時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC   作:ざんじばる

1 / 26
クシャトリヤ VS 未確認機

「……ガンダム。……ガンダム。ガンダムは―――敵ッ!!」

 

 突然爆煙を破って現われ、自分をコロニーから追い出した一本角のモビルスーツ。その白いヤツが変形、いや変身した姿にマリーダの意識は沸騰した。

 

 一本角のブレードアンテナが二つに割れて左右に開き、V字型に可変した。続いて顔を覆うマスクが解放され、その下に隠れていた本来の顔が明らかになる。ゴーグル形だったはずのメインカメラはツインアイ形へと変化し、翠色に強く輝いた。

 

 

 その姿はまさしく―――連邦の白い悪魔。ガンダム。

 

 

 その姿はネオ・ジオンのクローン型強化人間として造られたマリーダの、その深くに刷り込まれた攻撃性をこれ以上ないほどに刺激した。ガンダムをこの世から消し去りたい。1秒たりとも存在させてはおけない。そんな本能からの命令に従って、クシャトリヤのビームサーベルを抜き放つ。

 

 キックペダルを全力で踏み込み、スラスターに火を付ける。機体は暴力的なまでの推力に従って猛然と加速し。体にかかるGを無視してなおもベタ踏みのまま突っ込んだ。

 

 対するガンダムも既に抜き放っていたビームサーベルを片手にこちらと対称的な格好で突貫してくる。変身と同時に展開していた装甲の下から赤い燐光を振りまきながら。

 

 そして互いが交錯しようとしたその瞬間。

 

 

 空間が歪んだ。

 

 

 マリーダにはなにが起きたのか分からない。急接近するクシャトリヤとガンダム。その間の僅かな空間のモニターに映る映像が歪んだ。歪みは即座に膨張し、それに接触したクシャトリヤとガンダムを等しく弾き飛ばした。吹き飛ばされながら反射的に各所のバーニアを噴かして機体に制動をかける。歪みの反対側では同じく吹き飛ばされたガンダムがAMBAC機動を巧みに使い、機体を落ち着かせていた。

 

 戦意に冷や水を浴びせられた形になり、マリーダは様子見に入る。それはガンダムも同じようだ。見たことのない現象だ。いったい何が起こっているのか。それを見極めなければ戦闘どころではない。

 

 空間の歪み、それは一定の大きさで拡大を止めている。歪みの中では可視光線すら歪むのか、モニター越しには星の輝きすら歪に見えた。やがて歪みの中から虹のような、波打つ帯状の光が幾筋も溢れてきた。

 

 続いて何かが飛び出してくる。それは腕だ。モビルスーツの。細く長い優美ささえ感じさせるマニピュレーター。袖のように広がった腕部装甲。大型の肩部バインダー。

 

「あ……ああ……ッ」

 

 続いて頭部が、さらに全身が露わになった。その時には空間の歪みは消えていた。後に残されたのは一機のモビルスーツ。全身が優美な曲線で構成され、どこか女性的な。

 

「あ……あ……あああッ……あ?」

 

 突如脈絡もなく現われたそのモビルスーツをマリーダは知っていた。その姿に、自らの内へ深く根を張ったトラウマを刺激され、恐慌の一歩手前まで陥りそうになるマリーダ。それを押し留めたのは、その機体のカラーリングだった。

 

 その色はマリーダのよく知る黒ではなく―――純白。そして要所に配された紫の差し色。

 

 そのことを理解した瞬間、恐慌から殺意へと再びマリーダの意識が切り替わる。そのモビルスーツのことも攻撃対象としてかつての主から刷り込まれていた。咄嗟にファンネルを放ち、取り囲ませる。けれど彼女に残った冷静な部分が即座の攻撃を思い留まらせた。そして誰何の声を通信で飛ばした。

 

「お前は―――誰だッ!?」

 

 そう。その殺意の向けるべき相手は疾うに死んでいるはずなのだ。そのことを自分は客観的な事実として知っている。だというのに目の前の機体は何だというのか。あるいは、ないとは思うが、どうやってか、どこかから同型機を引っ張り出してきた友軍なのかも知れない。台所事情の厳しい友軍には当時のものはおろか、更に古い世代のモビルスーツも多数配備されている。

 

 けれど、ネオ・ジオンの周波数で飛ばした通信には何の返答もない。メインカメラに灯も点らず、力なく宇宙空間に漂うだけだ。

 

 ――もういい。通信には応えないし、単なる放棄されていた予備機かも知れない。出現の仕方は不自然だが、それは単なる見間違えかも。それに旧式機とはいえ、このまま放置して連邦に鹵獲されるのも面白くない。

 

 そのような言い訳を心中で述べつつ、自らの刷り込まれた本能に急き立てられ、マリーダはその機体を破壊することに決めた。ファンネルに攻撃の意思を飛ばし、ビームを放つ。その時。

 

「なにッ!?」

 

 まるでマリーダの殺意に反応したかのように、突然その切れ長のツインアイに光を灯すと、身を捻り、周囲から降り注いだビームの雨を紙一重で躱す。そのまま大型肩部バインダーに組み込まれたメインスラスターを噴かし、ファンネルの包囲網から抜け出して見せた。

 

「こいつッ!」

 

 すぐさまファンネルに後を追わせる。そのモビルスーツは後退しながらこちらに手を突きだしている。まるでマリーダを押し止めようとしているかのように。無視してファンネルからビームを降らせる。釣瓶打ちだ。

 

 けれど相手はヒラリヒラリとビームを躱して見せた。こちらへ腕を突き出したまま、無抵抗のままに。ここまでくれば相手は敵ではないと認識してもいいはずだ。けれど一度、本能のままに攻撃衝動に身を任せたマリーダがそのことに思い当たることはなかった。ただ苛立ちだけが募る。

 

 ――自分はヤツより兵士として優秀なはずなのに。なぜ落ちないッ。

 

「旧式の癖にッ。さっさと落ちろッ!」

 

 さらにファンネルを放出し、包囲を強化する。今度こそ撃破してやる。その意思に反応してファンネルも機敏な反応を見せる。

 

 ことここに至って相手も覚悟したのか、ファンネルを放出した。ファンネルとともに迎撃の構えを見せる。互いのファンネルがまるで追いかけっこのように動き回り、射撃ポジションを抑えようとする。次の瞬間。

 

 相手のファンネルの約3分の1が一方的に火の玉へ変わった。所詮旧式は旧式。兵器は日進月歩だ。サイコミュやファンネルもこの数年で幾度となくアップデートされている。ファンネルの速度も反応もこちらが上だ。差は僅かだが、その僅かな差がドッグファイトでの戦果を分ける。

 

 ――さあ、このまま一気に殲滅してやる。

 

 マリーダの中で勝負が確定的になった次の瞬間。

 

「なにッ、バカなッ!?」

 

 今度はクシャトリヤのファンネルが一方的に火の玉となって消えた。

 

 速度で劣るはずの敵のファンネルは、こちらの動きを読んだかのように、最小限の動きで、こちらより先に優位な射撃ポジションへと遷移し、ビームを放ってみせたのだ。

 

 マリーダの中で戸惑いと不快感が跳ね上がる。相手はファンネルを搭載した初期のモビルスーツ。もう10年近くは前の機体だ。対してこちらは最新鋭機。限定的だがサイコフレームまで搭載している。ハードウェアの差は明らかだ。だというのにこちらのファンネルが落とされたということは。

 

 ――違うッ。今のは油断しただけだッ!

 

 マリーダの意思を受け取って、ファンネルが猛烈に攻撃を仕掛ける。けれど結果は五分。双方の間で多数の花火が輝き、最終的にお互いファンネルを全て失う結果となった。戦闘は膠着状態へ陥る。

 

 マリーダは歯噛みする。兵器として造られた自分が単なる人間(ニュータイプ)に劣るなんてそんなことは。マリーダは無意識のうちに理解していた。サイコミュを通して感じる相手パイロットの魂ともいうべきものを。それは確かに過去関知したことがあるものだった。自分のターゲットに設定された相手。なぜ死んでいるはずの相手がここにいるかなどもう考えない。ただ、その相手に劣っているかもしれないという憶測が更に彼女を苛立たせた。

 

 もはやガンダムのことは完全に意識から抜け落ちていた。幸いそのガンダムは動きを停止しているが。まるでこちらを観察でもしているかのようだ。NT(ニュータイプ)同士が殺し合うのなら好きにしろとでも言うかのように。

 

 苛立ちを戦意に変え、再びキックペダルを踏み込む。遠距離戦で決着が着かないのなら格闘戦で。ここで引いて手仕舞いにするという選択肢はなかった。クシャトリヤは左手にビームサーベルを握りしめ突貫を敢行した。

 

 相手モビルスーツもスラスターを噴かして後退する。けれど推力はこちらが圧倒的に上だ。相手が当時のスペックと変わらないとすれば、それこそ3倍近い差がある。ガンダムとの接触でバインダーを一枚損なっているとはいえ、あっという間に相手をクロスレンジに補足した。相手も逃走を諦め、腕部からビームサーベルを展開する。

 

「クッ。はぁァァァッ!」

 

 マリーダは気合いの咆哮を放ち、猛然と斬りかかる。薙ぎ払い。相手モビルスーツが突きだしたビームサーベルと切り結ぶ。接触部がスパークを起こし、それに構わず押し込む。推力差から相手を一方的に押していく。

 

 ――このまま出力に任せて押し切ってやる。

 

 ジェネレーターが唸りを上げ、相手へと負荷をかける。両者の出力差からジリジリと押し込み、ビームサーベルごと叩き切るのも、もう間近という所で相手はスラスターを噴かせた。前方に向かって。

 

 自分からマイナス方向へ飛ぶことで、難を逃れる相手。マリーダは舌打ちとともにバインダーに仕込まれた隠し腕を解放する。隠し腕からもビームサーベルを展開し、唐竹割りに斬りかかる。意表を突いたはずの攻撃を、相手はもう片腕からもビームサーベルを展開し、受け止めた。たいした反応速度だ。けれど。

 

「これでぇェェェッ!!」

 

 クシャトリヤの右腕にもビームサーベルを握らせ、刀身を伸ばす。相手の両腕はふさがっている。相手モビルスーツにクシャトリヤのような隠し腕機構はないはず。これでとどめ。敵機に突き刺すべく右腕を押し出して。

 

「なにッ!?」

 

 必殺のはずのビームサーベルは何もない空間を虚しく突いた。

 

 相手は各所のスラスターとAMBAC機動を巧みに用い、交錯するビームサーベルを支点に倒立のような動きを見せていた。信じられないような機動。クシャトリヤの圧力を躱した相手モビルスーツは上方をすり抜けていく。

 

 クシャトリヤは全力で加速していたため、彼我の距離が一気に開く。後方からは相手モビルスーツがすかさず放ってきたビームガンが迫る。そのため、急反転することもできず回避を優先。さらに距離が開いた。もはや一息には飛びかかれない距離だ。

 

 悔しさに歯噛みするマリーダ。そこに飛び込んでくる意思。咄嗟にそちらを見ればモニターに拡大される友軍機。ギラ・ズールの手の上には彼女の現マスター、ジンネマンの姿があった。手招いて彼女に撤退を指示している。

 

 マリーダにマスターの指示を拒否するという選択肢はない。唇を噛みつつも速やかに撤退に移った。後退していく自分に対して、相手モビルスーツはなんの反応も見せなかった。ただ自分を見送っている。まるで見逃されたようでそれが疎ましい。

 

 モビルスーツの戦闘域を十分に離れたところで、ガンダムが動き出した。先ほどまでマリーダと争っていたモビルスーツへと突っ込んでいく。あの場に残ったあいつを葬るつもりらしい。あの二機の戦いがどうなるのか。興味はあったが激突する前にセンサーの範囲から外れ、観測は不可能となった。

 




いったい現れたモビルスーツは何なんだ……(迫真)

プル・トゥエルブとオードリーと裸の男がいるところにあの人が現れたら面白くね?
という思い付きから妄想が溢れたので形にしてみました。
他に書かないといけない連載作品が二作品もあるのに辛抱たまらず……
とりあえず昨日・今日で書けるだけ書いて投稿する所存です。
よしなに(ディアナ様風)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。