吾妻の逆行 -斬-   作:ルイレツ

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吾妻の誤算

3.計画の違和感

 

 

全ての配下の禍憑を倒された吾妻。しかし、後が残されていないにもかかわらず、その表情は平然としていた。自身の計画にはまるで支障がないからだ。

 

「さて、これにて計画は完了した。あの女どもが倒れなかったのは誤算だったが・・・まあいい」

 

吾妻の圧倒的に不利な状況であるにも関わらず、不敵な発言に聖十郎は眉をひそめる。吾妻の禍憑は全滅。

聖十郎の戦力である巫剣は多少の疲労はあるものの、目立った負傷は無く健在。それでもなお問題ないかのように振舞う吾妻に、まだ終わりではないことを察した聖十郎は気を引き締めた。

 

「吾妻・・・この状況で一体何ができる?もうこれ以上禍憑に力を貸すのはやめろ!あれは人間の手に負えるものじゃないんだ!」

 

聖十郎の発言に吾妻は笑いがこみ上げてくる。こいつは何も分かっていない!もうすぐ絶対的な力を手に入れれるというのにやめる必要などない!一辺の疑念もなく、吾妻には何故か絶対の自信(・・・・・・・・)があった。

 

「俺の手に負えないだと?笑わせる。見せてやろう聖十郎!!バケモノを使役し、国家を一新する!それこそが俺の計画!その力が、今!この俺の手に入るのだ!」

 

高らかに吾妻が宣言すると、周囲の気配が変わった。倒れていた禍憑達が大気に溶け始める。同時に負の気配が徐々に濃くなり、空気が淀んだ。聖十郎は余りの負の瘴気に立ちすくむことしかできない。特別な巫剣使いでも、負の瘴気に対する術はないのだ。

そして、吾妻を中心に風が吹き荒び、大量の瘴気が流れ込む。数秒して風が落ち着くと周囲が一変していた。聖十郎は気付く、溢れんばかりの瘴気が一辺も存在しなくなっていることに。そして吾妻に視線を向けると、手の平に黒い玉のような物を浮かべていた。

その球は純粋な黒。美しさすら感じさせる形状。その球を握りしめ、歓喜に打ち震えた表情で吾妻は叫んだ。

 

「これこそがバケモノどもを使役し、操る力の結晶!!この力で先ずは東京を制圧してやろう!そして日本、世界をまとめて統一してくれる!フクク・・・ハァーッハッハッハ!!!」

 

高笑いをする吾妻を前に、聖十郎は冷静に状況を分析し始めた。先ほどの負の瘴気を圧縮したであろう代物が吾妻の手にある、それの力を使うことで禍憑を操ることができる、使うことで東京を制圧できるほどの戦力を得る。

それほどの力を個人が使うなど危険極まりない。ならば使う前に叩くしかない。そう判断した聖十郎は、覚悟を決め吾妻に斬りかかろうとした。が、何やら吾妻の様子がおかしい。

 

「何故だ?何故なにも起きない?ヤツの話ではすぐに・・・」

 

ぶつぶつと動揺したように話しており、なにやら問題が起きたことを窺わせる。どうやら黒い玉が使えないらしく、どうにかして使用して見せようと吾妻は焦り始める。

 

その時、ジワリと吾妻の背後が歪み、その揺らぎから濃紺の色をした影が現れた。影からは表情や形が読み取れず、その濃い紺の色のみがその存在を証明している。その影がなにやら吾妻に向かって語り掛け始める。

 

「どうした?なにか問題があったか?」

 

どうやらその存在と吾妻は既知らしく、怒りと動揺のまま吾妻は話しかけた。

 

「貴様ぁ!貴様はこの結晶があればすぐにでも連中を召喚出来るとほざいたではないか!!!」

 

「当然だ。だが、それは禍憑どものただの集合体。それだけでは何の意味もなさない。」

 

以前、吾妻が黒い影から聞いた話では、結晶が生成されればすぐにでも使えるとのことだった。しかし、結晶はまるで反応しない。話が違うと憤る吾妻を尻目に、濃紺の影は、虫でも見るかのような冷徹な目つきを聖十郎に向ける。

 

そして唐突に黒い結晶を吾妻から取り上げた。

 

「なっ!貴様何を!」

 

「この結晶は其のほうには使えん。さて、彼を待たせるのも忍びない。正しい使い方を見せてしんぜよう。」

 

取り上げた結晶をおもむろに吾妻の額に当てた濃紺の影。すると結晶は吾妻の額の中に沈み始めた。一瞬の出来事に吾妻は全く反応できなかった。

 

「グアアアアアアアアッ!!!よせ!止めろ!!」

 

脳に直接異物が入って来る感覚に吾妻はもがき苦しむ。抵抗しようにも、まるで見えない呪縛に囚われているかのように動けない。濃紺の影が体を麻痺させる呪言を唱えているようだ。次第に吾妻の抵抗は薄れ、違う変化が表れ始めた。

体が大きく膨れ上がり、かぎ爪や角が生え、口元は裂け、そこからは乱杭歯が覗ける。体色が黒なことを除けばその姿はおとぎ話に出てくる鬼そのものである。

吾妻の変貌を見届けた濃紺の影は思い通りの結果が得られなかったのか、やや落胆した様子で声を発した。

 

「これで彼は当初の目的通り力を手にした。幾千もの禍憑を操り、腕の一振りで山を砕く。まさに国を転覆させる力だ。しかし、いや、やはりと言うべきか。この程度では更なる凶渦を呼び起こすには足りないか。」

 

濃紺の影はいくらかの言葉を吐くと、目的は果たしたと言わんばかりに、影も形も無く消え去った。そして吾妻であった黒鬼は影の呪縛から解き放たれたのか、地獄の底から響くようなうなり声を上げた。

 

「グルルルゥ・・・・」

 

黒鬼と相対する聖十郎。旧友を救えなかった悲しみ、人を道具のように利用する敵に対する怒りが胸に渦巻く。

そしてかつての友だったものに語り掛けた。

 

「吾妻・・・お前はもうそこにはいないのか・・・?」

 

聖十郎の声がまるで聞こえないかの如く。鬼は大地を揺らしながら歩き始めた。国を打ち砕くために。しかし、聖十郎の元に別の足音が聞こえてくる。

 

「あるじ!」

 

聖十郎の元に、愚連銃を打倒した仲間の巫剣達がようやく駆け付けた。しかし、その表情は巨大な黒鬼を前に緊張を走らせている。そこで、牛王吉光は吾妻がいないことに気付いた。

 

「あるじくん、あの男・・・吾妻はどうなったんだい・・・?」

 

最悪の状況が脳裏に過ぎ、それが自身の主にとって酷なことであっても、禍憑を祓う巫剣として聞かなければならなかった。牛王たち巫剣の責務を知る聖十郎は彼女を責める気は無いのだが、友の現状に心が悲痛を感じており、口調は重くならざるを得なかった。

 

「・・・吾妻は周囲の瘴気をすべて集めた結晶を吸収し、あの巨大な禍憑に変貌した。あいつは別の・・・禍憑に操られていたんだと思う。」

 

聖十郎は、悲嘆にくれた表情で答えた。すべてが手遅れであり、かつての友を救えなかった。それだけがぐるぐると心の中で残り続ける。聖十郎の悲しむ様子を慮った桑名江は己の主の目に合わせてゆっくりと声をだした。

 

「主様、吾妻さんは国のことを真剣に心配していました。その思いが何処かで掛け違えて国を転覆させようと思ったんでしょう。でも、そのような志を持った方が禍憑となって己の心に背くような形で国を壊してしまうなんて、私は許せません!主様も同じ気持ちなはずです!」

 

聖十郎は、桑名江の言葉に自分が必要以上に気落ちしていたことに気付き、はっとした。前を向いてみる。巨大な黒鬼が町へ向かっている姿が見える。

 

「あるじ、行きましょう。まだ私たちにも出来ることがあると思う。」

 

巫剣達に背中を押され、これ以上情けない姿は見せられないと聖十郎は気合を入れなおした。

 

「すまん、格好悪いところをみられたな。今から禍憑と化した吾妻を倒す!みんなも力を貸してくれ!!」

 

了解!と巫剣から親愛と熱意のこもった返事をもらい活力を取り戻した聖十郎は吾妻の元へ向かった。

 

「まだ完全に禍憑と化したと決まったわけじゃない!!わずかでも希望があるなら救ってみせる!行くぞ、吾妻ぁーーー!!!」

 

巨大な禍憑と化した吾妻に向かって聖十郎たちは吶喊した。これ以上の罪を吾妻に重ねさせないために。

 

 

 

4.暗転

 

 

 

男は暗い海を漂っていた。前も後ろもなく、右も左もない。そんな空間に何を思うでもなく漂っている。

自分には何か為さねばならないことがあったような。どこかで倒さなければならないものがあったような。

それ以上考えようにもすべてがぼんやりとしていて何をする気にもなれなかった。

 

暫く宙を漂っていると、何故か不安が押し寄せてきた。頭がずきずきと痛む気がするし、手や足も痛む気がする。その痛みから逃れようと手足をばたばたと動かした。

手足を動かしても痛みは引くどころか増す一方で、痛みに耐えきれず声を上げた。

自分のものとも思えぬ声が出た気がしたが、いまいちハッキリとしない。

なんとか痛みに耐えていると、脳裏にある光景が浮かんできた。一人の男と三人の女が大きなバケモノと対峙している光景だ。この何もない空虚な空間では中々見ごたえのある光景だった。

男が指示を出し、女達が連携してバケモノを攻撃しているが、如何せん虫と人間のような差があり、到底勝てるとは思えない。バケモノも地響きを上げながら地団駄を踏んだり、山を崩しながら腕を思いっきり叩きつけたり。しかし、破壊の限りを尽くしても有効な攻撃を与えてないように見える。

また頭が痛くなってきた。何やら女どもが灼熱の溶岩球を打ち込んだり、天から降ってきた雷を大量に撒き散らしたり、はたまた人間とは思えない勢いで突進してきたりと、もはや子供向けの昔話にも無いようなめちゃくちゃ光景になってきた。

思考が少しはっきりとしてきて、一体こいつらは何者なのか。そもそも人なのか?と考えていた。思考が鮮明になるとさらに頭が痛み始めた。すると、俺の周囲がうっすらと桜色に輝き始めた。その輝きが強くなればなるほど俺の頭の痛みがひどくなる。

脳裏に浮かぶ光景も見えなくなり、益々周りの色が鮮やかになると、最早なにも考えることができないほどの痛みが走った。

 

どこかで名前を呼ぶ声が聞こえる・・・自分に名前などあっただろうか、最早定かではない。それでも名を呼ぶ声がして、俺は聞こえる方に耳を傾けた。

 

どこかで俺の名前を呼ぶ声が聞こえる・・・その声が聞こえる場所に行くほど周囲が桜の色に染まり、痛みが引く。

 

「吾妻・・・」

 

そう、俺の名前は吾妻だ。国を憂い、国のために立ち上がった憂国の士。それなのにどうして俺はあのようなことを志したんだ?

国家転覆。果たしてそれで国が良くなったのか?国が揺らぐことで民衆が苦しんできたと言うのに。

 

「吾妻!」

 

そうだ!俺は苦しむ皆を守るために陸軍に入ったのだ!皆を守るために求めた力!何故その力を皆の為に使わなかったのだ!

何処で俺は間違えたのだろう・・・俺があの男のようにあれば間違えずに済んだのだろうか・・・

 

聖十郎・・・

 

遠くで俺を呼ぶ声が聞こえる。

 

「吾妻ぁぁ!おーい!吾妻ぁーー!なにそんなところでぼーっとしてんだよ!」

 

目を開けると、いつの間にやら周りの景色が一変しており、何処か懐かしい住宅地の中に吾妻は立ち尽くしていた。

 

「あれ???」




ようやく逆行となった吾妻ですが、ここから完全にオリジナル展開です。
吾妻の設定、時代の背景を考慮して、進めていきたいと思います。
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