吾妻の計画
1.吾妻の計画
周囲には強大な力で打ち壊された砦の壁、無残に倒された櫓、血に塗れた通路、それらに火が延焼し、今にも崩れそうになっていた。その中で一人、男が立ちはだかっていた。
―――思えばこの男とも長い付き合いになった。
これまでを脳裏にチラつかせながら、幾多の障害を乗り越え、眼前に立った男に視線を合わせた。
「・・・久しいな」
目の前の男―――聖十郎は俺の陸軍の元同期。それだけの男のはずだった。
「あれだけの化生を相手に誰一人欠けることなく俺の前に辿り着くとは・・・お前を少々見くびり過ぎたか?」
尋常の人では瞬きの間に屠られるであろう、幾百の化け物を打倒した、眼前の男は口を開いた。
「俺だけの力じゃない。おれの仲間たち・・・城和泉や桑名江、牛王の力があったから辿り着けたんだ。」
聖十郎の後ろでは、刀を携えてこちらを見据える少女の姿があった。
刀を正眼に構え、こちらを警戒する桃髪の女。右手に刀を持ち、受け流すような構えを見せる黒髪の女。いつでも仕掛けれるように様子を窺う短刀を持つ小柄な少女。そのどれもが一筋縄ではいかぬ達人の風格を醸し出していた。
「フフ・・・大したものだよ・・・それほどの腕を持つ部下を持つとは・・・お前は昔から下の者の面倒見がよかったものなぁ・・・」
「吾妻・・・」
聖十郎に相対する男―――吾妻に対し悲しみを隠せず聖十郎の呟きが口からもれた。
「しかし!その命もこの場で尽きることになる!!そのために特別な死の舞台を用意してやろう!」
吾妻が声を上げると、後方の櫓を轟音を立てて吹き飛ばす巨体が現れた。その巨体の頭からタコの足のようなものを生やし、目は虚ろな穴のように光を映さず、口からは大きな管がタルに接続され、面のようなものから異様な呼吸音を放っている。右手に回転銃を、左手には火薬を放つであろう大砲が装着されており、無理矢理使用しているのだろう、腕が膨張しており、血管が異常に浮き出ていた。この世のものと思えぬ正しくバケモノだった。
バケモノは聖十郎にぬるりと目を向けるた。
「グオォォォォォ――――――ッ!!!!!」
大きな地響きを思わせる咆哮を上げたバケモノ、愚連銃は、周囲のものを豪快に蹴散らしながら聖十郎に突撃を始めた。
「主っ!」
桃色の少女、城和泉政宗が聖十郎の前に立ちふさがると、愚連銃に手をかざした。すると手の平に炎が集まり、愚連銃に向かって勢いよく放たれた。炎の勢いに怯んだ隙に黄色い小柄な少女、牛王吉光が素早く懐に入り、愚連銃に斬りかかった。
「主様!指示を!」
黒髪の巫女のような佇まいを見せる少女、桑名江は周囲を警戒しながら聖十郎に声を投げかけた。
「城和泉はそのまま敵を迎撃!牛王は城和泉への攻撃を防げ!桑名江は奇襲を警戒してくれ!」
巨体の攻撃で今にも崩れそうな周囲に気を配りながら聖十郎は指示を出した。
牛王吉光は愚連銃から飛びずさり、聖十郎の前に立つと、小さな体から雷光を発生させ、敵の巨体を弾き飛ばす。牛王は愚連銃に注意を払いながら聖十郎に話しかける。
「主くんはその男をお願い!」
「行くわよ!牛王!!」
弾き飛ばされた愚連銃にすぐさま城和泉が斬撃を繰り出す。牛王はその後に続いた。
二人きりとなり、吾妻が高慢な様子を隠そうともせずに口を開く。
「さて、聖十郎・・・ようやく邪魔な連中が消えたな?昔馴染みのよしみだ、遺言くらいは聞いてやろう」
「死ぬつもりなんてないさ。城和泉たちのちからを借りれば、必ず生き残れることを証明してみせる」
人知を超える力を持つバケモノ相手に、仲間を信じ気勢を保つ聖十郎。
陰りを見せない聖十郎の様子に、吾妻は苛立ちを見せた。
「・・・貴様は昔からそうだった・・・どの様な状況でもバカみたいに諦めが悪い・・・!
だが!それも今日で見納めだ!今日こそは国家転覆!その礎となる力を手に入れるのだ!!!」
吾妻が志す大業、国家転覆。それが果たされることを確信し、まるで舞台役者のような調子で声を張り上げた。聖十郎は困惑を隠せない。
「何?どういうことだ?吾妻ァ!」
幾百ものバケモノの死骸、周囲の炎による崩壊、そして
2.倍速石収集戦闘
聖十郎と吾妻がお互いに睨みあっている中、巫剣達は愚連銃と戦いを繰り広げていた。
桃の髪色を持ち、それを左右に二つの束にまとめた髪型、どことなく強気な印象を見せる目、細く引き締まった体形を持つ少女、城和泉政宗が真っ先に斬りかかった。
「セイッ!ヤッ!」
城和泉は敵の正面に立ち、注意を引き付ける。一つ一つ注意を払って打ち込んだ斬撃は相手を押し続ける。
しかし、相手は身の丈の何倍もある怪物、城和泉の剣圧を押し切って反撃に移ろうとしていた。だが、それを許すほど彼女達は愚かではない。
「ここだ!」
そこで城和泉の援護に入ったのは、牛の角のような特徴的な頭飾りを付け、淡い黄の髪を携えた少女。
その少女、牛王吉光は、相手が動き出す素振りを見せると、雷光を纏った短刀で攻撃を仕掛け、その動きを阻む。
「グッグググウゥゥゥゥゥ!!!!!」
動きを許されない愚連銃は怒りの雄たけびを上げ、己が傷つくことも厭わずその腕を振りかぶり、城和泉に叩きつけた!
しかし、黒髪の少女が防御にまわる。
「城和泉さん!行きます!」
どことなく巫女服のような装いを持ち、鴉の濡れ羽色の髪を後ろで束ねている少女、桑名江の声を合図に、城和泉は背後に飛び込む。
城和泉の回避に対応できない愚連銃は大きく空振りした。その隙を、城和泉と入れ替わるように懐に入り込んだ桑名江は、太刀を流れるように切りつけた。
「祓え!!」
巫剣の魔を祓う力・・・巫魂をのせた一撃に、愚連銃は壁に大きく吹き飛ばされる。さらに、叩きつけられた衝撃で、落ちてきたがれきに飲み込まてしまう。
敵との距離が開いた城和泉、牛王は、桑名江に駆け寄る。
「ふう・・・助かったわ。桑名江。」
愚連銃の威圧感に晒され続けた城和泉は、少しではあるが、疲労の色が見える。
その城和泉の様子を窺い、牛王は隣に並んだ。
「案外あっけなかったみたいだね。」
茶化したような笑みで城和泉に話しかけた牛王。しかし、視線は油断なく瓦礫に向けている。
そこへ、愚連銃が動き出し、瓦礫が崩れる音が大きく鳴る。刀を構え直した桑名江が警戒を促した。
「いえ、まだ動きがあるみたいです!注意を!」
愚連銃は一方的に叩きのめされた鬱憤を晴らすかのごとく、周囲の瓦礫をその剛腕で吹き飛ばした。それでも怒りが収まらないのか、顔にへばりついた面ごしに奇声を上げ始める。
「グァァァッ!グァァァッ!グァァァッ!」
不快にくぐもった声が大気を揺らし、何処からともなく鈴の音が鳴る。愚連銃の声を鈴の音が調律しその力を配下を呼ぶ魔法陣へと変化させたのだ。
その様子にたいして焦った様子もなく、牛王はぼやいた。
「あー・・・これはまずそうだね・・・城和泉、任せたよ」
気だるげに牛王がつぶやき、その視線を愚連銃から魔法陣に移す。魔法陣からは敵の配下である存在、禍憑が次々と湧き出てくる。
差して問題ないような口ぶりの牛王に、城和泉は呆れたように声をかけた。
「牛王はずいぶんと余裕そうねぇ?残った禍憑は全部倒してもらおうかしら?」
吾妻の下に辿り着くまでに、ほとんどの禍憑を倒していた城和泉は恨めし気にジト目を牛王に向けた。
二人が軽口を叩き合うっていると、禍憑達は動く素振りを見せ始める。ゆるんだ空気の二人に、桑名江は焦った様子で声を上げた。
「城和泉さん!牛王さん!少しは真面目にしてください!敵が来ます!」
桑名江の急かす声と、城和泉のちょっとした文句に、牛王は本腰を入れて戦うことにした。
「うーん、仕方ないな。やるとしようか。」
牛王は返事を桑名江に返すと、その気が抜けた様子とは裏腹に、湧いてきた禍憑達に勢いをつけて飛び込み、右手に構えた短刀を走らせた。
「シッ」
散開しきってない禍憑達に牛王は、流れるように短刀を突き入れた。急所を的確に刺された禍憑は声を出す間もなく、あっという間に闇へと還った。
禍憑を蹴散らした牛王は間を置かず、次の行動に移した。飛ぶように愚連銃の元に移動する。
「さ、残りの大きな禍憑もだいぶんボロボロだ。決めるよ!」
配下を一瞬で片付け、その勢いのまま近づいてくる牛王に、愚連銃は動揺するまま動いた。両手にある回転銃と大砲の乱射を始め、巫剣達から逃げるように後ずさりする。
動揺し乱れた行動を取る愚連銃。隙だらけな様子を好機と見た城和泉は炎弾を放った。その炎弾は大砲に着弾、火薬に引火し木端微塵になった。
引火した炎に包まれた愚連銃は最早戦うどころではない。行動を起こす余裕のない愚連銃に牛王は自身の持てる技でも強力な奥義を発動させる!
「行くよ・・・!」
牛王は愚連銃に最後の一撃を加えるべく己の巫魂を高めた。
その巫魂を解放させた力は雷となり、牛王の周りを雷光が焼き払った。奥義をまともに食らった愚連銃は完全に炭化し、その面から声を上げる間もなく闇に還った。
周囲の禍憑が一掃されたことを確認すると、牛王は一息ついた。
「これで大仕事は終わりかな?」
気だるげに腰の薬ビンを取り外し、手元で遊ばせながら牛王は周りを見渡した。砦は雷により荒々しく破壊され、もはや建物と言える形ではなくなった。
敵をすべて打倒した牛王に、桑名江がほころんだ表情を見せ、駆け寄った。
「お疲れ様です、牛王さん。」
桑名江が労いの言葉をかけたが、牛王の視線に気づき、周りを見渡す。
「砦が派手に壊れちゃいましたね・・・」
「大きな禍憑と戦うと建物はだいたい崩れちゃうからね・・・」
禍憑達との戦闘で、砦はほとんど崩壊しており、風通しがよくなってしまった。
強大な力を持つ禍憑との戦いは、どのような建物でも耐えることは難しく、崩壊してしまうことも珍しくない。
しかし、刀を鞘に収めた城和泉は、軽い調子で話した。
「いつものことじゃない。行きましょ。主が待ってるわ!」
吾妻と対峙している主を待たせるわけにはいかない。三人は気を取り直して聖十郎の元へ向かった。
吾妻補足説明
天華百剣-斬-、2019年2月に開催されたイベント、血風闘技大乱闘に現れた黒幕に相当する人物です。
他人を見下した言動をする人物ですが、陸軍の若い将校を幾人か率いており、人望が全くない訳でもないようです。ゲームの主人公である、聖十郎とも元陸軍の同期であり、主人公が敵対する存在、禍憑の力を利用しています。
しかし、主人公の宿敵ともなり得る吾妻ですが、このキャラクターには大きな欠点がありました。ゲーム中のグラフィック、所謂立ち絵がサスペンダー付きのズボンに、貧相に胸元を開いたシャツと、町のなかで出るようなモブキャラと完全に一緒だったのです。
天華百剣-斬-本編で、今後、吾妻が散ろうとも、自身の拙作ではスポットライトを当ててみたいな、と思った次第であります。