「これは……」
「……」
現在、俺と大和は鎮守府に到着して門を通り、執務室に向かっている。
門を通る前は一月前と何ら変わりはないように見えたのだが、通った後建物に近付くにつれ段々と違和感を覚え始めていた。
大和は俺が不意に困惑して呟いた言葉を予想しているかのように目だけを瞑って、歩き続けている。
その俺が感じた違和感の正体。それは──
「……静か過ぎ、ですよね」
「……ああ」
そう。静か過ぎるのだ。
横須賀鎮守府はここ日本では都心の護る盾となる最重要拠点の1つ。しかも太平洋側に位置しているので、最も深海棲艦の襲撃を受けやすい。そのため、約200名近くもの艦娘が在籍している。
一月前ならばこの前庭を歩いていれば誰かしらの談笑や演習中の砲撃音、工廠等からの金属音が聞こえてきたものだ。
なのに今、木々や防波堤に波打ちしている自然音ぐらいしか耳に届いていない。
ここまで聞こえて来ないとなると、まるでもぬけの殻になった広大な廃墟のなかを歩いているようだ。
「二週間前までは、まだ騒々しさはありました。ですが……」
「……? もしかして、この静けさの原因が分かったのか?」
「いえ、これはあくまでも予測なのですが」
静かな鎮守府というなんとも不気味になった勤務地を歩いている不思議な経験をしていると、隣を歩く大和が不意に、無意味な情報かもしれないと遠慮しながらも俺へ話し始めた。
「……大勢の艦娘達の集まりが、とある日の夜に行われたらしいのです」
「艦娘達の集まり……? まさか俺が不在中に大規模な作戦でも行ったのか?」
「私もそれを耳にしたときは警戒したのですが、そのような動向は見られませんでした。皆さんはいつも通り、提督のローテーション通りに出撃し、報告書も確りと提出していました」
「……やっぱり信じられないな。ちゃんと、ただ深海棲艦を撃滅するだけの艦娘としてではなく、横須賀鎮守府の艦娘として任務を遂行しているという話は……中々信じられない」
「……ですが、何度も申し上げた通りこれは真実です」
「ああ。大和が言うことだから信じる他ないんだけどな……それでも、俺のなかであいつらに期待をするな……とかな? 後ろ向きな言葉ばかりが浮かんでくるんだ」
「……提督」
「…………すまん。話が脱線したな。それで、勝手に大規模な作戦を実行しようとしたという線は消えた訳だ。じゃあ他に何か大和に心当たりがあるのか?」
「……はい。心当たりというよりは、憶測です。実は、その集まりをするように促したのは金剛さんだったそうなんです」
「金剛?」
「はい。金剛さん……いや正しくは金剛型の姉妹達が発端です。それで……そもそも横須賀鎮守府の艦娘達が次々と改心し、任務を真面目に遂行するようになったのは金剛さんが始まりだと先程話しましたよね?」
「あ、ああ」
「しかも提督が突き落とされた事件が起きてからそう経ってはいない時期、そして積極的に鎮守府の活性化をするという今までは考えられなかった行動を照らし合わせてみれば、あの集まりの目的が大体見えてきます」
「……俺に関係すること、だよな。多分。……そういえばさっき、俺にあんな過激な反抗──暴力をしていた一部のやつらが償いだといって大人しくしていると聞いたし……考えられるとすれば」
「はい。多分ですが、これからの提督への対応をどうすれば良いのか……みたいなことを考える集まりなのではないかと」
「うーん……」
「ま、まあ、これはあくまでも私の憶測なので……」
「ああ。わかってる。でも気持ちに留めておくよ」
「はい」
(取り敢えず、今は執務室に行って状況整理をしなきゃな)
「──ここまで誰も会いませんでしたね」
「ああ。……ちょっと不気味だ」
前庭から建物に着き、執務室間近まで来ている。
誰にも会うことなく、辺りに響くのは俺と大和二つの足音のみだ。
「久し振りだな」
執務室の扉前まで来ると、思わずそんな言葉を呟いていた。
ここのドアノブを握る度に浮かんでくるのは、痛みや悲しみ、怒り──そして心地好さと優しさ。様々なものが複雑に絡まり合っている。
気持ち悪い。しかし、僅かな温かな思い出がそれを抑え込んでくれている。
………………
…………
……
それは、着任してから半年が過ぎた頃だ。
『提督。お茶が入りましたよ』
『ああ。ありがとう大和』
『あら? 私もお茶淹れちゃったんだけど……』
『……ふっ。いいよ陸奥。そっちのも飲む』
『そう? ごめんなさいね。大和も』
『良いですよ。提督も、二杯飲めて嬉しいようですし』
当初は大和だけが執務室で執務を手伝ってくれていたが、ある日陸奥が、突然目の前に来て、「私も……手伝うわ」と、進言して来てくれた。どうやら俺のこれまでの復興活動を正しく評価してくれたみたいで、前任とは違うことを分かってくれたらしい。そうして、いつの間にか陸奥もこうして時たま手伝ってくれるようになった。
『まあな。そういえば朝から一滴も水を飲んでなくてな。喉が渇いてたんだよ』
『え……もうっ提督! そうでしたら早く言ってくだされば良かったのに』
『そうよ? 一日に結構な水を飲んでおかないと、後々それが祟って体調不良を起こすことになるの。無理しないで頂戴』
『いやあはは。……善処する。でも今日は特に調子が良くてな。いつも退屈だと思っていた執務がスラスラと終わるもんだからつい明日のぶんにまで手を出してて、つい休憩するの忘れてたんだよ』
『ついって……日々の仕事量も他の鎮守府に比べて多いという激務なのに倒れたらどうするんですか』
『その時は溜まってる有給を使って休むよ。久し振りにゲームとか手を出してみたいと思って……いや大和。わかってるからそんなジト目で見ないでくれ。勿論ちゃんと休んでからするから』
『提督もゲームがしたいお年頃なのね』
『お年頃っていうよりは世代じゃないか? 俺の世代の遊びは専らゲームだったし』
『ふーん……じゃあ提督は私のようなお姉さんが出てくるエッチなゲームとかやってるわけね?』
『いや、18禁のゲームはやったことないな。ストーリーはきっちりしてるのが多いけど。俺が好きなのはRPGだ。冒険する奴』
『冒険する奴って言われてもやったことがないからどういう奴か分からないわね……というか提督、赤くなってる?』
『は? いや? 別に』
『……も、もう陸奥さん。終わりましょう』
『あら。大和さんが赤くなってたわね』
『大和は純粋過ぎるやつだからな。因みに陸奥はあざとい』
『『……提督?』』
『! ……お、おう。あ、時間だな。さ、執務に戻るぞ』
『て、提督! 私はこれでも大人なんですよ! 純粋とか子供扱いしないでくださいっ』
『そういう怒りっぽいところ』
『は、はいぃ!!?』
『もう提督? あざといって何かしら? 私の何処があざといのよっ?』
『……そういう無駄にむくれるところだな』
『ふふっ。流石に露骨過ぎたかしら』
『はは。ほら。やるぞ。明日の分も終わらせちゃおうぜ』
………………
…………
……
「……ふ」
柄にも無く、以前のことを思い出して、自然と笑いを溢してしまう。
「……提督? どうかしたんですか?」
「いいや。何でもない」
「そうですか。入りましょう」
「ああ」
そうして、ドアノブに手をかけて、捻ると。
「……え」
扉を開けた先にはいつも通りの執務室。しかし、そこには
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……っ」
満潮、霞、曙、五十鈴、摩耶、能代がそれぞれ、それはそれは深く床に頭を打ち付けて土下座をしていた。
「あなた達は……」
俺もそうだが、大和もさすがにこの光景は驚いたようで瞠目している。
「……何を、してるんですか」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
困惑しながらも大和がした質問に依然として答えず、唯土下座をしている。
ただ、俺はもうこの六人が大和の質問にも答えずに土下座を敢行する真意に気付いてしまった。
「……もう一度聞きます。何をしてるんですか」
再度、大和が質問する。しかし、その時の声は先程のものと比べ格段に低くなり、困惑気味だった語気も鋭く、そして冷たくなっていた。
「「「……」」」
然れど、その六人は答えず、ただじっと頭を床に打ち付けている。
「一体、何をしてるんですか。──今頃、何をしに来たんですか?」
「「「……っ」」」
「っ……さい」
「や、大和?」
大和の声が底冷えするほど低い声で何かを言った。聞き取れなかったがそれは重要ではなく、一番はあの温厚で心優しい大和が初めて、俺の目の前であのような低い声を出したという事実だった。
「ふざけないでくださいッ……!!」
「……!」
(大和……)
「「「——!?」」」
それまでただ土下座していた目の前の六人は、大和の怒鳴り声にそれぞれ体を跳ねらせる。
「今頃……今頃何をしに来たんですか。あれほどのことをいつものように提督にしておいて、今更土下座ですかっ!! ……本来は祖国日本のために着任された提督が、前任のせいで傷付いた私たちの心身を癒さんがために、必死で態々大本営の上官にまで頭を下げに行って、私達が快適に過ごせるように施設の改良や娯楽品などの導入をしてくださったり、汚れて壊れたままだった入渠場の一部を修理、又は改良してくださったりしてましたのにっ……。なのにあなた達はッ……日々の激務で疲れている身でありながらも私達に残り続けている傷を支えてあげようと、交流を持とうとする提督を無視や、陰口の対象にして、挙げ句には散々暴力を振るっていたことを分かっているんですかっ……虫が良すぎますよ!!」
「「「……」」」
そこで、能代と曙が少し顔を上げて、俺の方を潤んだ瞳——いや、罪悪感に塗れたような哀しげな瞳でこちらを見てきた。
「……今提督がなされたことを挙げましたが、これはまだ一部に過ぎません。もっと……もっと私達艦娘の為に、されたことはあります。ですが、挙げてもあなた達はまた奥底では、どうせ信じないでしょうね。——だって、一年もの間提督の言葉を……提督がしてきた事も。そして、提督から差し伸べられた手を無視していたのですからっ——ッ!!」
そんな最後の言葉を自分の事のように口を噛みしめて、悔しみながらも放った大和。俺はその大和の姿に、凄く感銘を受ける。
「恐らくですが、提督はあなた達のことを多少なりとも許すことでしょう。提督はどこまでも優しい方ですから。……いえ、どこまでも優し過ぎる方だからこそ、ここまでの事態に発展してしまったのでしょう」
(大和……)
「ですが私はあなた達を……目の敵にしていた殆どの方を易々と許す気はありません。いえ、一生許さないでしょう。たとえ駆逐艦であっても、絶対に許しません。早く演習がやりたい気分です。……そして、滅多撃ちにしたい気分です」
「っ!?」
流石に、それは不味いと、大和に待ったをかける
「お、おいそれは──」
——が、どうやら続きがあるらしい。
「分かっています。そんなことをすれば、私はあなた達と同等になってしまい、これまで寄せていただいていた提督からの信頼を裏切ることになります。ですからしません」
「……」
「ですがもし、又提督に危害を及ぼすようであれば、秘書艦権限で提督の護衛行為として即刻敵と見なし、問答無用で撃ち込みますので……覚悟をしておいてください」
「「「……!!」」」
「……さて。提督。私は側で確りと見守ってますので、この先はお任せします」
「……分かった。──大和」
「はい?」
「本当に……その、ありがとう」
「……はい。それでは提督」
「ああ。……それで、だ。土下座をしているのは見れば分かるんだが……お前らは一体何をしに来たんだ? 謝罪に来たのか?」
「…………は、い」
「お前は確か、満潮だったな。お前が言い出したのか?」
「い、いえ……その……皆で」
「皆で、か。じゃあ誰かが言い出したから仕方なくやってるって言う奴は居ない訳なんだな?」
「……はい」
「……満潮。俺にどんなことをしたのか、覚えてるか?」
「はい。沢山の……その。嫌がらせや暴、力を……しました」
「確かにそうだな。だけど、満潮は俺が突き落とされる前にした嫌がらせや暴力の内容は覚えてるのか?」
「ぇ……えっと……その、……あんまり」
「……霞。お前はどうなんだ」
「…………私も、です」
「曙」
「……覚えてないです」
「五十鈴は?」
「…………」
五十鈴はそこで首を振る。
「摩耶」
「……オレ、あ……いや。私も、覚えてない、です」
「……能代は——っ?」
「ごめんなさ、いっ…………ご、めんなざ、い」
能代に聞こうと目を向けると、そこには涙を流して顔を歪ませる能代が居た。それに少し動揺しながらも、俺は言葉を続ける。
「俺は今謝ってほしい訳じゃない。俺が聞きたいのは、俺が突き落とされる前にした嫌がらせや暴力の内容を覚えてるのか、だ」
「……っ……ない、です」
「……俺がなんで今こんなことを聞いてるか分かるか?」
そう聞くが、当の本人達が顔に疑問符を浮かべていた。
「……満潮には資料を運んでいたら出会い際に足を引っ掛けられて転ろばされた。そしてその時大笑いしながら『さっさと辞めてくれない?』と言われたんだ」
「……あっ」
「霞は朝食の時だった。俺が食堂で朝食を食べているとお前は『何駆逐艦の方を見てニヤついてんのよクズ』って周囲に聞こえるように言ったんだ。お蔭で皆からゴミを見るような目で見られたよ」
「っ! ……そ、それは」
「曙には出撃後だ。報告書の提出を促した瞬間、脛を蹴られたな。その後は……そうそう。爆笑しながら蹲ってた俺の頭、踏んづけてたよな」
「……っ」
「五十鈴には散々やられたよ。出会い頭に鳩尾に一発。頬に二発だもんな」
「! ……」
「摩耶も随分と五十鈴がやったところへ的確に殴ってきたよな。もしかして手を組んでたのか?」
「…………!」
「……能代は……俺のこと階段から突き落としたんだろ?」
「……っ!!?」
「別にお前らを責めたい気持ちがない訳じゃない。……ただ、まぁ何が言いたいかと言うとさ。お前達加害者よりも被害者の方が圧倒的にその時の記憶が刻まれるってこと。それは何故かというと、体に、心に一方的に痛みを感じているからなんだよ」
「……!」
「お前らは大して痛みを、哀しみを感じなかった。俺をいたぶることで得ていたのは優越感と幸福感。そして──前任と同じ軍人に暴行をすることによって他の艦娘を守っていると思っていた正義感だろ?」
「…………」
「皆でやれば怖くない。皆が言っているから、皆がやっているから正義なんだ……そう思ってたんだろ」
そこで、皆は一様にその顔を俯かせる。
「これは大和にも言ったことなんだが、皆の気持ちはこの一年間で充分に分かったつもりだ。だが一月前までのお前らがやっていたことなんて比にならないくらいのものなんだろ? だから、俺はこの一年間耐えてきたことを鼻にかけるつもりはない。復讐したいのも分かる。何かに行き場のない怒りをぶつけたいのも分かる。……だが、お前らがやっていたのは前任と何ら変わりない最低な行為だ」
「……」
「……それはお前らの他の艦娘を守るために行った決して正義に則ったものではなく、正義と言う建前で自己の鬱憤の発散のためにやっていた自己中心的で最低な行為だ。……お前らはそんなことのために痛めつけてきた最低な奴だ」
「……っ」
「もう一度言う。お前らは最低だ。前任と同じだ。被害者の皮を被った加害者だ」
「……」
「正直今、お前らを目の前にして、やり返したい気持ちが凄くある。だが俺はそんな最低な奴等を──苦しんでる艦娘達を、救ってやりたい。チャンスをあげたいという気持ちもある」
「……え」
そんな言葉を放ったとき。それまで、俯かせていたその顔を、驚いたように瞠目させながらこちらを見上げてきた。
「……病院で大和にもそんな反応をされたな。まあそれが普通の反応だろうが、俺はどうやら普通じゃないらしいからな。どこまでも馬鹿で、どこまでも人を信じれずには居られないアホな奴だからだろう」
「……」
「……俺は本当に馬鹿なんだ。昔からこういう性でな。直ぐ人を信じて、直ぐ騙されるんだ。お陰でどんどん友達、恋人に裏切られる。家族も全員死んだ。……昔からどうも裏切られる側だから、俺はどうしても信じて切ってほしいと躍起になってしまう。だからこうして無視されたとしても、陰口を叩かれたりしても、酷い暴力を受けたとしても……そして階段から突き落とされたりしても──」
「っ!!?」
「──俺は何処か、お前らには期待しちゃうんだろうな。同じ裏切られる気持ちを味わったからかもしれないけど」
「……てい、とくっ」
能代が、涙で顔を滲ませながら俺を呼ぶ。またそれに、動揺してしまう。やはり、男の性。涙を流す女性を見ると心が揺れてしまうのだろう。
「勿論、この件は許すつもりはない。大和は許してくれると期待したが俺も流石に無理だ。大和すまんな」
「ふふ。別に大丈夫ですから。続けてください」
「おう……まぁ、だから。罰は与えようと思う。その方がお前らにとっても気が楽だろうし、何よりここは海軍だ。規律を違反した輩は懲罰しないといけないからな。これまで見逃してきたが、これからは厳重にしていく。肝に命じておくように」
「「「……はい」」」
「それとだ。許さないとは言ったが、ここからやり直すことは出来る。過去は過去。今は今。未来は未来。お前らはここからだ。日本最高の横須賀鎮守府の艦娘としての誇りをこれから取り戻していけ。今も深海の勢いは止まってない。前線基地によれば、数も増えてきているとのことだ。だから……頼むぞ。全員、起立」
「「「っ!」」」
「あ、最後は俺にちゃんと謝ってから退室しろ。これは命令だ」
「「「はい」」」
「はい。先ずは満潮」
「はい。その……今まで本当に、本当にすみませんでした。罰も確りと受けます。……それと、これからもよろしくお願いします」
「よろしく。退室してよし。次、霞」
「……はい。……本当にごめんなさいっ。誤解も勿論この身をかけて解いておきます……なのでこれからも……よろしく、お願いします」
「よろしく。俺はロリコンじゃねえからな。はい次、五十鈴」
「はい。本当にすみませんでした。その……一杯殴ったりして……本当に、ごめんなさい」
「……もう殴ったりすんなよ。次、摩耶」
「………………本当に、申し訳……ありませんでした。だから、その……これからもよろしく、お願いします」
「……おう。よろしく。次、能代」
「…………っ」
「……能代?」
「…………てい、とくっ……ほ、んとうに…………もうじわけ、ありまぜんでしたッ!」
「……」
「わだじ……ていど、くを……でいとくをっ……」
「……ああ。そうだな。痛かったよ。……腕の骨とか折れたな」
「ひぅっ……!」
「だけどお前のお陰で皆は前を向いて歩き出すことが出来た。それはお前も同じで……まあつまり、ありがとうな。……痛かったけど」
「……っ!?」
「もう謝ったんだ。出ていいぞ」
「…………は、はい」
「能代」
「……?」
「これからよろしく」
「…………! は、いっ」
「……ふう」
「……お疲れ様でした。提督」
「そっちこそ。俺のために叱ってくれた時……嬉しかった。ありがとう」
「……いえ。秘書艦ですから」
「頼りにしてる」
「はいっ」
「……さて。色々と問題は山積みだな」
◆ ◆ ◆
大和side
——と、目の前でそう言いながら背伸びをする提督に、私は思いました。
(……)
提督は優しすぎる。普通ならあの場であれば怒鳴り散らかしても、報復で暴行をしてもおかしくないはずです。
しかし、提督はそれさえもせずにただ叱っただけで終わらせました。
愚直で優しい。
それは良い意味でも、悪い意味でも。
どうやら幼い頃からその優しすぎる性格が災いし、何度も裏切られたらしいので、普通の人ならばそこで人間不信に陥るところですが。
提督はそうならず、逆に自分の身を犠牲にしてまで、自分を信じて欲しいがために行動するになったといっていました。
その因果で、極端に自己評価が低くて、承認欲が常人よりも数倍は強いのでしょう。
そしてこうも思いました。
提督の心の一部は、既に壊れてしまっていると。
何かが欠けている。常識は通じなく、ふと少しこれまでとは違う風が吹くと簡単に崩れ去ってしまうくらいに脆くも、随所では鋼の様に強い、それが提督のこころだと思います。
(……提督。私は必ず、あなたを幸せにしてみせます)
これまでも、そして現在に至るまで、提督の心からの笑顔を見ていない。何かを隠していて、何かに怖がっている。弱みを見せまいと自制してしまっています。
私はあなたの本当の笑顔を見たい。そしてそれを見て、又、私も心からの笑顔を浮かべたいです。
そう、いつか必ず
私は、今も提督が浮かべるいつも通りの嘘に塗り固められた脆い笑顔を見つめながら、そう決心しました。
今後、登場するとしたらどの艦娘が良い?(参考程度)
-
球磨
-
空母ヲ級
-
ビスマルク(Bismarck)
-
瑞鳳
-
俺