時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC   作:ざんじばる

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書いてるうちにあれも話させたいこれも話させたいと雪だるま式膨らんだブライトさんとのシーンがこちら


英雄との語らい

 

 ラー・カイラム艦内。艦長のブライト・ノアはその部屋を後にした。中ではユニコーンのパイロットと少々話をしていた。見込みのありそうな少年に、有用な情報。成果は上々と言えるだろう。満足げなブライトを副長のメランが外で待ち構えていた。すぐにブライトへ耳打ちしてくる。

 

「例の少女が目覚めたそうです」

「そうか。すぐにでも話せるか?」

「財団の連中がかなり渋りましたが説き伏せました」

「ふむ。ユニコーンのパイロットへの面会にはスルーだったのにか」

「よほど財団の連中は重要視しているようです」

「あのトリントンで見せた操縦技術だけでもただものではないが……」

 

 結局話してみないと結論はでないかと、ブライトは早々に詮索を打ち切った。少女がいる医務室へと足を進める。門番のごとく医務室の前に立っていたビスト財団の黒服たちを押しのけ、「失礼する」と一声掛けてから部屋に入った。メランは聞き耳を立てられるのを防ぐため扉の前で仁王立ちだ。

 

 医務室へと踏み込んだブライトを紫水晶の瞳が見据えていた。柔らかそうな葡萄色の髪が揺れる。ベッドに横たわりながらもその姿に弱々しさはない。その少女の美しい顔立ちにどこか既視感を覚えた。

 

「なに用か?」

「ああ……すまん。少々君に話を聞きたくてね。私はこの艦の艦長ブライト・ノアという」

 

 ブライトが名乗ったところで少女は大きく目を瞠った。どこか超然とした少女に見えたがそんな様は年齢相応にかわいらしい。

 

「ブライト・ノア…………まさか木馬の艦長? あの大佐でも沈めることができなかったガンダムの母艦の……?」

 

 これまた古い呼び方が出たものだ。ホワイトベースのことを木馬とは。おかげで彼女がどうやらジオン側の人間だというのはわかったが。そんな呼び方をするのはジオンの人間だけだろう。大佐というのはシャアのことだろうか。

 

「そうだ。一年戦争の時にはホワイトベースの艦長を務めていた。まあそれも単なる巡り合わせで、右も左も分からず必死にやった結果に過ぎない。世間で言われるほどのことはできちゃいないさ。実際にはね」

 

 実際、あのまだ若造だった頃の自分を英雄扱いされるのは面映ゆいやら恥ずかしいやら。正直勘弁して欲しいというところだった。

 

「そうか。よかろう。大佐の好敵手だった木馬の艦長の頼みであれば無碍にはできん」

「……ありがとう。それじゃあまずは君の名前を聞かせてもらえるかな?」

「ハマーンだ」

「は……?」

 

 少女の口から飛び出てきた名前に一瞬放心するブライト。そんな彼を見て少女は悪意のない笑みを浮かべた。

 

「最近名乗るとよくそのような顔をされるな。どうしたものか」

「……失礼した」

 

 ブライトはからかうような少女の声音に苦笑すると。

 

「なるほど。これはビスト財団が君を欲しがるわけだ」

「ビスト財団?」

「知らないか? 表向きは歴史的価値のある美術品の保護を目的とした財団法人だが、裏ではアナハイム・エレクトロニクスと一心同体関係にある。地球連邦政府への強い影響力も持っている一大財閥さ」

「そのビスト財団とやらが私を?」

「ああ。当主代行がいる船へ君を連れてくるようせっついてきている。どういう意図なのか分からなかったが、君がハマーンだというなら頷ける。何らかの企みに君を利用したいんだろう」

 

 

 ブライトは警告するが、少女にはいまいち実感が湧かないようだ。

 

「私を利用といっても精々一モビルスーツパイロットとしてくらいしか使いようがないと思うが」

「それだけ『ハマーン』という名は重いということだ。君のその容姿にパイロットとしてのあれだけの技量。となれば君を担いで一旗揚げようというのはそう荒唐無稽とは言えまい?」

「それほどのものか? ハマーン・カーンというのは?」

「君はハマーンと名乗りながら彼女がなにを為したのか知らないのか?」

「別に私の名に意図はない。ただ親から与えられた名を名乗っているだけだ。その女についてもグリプス戦役と第一次ネオ・ジオン抗争の年表上の出来事くらいしか知らんな」

「それが本当だとしたら驚くべき事だが……」

 

 そう言ってブライトは、ハマーン・カーンのことを語った。アクシズの指導者として地球圏に帰還するなり、エゥーゴとティターンズという連邦軍の内紛に割って入ったこと。双方を天秤にかけて間で立ち回り、ジオン共和国の占領、サイド3の割譲を実現。ネオ・ジオンの成立。各コロニーの制圧、そして地球への降下。ダカールの占拠。ダブリンへのコロニー落とし。そして連邦政府からの正式なサイド3領有の承認。停戦。

 

 連邦軍同士の内紛という奇貨があったとはいえ、それを見事に捉えたハマーン・カーンは宇宙全てを押さえ、連邦政府さえねじ伏せることに成功したのだ。もとは連邦の10分の1程度しか国力を持たないジオン公国の、そのまた拠点の一つに過ぎなかったアクシズを率いてである。

 

 最後はグレミー・トトの反乱から崩れ去ってしまったとはいえ偉業であることは間違いない。歴史上もっとも連邦を追い込んだのは、ギレン・ザビでもジャミトフ・ハイマンでもパプテマス・シロッコでもシャア・アズナブルでもなく、ハマーン・カーンなのかもしれない。

 

「詳しいな。ブライトキャプテン」

「クリプス戦役の際に実際に顔を合わせているし、その後の第一ネオ・ジオン抗争でも幾度となく矛を交えているからな。なかなか忘れられんさ。それに」

 

 そこで一度ブライトは言葉を切って、けれどやはり言うことにした。

 

「ハマーン・カーンを倒したのは、私の指揮下にいたガンダムパイロットだった」

「それは……どんな人物だったのだ?」

「当時まだ14歳の少年だった。今ごろはあいつももう23歳になってるのか」

「14歳……NTだったのか?」

「おそらくそうだったんだろう。それこそカミーユやハマーン、その他のNTや強化人間たちと思念を交わしてるようだった。それまで私が会ったNTとは違う、バイタリティの塊みたいなヤツだったよ。苦労もさせられたが……」

 

 その人物のことを思い出しながら語るブライトの顔は笑顔だった。

 

「ブライトキャプテンはその人物が好きだったのだな?」

 

 その表情を見てハマーンは指摘する。それにブライトは苦笑して。

 

「とんでもない悪ガキだったがな。それこそ最初に出会ったのなんか、ガンダムを盗もうと艦に忍び込んできたからだったんだぞ? 売り払って大儲けするつもりだったらしい。信じられるかい?」

「それは……なかなか豪快な少年だったのだな」

「だが、不思議と憎めないヤツだったよ。それはアイツが裏表のない真っ直ぐな人間だったからだろうな。それだけじゃなく人の意思を背負えるヤツでもあった」

「人の意思を背負う……」

「ああ。あの時も戦場の常で、やはり戦いの中、仲間や大事な人達がたくさん散っていった。それに失意を覚えつつもやがて乗り越えて、残された思いを胸に現実と戦い続けられる人間だった」

「…………そうか。その……ハマーン・カーンを倒したというのはどうだったのだ?」

「情けないことに私はその時戦場にいたわけではなくてね。あくまでそのガンダムパイロットから聞いた話にはなるが」

「構わない」

「第一次ネオ・ジオン抗争の終盤。グレミー・トトの反乱軍とハマーン・カーンの軍は共倒れでほぼ壊滅。その後でハマーンのキュベレイとガンダムで一騎打ちをしたらしい。結果はほとんど相打ちだったらしいが……ハマーンの方が負けを認めて自ら命を絶ったとのことだった」

「……そうか」

 

 ブライトが語り終えたことで場を沈黙が包む。そのばつの悪さを打ち消すかのように無理にハマーンは口を開いた。それにブライトも乗る。

 

「ブライトキャプテンはずいぶんガンダムパイロットと縁があるのだな」

「そうだな。初代ガンダムのアムロにZのカミーユ。ZZのジュドーに。またアムロ。そして今度はバナージだ。確かに私はほとほとガンダムと縁があるらしい」

 

 そのジュドーとやらが未来の自分を倒した相手らしいと心に刻みつつハマーンは話をつなげる。

 

「アムロ・レイとも再びいっしょに戦ったのか?」

「ああ。ほんの3年前のことさ。シャアの反乱の時にな。因縁の対決というわけだ」

「大佐の……」

 

 シャアの名が出たことでハマーンの様子が変わる。あるいはこれまでの話の中で一番の反応かもしれない。

 

「大佐は……シャア・アズナブルはMIAになったと聞いた。なにがあったのだろうか。知っているのなら教えて欲しい」

「……シャアは地球に居続ける人々を粛正するのだと、それが世界から戦争を無くす唯一の手段だと訴えてスペースノイドの支持を集めた。そうして行ったのが地球への隕石落としさ。5thルナをラサに落とし、次にアクシズを落とそうとした」

「アクシズを……」

「それもアクシズに核兵器を満載した上でだ。地球を一度徹底的に汚染し、強制的に全人類を宇宙へ上げるつもりだったらしい。その上でいつか人類皆ニュータイプになれば戦争はなくなるというわけだ」

「それはまた壮大な……」

「狂気的と言うべきなのか、ロマンチストが過ぎると言うべきなのか。評価に困るがね」

「それでブライトキャプテンやアムロ・レイが大佐を止めに行ったのだな?」

 

 苦笑するブライトに聞いてくるハマーン。ブライトは一つ頷き返して。

 

「そうだ。地球軌道上でアクシズを落とそうとするネオ・ジオンを迎え撃った。核ミサイルによる外部からのアクシズ破壊は失敗に終わり、我々は内から砕くために内部へ侵入したんだ。その間に外ではアムロとシャアの一騎打ちが行われていたらしい」

「因縁のライバル同士の……それで。結果は……?」

「アムロの勝利だ。シャアの機体を撃破した上で脱出したポッドを確保したんだ。完勝さ」

「そうか……」

 

 悲しそうに目を伏せるハマーンに慌てるブライト。フォローするように話を続けた。

 

「あ、いや。双方武器を全て失った上で最後はマニピュレータで相手をぶん殴っての格闘戦にまでなってたらしい。ぎりぎり紙一重の勝敗だったみたいだな」

「……ふふッ。ありがとうブライトキャプテン」

 

 不器用なブライトの気遣いにハマーンは無意識に微笑を漏らす。照れたブライトは視線を逸らして頬を掻いた。そして誤魔化すように付け加える。

 

「それにシャアは対等な条件でアムロと戦うために塩を送ったなんて噂もある」

「塩を送った?」

「アムロの機体νガンダムの製造をしていたアナハイムに出元不明の新技術が持ち込まれたんだ。サイコフレームというモビルスーツの性能を飛躍的に高めるものがな。それがネオ・ジオンから持ち込まれたのではないかという噂がある」

「アムロ・レイに一方的に強力なモビルスーツで決着をつけることを大佐がよしとしなかった……か。それでその後は? そこまでであればMIAとはならんだろう?」

「ああ。我々はアクシズを砕くことには成功したが、大きく二つに割れた片方は地球の落下コースに入ってしまった。それをアムロはνガンダムで押しだそうとアクシズに取り付いたんだ。シャアの脱出ポッドを握ったままな」

「モビルスーツで地球に落ちるアクシズを押し出す!? そんな無茶な!?」

「そう思うだろうな。私もそう思った。けれどあの時。多くのパイロットがそれに共感し、連邦もネオ・ジオンもなくそれに追随した。そしてあれが起こったんだ」

「あれ……?」

 

 赤熱化を始めたアクシズ。所属関係なく取り付いてアクシズを押しだそうとしたモビルスーツたち。そして突如生まれた輝き。それらを思い起こすブライト。

 

「奇跡としか言いようがない現象だった。νガンダムを中心に虹色の輝きが漏れ出たかと思うと、見る間にそれが広がってアクシズを包み込んだんだ。そしてアクシズの軌道はねじ曲がった。そのまま地球の引力を振り切って離れていった」

「そんな馬鹿な……」

「事実だ。私も目にしている。今ではアクシズ・ショックと呼ばれている。あの時全人類が共有した危機感が無意識的に集合しνガンダムのサイコフレームを媒介にして莫大なエネルギーに転化したなどと言われているが」

「人の意思が生み出す光……虹色の輝き? それはもしかしてどこか暖かいものだったか?」

「そうだったかもしれない。だからこそアレを人の意思が生み出した光だと思ったのかも……うん? 君もあの光のことを知っているのか? なにか心当たりがありそうだが?」

「いや。そんなことはない。なんとなくイメージからそう思っただけだ」

「そうか? ……まあいい。そうして地球の危機は去ったわけだが、その後そこにはνガンダムもシャアが乗った脱出ポッドの姿もなかったんだ。それから今に至るまで見つかっていない」

「それで二人揃ってMIA認定というわけか……」

 

 そこでブライトの話は終わった。ハマーンはシャアのその最後を噛みしめるかのように口を結び、視線を落とす。

 

「その……君には酷な話だっただろうか?」

 

 消沈する少女の姿に心配するブライト。けれどハマーンは首を振って顔を上げた。

 

「いいや。大丈夫だ。……生涯のライバルと一騎打ちをしてそのまま奇跡の現場で共に行方不明、なんてとても大佐らしいじゃないか。それに死体はみつかっていないんだろう? 案外全てやり終えたつもりで、どこかでアムロ・レイといっしょに隠遁しているのかもしれないぞ」

 

 そういう彼女の顔は寂しさを隠しきれない、どこか影のある笑顔だった。その表情にブライトは思い切って聞いてみたかったことを口に出すことにした。

 

「君は……シャア・アズナブルのことをとても大切なもののように語るんだな?」

「そうだが……おかしいか? フル・フロンタルにも似たようなことを言われたが」

「いや。君とは関係ないことなんだろうが……意外というか、不思議な感じではある。シャアとハマーン・カーンの確執をこの目で見ているのでね。シャアのグワダンでのハマーンへの態度は尋常ではなかった」

 

 少女の問い返しにブライトは素直に思うところを述べた。それに対する少女の答えは。

 

「……きっとそれは、わた、ハマーン・カーンが悪かったのだろう。だから大佐は……ハマーンが間違えなければ今も傍にいてくれたはずで……そうだったらきっと……」

 

 最後の方はもう言葉にならず。これまでの支配者然とした、それこそハマーン・カーンのような態度を保っていた少女の仮面は完全に剥がれ落ちた。ぽろぽろとその双眸から美しい滴を零し、華奢な肩を震わせていた。

 

 いかに彼女がシャア・アズナブルのことを想っていたかが分かる。それに彼女の繊細さも。どこかあのグワダンで見た女帝の姿と重なるところがあった。思えばあの女も冷徹な顔で接していながら、どこかでシャア・アズナブルを求め続けていなかったか。

 

 ブライトはかつて轡を並べて戦ったこともあるサングラスの男を一層嫌いになった。

 





ハマーン「私もコロニー落としたし、大佐も隕石を落とした。もしかして二人の相性が思ったよりいいのでは!?」
ギレン「せやな」
デラーズ「儂も儂も」
ジャマイカン「やったぜ(失敗したけど)」
ハマーン「…………」
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