吾妻の逆行 -斬-   作:ルイレツ

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ようやく待望の戦闘描写。


吾妻の遭遇

吾妻が逆行してようやく一年がたった。今年から銘治18年、現在6月である。

 

成長期である吾妻は鍛錬を父と続けすくすくと成長していた。そんなある日のこと。

 

「ごめんくださぁーい!」

 

元気よく明るいがどこか胡散臭い挨拶が玄関を叩く。今日は家族全員が家に揃っている。父か母に来客だろうか?この声は聞き覚えがある。

 

吾妻は玄関に行くと来客を出迎えた。玄関には二人の人影がある。一人は予想通りハットリだ。もう一人に視線を向けるとその見目に驚く。

 

 

まず、頭の大きな布の髪飾りに目が向く。色素が少しだけ薄い、長い黒髪を後ろで束ね、腰まで垂らしている。

 

表情はあどけなく、目はぱっちりと見開き、小さい口元は微笑を浮かべている。

 

服装は着物と割烹着両方が合わさった見た目で、フリルと言うのか、西洋の意匠が盛り込まれている。ずいぶんと目を引く衣装だ。

 

体形に目が行く。あどけない表情と裏腹に、体形は成熟しており、大人の女性ほどの背丈だ。

 

そして胸に目が行く。デカイ!まずお目にかからないであろう大きさだった。六歳児の吾妻では両手で抑えても足りないだろう。

 

 

 

思考を戻す。ハットリと胸がデカイ女性を玄関から迎え入れ、用件を聞いた。

 

「よう!こんにちは!今日はこっちのおねぇさんとお父さんに挨拶に来たんだ!お父さん呼んできてもらえるかな?」

 

ハットリの言葉に父を呼びに行こうとする吾妻。その前に、女性が挨拶をした。

 

「申し訳ありません。御挨拶が遅くなりましたが、博多藤四郎と申します。宜しくお願い致します。」

 

博多藤四郎?完全に男の名前なのだが、目の前の女性は特に不自然な様子はない。しいて言うなら子供相手に謙譲語を使っているくらいだ。

 

胡散臭いハットリの知り合いだ。もしかして偽名だろうか?取り合えず返答をおくる。

 

「初めまして。でも、こんな子ども相手にへりくだる必要はないよ」

 

「そう?そんならうちも博多弁使うっちゃね!これからよろしゅうね!」

 

花が咲いたような笑顔とはこのことを言うのか。満面の笑みを浮かべる博多藤四郎に吾妻はドキッとした。

 

動揺を悟られる前に吾妻は父を呼びに行った。

 

 

父にハットリと博多藤四郎と言う女性が来たと言うと応接間に通せとのことだった。

ハットリと博多を連れて応接間に向かう。すると、来客の準備を整えていた母と父がいた。

 

父は母と息子に退出してもよい旨を伝える。母は家事があるためそのまま洗い場に向かったが、吾妻は会話の内容が気になったので障子越しに会話を聞いた。

 

 

 

 

 

吾妻の父は久しぶりに会う古い友人に声をかける。

 

「久しいなハットリ君、そちらの方が例の?」

 

「はい、お初にお目にかかります。博多藤四郎と申します。」

 

二人はその後挨拶をお互いに返した。ハットリが話を切り出す。

 

「以前より話題に挙がっている、夜に現れる落ち武者なんですが、最近は九州全土で目撃が確認されてまして・・・」

 

「それで今までの散発的な対処は博多さんがなされていた、と」

 

父が博多に視線を向ける。彼女は頷くと話を始める。

 

落ち武者は目撃情報が増えると活発になるらしく、一部では怪我人が出たこともあるそうだ。

落ち武者自体は動きが鈍く逃げることは容易らしいが、如何せん問題があるらしい。

 

「問題とは?」

 

父の疑問にハットリが答える

 

「あの落ち武者は博多藤四郎さんにしか倒せないということです。」

 

ハットリの発言に父は眉を顰める。華奢で戦闘に向いてなさそうな彼女しか倒せない?ハッキリ言って眉唾物だった。

 

父は疑惑の視線を向ける。当の博多本人は特に気にした様子もなく飄々としている。その所業は何らかの礼法を修めているのか、気品の中でも堂々とした様子がうかかがえるが、武道を習得しているとは思えない。

 

しばらく沈黙が続く空間で埒が空きそうもないと博多に提案した。

 

「博多さん、どうです?こちらの吾妻さんと手合わせするというのは?」

 

「・・・・・・・・」

 

父は正気か?と言う目線をハットリに送ったが気にした様子もない。博多に向き直り、返答を待った。

 

「お受けします。お手合わせ頂いた方が信頼して頂けるかと。わたくしは剣術に少々自身がありますので。」

 

「・・・承知しました。」

 

どうやら吾妻父と博多藤四郎は手合わせをするらしい。これはとんでもないことになったと慌てる吾妻。

 

障子の向こうから吾妻を呼ぶ父の声がする。武具一式用意を頼むと。

最初から聞き耳を立てていたのはばれていた。恥ずかしくて顔を真っ赤にした吾妻は武具を取りに向かった。

 

 

 

場所は変わり、庭へと移る。吾妻は博多を心配し、声をかけた。

 

「今からでもやめた方がいい。父は相当な実力者なんだぞ。勝てるわけがない!」

 

「心配してくれるちゃね!ありがとぉー!」

 

まるで気負った様子の無い博多にじれったくなる吾妻。本当に分かっているのだろうか。

 

吾妻と厳しい鍛錬に挑んでいる父の実力は底が知れない。鍛錬時の様子からして常軌を逸脱している父だ。

 

地面にえぐるような足跡を残して瞬時に移動し、素振りを行えばコマ送りのように動き、残像が残る始末。

木刀を振る音も風切り音ではなく、空気を叩くような大気に響く爆発音なのだ。

それでいて刀を振るえば一切無音の瞬息抜刀と、本当に人間なのか疑わしい人物なのだ。

 

 

 

それを吾妻が身振り手振りで伝えると、博多は笑みを浮かべて優しく頭を撫でてくれた。

 

「大丈夫!お姉ちゃんも強かけん!心配ないばい!」

 

そこまで言うと、父と博多は武器を選んだ。

 

父はいつも使って手に馴染んでいる木刀。毎日恐ろしい勢いで振っているのに壊れたところを見たことが無い。

 

対する博多は奇襲や牽制に使う小太刀の木刀それを見た吾妻は大いに焦る

 

「博多さん!小太刀じゃあいくら何でもダメだ!受けるのも斬りかかるのも危なすぎる!」

 

まず、小太刀で防御することは難しい。通常の木刀同士ならば克ちあっても弾かれるだけで問題ない。

しかし、小太刀と木刀では、まともに打ち合えば小太刀側に痛みが蓄積する。

それを克服するためにとんでもない修練を積んで、岩石のようなコブシになった人もいるくらいだ。

博多の手は繊細そのものでとても打ち合えそうもない。

さらに、小太刀と木刀では獲物の長さに差がある。小太刀をもった博多は一気に相手の懐に入るしかない。

しかし、木刀をもった父は小太刀の間合いに入らず、一方的に打ちのめすことができる。

 

これでは勝負にならない。

 

吾妻の待ったの声は届かず、二人は勝負のため対峙する。そこで吾妻は父の様子に気付く。

極度の集中をしているのか、深くゆっくりとした呼吸を繰り返している。

一見ぼんやりとして見えるが、どんな状況でも反射的に行動できるように心はさざなみ一つ立てていない。無我の境地だ。

 

かつてここまでの集中をした父は見たことが無く。いったい博多のなにが父を警戒させたのだろうか?

 

対する博多はにこにことしていて、まるで遠足に来た少女のような有様だ。

 

致命的にかみ合ってないと感じた吾妻は、父が犯罪者にならないことを祈った。

 

そして、二人の間に立ったハットリが試合開始の合図を送る。

 

「両者構えて!・・・始め!!!」

 

両者視線を交わしたまま動こうとしない。隙を伺っているのだろうが、今の自分では二人とも隙だらけにしか見えない。

 

すると、何を思ったのか、博多が会話を始めた。

 

「いやぁー、すごいっちゃね!ここまで強か人は初めてっちゃ―――」

 

途中まで呟いた博多目掛けてカッと目を見開いた父が踏み込む。その踏み込みは地面の土を巻き上げ周囲に文字通りの土砂降りを起こす。

 

その高速の吶喊は地面に確かな振動を与え、近隣住民はすわ、地震かと勘違いする勢いだ。

 

象を思わせる超重量の突進と、隼を思わせる空気を切り裂く一撃は、突きとなって博多の顔面目掛けて突き進む!!

 

 

吾妻は自身の父が殺人犯となった事を嘆く。せめて父の助命嘆願だけはせねばと考えた。

 

 

土砂の粒が降り注ぐ中、博多の頭が消滅していることを思い描いた吾妻。しかし、現実はそれを上回っていた。

 

 

博多は超速の踏み込みを見て(・・)上体を逸らし、相手の突きを上に受け流すように、小太刀を構えたのだ。

父の木刀と触れた部分は摩擦で煙どころか火が上がっている。

 

状況を不利と見た父は突きの勢いを殺さず、小太刀を軸に木刀を縦に構えそれをを下に弾くよう動かすと、体当たりをした。

体当たりで距離を取りつつあわよくば小太刀を弾き飛ばせないか狙ったらしい。

 

しかし、当たれば即死を思わせる超重量の体当たりを受けた博多はポン!と軽い調子で飛ばされ、その先で何事もないかのように二つの足で立っていた。

その様子を確認するそぶりも見せず即座に父は追撃を開始した。

 

木刀を上段に構えた父は、飛ばされた直後の博多の脳天目掛けて真っ向から唐竹割を仕掛ける!

さっきから顔面ばかり狙って殺意が高すぎる。

 

博多は軽い調子で横にちょんと飛び上がり、父の上段を小太刀で平行に構えることで受け流す。しかし、父の剣圧で周囲に爆風が広がる!!

 

だが、それを受けても身じろぎ一つすることなく博多は受け流した小太刀の底を流れるように父の顔にブチ当てた!!

 

ゴッと鈍い音が鳴り、痛みに視界を奪われたのか、距離を取った父。再度反撃するために刀を構える。

 

しかし、博多は父の右隣に移動しており首筋に小太刀を当て佇んでいた。勝敗は決まった。

 

 

因みに吾妻とハットリは、目に砂埃が入って戦闘はろくに確認できなかった。

 

 

 

「先手を譲られてこのざまか・・・完敗だな」

 

己の全力をこうもあしらわれると、返って清々しい気分の父。世界の頂きは高い・・・などと感慨深い表情でつぶやいている。完全に戦闘狂である。

 

「そうでもなかよ?小太刀、折れちゃったばい。」

 

父の木刀を3度受け流したせいで、真っ二つになった小太刀。博多の攻撃を一度でも凌げれば勝敗は別だったろう。

 

「・・・・・」

 

自身の技は確かに相手を追い詰めた。それを確認できた父は満足げに頷いた。

 

「あ、敬語、忘れておりました・・・」

 

「いや、問題ない。気にしないでくれ」

 

博多の敬語がいつの間にやら無くなっていたが気にならない様子の父。強敵(とも)と新たな友情が芽生えたのだ。

戦いの緊張が抜け、和気あいあいとした空気が流れてくる。

 

 

 

 

「なんかぁ・・・予想を遥かに超える戦いでしたが・・・」

 

「なにがおこったのだ・・・」

 

状況が理解できずすっかり置いてけぼりになった吾妻とハットリ。二人して右往左往する。

 

 

博多が落ち武者を倒すことに異論が無くなった吾妻父。今後の有事の際は博多藤四郎も同行してくれるだろう。

 

博多藤四郎と、吾妻の父がいれば街の防備は安泰だろう。

 

 

それはそれとして、父が巻き起こした砂埃をどうにかしよう。

台風でも起きたような様の庭を見て、吾妻はがっくりと首を下げた。

 

 




吾妻の父は、天華界隈では最弱なれど人間の域を完全に超えた存在であると想定しています。
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