吾妻の逆行 -斬-   作:ルイレツ

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吾妻の一家

日が沈み、闇に包まれ始める川の河口。そこでマァ坊は緑の落ち武者を川の中に投げ飛ばし続けている。

 

戦闘中、地面に叩きつけて動きを止められないかと試した。

痛みを感じていないのかゆっくりと起き上がりマァ坊に攻撃しようと向かってくる。

ならばと武者の持っている刀を奪い、剥き出しの足や手を錆びた刀で叩きつけてみる。

簡単に錆刀は折れてしまうが相手の足と手は切断できた。

しかし、刀を奪い続けるのは中々難しい。

結局マァ坊は武者を川に引き寄せて、隙を見つけては川に叩き落とす。

 

 

どれほど戦い続けただろうか?周囲は暗くなっていた。無手で数十人は川に落としたマァ坊。人間離れした体力である。

だが、さすがに疲れが出てきた。相手を叩き落とす動きも緩慢になる。

 

相手の武者の数は一向に減る気配はない。街に危害を加えさせないためにここで敵を引き付けていたが、そろそろ潮時か。

 

マァ坊は逃げることに決め、退却の邪魔になりそうな武者を蹴り倒し、武者たちの包囲網から抜け出す。

 

川の縁から堤防に駆け上がり、包囲網から抜けたマァ坊。堤防の上は開けた道になっており、暗くても見晴らしがいい。

今まで戦っていた下段にある川の縁を覗く。じっくりと数えている暇はないが、まだ五十体以上は存在している。

 

そして、距離が少し開けようともその腐って白濁とした瞳はどの武者もマァ坊に向いている。

 

「ひぇぇ・・・気持ち悪っ!」

 

地獄の亡者の列に睨まれたマァ坊。楽観的なマァ坊でもさすがに悪寒が走り、距離を取る。

 

そろそろ吾妻が件の剣術の達人、博多藤四郎を呼び連れてくる頃だろう。これ以上引き付けておく意味もない。

 

さっさと逃げることにしたマァ坊。背後にある亡者の視線を振り切り堤防の道を走りだす。

 

しかし、数十歩ほど走ったところ、行先の暗闇に赤い光が二つ見えた。

 

そこには先ほどの緑の甲冑を纏った武者とは違い、冷気を纏ったような青色の甲冑、身の丈ほどの槍を持つ違う見た目の亡者が立ちふさがる。

地獄の亡者めいた見た目は同じだが、その目は憤怒の感情が込められているのか赤い光を放っている。

 

青い亡者は手に持つ槍を地面と平行にして構え、勢いを乗せて突進してくる!

 

「うおっ!あぶね!」

 

緑の武者とは比較にならない速度で突き進む青い亡者。普通の人間が全力疾走したものと同じ速度で突っ込んでくる。

体重を乗せた槍の突撃をその身に受けたら致命傷は逃れられない。

 

幸か不幸か突撃中は方向転換が全く出来ないらしく、横に転がるように回避すると盛大に空振りした。

 

だが、突進した青い亡者の後ろには、もう一人の同じ見た目の亡者が存在した!

 

もう一人の亡者は間髪入れずに突撃を開始する。

マァ坊は避けがたしと考え転がったまま片足を振り上げた!

 

マァ坊の振り上げた足は槍の柄に命中。槍を弾き飛ばす!

残ったもう一方の足で相手の足を引っ掛け亡者を地面に転がした。

 

上から弾き飛ばされた槍が降って来る。腕の力で体をバネのように飛び上がったマァ坊は落ちてきた槍をつかむ。

緑の武者が持つ刀に比べると頑丈そうだ。しばらくその槍を失敬することに。

 

地面に転がった亡者の顔面が粉々になるまで槍の穂先を叩きこむと、その亡者は闇に溶けるように消え去った。

 

「さぁて!これなら少しはやれそうばい!」

 

槍の耐久性は申し分なく、先ほど突進を避けた青い亡者を槍の餌食にするため視線で探す。

 

いた。

 

マァ坊に再度突進をしようと槍を構えている。真っ向から迎え撃たんとマァ坊は槍を地面に叩きつけ気合を高めた!

 

「こいやぁ!!」

 

亡者が突進を仕掛けようとした時、音もなく二つの銀線が亡者に走る。すると亡者は上半身と下半身、右半身と左半身にするりと別れてしまった。

 

突然体を絶たれた亡者にあっけにとられるマァ坊。すると亡者の背後にいつの間にか人が立っていることに気が付く。

 

 

亡者の背後に立っている人物はマァ坊に向けて信じられないといった表情を向けた。

 

「マァ坊なのか・・・?」

 

するとマァ坊は気まずそうな表情で答えた。

 

「兄ちゃん・・・」

 

マァ坊はどうしたらいいのか戸惑った様子で、周りが亡者たちに囲まれていることも忘れて呆然と突っ立っている。

 

マァ坊は目の前の人物・・・吾妻の父に視線を合わせることができず。逃げることも話すことも出来なかった。

 

 

しかし、吾妻の父が斬り飛ばした青の亡者に異変が生じる。斬撃の切断面から黒い瘴気が起こり、その切断面が引かれ合いくっつく。

 

数秒後そこには何事も無かったかのように亡者が立っていた。

 

吾妻の父は、これが博多が自分にしか倒せないと言った理由かと歯噛みした。

 

その亡者が行動に移ろうとした。だがマァ坊はそれを許さず顔面に向けて槍を投擲し、突き刺さった瞬間には吾妻の父が亡者の首を刎ね、

マァ坊は投げた槍を回収し、先端についた首を地面に叩きつけて砕く!

 

今度は復活せず亡者の体は闇に溶けた。マァ坊は決心がついたのか、吾妻の父に向けて叫ぶ!

 

「兄ちゃん!こいつらは俺にしか倒せん!!援護してくれんか!」

 

「承知!!」

 

吾妻の父は何故マァ坊がここにいるのか、何故博多にしか倒せないとされる亡者たちを倒せるのか、疑問が沸き上がったが、今はそれを飲み込む。

 

「下の連中を潰す!ついて来い!」

 

「よっしゃあ!!!!」

 

マァ坊に向けて指示を叫ぶ。マァ坊はそれを受けて興奮したように返した!

 

攻撃を開始した吾妻の父は、まずは天に届かんばかりに高く跳躍する!!そのまま緑の亡者の群れのど真ん中に全体重を乗せて空気を切り裂いた斬撃を飛ばした!!

 

斬撃の圧力で亡者は吹き飛ばされ、その空いた地面に吾妻父は降り立つ。

そして近づいてくる亡者を片っ端から斬り捨てた!胴や菅笠など存在しないかの如く切りふせていく。瞬く間に亡者は地面に伏せていった。

 

マァ坊は槍を振り回して堤防を駆け下り、亡者の顔面に正確に突きを叩き込む!一人消滅したがその後ろに五人の亡者が道を阻む!

 

「邪魔じゃァあああ!!!!!」

 

声と裏腹に実直な突きを行う。一回、二回と突き、そのたびに踏み込む震脚の音が夜の闇に響く。

その基本に正確な突きは繰り返すごとに高速になり、亡者はさらに数を減らした!

 

 

 

数分もすれば亡者の群れは全滅し、周囲は何事もなかったのかのように元の静寂を取り戻した。

 

周囲は片付いた。二人は残心の形をとる。改めて吾妻父はマァ坊に視線を向けた。

 

ざっくばらんに切りそろえた髪。日に焼けた肌。優しそうに少し垂れた目。快活げな表情。

 

まさしく8年前(・・・)に消息が不明になった時と同じ風貌のマァ坊である。

 

「マァ坊・・・何があったのか、聞かせてくれるか」

 

弟に何が起きたのか。それを想像できずに顔が強張る吾妻父。深刻そうな表情をしたマァ坊は一転。いきなり吾妻父の腰を手で叩き始めた!

 

「まあまあそんな深刻な顔しなしゃんな!!!飯でも食うて話そぉや!!!」

 

はっはっはと笑い調子のいい言葉を返した。空元気だが、昔と全く変わらないマァ坊の様子に吾妻父はひとまず緊張を解いた。

 

 

しばらくして、大勢の人の気配が近づいてくる

 

「吾妻っしゃん!平気ばい?」

 

博多藤四郎と吾妻父の部下達が走り寄って来る。マァ坊が言葉を返す。

 

「おうおう!遅うて全員倒してしもうたばい!」

 

次はもっと多くてもいいなと馬鹿笑いをするマァ坊。

すると部下たちが何人か騒ぎ出す。

 

「お前マァ坊か!生きしとったんか!!」

 

「マァ坊お前生きとったんなら連絡せいやッ!」

 

その声にマァ坊がすまんすまんと半笑いで返す。すると周りから大笑いで叩かれ始める。

良く帰ってきただの久しぶりだのお前若作りしすぎだろだの。一種のお祭り状態だった。

そこに注目を集めるようにパンパンと手を叩く男が。

 

「みんな、敵はまだ残っとーかもしれん。各班は巡回に向え。異変があれば報告しんしゃい」

 

吾妻父の同僚男が散開命令を出すと、ぞろぞろと巡回に向かっていく。

 

「無事か?各地に落ち武者が出よって遅れたばい」

 

「問題ない」

 

「しかしぃ、よー倒せたのぉーこっちゃ博多しゃんやなかと手も足も出らんかったんやが・・・」

 

同僚の男が首をひねると博多藤四郎のほうに目を向ける。

 

博多藤四郎はマァ坊に向けてジトっとした目線を向けていた。

 

「なぁんかあやしいばい・・・人間なん?正体ばなにものちゃっけん・・・あやしかぁ・・・・」

 

どうも博多はマァ坊の存在に違和感を感じるらしく、その正体を直接聞いて探っていた。

 

マァ坊は腹をくくった様子で返す。

 

「それは一回実家に帰ってから話そうや。よかか?兄ちゃん」

 

同僚の男は指揮を執るために自身の職場に戻り、吾妻父と博多藤四郎を自宅に遊撃部隊として待機して欲しいと伝える。

 

了承した二人と、腹減ったぁとのんきなことを言うマァ坊は吾妻の実家に向かった。

 

 

 

 

 




次回父とマァ坊の過去

主人公は焦点当てないとすぐ空気になる。モブ顔だからしかたない。
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