邪悪なうめき声が聞こえる闇の中に突き進む三人。夜も更けているため人の姿は何処にもない。
しかし、そのおぞましい声が何処かに亡者がいることを伝えていた。
闇の中を街道沿いに進んで数分。マァ坊が亡者どもの姿を見つけた。
「おったかぁ・・・行くぜぇ!」
マァ坊が亡者どもに踊りかかる!相手は6匹ほど。直ぐに叩き潰さんと槍を突き出した。
力いっぱい突き出された槍は亡者の胴体を貫通。刺さった亡者を槍で振り回し地面に思いっきり叩きつける!
地面に激突した亡者は耐えきれず四散し、闇に溶けるように消えた。
しかし、マァ坊の両脇に槍を構えた亡者が接近してくる。そのまま突撃し、挟み撃ちにするつもりなのだろう。
マァ坊は迎え撃たんと一歩下がり、槍を腰だめに構える。
「味な真似すんのぉ・・コイヤァッ!」
気炎を吐くマァ坊。その時、後ろから銃声が2回上がった!
その銃撃は亡者の胴体に命中する。たたらを踏んだ二体の亡者。
その隙にマァ坊は一体に槍を投げつける。そしてもう一体の亡者の懐に入ると腰の脇差を抜刀、居合の要領で亡者の首を薙いだ。
槍が貫通し胴体に穴が開いた亡者、首が刎ねられ倒れ伏した亡者。二体の亡者はあっけなく消えた。
「楽しい展開やったんやが・・・まぁ、助かったばい」
血沸き肉躍る展開かと思ったマァ坊であったが、銃撃した男、ハットリのお陰で大した消耗もなく終わった。
槍を回収し礼を言ったマァ坊だが、簡単に決着がついて残念そうだ。しかし、そんなマァ坊にハットリは言う。
「どうやらそのぉ楽しい展開、と言うのはまだまだこれからみたいですよぉ・・・」
「お代わりはいっぱいってことか・・・ウンザリだ」
吾妻は心底最悪だという表情をした。
今の騒ぎを受けて周囲の亡者は集まり始め、四方より吾妻達のいる街道に亡者が迫りつつある。
「どうする?こっちも散って対応するか?」
「いえ、相手はマァ坊しか倒せません。三人で連携して倒しましょう!」
ならばマァ坊を先頭にして吾妻とハットリで援護するしかあるまい。
そうと決まればマァ坊は視界に移る手近な亡者に攻撃するべく突進した。
突進を受けた亡者はすぐに闇に溶ける。マァ坊は消えた亡者の背後にいた槍を構えた二体の敵に二段突きを放つ。
正確に顔面を射抜かれた二体はその衝撃で吹き飛ぶ!
消えた二体の左右から刀を振りかぶった緑の亡者が5体接近してくる。
一体を吾妻が全体重をかけた飛び蹴りでひっくり返し、三体にハットリが銃撃を加える。
残った一体にマァ坊は突きを繰り出す!
そして、槍を振り回して吾妻が転がした亡者の首を叩き潰した。
銃撃を受けて動きが止まった三体は槍を振り回した勢いを加速させて纏めて叩きつけて地面の染みに変えてやる。
瞬く間に八体を屠った三人だが、無茶な使い方をしたせいで、槍は真ん中から折れてしまう。
「ありゃぁ~もうあかんがか。やっぱ人様んもんば勝手に使うてはいけんのやなぁ・・・」
と言いつつも先ほど顔面を吹き飛ばした亡者から槍を取りに行くマァ坊。
いけないことだと口では言いつつも必要なら奪うことには躊躇しないらしい。
粗方周辺の掃討は終わった。次の獲物を探すべく周囲を見渡す三人。
遠くに亡者が集まっているのを確認した。だが、亡者たちは何処からか飛来した銃撃で動きが取れないようだ。
更にその周囲に注視すると、奥のほうに治安部隊が隊列を組んで弾幕を張っていた。
マァ坊はその様子をみて声を張り上げる。
「おぉーい!そいつら倒すけん!銃撃ばいったん止めてくれーーーーッ!!!」
「ッ!マァ坊かぁ!」
しばらくして弾の雨が止んだことを確認したマァ坊たちは銃撃で倒れ伏した亡者どもに攻撃を開始する。
「いやぁ~助かったばい!あいつらぁ倒しっちゃ倒しっちゃぁ起き上がって来るもんやけんどうすっかて思うとったぁ~!」
治安部隊の指揮を執っていたのは吾妻父の同僚で、本隊の責任者だそうだ。
銃で弾幕を張り、亡者を一か所に集めることに成功したものの、止めを刺すことができずに膠着状態が続いていたのだ。
マァ坊たちが敵を倒すことでようやく情報を整理できそうだと喜んだ。吾妻は現在の状況を聞いた。
現在、町の郊外に亡者の群れが発生。対処をするために博多藤四郎と吾妻父を向かわせた。
その後、町で魔法陣のようなものが光を放ち、その中から亡者の群れが発生。治安維持部隊の本隊は迎撃に向かう。
亡者を街の中心から郊外に追い込み、それを排除する手段を持つ博多藤四郎と合流。
本隊の戦力と合わせて博多藤四郎を援護し殲滅する手筈だった。
「でもぉおまんらが粗方倒しちょっからもう大丈夫ばい!」
謎の魔法陣は町の中央に集中しており、町の中央から敵を追い立てたので、残党は少ないだろう。
周囲を警戒して問題が無ければ巡回に移るだろう。
楽観的な空気が漂い始めた時、それは起こった。
「ナルホド、我ガ計画ヲ邪魔シタノハオ前タチカ」
周囲の闇が一点に集まり、それが形を作り始める。
その顔に相当する所には平面であり、茶と赤の色が奇怪に蠢いている。
頭らしき部分からは角なのだろうか、二本の硬質的な皮膚が垂れ下がる。
首元には目が付いており、それで周囲をギョロギョロと窺っている。
胴体は寸胴で異常に太く、そこから闇を凝縮したような色の泥が蠢いて手を形成している。
足にはもうしわけ程度の布を巻きつけ、腰の荒縄で縛ってある。
そして人の三倍はあろうかという巨体である。
治安部隊に動揺が走り、恐怖が蔓延する前に吾妻父の同僚は叫ぶように指示を伝える。
「動揺するなっ!一旦距離を取り整列するっ!俺に続けぇ!!」
後退する部隊。しかし、吾妻たちはそれに続くことは無かった。
と言うのもハットリがその巨大な怪物と会話を続けたからである!
平時ではただの胡散臭い人間なのだが、この化物どもを監視する仕事に就いていることから、連中から情報を引き出せるなら覚悟を決めて会話をするというのだろう。
ハットリは仕事意識の強い人間だったのだ。吾妻は素直に感心した。
「そうですよぉ・・・計画をご破算にしたのは私たちだ・・・ちなみにその計画とやらを教えて頂けるのですか?」
単刀直入に言葉を斬りこんだハットリ。
そんな単純に教えてくれるはずがないだろう。吾妻は余りにも安直な聞き方に天を仰いだ。
「ウム、ヨカロウ。冥途ノ土産ニトクト聞クガイイ」
いいのかよ。
意外と化物は単純な存在らしい。あるいは人間など言葉を使う虫くらいにしか思ってないのかもしれないが。
とにかく、化物の計画とはこうだ。
九州全土で起こった戦争により、亡者どもの勢力が活発になる。徐々に勢力を伸ばしていたのだが、しばらくすると博多藤四郎などの活躍により、まばらに存在していた亡者たちが倒されていく。
さらに、亡者に指示を出して襲撃するように命じたフクオカでは何も騒動が起こらない。襲撃は失敗したのだ。
このままでは各個撃破されるのではと危惧した化物の親玉は新たな計画を練ることにする。
それは、襲撃が起こらなかったフクオカの治安の良さを逆手にとって、そこに九州全土の負の力を秘密裏に結集。
そして、決起の前に博多藤四郎らの主戦力を町の郊外に誘導。亡者と交戦させる。
博多が交戦している間に魔法陣を使って町の中央を襲撃、大量の人間を生贄とする。
そうして集まった負の力で部隊を増強、博多藤四郎を撃破するという流れだったのだ。
「ソレガオ前タチノ出現デ大シタチカラモ集マラナカッタ。」
そこまで言うと巨大な怪物は怒りを携えたように言う。
「我ガ主ハオ怒リデアル!封印ヲトクチカラヲキサマラガ邪魔ヲシ、蓄エラレナカッタノダカラ!!」
どうやらこの怪物の親玉は何処かに封印されているらしい。
ハットリは心当たりがあるのか苦々しい顔をしている。
しかし、長い怪物の話に痺れを切らした男がいる。マァ坊だ。
「しゃっきからぁ黙って聞いとりゃ聞き取り辛ぇ声で喋りおって!!!もうウンザリじゃぁ!!!」
そこは自分勝手な計画で人々を苦しめようとしやがって、など義憤に燃えるところだろとツッコミたい吾妻。
しかし、もう夜と言うより深夜に近い。そろそろこの騒動に幕を下ろそう。吾妻はマァ坊に続いた。
「そうだなぁ・・・もう十分だろ?バケモン!ここら辺で終いにしよう!!ここがお前の死の舞台だ!!」
「ヨカロウ・・・今宵、幕引キトシヨウカ」
怪物の後ろに更に闇が集まる。闇が大気を揺らし、瘴気に満ちる。
そして爆発するように闇が散るとそこには巨大な長物を武器とした怪物が立っていた。
そして、巨大な船の汽笛のような雄叫びをあげると声を張り上げて言った。
「我ラハマスラオ!!!益荒鎧!!!キサマラヲ母ナル凶禍ノ贄トシ!!!人ノ世ヲ破壊スルモノナリ!!!!」
そして、その身の丈よりも尚巨大な得物を振り回し、全ての人類を葬らんと地鳴りを伴い歩き始めた。