時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC   作:ざんじばる

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バナージ「近くのオアシス町までZ+でひとっ飛び♪」
核融合炉の妖精「ぬるま湯になんかつかってんじゃねぇよッお前ェ!」
バナージ「えええ……」
核融合炉の妖精「諦めんなよ!諦めんなよ、お前!!どうしてそこでやめるんだ、そこで!!もう少し頑張ってみろよ!ダメダメダメ!諦めたら!周りのこと思えよ、応援してる人たちのこと思ってみろって!あともうちょっとのところなんだから!俺だってこの1億2000万度のところ、エネルギーがトゥルルって頑張ってんだよ!ずっとやってみろ!必ず目標を達成できる!だからこそNever Give Up!!」

ということでZ+は故障。原作通り砂漠を行くことになりました。
核融合炉の妖精のお導きだからね。仕方ないね。


砂漠をゆく

「ハァ……ッ……ハァッ…………ハァ……ハッ」

 

 夜の砂漠を三人の人影が進む。吐息の主はその中の一人。彼らの中でもひときわ華奢な体躯の持ち主だった。ターバン代わりに巻き付けた布の隙間からはワインのように鮮やかな紅色の髪の毛がのぞく。ガランシェールに拘束された少女、ハマーンだった。

 

 四日分の水を詰めこんだバックパックがほっそりとした肩にのしかかっている。柔らかな砂地は足を取り、ただ歩くだけで体力を消耗させた。踏破しようとしている距離は約60キロ。行程にして丸四日。ハマーンのか細い体にはあまりに酷な道行きだった。

 

 それがなぜこんなところを歩いているのか。それは同行者二人にある。ガランシェール船長ジンネマンとユニコーンの操縦者バナージ。サハラ砂漠に不時着したガランシェールはその衝撃で衛星通信装置を損傷していた。連邦の勢力圏である地球の、それも砂漠のど真ん中で友軍に連絡も取れず孤立してしまっていたのだ。

 

 事態を打開するためには近くの町まで出向いて、今も地球に潜むジオン残党と連絡を取る必要があった。モビルスーツが動かせれば話は早かったのだが、ガランシェールは砂に埋まってしまい、中のギラ・ズールたちを動かせず。ユニコーンはバナージにしか動かせず、そのバナージは放心して無気力状態。残る一機、ゼータプラスも元々宇宙用のセッティングが施されていたため、大気圏内運用のための調整が必要な上に、これまでの戦闘や大気圏突入でかなりガタが来ており、本格的な整備なしには動かせない状態だった。

 

 そのためジンネマンは徒歩で砂漠を抜けることを画策した。そのついでにバナージを連れ出して活を入れ直してやるとでも考えていたのだろう。そこにハマーンも同行を申し出たのだ。ミネバよりバナージを守るように命を受けたものとして。

 

 フロストらガランシェールのクルーたちは皆反対した。ハマーンのような如何にもか弱そうな少女にとって砂漠の横断という命がけの大仕事はあまりに酷過ぎると。けれどハマーンがそれを受け入れることはなく、そしてジンネマンもそこにどういう思惑があったのか了承した。

 

 だから今、こうして歩いている。夜の砂漠は昼から一転気温が落ち底冷えしている。そんな中でも重労働に汗が滲むが、あまりにも乾燥した空気に汗をかく端から蒸発していった。三人とも黙々と歩く。ハマーンは最後尾だ。

 

 そんな中、前を行くバナージの影が揺れた。波打つ砂地の頂点で後ろに傾いだかと思えばそのまま倒れて滑り落ちてきた。そこにジンネマンが踵を返しに助け起こしに行く。ハマーンも追いついた。

 

「馬鹿が。喉が渇いて無くても定期的に水を飲めと教えただろう」

「置いていってください」

「頑張れとでも言って欲しいのか?」

「だから放っておいてください。もう嫌なんです。何かに関わったり利用されたりするのも!」

 

 手を伸ばすジンネマンを拒み、背を向けるバナージ。それを叱りつけるジンネマン。

 

「そうはいかん。お嬢ちゃんが文句も言わず歩いているってのにお前はなんだ?……それにお前はパイロットだろう。被害者根性でふてくされるのは止めろ。堕とされたギルボアも浮かばれん」

「殺したかったわけじゃない! ダグザさんが殺されたと思って! 頭の中が真っ白になって!! それが許せないって思うならいっそひと思いに!!」

「嘘だな。お前の目はそんなこと納得しちゃいない。自分の生き死には自分で決めるってヤツの目だ。なら死ぬまでやせ我慢して見せろ。男の一生は死ぬまで戦いだ」

 

 そう言ってバナージの手に水筒を握らせ、また歩き出すジンネマン。バナージはその背を見送って、跪いたまま絶叫した。

 

「やりました……やったんですよ! 必死に!! その結果がこれなんですよ!! モビルスーツに乗って、殺し合いをして……今はこうして砂漠を歩いてるッ。これ以上何をどうしろって言うんです!? 何と戦えって言うんですかッ!?」

 

 心の底から搾り出すように吼え、そして苛立ちをぶつけるように砂を掴んで離れ行くジンネマンの背中へ投げかけた。その砂は当然相手まで届くわけもなく勢いを失って地に落ちた。まるでやり場のないバナージの怒りを表すように。

 

 そんな葛藤に抗う少年の姿をハマーンはただ見詰めていた。そしてポツリと呟く。

 

「誰かが……何かと戦え、殺せと命じたらお前はそれに従えるのか?」

「君は……いったい……何を言って……?」

 

 初めて自分から言葉を発したハマーンに驚くバナージ。ハマーンはなおも続けた。

 

「お前は低軌道上での戦いで抗っていた。ダグザ中佐の敵を堕とせという命令に。中佐の命令は合理的だった。お前自身の命を守る上でも、だ。けれど結局お前は自分の考えのもと戦った。そんなお前が今度は誰かの命令に従えると言うのか?」

「……それは」

「なら何と戦うのか……何のために戦うのかはお前自身が考えて決めるしかないんだろうさ」

「…………」

「……私なら……そんな拷問みたいな真似、願い下げだがな」

「あ……待ってッ」

 

 言うだけ言ってハマーンは歩みを再開した。バナージが慌てて起き上がりその背中を追いかけるが一顧だにしない。

 

 そう。最後の一言は紛れもなくハマーンの本心だった。考えてみれば戦いはいつでも向こうからやってきた。彼女が12歳になろうかというときには既に戦争は始まっていた。そして否応なく彼女も戦争に巻き込まれる。その一年後には家族とともに敗残の列に並んでいた。そうして難を逃れた先のアストロイドベルトでは憧れの人物から指導者へと推挙され、幼くして戦いの先頭へ立つことになった。けれど担ぎ上げられただけのことだ。

 

 戦うことの意味や、戦う相手を自分で考えたことなどない。ハマーンにとって争いとは常に押しつけられるもので、その相手も最初から決められていた。それを自分で決める?

 

 ———冗談ではない。そんな恐ろしいこと。

 

 だからこそハマーンは今もミネバから与えられた命令に従い、縋っている。けれど目の前の少年は、押しつけられる戦いに「それでも」と抗い、自分で考え、自分がやるべきこと探している。

 

 尊敬などではない。けれどなぜなのだろうか。弱音を晒す少年に助言めいたことを口にしてしまったのは。そのことを自問自答しながらハマーンは歩き続けるのだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 北米。非人道的実験で悪名高きオーガスタNT研究所跡地。そこにビスト一族の要人二人がいた。ネオ・ジオンの強化人間マリーダ・クルスを運びこんだアルベルト・ビストと地球で合流したマーサ・ビスト・カーバインだ。

 

「アルベルト。この報告書にあるミネバ・ザビの護衛の少女というのは?」

「え? ええ……キュベレイに乗ってインダストリアル7に現れた少女です。何かの冗談でしょうかハマーンと名乗っていましたが——」

「なぜこれをもっと早く報告しなかったの!」

 

 あたふたと失態を誤魔化すように報告するアルベルトをマーサは一喝した。アルベルトはビクリと肩を跳ねさせた後、ボソボソと言い訳を続けた。

 

「ひィッ!? す、すいません……特に聞かれもしなかったものですから……」

「言い訳は結構! まったく少しは自分でものを考えなさいな。明らかに重要事項でしょうに……それでこの少女は今もネェル・アーガマに?」

「いえ。おそらくユニコーンとともに地球に降りたものと思われます。シャトルから彼女が搭乗しているはずの機体がユニコーンを乗せて大気圏を突破するのを確認していますので……今も無事かは不明ですが」

「そう……なら今からでも何とか手に入れることも可能かしら……」

 

 マーサはもうアルベルトから興味を失い、彼女自身の思索に耽っていた。

 

「彼女を上手く使えばプル・トゥエルブどころかミネバ・ザビよりもよほど……この男の論理が支配する世界を女の世界に……」

 

 そう呟く彼女の手に握られた端末に映し出される報告書にはワインレッドの髪を持つ少女の姿があった。かつて僅かな期間ながら世界をその手にした女帝と似通った容姿を持つ少女が。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 月明かりに照らされてできた岩場の影で焚き火がはぜる。その焚き火を囲むように三人が座っていた。既に旅程も3日目。明日の町到着に向けた最後の休憩だった。焚き火の上にかけた鍋で暖めたスープをカップに注ぎジンネマンが無言で二人に手渡す。

 

 スープを一口啜ったバナージは天を仰ぎ涙を零した。それを見てジンネマンが口を開く。

 

「なんで泣く?」

「あんまり綺麗で……」

 

 天にはいくつもの星が瞬いていた。それはきっと誤魔化しにすぎなかったけれど、それが話のきっかけとなった。ジンネマンも天を見上げて続く。

 

「地球が汚染されてるなんて話が嘘に思えてくるな……だが、ここいらの空も昔より汚れている。砂漠ももうダカールの喉元まで迫っているらしい。全て人間がやったことだ。乱開発にコロニー落としや隕石落とし……」

 

 ———その中の一つが私が落としたというコロニー……か。

 

 未来の自分はいったい何を思い、コロニーを落とすなどという大罪に手を染めたのだろうか。今のハマーンには想像もつかないことだった。未来の、既に死んでいるという自分に思いをはせながらハマーンはただ二人の会話を聞いていた。

 

「人が自然から生まれた生き物なら人が出すゴミや毒も自然の産物って事になる。このまま人間が住めなくなったとしてもそれはそれで自然がバランスをとったってことなんだろう。自然に慈悲なんてものはない。昔の人間はそれを知っていた。他ならぬ自然の産物の本能としてな」

「だから生きるために文明を作り、社会を作って身を守った」

「ああ。だがそいつが複雑になりすぎていつの間にか人はそのシステムを維持するために生きなきゃならなくなった。あげく生きることを難しくしちまって、その本末転倒から脱するために宇宙に新天地を求めた。そこでまた別のシステムってヤツが出来上がった。宇宙に棄てられたもの、スペースノイドに希望を与え、生きる指針を示すための必然。それがジオンだ」

 

 ———スペースノイドがよりよく生きるための指針。そんな風に私はジオンを、ジオニズムを捉えていただろうか? 私が物心ついたときにはそこにあり、誰もがその名の下に闘争へと駆り立てられていた。単に私たちと連邦を分けるためのキーワードに成りはてていたのでは——だから未来の私は地球にコロニーを落としてしまえたのだろうか。

 

「地球に残った古い体制はそいつを否定した。出自が違うシステム同士が相容れることはないからな。どちらかがどちらかを屈服させようとするだけだ」

「でも……連邦という統一政府があって、宇宙に100億の人が住んでいる世界なんてきっと昔は夢物語でしたよね……そういう可能性も人にはあるんじゃないですか。二つの考え方がいつか一つになることだって」

 

 夢物語だっていつかは実現できる。それが人の可能性。そういう見方も出来るだろう。けれど。

 

「みんなが平等に束ねられたわけじゃない。弾かれて潰された連中の怨念は今でもこの地球にへばりついている」

「……悲しいことです。それは———」

「そんな一言で片付けないでッ!」

 

 二人の会話を悲鳴のような叫びが遮った。驚いたようにそちらを見遣るバナージとジンネマン。

 

「あの太陽の光も満足に届かない寒々としたアステロイドベルトに私たちがいったいどんな気持ちで何年もいたと——ッ!」

 

 そこには紫水晶の瞳に大粒の涙を浮かべバナージを睨み付けるハマーンがいた。バナージはそのことに狼狽した。これまでの彼女は常に冷静で、今のように頬を紅潮させて感情を露わにするようなところは初めて見たから。

 

 どうすれば良いのか分からないバナージを庇うようにジンネマンが動いた。

 

「落ち着け。お嬢ちゃん。バナージは別にスペースノイドの境遇を軽んじて言ったわけじゃない。他に言葉にしようがなかっただけだ。そうだろう?」

 

 そう言ってその太い腕を伸ばし、けれどそれとは裏腹に繊細な手つきでハマーンの頭を撫でた。爆発してしまった感情を落ち着かせるようにゆっくりと何度も。意外なことにハマーンも黙って受け入れていた。撫で下ろす手に合わせて視線を落とし俯いた。重力に従って涙がポツリポツリと滴り落ちる。華奢な肩がふるふると震えていた。

 

「バナージの言うとおり悲しいことだ。悲しくなくするために生きてるはずなのになんでだろうな……」

 

 そう独りごちるジンネマンの言葉に今度はバナージの方が感極まってしまったのか、慌てて傍らに置いていた砂避けのマントを頭から被った。その下から啜り泣くような声が聞こえてくる。

 

「バナージ……」

「分かってますよ……男が人前でなくもんじゃないって言うんでしょうッ?」

「いや……」

 

 噛みつくように声を上げたバナージへジンネマンが漏らした言葉は否定の言葉だった。その意外さにマントの隙間からバナージはジンネマンの顔を窺う。そしてジンネマンが続けた言葉にまた涙することになった。

 

「人を思って流す涙は別だ。何があっても泣かないなんてヤツを俺は信用しない」

 

 泣き続ける少年少女二人を悼むようにジンネマンは天を見上げた。空には柔らかく輝く遠い銀河の星々だけ。彼ら三人を見下ろしているかのように瞬いていた。

 

 




一方その頃のミネバ様は。

ミネバ「(肉うめぇ……)」
老店主「奢りだ。飲みな。いい食いっぷりだ。若い娘さんにしては気取りがなくていい」
ミネバ「(珈琲うめぇ……)」
老店主「儂にはその珈琲を淹れてやるのが精一杯だ」

お食事中でした。

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