時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC   作:ざんじばる

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未確認機 VS クシャトリヤ・ガンダムタイプ

 強烈な殺気に叩き起こされるように、私は目を覚ました。

 

 本能の命じるままに機体を動かす。投網のように迫るビームの雨をかいくぐり、ビームの発生源を確認するより先にスラスターを全開で噴かす。敵意の包囲網を突破した。改めて攻撃を仕掛けてきた相手を視認する。それは宙を漂う漏斗状の小型移動砲台。

 

「ファンネルッ!?」

 

 訳が分からず混乱した。私は先ほどまでアクシズ周辺の宙域でこの機体のテストをしていたはず。それがなぜ、突然不可思議な現象に巻き込まれ、一瞬気を失ったと思った次の瞬間には襲われているのか。

 

 極めつけはファンネルだ。ビットを小型化したこの新兵器を搭載しているのは、現在私が搭乗しているこの試作機だけのはず。今のところ二番機も存在しない。存在しないはずの相手が、目覚めた瞬間になぜか問答無用で襲いかかってくるのだ。混乱するのもしかたないというものだろう。

 

 ファンネル達のその奥に佇む謎の機体。少なくとも私を攻撃してきたファンネル達の主はこの意味不明な状況を理解しているのはずだ。ゲルググを模したような頭部に重厚なボディ。カラーは見慣れたグリーン系統でまとめられている。この機体にも似た大型のバインダーを三枚……いや、一枚は途中で断ち切られているだけで計四枚か――を背負っているために非常に圧迫感があるが、サイズは重モビルスーツの範疇に収まっている。明らかにジオン系のモビルスーツだが……。

 

 ともかく目の前のモビルスーツに通信を入れる。所属と交戦意思が無いことを告げ、攻撃を留まるように言うが、なぜか通信回線が繋がった様子がない。アクシズで今も使われている一年戦争時からのジオンの通信周波数で呼びかけたというのに。

 

「まさか、連邦のモビルスーツなのかしら……?」

 

 思考に沈んでいると、四枚羽のモビルスーツから再び攻撃の意思が発された。相手パイロットの思念波を受け取ったファンネルがこちらの追尾に移る。そこで相手の正体が知れた。その思念波に覚えがあったのだ。グレミーが養育していたNTの少女。

 

「エルピー・プル! 止めなさいッ!! 私は敵ではないッ! 分からないのかッ!?」

 

 機体のサイコミュに乗せてこちらも思念波を放つ。確かに相手パイロットに届いた感触はあるが、敵意を持って跳ね返された。こちらを認識してなお攻撃を続けるつもりらしい。ファンネルがこちらを包囲する動きを見せる。ここで私にも激しく怒りがこみ上げた。

 

「無礼なッ! グレミーの養い子風情が、この私を暗殺しようとでも言うのかッ!!」

 

 こちらからもファンネルを放出し、迎撃を図る。ファンネル同士の対決は当然初めてだが、ビット同士なら以前に経験している。やれる。

 

 けれど。

 

「馬鹿なッ!? こっちよりファンネルの性能が上なの!?」

 

 相手のファンネルの移動速度はこちらより上だ。方向転換の反応も。最初の斉射ではこちらが一方的に数を減らされることになった。

 

 敵機から嘲りのような感情が届く。それが腹立たしい。怒りを力に変えて思念に乗せた。

 

「まだよッ! 性能が上でもやりようはある!!」

 

 相手の攻撃の思念は鋭すぎる。どうしたいのかがあからさまだ。そこから相手のファンネルの機動を先読みし、最短距離の移動、最小角度の方向転換で射撃ポジションを確保する。斉射。次の攻防はこちらが一方的に押し勝った。

 

 相手から動揺と悔しさの感情が伝わってくる。

 

 ――無様な。

 

 私は鼻を鳴らして嘲笑った。エルピー・プル、操縦技術とNT能力は確かだが、NT同士の真剣勝負には不慣れと見える。ヤヨイ・イカルガとの死闘をくぐり抜けた私とは違う。あまりに攻撃の意思が直線的過ぎて、NT相手にはかえって読まれてしまう。

 

 私相手に油断を晒す愚に気付いたらしい。ファンネルに先ほど以上の殺意が点る。いいでしょう。ここからはつぶし合いだ。

 

 二機の間で目まぐるしく駆け回るファンネル。次々と火の玉となって消えていく。結果、双方ファンネルを全て失うことになった。性能差と対NT戦闘の経験差で釣り合った形だ。もう、相手から追加のファンネルは出てこないようだ。こちらにも予備はないが。

 

 戦闘は小康状態へと落ち着いた。互いに手札を失い様子見だ。

 

 ――さて、ここからどうしたものか。

 

 この機に落ち着いて周囲を観察してみれば、眼下には見覚えのないコロニーがある。なぜか半壊しているが。逆にアクシズの姿はどこにもない。ますます訳が分からない。

 

 目の前に対峙するのはエルピー・プル。ということはグレミーが反乱を起こしたのだろうか。エルピー・プルの機体のさらに先にもう一機モビルスーツの反応がある。そちらを確認したいところだが、目の前の相手をどうにかしないとそれもできない。戦闘に介入してくる様子がないことから友軍ではなさそうだが。

 

 どうにか情報を得たいところなのだけど。エルピー・プルの機体を拿捕し引きずり出すしかないか。でも、それができるか? いっそ撃破して、もう一機のモビルスーツか眼下のコロニーにでも向かうか。コロニーの反対側でも戦闘が起きている気配がある。あちらになら友軍がいるかも知れない。

 

 そこまで考えたところで、目の前の機体がビームサーベルを抜き放って突進をかけてきた。相手は戦闘継続をお望みらしい。まだ思索がまとまっていなかったので、条件反射的に機体に後退をかけた。時間稼ぎだ。だが。

 

「なんて速さなのッ!?」

 

 こちらも全力で後退しているにも関わらず、距離がみるみる詰まっていく。これは振り切れない。仕方なくこちらもビームサーベルを抜き、後退を停止。前進に転じる。敵機の斬撃。これを受け止める。

 

 瞬間。ガツンとした衝撃が加わり、一瞬意識が飛びかける。機体は一方的に押し込まれていた。この機体の推力はさほど大きくない。それこそガザCにも劣るくらいだ。それにしたってこの差はなんだ。こちらの抵抗などあるが無きの如く一方的に押されている。

 

 そしてそれは残念ながら機体出力も同じらしい。アームの力で負け、押し込まれる。このままではビームサーベルの上から押し切られる。

 

「ならッ!」

 

 即座に全力で後進をかける。相手の勢いを受け流す形だ。これなら押し切られる心配は無い。殺気。考えるより先に右腕のビームサーベルを抜き放ち、掲げていた。上方からも加重がかかる。そちらに視線をやれば四枚羽根のうちの一枚からアームのようなものが突き出しビームサーベルを保持していた。

 

 ――これで両手がふさがった。なら次は。

 

「こんのぉぉォォォッ!!」

 

 脚部バーニアを下方向に全開。敵機の圧を受け止めるビームサーベルを支点に倒立前転するように姿勢を入れ替える。跳ね上げた下半身のすぐ下を三本目のビームサーベルが通り過ぎていった。

 

 機体の全身を捻りながら反転する。駆け抜けていった敵機の背をビームガンで追い打った。敵機はそのまま遠ざかりながらビームを回避していく。さすがにその場で急反転する愚は侵さなかったらしい。

 

 こちらのビームガンの有効射程外まで出たところでようやく敵機が反転。こちらの様子を窺っている。再度突撃をしてくるものかと思ったが、そのままスラスターを噴かすとこの宙域から離脱していった。

 

 このタイミングでの撤退は意外だった。パイロットとしての技能で劣るとは思わなかったが機体の性能差は明白だった。このまま戦闘を継続していればまずいことになったかもしれない。

 

 この機体は最新鋭の試作機だというのにどうなっているのか。グレミーがアクシズのどこかで秘密裏に建造させた機体なのだろうか。それにしてもあの性能は……まるで世代差があるのではないかと疑うほどのスペックだ。言ってみれば、この機体をザクⅠで相手しているような。

 

 などと相手モビルスーツの分析に没頭していたのがまずかったのだろう。それにしても全く攻撃の意思を感じることがなかったが。がなり立てる接近警報で初めて気付いた。そしてその時には既に遅かった。

 

 接近警報に従って背後に振り向く。

 

「そんなッ!? 速すぎる!?」

 

 離れたところで傍観していたはずのモビルスーツの反応。それが信じられない速さで突貫してきたのだ。ガザCのMA形態すら遠くおよばない速度。意識の外からの強襲だった。視界に捉えたときには既にビームサーベルを振りかぶっている。

 

 赤い燐光を振りまきながら、襲いかかるV字アンテナのモビルスーツ。

 

「ガンダムッ!?」

 

 驚愕を表現する間もなく、死に抗って行動した。咄嗟に踏み込みながら腕を伸ばし、ビームサーベルを握ったその腕を押さえにかかる。そして次の瞬間、ボディ同士が接触し―――

 

「ッあぐぅッ……!?」

 

 とんでもない衝撃に襲われた。そのガンダムはどれほどの速度で迫っていたのか。強烈なマイナスGがコックピットを襲い、私の視界は一瞬のうちに暗転したのだった。

 




次回までモビルスーツ名・パイロット名は伏せたままで。
※タグでガバガバという指摘は受け付けません

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