吾妻の逆行 -斬-   作:ルイレツ

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吾妻のミツルギ

吾妻には大望がある。

 

今まで国を支え繁栄させてきた武士。

それを排除することで国を纏め上げた銘治政府。

無理に国民を軍人に徴兵した挙句、武士との内乱で大打撃を受ける惰弱な軍隊。

民を悪戯に虐げる政府などいらない!

 

故に国家転覆を掲げたのだ!

最大の障害(聖十郎)の前に負けてなどいられない!

 

 

「俺はッ!俺の志の為に!負けられんのだッ!!!」

 

その時、吾妻の白鞘の刀から淡い桜色の光が漏れる。

そのあたたかな光は辺りを包み込み、吾妻を益荒鎧の腕から解放した。

 

「これは・・・巫魂の光・・・?」

 

ハットリは何事かを呟く。

 

光は徐々に吾妻の元に収束し、そしてハッキリとその姿を現した。

 

 

 

 

 

 

「あるじ、お待たせしました」

 

淡い光と共に現れた少女。

 

そこには夜の闇よりも尚暗い、漆黒の髪を持ち、その髪は前髪を掻き上げ、後ろに流している。そして、その後髪は金の髪飾りで固定され、腰まで伸びている。

 

晴天に浮かぶ雲よりも真っ白い肌はともすれば病弱な印象も与える。

 

左の眼は淡く金色に輝き、しかし、右の眼は光を映していないのか、色素が白く薄くなっている。

 

口は小さく、この特異な状況でも動じていないのか、何かを口走る気配が無い。

 

輪郭は幼い印象を与えるが、目立ちはクッキリしている。

 

体つきは細く、抱きしめれば折れてしまいそうだ。

 

衣服は何故か、白い包帯を幾重にも体に巻き付けているだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"ミツルギ"ガ顕現シタダト・・・?アリ得ルノカ・・・?」

 

その大きな体を一歩後ろに下げ、動揺する色を隠せない益荒鎧。

 

少女はその細い体に先ほどまで吾妻が持っていた白鞘の刀を構えて小さく呟く。

 

「・・・禍憑。」

 

そして、益荒鎧に一歩一歩ゆっくりと近づいていく

 

「あ・・・?おい?」

 

目の前の少女が何者か全く分からず混乱した声を掛ける吾妻。

 

「あるじは下がって。後は私がやる」

 

そういうと、その静かな口調と反対に、益荒鎧に向かって走り始める。

 

「ドウイウ手品カハ分カラヌガ・・・潰シテシマエバ同ジコト!!」

 

「・・・・」

 

大きく腕を振り上げて少女を叩き潰そうとする。

少女は躱そうとするどころかその腕を正面から受け止めようとグッと構えて動かない!

 

「いや、不味いっちゃろ!!」

 

益荒鎧と少女の体格では違い過ぎる!マァ坊は無謀の極みだと叫んだ!

 

その巨腕が当たる寸前に少女は刀を両手で持ち、瞬時に振りかぶった。

 

斬、と一瞬光が煌めく。

 

正面から激突した少女の刀と益荒鎧の拳。

少女の刀に当たった拳は、包丁で得物を捌くかの如く、スっと縦に切り裂かれた。

 

「ナント・・・」

 

自身の腕が簡単に斬られたことにまるで他人事のような反応をする。

 

「終わり」

 

そして腕が裂かれた勢いのまま斬り進み、胴体を両断した。

半身に切り裂かれた益荒鎧はズンと崩れ落ちる。

 

「ミゴト・・・ッ!!」

 

最後に称賛の言葉を送り、静かに闇に溶けていった。

 

「すげぇ・・・兄ちゃんとどっちがつぇぇんだ・・・?」

 

あまりにも一方的な展開。マァ坊は素直に少女に感嘆の賛辞を送る。

 

「まさか巫剣になるとは・・・」

 

ハットリは驚愕の表情を浮かべていた。白鞘の刀は正の力を持ってたとは言え、まさかこのような少女が表れるとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

益荒鎧を倒し、歩み寄ってきた少女。

吾妻は、自分の所持していた白鞘の刀を少女が持っていることや、いきなり現れて助け出されたことに、混乱した。

 

「なんなんだお前・・・」

 

不躾な質問だが、少女は気にした様子もなく答える

 

「あなたは私のあるじ。私はあなたの巫剣。それだけ」

 

あるじ?巫剣?いきなり現れて一体全体何を言っているのか。

理解が及ばない吾妻に叫び声が聞こえる。

 

「おおいッ!お前らッ!!!こっちぃ弾切れだぁ!!撤退すんぞぉッ!!!」

 

治安部隊の弾薬が切れたことを伝える父の同僚。

最早打てる手はないと、撤退するらしい。

 

「弾薬補給したらすぐ戻る!!無理しんなやな!!!!」

 

一旦本拠地に戻り補給するようだ。

弾薬があればまた吾妻達を援護できるはずだ。

彼らが補給を終えるまで吾妻達は足止めを買って出る。

そして、少女に向き直って小さく息を吐き、言った。

 

「俺たちはあいつらの足止めをする。味方なんだよな?手を貸してくれ」

 

すると少女は足止めの部分が気に食わなかったのか顔をムッとして呟いた。

 

「"アレ"くらい一人で十分です。あるじは子どもらしく遊んでていい」

 

最後は小ばかにした表情で言うと、さっさと一人で武器を持った益荒鎧に向かっていく

 

「お、おい!ふざけんな!」

 

慌てて後を追う吾妻。ハットリ、マァ坊が後に続く。

 

「おー、おー、こりゃぁお手並み拝見ばい」

 

「・・・万が一はある、援護しますよッ!」

 

少女が一人で突っ込んでいく姿を見て茶化すマァ坊と、普段と違い、仕事を真面目にこなそうとするハットリ。

 

二体の巨人と少女一人に野郎三人。最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二体の益荒鎧に向かって風の如く疾走する少女。

先ほど同様、最短距離で相手を仕留めるべく進むのだが、

 

「サセヌ」

 

倒した益荒鎧と違い、今度の敵は巨大な武器を所持している。

その辺の家なら容易く両断出来る質量の刀で、それを少女の突進に向かって振り下ろしてくる。

距離が足りておらず、空振りした斬撃だが、その一撃は地面にドゴッ!と亀裂を発生させた!

地面から爆散してくる土の塊が当たり、少女の動きが止まる。

 

動きの止まった少女にもう一体の益荒鎧が地響きを立てて走り迫る。

そして動きが硬直した少女目掛けて槍を連続して突き立てる!

 

「無手ト同ジト思ウタカ。身ノ程ヲ弁エヨ」

 

その巨大な槍は傍目からは遅い動きに見えるが、その質量によって前後に振るうだけで周囲に突風が巻き起こった。

 

何度か脇差で逸らした少女だが、流石にこのままでは押しつぶされると考えたのか、サッと後ろに下がる。

 

「逃サヌ」

 

槍を振るい猛烈な勢いで追撃する益荒鎧。

分が悪いと別の手段を使うかと思案する少女。

 

そこに横やりが入る。

 

「脇ががら空きじゃあ!!」

 

マァ坊の大太刀が槍の益荒鎧が少女を攻撃している隙に、一撃を食らわせようと瞬時に踏み込んでいく!

 

だが、刀を持った益荒鎧がその横やりを許さない。

 

手に持った刀を激しく地面に叩きつける!

発生した衝撃波は槍の益荒鎧を巻き込んで周囲を吹き飛ばした。

巻き込まれたと言っても同じ質量をもった益荒鎧は、よろめく程度で傷を負うほどではない。

だが、マァ坊はその衝撃波で引き飛ばされ壁に激突してしまう。

 

「ゴホァッッ!」

 

「マァ坊!!」

 

手持ちの武器も無く、攻撃する手段を持たない吾妻は叫ぶ事しかできない。

壁に突っ込んだマァ坊をかばうようにハットリが立ち、拳銃を全弾撃ち尽くす勢いで連射する。

 

「ヌルイワッ!!!」

 

刀を下段に構えて全力で振り上げた益荒鎧。巻き上がった土砂が弾丸のように二人に襲い掛かる!

二人は纏めて弾き飛ばされ崩壊した壁に突っ込んでしまう。

 

「おい!無事か!」

 

二人の安否を確認する吾妻。

瓦礫の奥からダイジョブじゃぁ!とマァ坊の声が聞こえるが・・・

 

「先ズハ男カラ始末ヲツケルカ」

 

狙いを二人に絞った益荒鎧たち。

このままでは瓦礫ごとマァ坊たちがミンチになってしまう。

 

どうにかするにはあの少女の力を借りるしか・・・

周囲を見渡し少女のいる場所を探す。

 

「どうかした?」

 

「うおっ!」

 

何故か吾妻の真後ろに張り付くように立っていた少女。

流石にビクッとした吾妻。何故こんなところにいるのか!声を荒げて言う。

 

「こんなところで油売ってないで二人を助けに行ってくれ!」

 

「あるじが離れないとダメ」

 

若干面倒臭そうな表情で言う少女。

確かに今の位置は大分怪物どもに近づいている。このままでは攻撃に巻き込まれるだろう。

吾妻の安全が最優先とでも言うのか二人を助けに行ってくれない。

ガキの自分は邪魔だとでも言うのか。だが、自分に出来ることはない。苦々しい表情をして素直に下がることにした。

 

「確かに出来ることはなさそうだなッ・・・さっさと下がる!」

 

その吾妻の悔しそうな様子にゾクゾクと体を震わせ、口元をニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる少女。加虐趣味でもあるのかこいつは。

そして笑みを深めると吾妻の手を握り、呟く

 

「そうでもない。」

 

すると吾妻の体が少女が表れた時のように桜色の光を放ち始める。

 

「は?またか!!」

 

そしてその光は少女に吸い込まれる。

その光を全て逃さんとでも言うのか急に少女が抱き着いてきた!!

白い包帯しか巻いていない少女がいきなり抱き着いてきたので吾妻は盛大に狼狽えた!

 

「おっ!お!お!お前何しちゃってんのッ!!!!!」

 

「力を借りるだけ」

 

そして吾妻の光が少女に収束すると、彼女は邪魔だと言わんばかりに吾妻を怪物どもの攻撃範囲から放り出した

少女の細腕からは信じられない力で投げ飛ばされ、ゴロゴロと地面に転がった。

 

「あだっ!ふざけるなよ・・・まったく・・・!」

 

少女にさっさと助けに行けと抗議の声を上げるために顔を向ける。

しかし何やら先ほどと様子が違う。

 

金と白の目は淡く発光し、両の前腕から漆黒の炎が上がっている。

そして、その炎は手に持った脇差を包み込み大きな太刀を思い浮かばせる大きさまで伸びていた。

 

少女はその太刀を肩に乗せ両腕で強く握りしめると、太刀から溢れだした黒い炎が周囲に飛び散った!

炎は地面に当たると酸のように煙を吐きながら土を溶かしている。

 

吾妻は自分の力を借りるとこんな悪役じみた力が出せるのかと若干心が傷付いた。

 

そして、少女は黒い炎を伴いながら益荒鎧に向かって一気に駆け出す。

その動きに気付いた二体は少女に向き直り、漆黒の炎の異常さに警戒心を剥き出しにし、迎撃の構えを見せる。

 

「ナントオゾマシイ炎カッ・・・!キサマハココデ打チ取ッテクレンッッ!!!!」

 

化物にすら恐怖を与える炎。

 

刀を持った益荒鎧はそれを渾身の力を込めて少女に叩きつける。

衝撃波を出して少女のいる場所を吹き飛ばす。

だが、少女は直撃する寸前に全身を黒い炎に変化させ、大気に掻き消える。

 

「消エオッタノカ!!!」

 

自身の一撃の手ごたえから仕留めていないことを悟る。

そして益荒鎧の後に漆黒の炎が集まり、少女が姿を現した!

 

「行きます・・・斬ッ!!!」

 

少女の肩に乗せていた太刀を漆黒の炎が大気を焦がしつつ益荒鎧を頭から両断した!

その斬撃を受けた益荒鎧は漆黒の炎に一瞬で包まれ断末魔の声を上げた。

 

「コノチカラ・・・ッ!キサマァ!!"ミツルギ"デハ無ナカッタノカァ!!!!!」

 

最後までミツルギについては要領を得ない益荒鎧。

漆黒の炎が消えると、その姿は跡形もなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

最後の一体となった槍の益荒鎧。

形勢逆転した吾妻達を前にして、目の前の怪物は唸るように言葉を紡いだ。

 

「マサカ我ラト起源ヲ同ジクシタ者ガ敵トナルトハ・・・」

 

妙な発言をする益荒鎧。

 

一見ただの少女なのだが、目の前の怪物と同族と言うことなのだろうか。

 

「母ナル凶禍ノチカラニ対抗スル貴様ノ意思、敵ナガラ称賛ニ値スル。シカシ、勝敗ハ別ッ!!」

 

槍を少女に向けて構えた益荒鎧。雄叫びで威嚇する!

 

「我ガ剛槍デキサマヲ葬リ、勝利ノ凱歌ヲ上ゲ―――」

 

益荒鎧が喋っていると、天から何かが飛来してきた。

 

天から急降下してくるその光は益荒鎧に直撃した!

何とその光は吾妻の父で、何処から飛んできたのか想像もつかない速度で斬撃を放った!!

ズバッ!と半身になる益荒鎧。それだけでは足らず、吾妻父が着地した衝撃で巨体が浮き上がる――!

 

「オ・・・オノレッ・・・!」

 

しかし、吾妻父にその巨体に止めを刺すことは出来ない。

すぐさま再生を謀る益荒鎧。

 

だが、音もなく飛び掛かった影が無数の銀線を描く。

二つに別れた半身を粉々に切り裂かれた益荒鎧はあっけなく消滅した。

 

「ちょっと遅かったっちゃろか?」

 

益荒鎧を粉々にした博多藤四郎は周りを見渡すと、台風が過ぎ去ったような住宅地に困った顔を向けた。

 

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