吾妻の逆行 -斬-   作:ルイレツ

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センカの過去

ハットリたちが帰った後の夜。吾妻は今日知った情報の整理をした。

隣にはダラダラとセンカが寝転がっている。

 

 

 

 

まず、昨日襲撃してきた亡者の群れは禍憑と言い、負の力である禍魂を根源として、何らかの原因で禍魂が増えると出現する存在である。

 

それに対し、唯一の対抗手段である巫剣という存在がある。

これは、正の力である巫魂を根源とし、刀を依り代として人々を守っている。

博多藤四郎や、センカもこの存在である。

元禍憑のマァ坊も禍憑に対抗できることから巫剣に属するのだろうか?巫剣の力を持った元禍憑現人間と言ったところか。ややこしい。

 

センカやマァ坊が今の姿になったのは、吾妻が巫剣に稜威と言う力を受け渡すことができる存在、巫剣使いに成れたからなのだ。

と言っても、その奇跡が起こるには莫大な巫魂が必要とされるのだが。それを所持していた理由ははっきりとしていない。

 

しかし、吾妻が逆行する前はそのような力は無かった。

巫剣使いの力の鱗片を逆行前に見せていたなら御華見衆が発見し、士官学校卒業後、聖十郎と同じくそちらに配属されていただろう。

 

そう、逆行前とはいくつかの差異が生じている。

 

まず、家族との仲が良くなった。かなり重要なことである。

 

以前は気難しいと距離をとっていた父とも打ち解けた。

父に稽古をつけてもらい、当時の自分より飛躍的に強くなった。

そして、父が人間辞めましたと言っても過言ではない存在という事に逆行してから気付く。

達人や剣聖を超えた存在である巫剣とある程度打ち合えるだけでバケモノ染みていると思う。

 

次に、マァ坊の存在である。

 

逆行前は、壁に掛かった絵で少し顔を覚えていた程度で、実際に合ったことは無かった。

それは、マァ坊は戦争に参加して命を落としていたためである。

逆行後は、吾妻の力でマァ坊は禍憑から復活する。

最もそのせいで禍憑連中の計画が狂い、フクオカに大規模な禍憑が襲撃してくる破目になったのだが。

 

最後にセンカの存在だ。

 

復活したマァ坊と共に池から拾った錆刀。

それを研ぎに出して成人するまでの繋ぎとして貰っただけの刀だった。

しかし、吾妻が巫剣使いとして覚醒すると同時に刀から巫剣へと変わった。

そして、信じられない力を発揮して、益荒鎧を倒した。

 

だが、その存在は正直なところ怪しい。

 

戦うときに見せた力も、ドス黒い炎を立ち昇らせ斬りかかると言う物騒なものだ。

どう見ても正なる力と言うより負の力を使っている。

周りの人間がセンカの戦っている姿を見ていないことが救いだった。

 

益荒鎧もセンカを指して負の力を根源とする同族と言っていた。

そして、ハットリが言っていた巫剣が負の存在となる現象、錆付き。

 

それらを踏まえると、どう考えても巫剣とは思えない。

やはり錆付きの巫剣なのだろうか?

その割にはこうして平然と横でグーたらしている。

 

この少女も謎がありそうだ。

 

 

 

 

そこまで考えているとドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。

スパーンッと障子を開け放つと、その足音の主、マァ坊が言った。

 

「今年もぉホタルん季節がやって来たばい!!!今晩行くかぁ?」

 

どうも今年の夏もそんな季節になったらしい。

 

マァ坊は花言葉を知っていたり、騒がしい性格と裏腹に繊細な風景を楽しむ趣味もあるらしい。

なかなかチグハグな男だ。

 

「行く」

 

吾妻が答えるよりも早くセンカが行くことを告げた。

少女らしくホタルを楽しむ感性があったのかと、吾妻は意外そうな顔をした。

それを見たセンカは床に寝ていた体を転がして吾妻にぶつかって来る。うっとおしい。

 

特に吾妻も用事はない。三人でホタルが多くいる池に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

池に向かった三人。周囲に風はなく木々が生い茂っており、既にいくらかホタルが飛んでいる。

今回マァ坊は釣り道具を持っていないようだ。

 

「今日は刀を釣りに来たんじゃあないのかぁ?」

 

「そん話ば勘弁して・・・」

 

あの時は小魚釣って夜食を振舞うつもりだったと弁明するマァ坊。

ホタルが増えてくるまで二人で駄弁ることにした。

 

 

 

 

マァ坊はセンカのことなんだがと言って話し始める。

 

「あいつは昔、家におった巫剣やったんやなかかて思うとった。」

 

マァ坊と戦争に向かい消息不明となった巫剣、信国重包。

マァ坊を理由なく毛嫌いする原因を考えてそれに行き当たったのだ。

最後に別れた時に相当邪険に扱ったのでそれを覚えており怒っているのではないかと。

 

彼女が使っていた刀も、研ぎに出す前のセンカの刀と同じ長さであり、共通点もあった。

 

「こん池も重ちゃん・・・信国重包に教わったけん、何か因縁があるんやなかかて思うた。」

 

ここは信国重包のお気に入りの場所だったと話す。

 

「センカが重ちゃんの生まれ変わりやなかかて思うとった。でもぉ、今見れば性格とか全然違うばい。」

 

信国重包はセンカみたいに短気でもお茶目な性格でも無かったと言う。

この男らしくなく、懺悔するかのような暗い表情だ。

 

「やはり後悔してんのか?」

 

吾妻が尋ねる。

していないと言ったら嘘になるなぁとマァ坊は言った。

 

 

 

 

マァ坊と二人話していた吾妻。

一人除け者にされたセンカは、かまってくれと言わんばかりに吾妻に頭突きをしてきた。

 

「おい!やめろっ!もっと普通に話しかけてこれないのかよ・・・?」

 

センカは私怒ってますと頬を膨らましている。

吾妻の抗議は勿論無視だ。

 

「楽しい話して」

 

口を開けばわがままな無茶ぶりをしてくる。

除け者にされたことがよっぽど腹に据えかねたのだろう。

吾妻が面白い話をするまで頭で突っつき続けるつもりなのだろうか?

 

「無茶言うな!」

 

「はっはっは!よっしゃ!俺が楽しかぁ話ばしてやろ!」

 

マァ坊が気を効かせて話しかけるが、センカの反応は良くない。

と言うより無視していた。

 

「やっぱり俺ぁ嫌われることしたんかのぉ・・・」

 

「さてな。」

 

 

 

 

しばらく三人で雑談を続けていると、ホタルが活動する時間になったのか、ホタルの光が水面に波紋が浮かぶように広がっていった。

 

「今年もぉ綺麗ばい・・・」

 

「そうだな・・・」

 

ふと、吾妻はセンカのいる方に目を向ける。

ホタルを見たがっていたが、その表情は何かを考えている様子はない。

表情は豊かなセンカのことなので、はしゃぐと思っていたのだが。

ふと、センカの刀はここで拾った事を思い出す。

 

「・・・なぁ、センカ。お前がここに沈む前のことって何か覚えていないのか?」

 

吾妻の刀だった当時の事を覚えていたのだから、池に落ち錆び付く前のことを覚えているのではないか。

 

「わかんない・・・」

 

でも、と前置きしてセンカは言う。

 

「誰かになにか(・・・)伝えなくちゃって・・・」

 

そう思ってたと静かに語る。

しばらく三人でホタルを眺める。

 

センカのホタルの光が映る目からは既に忘れてしまった何か(・・)を思い、一筋の涙が流れた。

 

 

 

 

 

 

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