たりばったりだな。と、自分の計画性の無さにイラついてしまう。
「やはり……ダメなのか」
今日のところは、引き返そうかと。
明石も今、急ぎの電話中だし、このまま進展もないままここにいても、迷惑なだけだと。
少し嘆息をしてから、開いたままの白紙のページと鉛筆を片付けようとしたその時。
「……っ!」
奇跡だろうか。目の前の鉛筆が、先程の金平糖のように、独りでに浮遊し、動き始めたのだ。
徐々に、白紙のページに低学年児が書くような拙い平仮名だけの文字が、書き記されていく。
これまで何度話しかけても無為に終わった。提督候補生時代では、何度もやること成すこと、妖精さんが見えないことが壁となって立ちはだかり、皆んなから嘲笑と憐憫の目を向けられた。妖精さんが見えない提督としてレッテルを貼られ、当然若くして提督になった俺への、数々の軍人たちからの不満の風当たりは物凄くあった。時には、候補生時代に苦楽を共にしたはずの一部の元学友たちからも、数々の不平不満が一挙にぶつけられた。俺が一体何をしたというのかと。ただただ理不尽な世界と、偽善や建前で成っていた、友情とは名ばかりの虚偽の人間関係の醜さに、絶望し、悲観した。
しかし今、目の前で、これまで苦しんできていた自分のコンプレックスでもあった『妖精さん』が、俺に初めて顔を向けてくれたのだ。複雑な気持ちだ。俺はこの物体が見えないという理由で、多くの人間関係に拗れを生ませられたというのに。何故、こんなにも嬉しい気持ちになっているのだろうか。これまで自分に理不尽に降りかかってきた悪意に対して怒りや不満、悲しみ。そして、これから妖精さんと初めて会話できるという嬉しさと希望。
この数々の感情が今織り混ざって、気持ちが悪い感じである。
だがついに、俺は妖精さんと。
独りでに、ゆっくりと白紙のページに書き記していた鉛筆は、やがて動きを止め、机に倒れる。
俺は書き記された手帳を、またゆっくりと、目前まで持って行った。そこに記されていたのは——
——ていとくをやめてください
「……は?」
そこには、思わず呆けた声を出してしまうほどの、衝撃を受けてしまう文章が羅列していた。
今後、登場するとしたらどの艦娘が良い?(参考程度)
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球磨
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空母ヲ級
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ビスマルク(Bismarck)
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瑞鳳
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俺