仮初提督のやり直し   作:水源+α

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失礼します。

この話で多分一区切りになるので、これからの話に登場させたい艦娘のリクエストを募集しようかな思います。
リクエストする艦娘はメッセージにてお願いします!
この作品は他作品とは違い、暗い話なので、リクエストした艦娘が場合によって報われない可能性がありますがそこはご了承下さい。





第六話 もう、間違わない

 

「「「──」」」

 

 ──その時、講堂を埋める全ての艦娘が、一瞬にして静まり返った。そして一様にその目を見張らせている。まるで、何かに怯えていて、その正体を今目の前にした時のように。

 

 息を飲む者。

 

 動揺し僅かに一歩後ずさる者。

 

 今にも涙を流しそうな者様々であるが、一つ、共通することがあった。

 

 

 

「……」

 

 

 

 ──誰もが今、一人の男に注目していることだ。

 

 

 その男は、海軍で高等士官以上の者にしか支給されない、純白の制服を着こなしている。深々と被るのは、金の菊の刺繍という一工夫が施された軍帽。そして、胸には提督であることを表す、金で出来た大きな錨(いかり)と菊の紋章の勲章を胸に下げている。

 高い背丈。鍛え上げられた体。純朴で微笑めば優しげに見えるが、今は厳格な雰囲気を漂わせる。

 

 世間からは、若くして現状の日本の最高戦力である横須賀鎮守府の最高司令官に昇り詰めたという偉業を成し遂げた事から、『期待の卵』とも呼ばれている。

 

 

「……行きましょう。提督」

「……ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 しかし事実は、前任による悪虐非道な行いにより落ちぶれてしまった厄介な鎮守府を、大本営から一方的に押し付けられた汚れ役でもあった。

 

 その事実は、大本営の一部の者と、提督自身しか知らない。

 

 ──提督は思う。この講堂に居る艦娘達は大本営から厄介者として扱われていることを知らないと。

 

 だからこそ、提督は当時は大本営を見返してやろうという野心で動いていた。

 

 だが、そんな野心も次第に変わっていく。毎日自分には強がって見せても、裏では辛くて、嗚咽をもらしている艦娘達を見てからだった。

 

 ——……なんで、私達だけ、こんなっ…… なんでなのよぉっ……

 

 そう。とある日の夜の廊下。ある艦娘が、普段から自分へ罵倒を浴びせてくる様子とは掛け離れた様相をしていたから。

 

 ——その当時まで、認めて貰いたい為。信じて欲しいが為に、他人の為に出来るだけ動くようにしていた。

 

 しかし、そこで初めて、艦娘達を自分の為に救おうと思えた。自身へのどんな非道な行いをされても、一年間耐えて、鎮守府の復興に尽力したのだ。

 

(……)

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「……」」」

 

 艦娘達は、そんな真相を提督が着任して一年経った時初めて、とある日記から全てを知った。しかも、提督が階段から突き落とされたという、まるで神が嘲笑うかのように、それはもう悪いタイミングでだ。

 

 ——大本営から、自分達のような人間に危害を及ぼしかねない厄介者を。

 

 

 

 

 ——落ちぶれた鎮守府を押し付けられたのにも関わらず、反抗的な態度を取っている自分達の為に、裏では復興に力の限りを尽くしてくれたことも。

 

 

 

 

 ——厄介者を押し付けた張本人である大本営のトップ達に、資材を得るために一人で好奇の目に晒されながらも、プライドを捨ててまで、その頭を下げ続けていたことも。

 

 

 

 ——自分達を気遣って、鎮守府内にある前任が残した数々の非道な行いの産物を、協力的だった大和達をも気遣い、一人で撤廃してくれていたことも。

 

 

 

 ——命令を聞かない自分達のせいで中々攻略に乗り出せなくて、大本営の連中から『臆病風に吹かれた無能』として後ろ指を指されていようとも、自分達のことを『厄介者』だと揶揄すれば、その相手に対して当時は本気で反抗してくれていたことも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして——自分達に忌み嫌われながらも、自分達がいつか振り向いてくれると信じ続けてくれていたことが何よりも、嬉しく。同時に、そんな提督の熱意を『前任と同じ軍人』だからという、一方的で勝手な思い込みで無下にしてしまってきた行いを、大いに恥じた。

 

 

 

「……」

 

 金剛は、ステージに向かう提督の姿を認めながら、自然と心の底から。

 

 ごめんなさい。

 

 そんな言葉が、浮かんできた。

 

 提督を、様々な感情に揉まれながらも、しっかりと見据える金剛。勝手な思い込みというだけで、提督へ暴力をしてしまった愚かな過去を持つ艦娘だ。

 

(……)

 

 なんでだろうか。提督の姿を今、こうして遠くから認めていると、そんな言葉しか思い浮かんでこない。確かにもっと、思うところはある。思うことはあれども、結局は『ごめんなさい』という言葉に行き着いてしまうのだ。

 

 そういう謝罪なんて、軽いものな筈なのに。何度も、何度も奥底から浮かんできてしまう。

 

 ——今まで、一度も妹達への前任の毒牙から守れなかった。だから次に着任してきた軍人には、徹底的に反抗してやろうと。

 

 

 そんな、まるで『前任が居た頃の私は出来なかったが、いつでも反抗できた』と、当時は強がりというか、言い訳に近い決意をしていた。

 

 ——今度は、必ず守るネ

 

 当時何も出来なかったのは、自分が弱く、仲間を救おうとする気概も無かった、ただ臆病だっただけだと言うのに、金剛は日記を見つけるまで、そう思っていたのだ。

 

 しかし日記を見つけ、その内容を見てからそんな勝手な考えも、どこかに吹き飛んだかのように、彼女の狂気とも思える妹達を守る心は、ゆっくりと融解し、次に支配したのは後悔や罪悪感だった。

 

 ——……ああ、そうか

 

 提督の姿を認めると、何で謝罪の言葉しか浮かんでこないのか。それは、金剛が何故その暴力や嫌がらせをしてきたのかという理由と関係している。

 それは、妹達を守るという名目と建前で、ただ自分勝手に思想を押し付けて、提督を悪者に仕立て上げて、あの当時の弱かった自分を消し去りたかっただけだったから。

 

 そんな自分が気付かなかった事実を、金剛はそこで初めて自覚することが出来た。

 

 なんと自分勝手なんだろうか。他人の為と動いてきた行動が、ただ自分の心にあった妹達を守れなかった罪悪感から目を逸らし、消し去るためというだけの完全なるエゴで、提督へ暴力を重ねていたのだ。

 

 だからなのだ。だから、金剛は提督の姿をその目で認める度に、『ごめんなさい』という言葉しか浮かんでこないのだ。

 

「……提督」

(……いや、私には)

 

 周囲の誰にも聞こえないように、小さくその名を呼んだ。

 

 果たして、私がこれからその名を呼ぶ資格があるのだろうか。いや、無いだろうと思う。

 

 切に思うのは——私を解体して欲しいということ。

 

 裏で提督が鎮守府を復興する為に尽力していたのにも関わらず、それに気付けずに、しかも何もしてやれなかった妹達への罪滅ぼしの為という勝手な理由だけで暴力をしてしまっていた。

 

 これでは、前任がやってる事と同義なのだ。

 

 そんな過去を持ちながら、自分が生きて行くことなんて出来ない。前任と同義なんてレッテルを貼られながら、生きて行くなんて、そんなことは。

 

 ——だから、この集会が私の最期になるだろう。

 

 せめてもの罪滅ぼしに、提督の居ない一ヶ月間は提督の日記を使い、提督の評価を回復することに尽力したが、それでも私は解体されなければならない。規律違反したものには罰を。軍では当然のことだと思うし、何よりも、私によって傷付けてしまった提督の心に対して、私という浅はかで、勝手で、自分の顕示欲を満たす為に暴力を振るってしまうような屑が向き合うこと自体が間違いなのだから。

 

 

 ——-最期の最後まで、自分勝手でごめんなさい。

 

(でも……)

 

 

 

 

 

 

 

 ——もし。もし少しでも時間が許してくれるなら……最後に一回だけ、提督と妹達とお茶会をしたい……やり直——

 

 

 

 

 

「——っ!」

 

 そこまで考えて、首を振る。

 

(やっぱり……私は、自分勝手だネ)

 

 そんな時間、許してくれる筈がない。提督がお茶会をしたかったのは、当時のまだ暴力を振るっていなかった私で、今の汚れた私ではないのだから。

 

「……お姉様?  大丈夫ですか?」

 

 すぐ隣で、私を心配してくれている榛名。

 

「……ぇ」

「確かに……」

「お姉様、何だか顔色が悪いですね……」

 

 

 榛名を皮切りに、比叡、霧島も私を心配してくれる。

 ……どうしてだろう。普段は、そんな心配なんて、直ぐに返答して、笑顔を見せることが出来るのに。

 

 今はなぜか、いつものように『大丈夫』と、答えようとすると目頭が熱くなり、ふとした瞬間に涙を流してしまいそうになる。

 

 ——……わた、しは

 

 当然、妹達は、この集会を最後に私が提督へ直々に解体届を出しに行くことなんて知らない。

 言う必要はあるのかもしれないが、心優しい妹達は、必ず止めにくるだろう。だから知らせるわけにはいかないのだ。

 

 妹達への憂いは、昨夜で断ち切った筈なのに、やはり身体は言うことを聞かない。

 

 妹達と離れたくない。

 

 一緒に居たい。

 

 これからも一緒に、海を駆け巡りたい。

 

 そういう思いも込み上げてくるが、一番は

 

 

 

 

 

 ——最期の最後まで、情けない姉でごめんネっ……

 

 

 

 

 という、思いだった。

 

 結局、私は何がしたかったんだろうか。前任に良いようにされて、その傷を何処かで引き摺り、弱かった自分を認めたくないが為に提督へと暴力を振るい、提督の心身を傷付けて、挙句には提督の熱意を無下にして裏切って……これまでの私は、一体何がしたかったのだろう。

 

 もう、分からない。これまでのしてきたことが、段々と無駄になって行く感覚が。

 

 私の自分勝手に巻き込んでしまった提督への罪悪感が。

 

 濁流のように、心から溢れ出してくる。

 

 

 

「——ごめん、なざいっ……」

「「「——!」」」

 

 突然、涙を流し、謝り出した私のことを見て、妹達は瞠目し、動揺する。

 

 もう弱みは見せないと決めたのに、最後まで情けない姉でごめんなさい。

 

 でも榛名、比叡、霧島……あなたたちは私と違ってやり直せる。

 

「……お姉、様」

「……」

「……っ」

 

 

 榛名達は、私が向ける視線の先を一瞥してから、何故涙しているのかを察した様子で、それぞれ、悲しげな表情を浮かばせた。恐らく、私が提督を見ると涙が出てしまい、思わず謝ってしまったのだと思っているのだろう。

 それも確かに含まれているが、多くはこれまでの情けなさで、妹たちへ自然と謝罪を吐き出してしまったことに気付いてないようだった。

 最期の最後まで、妹達はこんな私に付いてきてくれていた。

 

 

 

 

 ——バイバイ……元気でネ

 

 

 

 

 

 そんな、愛する妹達へ、私は告げることもない、別れ言葉を心で告げていた。

 

 

 

 結局、私は提督からも、妹達からも、逃げてしまった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 やはり。この場に居ると、胸が痛む。

 

「……」

 

 なんでこんなところに来なければならない。

 

 なんで態々、こいつらの相手をしなければならないんだ。

 

 怒り、恐怖、悲しみ。様々な思いを混じらせた気持ち悪い感覚が襲いかかる。

 

 本心ではもう既に、この場に居たくなかった。直ぐに離れて、執務室で鍵をして引きこもりたい気分だ。

 

 しかし、まだ心の奥底では、彼女達にちゃんと向き合うんだと。対極的な思いが、今すぐにでもこの場から逃げ出したい俺をなんとか留まらせている。

 

「……」

 

 この感覚は初めてだ。今まで、信じて、裏切られ、信じて裏切られを繰り返して生きてきたが、ここまで盛大に裏切られた相手にも関わらずに、まだ期待を何処かで寄せているのは。

 

 一体、どうしたというのだろうか。彼女達の何処に、期待を寄せるものがあるのだ。

 

 何か分からない『それ』を、必死に自問し、今考える。

 

 彼女達が最近、俺の日記を見た理由なのか分からないが、普段は反抗的だった行動を改善してきているからなのだろうか。

 

 俺の日記の、それまでの俺の心情を、真意を、考えを、醜いところから全て見られたからだろうか。

 

 そこまで黙考し、いずれも違うだろうと思った。

 

 あくまでそれらは結果であり、過程では無いからだ。

 

 着任して今日までの間の何処かに、ここまで彼女達に裏切られても、また期待を寄せてしまう何かがあった筈なのだ。

 

 これから講堂で俺は、トラウマであり、何処か期待を寄せてしまう、言ってしまえば気持ち悪い奴等に、挨拶をしなければならない。

 

 

(……あれは、武蔵。あと翔鶴と陸奥も)

 

 その時、大机があるステージへの階段を上る途中、これまで大和と同じように、俺に付いてきて、支えてくれていた三人の艦娘が視界に入る。

 

 翔鶴は心配げに眉をへの字にして、陸奥は落ち着かないのか腕を組み、武蔵は依然としてこちらを見据えていた。それぞれ違う様子だが、同じようにやはり俺のことを心配してくれているのだろう。

 

 心臓が、緊張と不安、恐怖ではち切れそうになっている今、この三人と少し後ろを歩く大和の存在を再確認出来たのは、気持ち的に大きい。

 

 そのままステージへ上がり、大机の後ろに立った。

 

(……このまま視線を上げれば、艦娘達全員の目と合うことになる)

「……スゥ」

 

 そこで、心を深呼吸で落ち着かせて決心する。

 

「……提督」

「ああ」

 

 そんな俺に、大丈夫か。という意図を込めた目を寄越してくれた大和に、心配するな。と、返答して、そのまま視線を上げた。

 

 

 

 

 

 

「——」

 

 

 

 

 

 瞬間、心臓が止まった。

 

 目の前に広がるのは、当たり前だが艦娘達。

 しかし、やはり俺にとって、こいつらの顔はトラウマだということを今、再度、深く理解することが出来た。

 

 変な冷や汗をかいて来ている。寒気もして、胸も腹も痛みが生まれ始め、動悸も先程と比べて明らかに荒くなって来ていた。

 

 ——やっぱり。俺は。こいつらとは、もう……

 

 マイクはあるが、敢えてそれにスイッチは入れず

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——おはよう。皆」

 

 開口一番。当たり障りの無い挨拶を、大きな声で始めた。艦娘達は依然として、緊張した面持ちで聴いている。

 

「今回は集まってくれてありがとう。……普段はこんなに集まることがなかったから、少し新鮮だ。さて。先ずは話すことは二つだけで、余計な事も言わないつもりだから、そのまま起立しておいてくれ」

 

 叫ばずに、されど聞こえやすいように意識した俺の声が、講堂に響く。

 

「先ず一つ目。大和から報告されたのだが、俺が居ないこの一ヶ月間。……良く、頑張ってくれたらしいな」

 

 

「「「——」」」

「……」

 

 まさか、労いの言葉をかけられるとは思わなかったのか、艦娘達は総じて目を見張る。一方、大和はその言葉を予想していたのか、あまり驚いていない様子だ。少し怪訝そうに眉を寄せている以外は。

 

「……なるほど。そういうことね」

「提督……」

「……」

 

 

 

 

 

「——……ありがとう。皆のこの一ヶ月間の精力的な働きにより、大本営からも、政府からもお褒めの言葉を頂くことができた。しかも、あの呉鎮守府のここ一ヶ月の敵撃破数に迫る成績を叩き出しているため、色んなことがあったにしろ、ここまで成長出来た皆を誇りに……誇りに思う。これからも、この調子で……皆には頑張って行って欲しい」

 

 講堂内が少し騒つく。ここにいる艦娘の大多数が、今日の集会で提督から罵倒を浴びせられたり、現実的に予想すれば、解体命令だって出されてもおかしくないと覚悟していた。そんな中、今までの話の中でそれらへ繋がるような話は出て来ていないのだ。しかも、出てくるのは称賛ばかり。

 

 要は今、彼女達は、この妙な空気に気持ち悪さを感じていた。

 

 そんなおかしな空気は勿論提督も感じている。確かに、ここで解体命令を出したい気持ちも無きにしも非ずだったが、その気の迷いは大和の前で確りと断ち切り、あの階段から突き落とされて艦娘達へ愛想を尽かした当時に、また艦娘達を救いたいと決心したのだ。

 

 それは元帥と誓ったこと。着任していつの日か、心で固く約束したことだ。

 

 正直、早々に立ち去りたい。しかしここを今、降りてしまえば、二度とこの横須賀鎮守府という場所を、胸を張って歩けなくなると思う。だから、こうして激しい動悸を我慢しながら話して、踏ん張っているのだ。

 

 俺は本物の提督でありたい。決して、艦娘達をモノのように扱うような虚偽の存在ではなく、彼女達にとって、本物でありたいのだ。

 

 彼女達へ愛想を尽かしたが、それでもこの根っこの部分は心の中に在り続けている。

 

 だから

 

 

「……そして二つ目。これは、まあ……個人的に話したい事だ」

「「「——!」」」

 

 騒ついてた艦娘達は、『個人的な話』という部分に明らかに反応して、その開けていた口を閉じた。

 

 

 

(……ついに。か)

(……私達への、当然の報いね)

 

 ステージ上の提督を見ながら、赤城と加賀はそこで、何かを察し

 

 

 

 

「……提督」

(……鈴谷と私は、提督に一言謝らせてくれれば、悔いはないですわ)

 

 

 鈴谷と熊野はどこか諦めながらも、辛い表情を浮かばせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……皆。すまなかった。俺は、お前達のこと、何も考えちゃいなかった」

「……は、い?」

「「「!?」」」

 

 大和が立ってるはずの後ろから、講堂が一気に騒がしくなったが、意に介さずに話し続ける。

 

「お前らの気持ちなんか考えず、不用意に近付いたりなんかしなかったら、こんな状況になってなかったのだと思う」

「……! て、提督! それは提督が——」

 

 

 

 

 

 

「——他にもッ!」

 

 大和はきっと。『皆を助ける為に近付いた結果であり、提督が悪いわけじゃない』と言おうとしてくれたのだろう。

 

 だけど、俺はそんな言葉を遮るように。そして、騒つく講堂内を静まらせる為に、声を張り上げた。

 

 案の定、そこで静まり返る艦娘達。俺はそれらを確認してから、言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

「まだ……まだ要因はあると思うが、やはりこれまでの俺の行動が主因だったのは確かだ。精神が不安定な状態の時に近付いたら……誰だって『こう』なることは予想出来たんだ。けど、俺はそんなことも考えずに行動したバカ。ハハッ……『こう』なって、当然だ——……はぁ、はぁ」

 

 やばい。もう、混乱して、言ってることが支離滅裂だし、動悸も抑えきれなくなって来ている。

 

「提督! 大丈夫ですか!?」

 

 大和の心配を手で制して、言いたかった提案を艦娘達へ提示する。

 

「……すまん。少し取り乱した。つまり……だ。もう俺は、お前らと親しくなりたいとは思わないし、お前らも俺に親しくなりたいと思わない。そうすれば、不必要に接近することもなく、変ないざこざは起こらないと思うんだ」

「……ぇ」

 

 誰かは分からないが、呆然とした声を溢したが気にせず話を進める。

 

「これからは……必要最低限度のコミュニケーションで行こう。そうすれば、お互いにとって良いだろうし、一年間一緒に戦ってきたつもりだったが、別に俺が居なくとも……いや、俺が居なかったから、この鎮守府は充分に機能していたみたいだしな」

 

 艦娘達の多くが、何故か眉を下げているように見えた。気のせいだろう。やはり、俺の日記を見たって一ヶ月で変わるはずがないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——これからも、よろしく頼む。では、解散」

 

 

 

 

 

 ——俺はもう、間違いは起こさない。




小説形式に改稿致しました。


6月8日 (土) 9:52 水源+α

今後、登場するとしたらどの艦娘が良い?(参考程度)

  • 球磨
  • 空母ヲ級
  • ビスマルク(Bismarck)
  • 瑞鳳

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