時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC   作:ざんじばる

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前話、かなり厳しい評価がつくかなぁと思いながら投稿しましたが、
思いの外みんなシャアに辛辣で草。

あと知り合いから、ユニコーン空気やんと指摘を受けたので今回からタイトルを変更しました。
もう一つの候補は、
「あの日見たハマーン様の年齢を僕達はまだ知らない。(略称『あのハマ』)」
だったのですが、やめろ馬鹿とのことでボツになりました。解せぬ。


いってきます

「それでゼータプラスは大気圏内用のセッティングへ変更されているのか?」

「ああ。元々これは大気圏内仕様のものを宇宙用に再設計した機体だからな。そう大変じゃなかったぜ。その他、整備状態ももう完璧だ」

 

 ガランシェール艦内モビルスーツデッキでは、ハマーンが機体の状態についてトムラから確認していた。答えが満足いくものだったのか、ハマーンは頷きながら聞いている。

 

「けど戦闘に参加する機会があるのか? キャプテンは待機だって言ってんだろ?」

「さてな。だが、可能性はあるのではないか? アイツ次第だがな」

 

 そう言いながらハマーンは船内へ続く扉の方を見た。先ほどバナージが飛び出していった扉を。

 

「まあバナージの気持ちは分からんではないけどなぁ」

「気分の良くない状況であることは同意する…………チッ」

 

 ハマーンはまたも襲い来た不快な頭痛に舌打ちした。非業の死を遂げた人間のいまわの際の思念。それが一気に通り過ぎていき、彼女を苛んだ。それは先ほどから断続的にやってきている。今、地表で多数の命が老若男女問わず消えていっていることを示していた。

 

 現在ガランシェールが飛んでいるのはトリントン基地上空。地上ではユニコーンを安全に降ろすためにジオン軍残党によるトリントン基地制圧作戦が行われていた。陽動を兼ねたトリントン湾岸基地への上陸作戦、そして本命のトリントン基地への空挺降下作戦。作戦そのものは順調に進んでいた。

 

 が、一つ想定外のことが起きた。ジオン残党軍が誇る最大戦力である巨大モビルアーマーシャンブロ。湾岸基地へ上陸、敵中突破してトリントン基地へ攻撃を仕掛けるはずのこの機体がどういうわけか両基地の間にある市街を蹂躙し始めたのだ。

 

 軍事的には完全に意味の無いこの行動。当然作戦に含まれていたものではない。パイロットの暴走だと思われた。この蛮行に我慢できなくなったバナージが先ほどブリッジへ駆けていった。ユニコーンの出撃を直訴するためだろう。その結果をハマーンは待っていた。どちらになっても対応できるように。そして。

 

「結論が出たようだな」

「おいおいバナージ……随分男前になっちゃってまあ」

 

 戻ってきたバナージの顔は腫れや青あざだらけになっていた。だいぶ熱心にOHANASHIしてきたらしい。一目散にユニコーンへ乗り込むと、トムラへ出撃すると通信越しに告げた。

 

 トムラは出撃準備を整えると共に、ブリッジへとユニコーン発進是非の確認をいれた。フロストからは好きにさせてやれとのこと。ジンネマンはふんと鼻を鳴らしただけだ。事実上のGOサインだった。

 

『キャプテン。ガランシェールのみなさん。お世話になりました。バナージ・リンクス。ユニコーンガンダム。行きますッ!』

 

 ユニコーンとバナージは戦場へと飛び立っていった。

 

「ではな。世話になった」

 

 そうなればハマーンの行動も決まってくる。トムラへ礼を述べるとゼータプラスに向けて歩き出した。トムラもその背中に声をかける。

 

「下はとんでもない鉄火場だ。気をつけろよ」

「心得ている。ミネバ様の命だ。ユニコーンとそのパイロットはなんとして守るさ」

「そうじゃない……いや、バナージのこともそうだが。あんたもだ。死ぬなよ」

 

 トムラのその一言にハマーンは驚いたように目を瞠った。

 

「あんたみたいな美少女が死ぬのは世界にとって大きすぎる損失だからな。頼むぜ?」

 

 真剣な表情を茶目っ気で崩してトムラはそう言った。似合わないウインクまで送ってくる。ハマーンはしばし無言で、けれどふっと笑むと手を振ってコックピットへ乗り込んだ。ガランシェールから自力で飛び出すと、ウェイブライダーに変形してユニコーンを追うのだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ユニコーンとゼータプラス、飛び立つ二機を見送ったガランシェールのブリッジ。

 

「大丈夫ですかね。キャプテン?」

「ああ? 俺が知るか」

「いや、バナージのことじゃなくて、あの娘っ子のことですよ」

「ああ、嬢ちゃんか」

「あの仮面野郎との会談の時の様子、尋常じゃなかったですぜ」

 

 フロストの言葉にジンネマンは先日の会談を思い出した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ハマーンがブリッジを飛び出していった後。

 

「大佐……」

 

 まだほんの少女に過ぎない娘を追い込んだ男に白々とした視線を向けるジンネマン。

 

『そんな目で見てくれるな。キャプテン。私も悪かったと思っている。まさかあのような劇的な反応をされるとはな』

 

 これにはさすがの仮面の男も素直に非を認めざるを得なかった。が、そこで引っかかることに気づいた。気づいてしまった。

 

『しかし……そもそもなぜあの少女はシャア・アズナブルを慕っていた? 穏健派が用意したクローンであればむしろ嫌うよう仕向けそうなものだが……あるいは穏健派ではなく、強硬派が用意した存在なのか? …………それにしてもあの反応は……オリジナルとシャア・アズナブルが険悪な関係であることにショックを受けたようだった……オリジナルとシャア・アズナブルが過去に親しい関係であることを知っていた? つまりシャア・アズナブルがアクシズにいた頃から彼女は存在したということか……いや、それだけでは彼女があそこまでショックを受ける理由としては弱い』

 

 フル・フロンタルは急速に情報を整理し始める。

 

『彼女はシャア・アズナブルを慕っていて、それはおそらくアステロイドベルトにいた頃からのもので、シャア・アズナブルとオリジナルの対立を我がことのように恐れる。それはどんな存在だ……?』

 

 その問いは思わず漏れただけの自問だったのだろう。そしてやがて。

 

『オリジナルのことは我がこと…………そしてクリプス戦役時の対立を知らない……つまりU.C.0088以降のことを知らない……まさか?』

「大佐?」

 

 何かに行き当たった様子のフル・フロンタルに声をかけるジンネマン。それに仮面の男は自分の考えを整理しながら応えた。

 

『キャプテン……実に突飛もない考えなのだが、狂ったと思わずに聞いて欲しい』

「はぁ。なんでしょうか?」

『彼女があれだけショックを受けたのは全て我がことだから、だとしたらどうだろうか?』

「は……?」

『つまり彼女はクローンでも何でも無くハマーン・カーンその人だという仮説だ』

「はあ!? なにを仰ってるので!?」

『だから突飛もない考えだと言っただろう。だが……彼女が見た目通り17・18なのだとしたら、今から11年以上前。アクシズはまだ地球圏に帰還していない頃だ。当然クリプス戦役以降のシャア・アズナブルとハマーン・カーンの確執など知るはずもない。勿論オリジナルは強化処理も受けていない。もっと言えばキュベレイは最新鋭機、アップチューンのしようなど無いだろう』

「大佐は彼女が過去からやってきたハマーン・カーン本人だと言うんですか?」

『そうだとしたら全て辻褄が合うということだ、キャプテン。その前提条件の非現実性には目を瞑ってな』

 

 あまりに馬鹿げた話だ。ジンネマンは目を瞑って唸った。そう言われてみると彼女の発言にもそういった示唆を含むものがあった。

 

(それで……あんたの所属は?)

(アクシズだ)

(……ふざけているのか?)

(ごく真剣なのだがな……まあいい。ジオン共和国とでも理解しろ。あとは……そうだな。軍属ではない)

 

 確かに彼女は自分自身アクシズ所属だと名乗っている。冗談だと思われるだろうと考えてのことだろうが。そして軍属ではないのは摂政だったハマーン・カーンもだ。仮に彼女がハマーン・カーン自身なのであれば一切嘘をついていないことになる。それに。

 

(みんなが平等に束ねられたわけじゃない。弾かれて潰された連中の怨念は今でもこの地球にへばりついている)

(……悲しいことです。それは———)

(そんな一言で片付けないでッ! あの太陽の光も満足に届かない寒々としたアステロイドベルトに私たちがいったいどんな気持ちで何年もいたと———ッ!)

 

 砂漠でも彼女はアステロイドベルトでの生活の印象を実体験として語っている。そしてそこに何年もいたのだと。少なくともアクシズが地球圏へ出発する数年前から記憶を持っているということだ。

 

『まああくまで推測だが。しかし実にドラマチックなストーリーだと思わんかね、キャプテン。未来の自分も、思い人も既に亡い世界へ少女がただ一人やってきて大きな争いの中心に巻き込まれるのだ。おまけに未来の自分は大罪人になっていて、思い人と憎しみあっていたのだぞ』

 

 大作娯楽を語るかのように、実に楽しそうに少女の悲惨であろう身の上をあれやこれや推測する仮面の男を、ジンネマンは本気で嫌悪した。そして、自分が彼女について知ったことも、これから知ることも一言だって話すまいと決めた。

 

『あの少女はハマーン・カーンの遺産を見てどのような顔をするのか。この目で見られないのが実に残念だな』

 

 悪意と愉悦が大いに含まれたその一言でその日の会談は仕舞いとなった。その後ジンネマンは手元の船長用端末で船内各所の様子を見て回る。そしてハマーンを見つけた。船室内のカメラを通して映し出されたのは。端末の前で頽れた彼女の姿だった。

 

 端末にはとある映像が映し出されていた。ネオ・ジオン総帥を名乗った男が拳を突き上げていた。あの男が語ったことはジンネマンもよく覚えている。なぜなら自分もあの場にいたのだから。周囲の連中と同じく、あの男を歓迎して唱和していた当時の自分をぶん殴ってやりたくなった。

 

 ハマーンのいる部屋へ通信を繋ぐ。あえて音声だけ。映像は送受信ともにカットだ。その方がいいだろうと判断して。そして彼女へと呼びかけた。

 

「ああッ……んー……お嬢ちゃん。連日の砂漠の横断に補給の手伝い。よくやってくれた」

 

 向こうからの応答はない。構わず続けた。

 

「疲れただろう? お嬢ちゃんの頑張りのおかげで水も十分積み込めた。でだ。今日からシャワーが復旧したんだ。さっそく浴びてくるといい。疲れも辛いことも全部洗い流しちまいな」

 

 まだ相変わらず反応無し。ジンネマンの手持ちのカードも尽きた。どうしたものかと頭をしきりに捻りながらもなんとか続ける。

 

「捕虜の身だとて遠慮はいらんぞ? あー……ガランシェールは汚い男所帯だからな。掃き溜めに鶴ってなもんで、お嬢ちゃんがいるおかげでどいつもこいつも張り切りやがった。そこにさらに身ぎれいにして魅力マシマシでお嬢ちゃんが出てきて見ろ。さらに士気アップ間違い無しだ」

『……ぷッ』

 

 不器用なジンネマンの励ましにこらえられなくなったのか、通信先から噴き出す音が漏れ聞こえた。そして。

 

『了解だ、キャプテン。ハマーン、これから士気向上のための任務に入る』

「お、おうッ。気合い入れてな」

 

 ハマーンは立ち上がると部屋を出て、案内図を頼りにシャワールームへと向かうのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ありゃあ、とても戦闘できるような状態じゃないんじゃ」

「さて……どうかな。そうでもないかもしれんぞ」

「へ……? そりゃあどういう意味で———」

 

 フロストが聞き返したその時、ガランシェールのブリッジに通信が入った。つい先ほど飛び立ったゼータプラスからだ。まだミノフスキ-粒子の影響が出ない高度にいるらしい。

 

『世話になったな。キャプテン』

「ああ? 戦闘前にわざわざ礼か? そんなこと一々子供が気にするな」

『ふふ。私をそんなふうに子供扱いする相手なんていないぞ』

 

 モニター映るハマーンは苦笑ではあったけれど、その顔にガランシェールに来て初めて素直な笑顔を浮かべていた。無表情でも、泣き顔でも、支配者然と作った冷笑でもなく。

 

「ふん。そんなこと俺が知るか。子供は子供だ」

『……そうか』

「お嬢ちゃん、良ければこの戦闘が終わったらガランシェールに戻ってこないか。そのモビルスーツなら飛んで追いつけるだろう? 俺を殴るような生意気坊主はいらんが、お嬢ちゃんなら歓迎するぞ」

『……ありがたい誘いだが、遠慮しよう。私はユニコーンを守らねばならん』

「姫様の命か……お嬢ちゃん、子供はもっと自由に生きていいんだぞ。本当はこの世界にお嬢ちゃんを縛るものなんてないんだ」

『キャプテン。そなたに感謝を。だが大丈夫だ。始まりは命令だったとしても、これは私がやってきたことだから。やり遂げたいんだ』

「そうか。ならもうなにも言わん。思いっきりやってこい! そんでいつでも帰ってこい!!」

『…………行ってきます』

 

 そう呟いたハマーンの口元は微かに、けれど確かに弧を描いていた。そしてそれを最後に通信は途絶えた。ブリッジが静まる。そして。

 

「キャプテン、どういうことですかい!?」

「な、何がだ……?」

 

 次に口を開いたのはフロスト。それはジンネマンを指弾するものだった。ジンネマンは何とか有耶無耶にしようとするが、フロストの感情はブリッジクルーへ伝播していく。

 

「ハマーンちゃんのことに決まってるでしょう! なんすかあれ! あんたいつの間に!」

「うるせぇ! 今は戦闘中だぞ! よそ見してんじゃねぇ!!」

「それどころじゃないでしょう! 畜生! いつもいつもキャプテンばっかり! 俺だってあんな娘っ子から『行ってきます』って言われてぇ!」

「キャプテンは人でなしだ! 一人こっそりハマーンちゃんと交流してたんだ!!」

「マリーダに言いつけようぜ! キャプテンがマリーダの居ぬ間にパパ活してたって!」

「てめぇ! フロストぉ!!」

「そうだな! こうなりゃ、意地でもマリーダを救出するぞ!!」

「「うぉぉ!!」」

 

 シャンブロとユニコーンの激突を前に、ガランシェールの士気は最高潮。クルー一同心を一つにするのだった。とある一人をのぞいて。




一方その頃…

キュピーンッ。
マリーダ「マスター……(イラッ)」ぼぐッ(腹パン)
アルベルト「ごえッ!? ぷ、プル12……?」
マリーダ「……(イライラ)」ぼぐッ! ぼぐッ!(腹パン×2)
アルベルト「ごばッ!? おげぇッ!?」
黒獅子「(いいからはよ乗れや)」

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