時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC   作:ざんじばる

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ギルボアさん「ダグザが助かったのなら俺もきっと」ウキウキ♪
作者「お、そうだな(適当)」



ウェイブライダー

 ダグザに見送られ、ラプラスの残骸を飛び出したハマーンのゼータプラス。周囲を見渡すが既に場所を移したのか、ユニコーンもシナンジュの姿も見えない。ユニコーンが破壊したのかギラ・ズールの残骸が一機漂っているだけだった。コックピットブロックを貫かれた状態で。

 

 ミノフスキ-粒子が散布された影響でレーダーの利きも良くなかった。仕方なくNTとしての直感に従って動くことにする。戦闘の空気を探って。そして意思のぶつかり合いのようなものを感じた。

 

 ウェイブライダーの機首をそちらへと向ける。地球がぐんぐん近づいてきた。やはりそこでは戦闘が継続しているのか、ビームの瞬きが地球上に輝いていた。やがてハマーンの肉眼でも捉えられるところまで至った。

 

 ハマーンが彼らを有視界に収めたとき、ユニコーンとシナンジュは未だ戦闘を続けていた。正確にはユニコーンが執拗にシナンジュを追い続けている。既に地球の引力に引かれているのは確実。それどころか既に大気層に片足突っ込んでいるのか装甲表面が赤熱化し始めている。ハマーンはユニコーンとの間の通信が回復した瞬間に警告した。

 

「バナージ・リンクス。戻りなさい。地球の引力に引かれ始めている。そのままじゃ重力の底に堕ちるわよ!」

『あんただけは、堕とす!!』

 

 バナージはフル・フロンタルへの怒りに燃えていた。ハマーンの警告を聞いた様子はない。

 

 ———私がダグザ中佐を助けたことに気づいてない!? ユニコーンの位置からは見えてなかったか!

 

「聞いて! バナージ・リンクス! ダグザ中佐は無事よ!! 戦闘を中止して戻りなさい!!」

『バナージ君。聞こえているなら止めろ! このままではお互いに大気圏で燃え尽きることになるぞ!!』

 

 シナンジュからも呼びかけてるのかオープンチャンネルでフル・フロンタルの声も飛んできている。が、バナージはかえって怒りを煽られたのか唸り声を漏らすだけだ。

 

 ———ダメ。怒りで周りが全く見えてないし聞こえてない。こうなったら直接押さえるしか!

 

 既にウェイブライダーのスラスター出力は全開。ジリジリと距離を縮めながらもハマーンは焦燥に駆られ続けた。

 

 ユニコーンは上昇するどころかシナンジュへ、より地球へと踏み込んでいく。シナンジュとの間に巨大なデブリが堕ちてくる。これで無理矢理にでも戦闘中止かと思われたが。まるでバナージの怒りに呼応するかのように、ユニコーンのビームサーベルが長大化し、デブリを引き裂いた。

 

 ハマーンはあまりのユニコーンの出力に驚きつつもユニコーンに向けて一直線に加速を継続。ついにウェイブライダーも大気圏に突っ込んだのか、映像が赤く染まり始めた。けれどハマーンが舵を戻すことはない。ペダルも踏みきったままだった。

 

 デブリを切り裂くことでタイムロスを最小限に抑えはしたものの、シナンジュとユニコーンの距離は既に格闘戦を仕掛けられるものではなかった。バナージは即断して、背中にマウントしていたビームマグナムを構える。

 

 シナンジュを照準に捉え、そして。通常のビームライフル四発分にも匹敵するその火力を解き放った。火線はシナンジュへと迫り直撃する———その直前、射線上にギラ・ズールが一機割り込んだ。

 

 ビームマグナムの絶大な威力は、袖付きの量産機の胸部装甲をあっさりと穿った。核融合炉を直撃したのか巨大な爆発が発生する。

 

『ティクマ……家族を……頼む……!』

 

「うぅんッ……!」

 

 ギラ・ズールのパイロットが死に際に残した思念。よほど強い思いだったのか、それが戦場を駆け抜け、NTであるハマーンの脳裏にも直撃した。その衝撃に、やりきれなさにハマーンが呻く。搭乗していたのがサイコミュを搭載していない機体で幸運だったかもしれない。サイコミュに増幅された思念を受け取っていたら操縦が停滞していたかもしれない。

 

 そしてより近くで、しかもサイコフレームという人の意思を増幅する機構を組み込んだモビルスーツに乗っていたバナージは。思考をオーバーフローさせたのか、「ギルボア……さん」と呟いたきり、気を失った。

 

 ユニコーンは一切の制御を失い地球へと堕ちていく。それを追いかけながらハマーンも必死にバナージへ呼びかけるが返事がない。

 

 ———ダメ。完全にパイロットは意識を失ってる。こっちで何とかするしかないッ。

 

 不幸中の幸いと言うべきか、パイロットが意識を失ったことでユニコーンは動きを止め、自由落下していた。空気抵抗に遭い、減速を始めている。ハマーンはウェイブライダーを操り、ユニコーンの下へと潜り込んだ。

 

 ウェイブライダーにズシンとした揺れが起こる。どうやら無事ユニコーンを背に乗せることに成功したらしい。そのまま機首を起こしスラスターを噴かす。どうにか地球の重力を振り切ろうとして。

 

 ———高度112キロ……さすがにもう自力で這い上がれないか。ならどうにかこのまま大気圏を突破するしかない!

 

 幸いにして地球低軌道でのミッションとなることが分かっていた今回の作戦では安全性を鑑みてリゼルなどウェイブライダー形態を取れる可変モビルスーツには大気圏突入用のセッティングが施されていた。もちろんこのゼータプラスも。

 

 ハマーンはマニュアルを引き出し大気圏突入シークエンスを開始する。姿勢を制御して底面を地球に向ける。こうして機体が超音速で大気を切り裂く時に発生する衝撃波に乗るのだ。それこそウェイブライダーの名の通りに。

 

 こうすることで機体にエアブレーキをかけて減速しつつ、衝撃波を大気圏突入時の断熱圧縮により発生する超高温からの壁とすることができるのだが……

 

「ダメ、か……」

 

 コックピット内にアラートが鳴り響く。モニタには機体の各所で発生する警告が表示されていた。耐熱限界超過。機体への異常圧力。損傷発生。このままでは大気圏突破を前にゼータプラスは空中分解し燃え尽きてしまうことが予見された。

 

 ウェイブライダーには本来モビルスーツを一機乗せて大気圏を突破する能力がある。けれどさすがに全開加速で地球に突き刺さらんばかりの角度で突入するなんて運用方法は想定されていない。

 

 速度が速すぎる分だけ断熱圧縮により発生する熱も高くなり、そして大気との摩擦で発生する圧力も大きくなる。そしてそもそもダグザ救出のためにラプラスの外壁をウェイブライダーで突き破るなどという無茶をしたがために機体を損傷していたようだった。

 

 ハマーンの額に汗が滲む。エアコンも機体そのものの冷却機能も全開のはずだが、それでも外部からの熱がゼータプラスのコックピットを侵していた。ノーマルスーツを着ていなければそれこそ発汗すると言う程度では済まなかったかもしれない。それももうあとどれくらい持つかという話ではあるが。

 

 ハマーンを諦念が襲う。あとは精々が姿勢制御を続けるくらいだが、それでは足りないことが分かっている。あるいは自分だけ助かるためにユニコーンを見捨てるという方法もあるが、それでももう間に合わないだろうと思われた。もうやれることはない。

 

 ———本当に?

 

『敵味方に関わりなく、君はすでに大勢の運命に介在しているんだ。その責任は取る必要がある。やり遂げることだ』

 

 ———私はまだ何もやり遂げていやしない。まだ道半ばじゃないかッ!

 

 ハマーンはリニアシートから身を乗り出すと、全天周囲モニターのあちらこちらへ視線を走らせた。その目が、何かこの危機を脱するものがないかと探し回っている。デブリ、モビルスーツの破片、その他にもいろいろと落下していくものがある。そして。

 

 ハマーンは見つけた。機体下方に自分たちと同じく大気圏突破を図るものを。ジオングリーンの三角錐のような形状の船。ハマーンは知るよしもないが、それは袖付きの偽装貨物船ガランシェールだった。

 

「あれを盾にすれば……」

 

 そして見つけてしまえばもう迷いはない。姿勢制御用のバーニアを操り、大気の中を滑るように移動する。ガランシェールの影に入った。大気を押しのける役目はガランシェールが負ってくれる。

 

 同時にクッションにしていた衝撃波も消える。ゼータプラスをモビルスーツ形態に変え、ユニコーンを押さえながらその船体へと着地した。二機のモビルスーツの重みを受けた船体がズズッと沈み込む。けれど何とか持ちこたえ姿勢を安定させた。

 

 そのまま降下していく。10分足らずの間に中間圏を抜け成層圏を通り過ぎ対流圏へと至った。

 

「これが……地球……」

 

 大気圏突入の間は生き残ることに必死でその余裕がなかった。ガランシェールの上に乗り、大気の底に至ってようやくハマーンはそれを眺める余裕ができた。眼下に浮かぶ雲。その更に下には海と大地。ハマーンにとっては初めての母なる大地だった。

 

 ガランシェールが雲を割っていく。ふわふわの白い物体を突き抜けてみれば降下していくガランシェールと入れ替わる様に上昇していく鳥の群れと行き会った。それはなんとも幻想的な光景。ハマーンは思わず目を奪われていた。

 

 船はさらに降下する。これはいくらなんでも。

 

 ———降下しすぎじゃない?

 

 ガランシェールのすぐ下方には地面が迫っていた。広がる砂の大地。砂漠のようだった。そしてついに船体が砂の地面へと接触する。

 

 ———これ、不時着しようとしてたのッ!?

 

 イレギュラーで降下中にモビルスーツ二機分の重量を加えたガランシェールは真の意味で持ちこたえたわけではなかった。ギリギリのバランスを保って不時着しただけだったのだ。砂との摩擦で急ブレーキがかかる。それでも硬い大地に激突するよりはマシだっただろうけれど。船体を強烈な揺れが襲う。

 

 砂上を滑るガランシェールをボードにして何とか振り落とされないようにバランスを取る。もう少し早めに気づけていれば安全に飛び降りられていたかもしれないが機を逸していた。そのまま波乗りは続き、そして目の前には砂丘が迫っていた。

 

 勢いよく砂丘に突き刺さるガランシェール。その上にいたゼータプラスとユニコーンの二機も同じく砂丘へと叩きつけられたのだった。

 




■NGシーン

ハマーン「ダメ、か……」

ハマーンの額に汗が滲む。エアコンも機体そのものの冷却機能も全開のはずだが、それでも外部からの熱がゼータプラスのコックピットを侵していた。

バナージ「女の汗は甘い…」
ハマーン「キモっ」(ロールしてユニコーンを振り落とす)
バナージ「アツゥイ!」
ハマーン「あ……」

燃え尽きるユニコーンを見てハマーンは目を逸らしつつスラスターを全開。地球の重力を振り切るのだった。

ハマーン「しゃーない。不幸な事故やった」
ミネバ「バナージぃぃぃ!」

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