時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC   作:ざんじばる

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この後のブライトさんとの話が長くなってきたので、とりあえず分割で投稿します。


流転

 機体を急上昇させながらハマーンはビームライフルを直上へ照準した。対する黒いユニコーンも右腕をこちらへ向けている。どうやら右腕と一体化した射撃兵器らしい。互いにほぼ同時に射撃。黒いユニコーンは左腕のナックル状の武装でメガ粒子を打ち払った。強固なビームコーティングが施されているらしい。

 

 一方のハマーンは機体をずらして相手の躱し———慌ててバックブーストを駆けて機体を引いた。

 

「チィッ!?」

 

 躱したはずのメガ粒子が追いかけてきたのだ。一発の威力はユニコーンのビームマグナムの方が上だが照射時間が異常に長い。それをあの黒いユニコーンは振り回してきたのだ。咄嗟の殺気に反応したことで何とか躱せたものの想像以上に厄介な武装だ。

 

「ビームライフルというよりもとてつもなく長いビームサーベルと考えるべきかしら……」

 

 ビームライフル及び大腿部ビームカノンで牽制射を放ちつつ着地する。黒いユニコーンもAMBAC機動で躱し、左腕で払いのけながら大地に降り立った。すぐさま右腕を向けてくる。ハマーンは後退しながら射撃を続けた。

 

 黒いユニコーンの放つメガ粒子が一歩遅れで追ってくる。背後に鎮座していたシャンブロの残骸があっさりと切断されていく。恐るべきメガ粒子の収束率だ。あの攻撃が直撃した時にはゼータプラスの装甲などあっさり切り裂かれるだろう。

 

 だがハマーンは冷静に相手の殺気を読み、最小限の動きで回避を続けていた。その中で敵パイロットの正体に気づいてた。

 

「相手はエルピー・プルね。なぜ地球にいて、それも黒いユニコーンになんか乗っているのか全く分からないけど面倒な」

 

 その組み合わせは考え得る限り最悪のものだった。どうやら機体の制御系に全面的にサイコミュを採用しているらしいユニコーンたちはとんでもない超反応で機動する。普通の人間では強力すぎるGにあっという間に活動限界に陥るだろうが相手は強化人間だ。その限界値はハマーンなど常人より遙かに高い。

 

 今は射撃戦に終始しているから半ば予知染みた操縦でもってその差を埋めて五分に持ち込んでいるが、これが格闘戦に持ち込まれたら———

 

 相手も同じ事を考えたのか、射撃を中断すると一直線に突貫してきた。押し留めようとハマーンが放った射撃を前進を止めないまま左腕で打ち払って。そのまま左手を打ち付けてくる。いつの間にか左腕の装甲が開きクローのような形状になっていた。

 

 その手をビームサーベルで迎え撃とうとして、けれど刀身が僅かな抵抗の後に吹き散らされる。そのままゼータプラスへと魔手が迫り、ハマーンは咄嗟に機体を沈めて回避した。

 

「超振動兵器!?」

 

 目の前を通過したその腕を見てハマーンは正体を悟った。その左手がぶれて見える。目にもとまらぬ速度で振動しているのだ。先のビームサーベルとの交錯では刀身を形成させるためのIフィールドが吹き散らされたのだろう。だからビームサーベルの刀身が霧散してしまったのだ。

 

 ハマーンは黒いユニコーンのボディを蹴って距離を開けようとする。が、それ以上のスピードで相手は追いすがってきた。左の毒手を身を捻って回避。直後両者のボディが激突した。

 

 衝撃にシェイクされるハマーンの体をエアバッグが受け止めた。即座に操縦に復帰する。

 

「やっぱりパワーも機動性も違いすぎる。格闘戦は不利ね」

 

 ステップを刻んで左の拳を躱す。次の瞬間前に出て体を入れ替えた。相手が反転する前にウェイブライダーに変形し、一気に距離を取る。入れ違いにメガ粒子が飛来した。黒いユニコーンへの牽制だ。撃ったのはリディのデルタプラス。黒いユニコーンは足を止めて後退した。

 

『お前! この黒いユニコーンは何だ!?』

「知るか! 貴様らのところの援軍じゃないのか!?」

 

 リディが怒鳴り、それにハマーンも怒鳴り返す。リディの攻撃に反応するかのように彼にも盛大な攻撃が黒いユニコーンから降り注いでいた。ウェイブライダーからモビルスーツ形態へと戻し、ハマーンも再び攻撃を行う。打ち合わせも無しだが自然と互いに黒いユニコーンへと十字砲火を浴びせられるようなポジション取りをしていた。これにはさすがに黒いユニコーンも堪らず戦闘は膠着した。

 

 そこに。

 

『そこまでだ! 全機戦闘を中断し武器を棄てろ! さもなくば一斉攻撃を開始する!!』

 

 戦場へ重みのある男の声が響き渡った。そちらを見れば10機を遙かに超えるモビルスーツの群れが火砲をハマーンたちへ向けている。さらにその奥、遙か遠くには白亜の戦艦が浮遊していた。さすがに本気で放つ気はないだろうがその主砲が戦場を照準してした。

 

 彼らの接近には当然気づいていたハマーンも黒いユニコーンを相手にしながらではどうすることもできなかった。幸い黒いユニコーンも動きを止めた。バナージを促し武装解除に応じるのだった。

 

 

 

 ライフルやサーベルを棄て、黒いジェガンのようなモビルスーツの先導に従って白亜の戦艦——ラー・カイラムの格納庫へと入る。ユニコーンやリディのデルタプラス、それに黒いユニコーンも同じだ。

 

 整備員の指示でハンガーへとゼータプラスを固定した。メインカメラを通してハマーンは格納庫内を観察する。先に降りたリディはなにやら太った男へ食ってかかっていた。そこへ黒いユニコーンを降りたエルピー・プルが背後から掴みかかって投げ飛ばした。

 

 そこでハマーンにもモビルスーツを降りるよう指示が出た。大人しく従って降りる。足下では黒いジェガンのパイロットが待ち構えていた。特にこちらへ敵意のようなものは感じられない。シャンブロと戦い街を守ったことを知っているからだろうか。気安く声をかけてきた。

 

「いい腕だ」

「エスコートご苦労」

 

 ヘルメットのバイザーを開けてその男へ頷くハマーン。鈴を転がすような少女の声が似つかわしくない軍艦の格納庫に響いた。バイザーの下から現れた顔が意外だったのか男は驚いたような表情をしていた。

 

 その時強烈な敵意がハマーンを襲った。そちらへ急ぎ振り返れば黒いノーマルスーツに亜麻色の髪の女。憎悪に顔を歪めたエルピー・プルが駆け寄ってきていた。驚異的な身体能力。もはや目の前だ。

 

「ハマーンは敵ぃぃッ!!」

「貴様ッ!?」

 

 ハマーンの華奢な肩をとんでもない力で掴まれる。そして次の瞬間。ハマーンの感覚から重力が失われ、体が宙を泳いだ。そのまま硬い床へと叩きつけられる。

 

「あぐッ!?」

 

 反射的に悲鳴が漏れ。

 

「お前なにしてる!?」

「マリーダさんッ!?」

「止せ! プルトゥエルブ!!」

 

 様々な声ともみ合うような音がハマーンの耳に届くが、まともに認識することなく意識が闇へと落ちていった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

『あらゆる干渉を拒絶してシステムは完全に沈黙しています』

「はぁ。それで?」

『おそらくバナージ・リンクスがブロックを掛けたのではないかと。彼の認証がなければラプラスプログラムが新たに開示した情報を得ることは出来ません』

 

 大空を行く超大型輸送機ガルダの船内。その一室でマーサはラー・カイラムのアルベルトと通信を行っていた。せっかく押さえたユニコーンはパイロットの意思でだんまりを決め込んでいるらしい。これはミネバに説得させることにする。それよりもだ。

 

「それで。あの少女の身柄も押さえたのね? 何か話は聞けて?」

『いえ……それが……』

「どうしたの? はっきり仰い」

『あ、いえ! 確保はしたのですが、モビルスーツから下ろした直後にプルトゥエルブが突然襲いかかりまして』

「まあ」

『というわけで少女が気を失ってしまいまして……なにも聞けておりません』

「そう。まあいいわ。早くその少女を連れてらっしゃい」

『はい。承知しました。後ほどシャトルで上がります』

 

 そうして通信を打ち切ったマーサはミネバの部屋を訪れた。共闘を要請するために。ユニコーンとバナージを手中にしたことを説明し、バナージの説得を依頼した。ラプラスの箱の封印を望むという点で一致できると言って。

 

 

 

 けれど二人の交渉は決裂した。ワイングラスが砕ける音が響く。怒りにまかせてマーサが投げつけたものだった。とっさにミネバは躱したが。カーペットに血のように赤い液体が広がっていく。

 

「でもそのプライドの高さが人を殺すこともある。おわかり? あなたはたったいま、あなたを慕うジオンの残党から未来を奪ったのよ。ビスト財団と共生するという未来をね」

 

 そこまで言ってからマーサは怒りを呑み込むため大きく息を吐いた。そして。

 

「結構。そうまで仰るのでしたらもう申しませんわ。代わりのものも手にしたことですし」

 

 嘲るような視線をミネバへ注ぐ。その余裕を訝しんだミネバは聞いた。

 

「代わり? どういうことです」

「あなたには関係ないことですが……そうですね。少しだけ教えて差し上げましょう。私たちは地上であるものを手に入れましたの。そう。そのワインのように美しい髪色をした、少女をね。もう間もなく届く予定ですのよ」

 

 マーサの視線の先には、先ほど器が砕けたことで床に流れ出した赤い葡萄酒。その色にミネバの脳裏に電流が走る。

 

「まさかッ!?」

「ふふ。だからあなたはもう不要なのです。所詮あなたは血筋で祭り上げられただけの紛い物。一度は鮮やかに世界を制して見せた、かの女帝の器量とは較べようもない」

「あなたは! あの娘をそのくだらない妄想に利用する気ですかッ!!」

「自分のことを棚に上げてよく言いますわね。殿下。あなたこそ自分のいいようにあの少女を使い回しているんでしょうに」

「……ッ!」

「否定できませんか。でしょうね。ふふ。彼女の力ならこの男の論理が支配する世界を変えることも……」

 

 唇を噛むミネバを鼻で笑った上でもう興味を失ったのか、マーサは部屋から出て行った。一人取り残されたミネバは。

 

「ハマーン……」

 

 窓に写る自分の姿を厳しい目で見据えながら小さく呟いた。

 

 




■その後のミネバ様

(ロールパン切り切り…レタス挟み挟み…潰したポテトをソース代わりに…メインはローストビーフをどーん)
ミネバ「ミネバ流ホットドッグ! お上がりよ! うめぇ!!(実食) お粗末!」

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