時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC 作:ざんじばる
「私に客だと?」
ガルダに移送され、けれど結局ラー・カイラムに舞い戻ることになったハマーンはその翌日になってもまだラー・カイラムにいた。艦内の一室に保護という扱いで逗留している。ロニも傍にいた。
あれからの事態の推移はブライトより聞いていた。ジンネマンは無事ガランシェールへ帰還。軌道上で待機していたネェル・アーガマに引き上げてもらう形で宇宙に上がったらしい。事態を動かすためにネオ・ジオンも利用するというブライトの驚異の策だった。
だが、そこから事態は急転する。ビスト財団とそれに与する連邦上層部の意を受けた連邦軍地球機動艦隊旗艦ゼネラル・レビルがネェル・アーガマ拿捕に動いたのだ。そこを更にネオ・ジオンのフル・フロンタルが強襲。ゼネラル・レビルを撃退し、ネェル・アーガマとガランシェール二隻を押さえた。そしてその後、二隻ともども姿を消している。
以降の足取りはまだ掴めておらず、ミネバやバナージ、それに二隻のクルーたちの安否は分かっていない。ハマーンとしてはやきもきしながらもただ待つしかなかった。そして今。そんなハマーンをブライトが訪ねてきて来客があると告げたところだった。
「どういうことだ? 地球に私の知り合いなどいないはずだが」
「それは実際に会ってもらったほうが早いかな。実はもうここまで来ている」
そう告げるブライトの後ろから一人の女性が姿を現した。なびくワインレッドの髪。すっきりとした輪郭線。誰かに似通った容姿だった。既視感に目を丸くするハマーンを余所に感極まったのかその女性は駆け寄って。
「姉さんッ!!」
「……ッ!?」
そしてハマーンの華奢な体を抱き締めた。その細腕で力の限り。まるで幻ではないかと確かめるように。ハマーンは事態が飲み込めずただ為されるがままにされていた。
「まさか……セラーナなの?」
やがて女性の正体に行き当たったのか呆然としたように言うハマーン。本人からすれば聞くまでもない至極当たり前の問いに、笑みを零し涙を浮かべた瞳を悪戯っぽく緩めた女性は答える。
「そうよ、姉さん。私がセラーナ・カーン以外の誰に見えるって言うの?」
「まさかこの時代であなたに会えるなんて……」
「それはどちらかと言えば私の台詞だと思うけどね」
そうかもしれないと思いながらハマーンは部屋に備え付けられたソファにセラーナを誘った。端で突っ立っていたロニは明らかに年上の女性であるセラーナがハマーンを姉と呼んだことに驚愕して、「どういうことだ?」と言わんばかりの視線を注いでくるが、敢えてそちらには目を向けない。ちなみにブライトの方はある程度ハマーンの正体を予想していたのか、表向きは平静を保っていた。
ソファに腰を落ち着けたところで今度はハマーンから口を開いた。
「それでどうしてセラーナが地球に? それになぜこの艦に私がいるって知ってたの?」
それに対してセラーナは不満そうに口を尖らせる。
「いきなりそこから? せっかくの姉妹再会なんだからもっと何か話すことがあるでしょ? 積もり積もった話とか……それなのにまったく姉さんったら……」
「そう言われてもね……状況が特殊すぎて何を話していいか分からないし。セラーナはともかく私の方は積もり積もってないもの」
肩をすくめるハマーン。セラーナにとっては7年ぶりの姉との再会だろうが、ハマーンとしてはほんの一~二週間前まで妹と会っていたのだ。久しぶりという感覚はない。であれば興味がなぜ妹がここにいるのかということに集約されるのも仕方ないことだろう。
姉の態度に溜息をついてからセラーナは話し出した。彼女がここにいる理由を。
「もうっ……はぁ。エコーズのダグザ中佐から連絡をもらったのよ。姉さんがラー・カイラムにいるって。それで飛んできたってわけ」
「ネェル・アーガマに辿り着いたバナージから伝わったか……。そう。よかった。ダグザ中佐もバナージも無事だったのね」
ハマーンは二人の無事をひとしきり喜んだ後、話を続けた。
「それで? セラーナが私の居場所を知ってた理由は分かったけれど、そもそもなんであなたが地球にいるの?」
「もう地球に来て7年になるわ。姉さんがし、第一次ネオ・ジオン抗争が終わった直後から穏健派と強硬派の間の内紛が激化してね。強硬派が主導権を握りそうだったから、一発逆転を狙って私が直接連邦に和平交渉に来たの。……それも失敗に終わったけどね。以降サイド3に戻るわけにもいかず地球で亡命生活していたってわけ」
「そう…………あなたには苦労かけたわね。私のせいで……」
妹のあまりの境遇に肩を落とし俯くハマーン。それをセラーナが慌ててフォローする。
「いいの。気にしないで。もう終わった事よ。それにこうしてどういうわけか再会できたんだから。それでね。私、姉さんを迎えに来たの。小さいけれど地球に家を持ってるの。そこで姉妹で暮らしましょうよ」
姉の横に座り直しその肩を抱く。そして今日ここに来た理由を告げるセラーナ。それに対してハマーンは表情を綻ばせるも、けれど頷くことはなかった。そんな態度のハマーンにセラーナが「なんでよ」と食ってかかる。
「セラーナ。あなたの気持ちは素直に嬉しい。今の私はあなたにとって重荷に過ぎないでしょうにいっしょにいたいと言ってくれて。……でもまだやり残したことがあるの。だからいっしょには行けないわ」
「ミネバ様のこと? いいじゃない。もう関わらなくても。先日からやってきたことで十分尽くしたでしょう? そもそも今の姉さんとは本来関係ないことなんだから」
「そういうわけにはいかないわ。私もこの状況の中でたくさんの人の命を奪ってしまっているもの」
「ネオ・ジオンの襲撃から連邦の船を守ったんでしょう? それに地球でも巨大モビルアーマーから一般人を守るために戦った。連邦としては感謝こそすれ、姉さんを責めることはないはずよ」
「ガルダの護衛モビルスーツも何機か落としているわ」
「あれはビスト財団が軍を私物化した極秘ミッションだもの。表沙汰になることはないし、責任を問われることもないわ」
何とか引き留めようとするセラーナだが、ハマーンはかぶりを振って受け入れない。
「そういうことじゃないの。連邦に責任を問われるとかそういうことではなくて……私が一人の人間として、この状況の中で為してきたことに責任を持ちたいの。最後までやり遂げたいのよ」
「姉さん……やり遂げるって言ったってどうする気? 戦場は宇宙に移ったのよ? 今の姉さんに宇宙に上がる手段なんかないでしょ」
「それは……なんとかするわ」
「ノープランなわけね」
ハマーンへ白々とした視線を向けるセラーナ。そんな妹の視線を振り切るように「それでもなんとかする」と意気込むハマーンだが具体的な手段を持たないことには変わりない。けれど意外な人物が助け船を出した。
「宇宙へ上がる足ならこちらで用意しよう」
「ブライト司令!?」
それはここまで黙って傍観していたブライトだった。抗議の声を上げるセラーナに謝罪の意味を込めて一つ頭を下げてから話を続けた。
「君の気持ちを利用するような形になって申し訳ないがネェル・アーガマの助けになってもらえるならこちらとしてもありがたい」
参謀本部から表だった行動を制約されているブライトだが、ネェル・アーガマの部下のことは何とか守りたい。ハマーンほど強力なパイロットを援軍として差し向けられるのだとしたら。まさに渡りに船、願ってもないことだった。
「だが宇宙に上がれてもまだ問題がある。ネェル・アーガマとネオ・ジオンが消息を絶ってからそれなりに時間が経ってしまっている。おそらく月方面に移動したのだとは思われるがどうやって探し出して追いつくか……」
「今度は宇宙での足が問題となるということ?」
「そうだ。宇宙へは小型のHLVを用意する。そこに君が乗ってきたZプラスを載せるとして、あれもモビルスーツとしては足が長い部類ではあるが、果たしてそれで足りるかどうか」
一歩間違えば宇宙の迷子になりかねない危うい作戦。けれどハマーンはソファから立ち上がると迷うことなく頷いた。
「賭けになるということ……それでもいい。ブライトキャプテン。HLVの用意お願いしたい」
けれどセラーナが呼び止める。
「待って! 姉さん!!」
「ごめんなさい、セラーナ。私のわがままを許して」
「もう分かったわよ。そうじゃなくて宇宙での足はこちらで用意するわ」
「え? でもあなた連邦に亡命中なんでしょう? それでどうやって———」
戸惑いの声を上げるハマーンに手をかざして遮ったセラーナは何でもないことのように言った。
「腐ってもネオ・ジオンの外務次官ですから。それに先の第二次ネオ・ジオン抗争の失敗で強硬派もサイド3ではだいぶ勢力を失って穏健派が盛り返してるからね。伝を使えばモビルスーツの一機くらいは用意できるわ。整備班とセットでね。それを姉さんの進行方向に配置しておいて途中で乗り換えればいいでしょう」
「ありがとうセラーナ。……でも良いの? あんなに反対していたのに」
「姉さんが言い出したら聞かないのは知ってるもの。それなら無理に反対するよりこちらからも協力した方が安心だわ。姉さんのことだから高性能なモビルスーツに乗せておけば何とかするでしょうし。期待していて。とびきりの機体を用意させるわ」
そう言ってセラーナは笑った。そんな妹にハマーンは感謝し……そこではたと気になることがあった。相手は妹。身内だ。だから思ったことを口に出してみた。
「ねぇセラーナ。なんかその態度、子供相手にしてるみたいで気になるんだけど」
「みたいもなにも姉さん子供じゃない。まだ17~8でしょう?」
「だからって私はあなたの姉なのよ。こう姉としての威厳が———」
「あはは。ないない。ただでさえ姉さんは子供っぽいのに今じゃ年齢まで逆転してるんだから」
不満を述べるハマーンを食い気味にセラーナは否定した。その一言にはハマーンもカチンとこざるを得ない。
「ちょっと! 私のどこが子供っぽいのよ!?」
「どこもなにも……いつまでも未熟な初恋を引き摺ってるところとか?」
「なッ!? そ、そんなこと!」
「あー。否定しても無駄だから。あのままだったら姉さん22になっても未練がましく引き摺ること私知ってるから」
「ぐぬぬ……」
ぐうの音もでないほどに言い負かされて唸るしかないハマーン。そんな姉の姿を横目に見てセラーナはわざとらしく溜息をつく。そしてハマーンの逆鱗に触れる一言を放った。
「それに男を見る目もないし。あんな見かけだけの男のなにが良かったんだか」
「ちょっと。大佐のこと悪く言わないでよ」
「はぁ? 言っておくけどあの男、クズ of クズだから」
「セラーナッ!!」
「え? なにその態度? もしかしてまだあの男のこと好きなの?」
「別にどうだっていいでしょう」
「ええ? だってこっちに来てから色々調べたでしょう? あの後何があったのかとか。第二次ネオ・ジオン抗争の演説とか見なかった?」
「調べたし見たけど……」
「それでもまだあの男のこと好きなの?」
「だったら悪い?」
「悪いっていうか…………ちょっと引く」
「引く!?」
あまりの言い草に目を剥くハマーン。そんな姉から言葉通り少し身を引いてセラーナは続けた。
「あれだけ言われたら普通かわいさ余って憎さ百倍とかになるでしょう?」
「だってあれはきっと私が悪かったんだし…………ちょっと。その薄気味悪いものを見るような目、止めなさいよ」
「なにこの男に都合の良すぎる女……やり過ぎて逆に重いわ。初恋をこじらせたにしてもこれは……ないない」
「全部口に出てるわよ」
もはや怒りを通り越して剣呑な気配を放つハマーン。だが妹はそんなこと気にすることなく次の火種を放り投げた。
「そんなんだからいつまでたっても
「ちょッ!? セラーナッ!?」
とんでもない一言にハマーンは目を白黒させるが、セラーナは一切気にすることなくドップドップと油を注ぎ続ける。
「今の姉さんはまだ焦ってないかもしれないけど、そのままだと22になっても処女のままだからね。言っとくけど」
「せ、せせせ、セラーナなに言って。だいたいあなただって———」
「私? 期待させて悪いけど姉さんがこっちに来る前には既に経験済みだったよ?」
「え……?」
その瞬間完全にハマーンは惚けた。それくらい衝撃だった。そうして真顔に戻って聞いた。
「……いつの間に?」
「姉さんが摂政になってちょっとして、くらいだったかな?」
「誰と?」
「当時の彼氏と」
「……私知らない」
「姉さん摂政になってからはほとんど家に帰らなかったじゃない」
「話も聞いてなかったんだけど」
「姉さんより先に彼氏が出来たとか、経験したとか言えないじゃない」
「…………」
「ま、当時から私の方が大人だったってことよね」
セラーナはそう結論づけた。ハマーンは俯いてふるふると震えている。
「ごめんね姉さん。ショックだった?」
セラーナはハマーンの肩を抱いて慰めの言葉をかけた。その声音は優越感に満ちていたが。その唇は吊り上がっていたが。
やがてハマーンの震えは収まり、顔を上げた。
「そう。セラーナの方が私より大人だったのね」
「ま、大したことじゃないよ。経験の有る無しなんて」
なおもいたぶるような嗜虐的なセラーナの言葉を受け流しハマーンはにっこりと笑った。そして。
「そう。あのセラーナももうとっくに大人。アラサーなのよね」
セラーナの笑顔が凍る。吊り上がっていた口元は今や引きつっていた。なおもハマーンのターンは続く。
「そう言えばセラーナ・
「…………誰のせいだと———」
「まあまだ焦る歳じゃないわよね。まだアラサーだものね。きっと近いうちにいい人が見つかるわよ。頑張って。まだぎりぎり20代で結婚できるかもしれないわ」
「…………」
そうしてよく似た容姿の姉妹は向かい合って似た笑顔を浮かべた。「うふふ」「あはは」と笑い合い。そして次の瞬間、ガシッと両手でつかみ合った。そのまま相手を倒さんとあらん限りの力を込めて押す。そうして口汚く罵り合った。「清楚ビッチ」「蜘蛛の巣女」「年増」「地雷女」などと聞くに堪えかねる台詞のオンパレードに、これまで静観していたブライトも堪らず二人を引き離しにかかるのだった。
セラーナさんの初体験は完全に妄想ですが。
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フラウ「約16歳でWBに乗って戦争後結婚。Zの時には妊娠してました」
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ファ「19歳の頃にカミーユが回復してるので多分…劇場版ならもっと早く」
ベルトーチカ「Z時代20歳前後。アムロの恋人になりました」
強化人間ズ「「私たち10代で死んじゃいました」」
ZZヒロインズ「「私たちまだ子供だし」」
ハマーン「…………」