時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC   作:ざんじばる

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ということで大半の方にはバレバレだったようですがハマーン様の後継機はアレです。
いくつか本文中にヒントを仕込んでおいた甲斐がありました。
設計者はサザビーと同じく合法ロリというか若作りなトワシズのあの方という妄想。
関係ないけどトワシズで赤いザクⅢ改が用意された経緯を読んで萌え転がったのは作者だけではないはず。


小夜啼鳥は宙に舞う

 宇宙空間をウェイブライダーが往く。『インダストリアル7』を目指してひた走っていた。その上に乗るモビルスーツのコックピットの中、ハマーンが不意にポツリと呟いた。

 

「これは……既に始まってしまったか」

『始まったって、何がよ?』

「戦闘に決まっているだろう。ネェル・アーガマが戦端を開いたらしい」

『なんでそんなことが分かるのよ。まだセンサーの有効範囲にはなにも引っかかってないわよ?』

 

 ハマーンの呟きを切っ掛けにウェイブライダーを操るロニとの間で接触回線を通じた会話が起きる。けれどロニの疑問こそハマーンにとっては不思議だった。これほどピリピリとした敵意のぶつかり合いのような空気を感じるというのに、なにを言っているのかと。

 

 ハマーンは気づいていなかったのだ。自身が駆る機体に組み込まれた機能がハマーンの感応を飛躍的に強化し、機械的なセンサーを大きく上回る感知能力を得ていることに。

 

「このままではよくないな…………決めた。先に行くぞ」

『え? 先に行くって?』

 

 ロニの疑問に答えることなくハマーンは行動に移った。大型バインダーに仕込まれたスラスターを一噴かしして、ウェイブライダー上方に浮き上がるとベクトルを変更。改めて全力加速をかけた。途端に強烈なGがかかりハマーンの華奢な体がシートへと押しつけられた。

 

「ッ……! 大した加速ねッ」

 

 あっという間にウェイブライダーを後方へと置き去りにした。圧倒的な展開力を誇るはずの可変機をだ。ハマーンに提供された機体の、少なくともその推力はとんでもないことが分かる。さすがにキュベレイ開発部隊が自信を持って進めてくるだけのことはある。

 

 爆発的な加速で突き進んだハマーンは、やがて戦場へと行き着いた。ようやくセンサーの有効範囲には入ったものの、まだモニターで捉えるには遠いそんな距離で。けれどサイコミュによって強化されたハマーンの感応はその場面を捉えていた。

 

「まずいわね。ここからいけるか?」

 

 ハマーンの脳裏に浮かぶのは、ネェル・アーガマにライフルを突きつけたモビルスーツの姿。地上で襲ってきた黒いユニコーンだった。なぜか間に四枚羽が立ちはだかっているが、まずい局面ではある。

 

 それを打開するため、ハマーンは機体にメガ・ビームライフルを構えさせた。モードは収束率を高めた長距離狙撃モード。黒いユニコーンの姿をイメージで捉える。ここから横やりを入れるのだ。完全なアウトレンジだがこの機体なら。ハマーンは唇を人舐めするとトリガーに指をかけた。

 

「さあ、ナイチンゲール。お前の力を見せてみなさいッ———」

 

 次の瞬間、メガ粒子の閃光が一筋、戦場を貫いた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「なんなんだッ! こいつは!?」

 

 それは異形のモビルスーツだった。メガ粒子の狙撃の後に躍り込んできたその機体。ボディカラーは優美な白だったものの、デザインはいっそ禍々しかった。頭頂高こそユニコーンより若干高い程度だが、特徴的なのは胸部装甲とスカートの前後への張り出しだ。

 

「こいつは……モビルスーツなのかッ!?」

 

 そのため前後に長いというモビルスーツとしては異質なシルエットになっていた。そして左右には大型のバインダーが衝きだしていて、ある意味バランスが取れている。総じて人型というよりは前傾姿勢で獲物に飛びかからんとする爬虫類型怪獣のような雰囲気を醸し出していた。

 

 重厚な胴体に対して四肢は一般的なモビルスーツ程度の長さしかないため、ずんぐりとした印象を受けるが、実際に戦ってみればそんなイメージはあっという間に吹っ飛んだ。

 

 独楽のようにスピンしながらこちらの射撃を回避する。観察してみれば目の前の機体は全身にこれでもかというほどスラスターを装備しているのか、分厚い機体を縦横無尽に跳ねさせながらこちらへ迫る。デストロイモード発動中は圧倒的な機動力を誇るはずのこのバンシィに迫り、追い詰めてくるのだ。

 

 右手に握るビームライフルからは収束弾や散弾が自由に切り替わりながら吐き出される。

 

「ちぃッ!」

 

 それを間一髪のところで躱した。するといつの間にか左手には高出力のビーム・トマホークが握られていて、懐に飛び込みながら鋭い斬撃を浴びせてくる。咄嗟にビームマグナムを手放し、代わりにビームトンファーを展開して受け止めた。

 

「なんなんだよッ! お前はぁッ!!」

『ほお。今のを受け止めたか。やるじゃないか』

 

 現在最高峰の機体に乗るはずの自分が追い詰められている。そんな理不尽に耐えかねたリディは絶叫した。その声に応えたわけではないだろうが、タイミングよく接触回線が開かれた。そこから聞こえてくるのは自分を見下す傲慢な女の声。どこかで聞き覚えのある声だった。

 

 ——あの時の——トリントンでゼータプラスを操っていた少女。まさかあいつか———

 

 その声の主にリディは思い当たった。トリントンで自分がまるで歯が立たなかった大型モビルアーマーを一方的に嬲ったパイロット。ゼータプラスを操ってさえあの強さだったのだ。目の前の機体は間違いなく時代の最高峰となることを狙って造られたコスト度外視ワンオフの機体。この両者の組み合わせは凶悪に過ぎた。

 

 鍔迫り合いが続く。このバンシィが押し切れないのだ。相手もその巨体に相応しいだけのパワーを備えているらしい。するとなぜか相手の腹部の装甲がバクンと開いた。その下から砲口がのぞいている。

 

「——ッ!? メガ粒子砲!!」

 

 反射的に後退する。相手との間にシールドを挟み込んだ。次の瞬間、敵機の砲口が光を放った。メガ粒子が広がりながら降り注ぐ。どうやら拡散メガ粒子砲だったらしい。だがバンシィにダメージはない。リディの防御の意思をくみ取ってシールドが自動的にIフィールドを発生させてくれたようだ。

 

 閃光が収まるのを待って視界を塞いでいたシールドを避ける。

 

「——ぐッ!?」

 

 視界が白の巨体に塞がれていた。次の瞬間バンシィはとんでもない衝撃に晒された。バンシィのボディはこの衝撃にもびくともしないほど頑丈だが中のパイロットはそうはいかない。リディの口から悲鳴が搾り出され、機体が制御を失う。

 

 一瞬なにが起きたか理解できなかったが、どうやら蹴り飛ばされたらしかった。あんな巨体自体で格闘戦を挑んでくるとは。信じられないほどの技量だ。

 

『む? いかんな』

 

 リディがバンシィの制御を手放したその間に敵機はファンネルを放出した。あの大型のバインダーは姿勢制御の他にファンネルコンテナとしても機能しているらしかった。続き迫る脅威にリディどうにか暴れる自機を抑えつけた。

 

 ファンネルの包囲攻撃に対処すべくサイコミュを通じて敵意の発現に気を配って。

 

「……?」

 

 けれどなぜかファンネルたちはバンシィを素通りしていった。何かの罠かとリディは警戒を緩めず周囲の観察に努め、正面の敵機もなにもせずに佇んでいた。予期せぬ戦闘の膠着。少しばかり沈黙の時間が続き。そして次の瞬間。

 

「なッ——!?」

 

 リディの後方、ネェル・アーガマの周囲で爆炎が複数瞬いた。なにが起きたのかを理解したリディは激情に支配された。スロットルを踏み込みバンシィを敵機へと突貫させる。

 

「こいつ……俺を馬鹿にしてぇェェッ!!」

 

 敵がファンネルを放出したのはバンシィを攻撃するためではなかった。ファンネルが撃ったのはネェル・アーガマに取り付かんとしていた袖付きのモビルスーツたちだ。敵はあろうことか追撃を加えるチャンスだった目の前のリディを無視してネェル・アーガマを援護したのだ。

 

 相対する少女に歯牙にもかけられていない。(ミネバ)に選ばれなかった屈辱をサイコミュに増幅されたリディにとって、それは断じて許すことの出来ない行為だった。半ば暴走に近い勢いで斬りかかり、けれど敵機がメガ・ビームライフルを投げ捨てて右手に握ったビームサーベルで打ち払われる。

 

 次の瞬間。視界を埋める巨大なシールドの影。敵機のシールドバッシュだ。斬撃を払われ、がら空きになった胴体に叩き込まれた。バンシィのコックピットを襲う衝撃。揺らぐリディの意識。そして。

 

 シールドバッシュで押しのけられたバンシィに急加速で敵機が迫る。白い巨体がモニターに大写しになり、右手のビームサーベル、左手のビームトマホーク、そしていつの間にかスカートアーマーの下部からさらに二本のアームがそれぞれビームサーベルを握って伸びていた。

 

『そろそろさよならだ』

 

 四筋の斬撃が同時にバンシィを襲う。衝撃に朦朧とするリディに抗うすべはなく、モニターが閃光に染まった。その時、リディの脳裏に浮かんだのは。

 

『もう! リディ少尉!!』

 

 なぜか彼が焦がれたミネバではなく、呆れ顔でリディを叱りつける黒髪の女性士官の姿だった。

 

「ミヒ———」

 

 その呟きは意味をなすことなく閃光に消えていった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 これは想像以上の機体だ。ハマーンは黒いユニコーンとの戦闘を通じて自機のスペックを正確に見極めていった。すると如何にこのナイチンゲールが規格外のモビルスーツかが分かってきた。

 

 余裕を持ったサイズの機体に収められた高性能なジェネレーターは圧倒的なパワーをもたらし、それに裏打ちされた火力を提供する。そしてキュベレイのそれを遙かに上回る俊敏性と攻撃力を持ったファンネル。

 

 けれど何よりハマーンが気に入ったのは、何処までもハマーンの思い通りに動く機体の追従速度だった。いったいどんなインターフェイスを搭載しているのか、いっそハマーンの操作より先に彼女の意思を読み取って機体自身が反応しているような気さえした。

 

 おそらくサイコミュを制御系に組み込んだ恩恵なのだろうが。ハマーンの知らぬサイコフレームという未来の技術は、彼女に飛躍するための翼を与えたのだった。

 

 キュベレイやゼータプラスを駆っていた頃より反応が速くなった分だけ、ハマーンにかかるGは増すが、華奢なくせに耐G特性に優れた彼女の体はその圧力を難なく受け止めていた。

 

 のしかかるGにギシギシとシートへと体を押しつけられながらも誤ることなく機体を操る。機体を意のままに振り回し、黒いユニコーンを追い詰めていく。

 

 なるほど確かに黒いユニコーンは最新鋭最高峰の誉れに相応しく、3年前にロールアウトしたナイチンゲールを上回る反応速度を見せる。けれど二者のハードウェアの差は、そのユーザーの差で押し返せる程度の範囲に収まっていた。

 

 敵パイロットは残念ながらユニコーンの全力を引き出せていない。どころか高性能すぎる機体にパイロット自身が振り回されている印象を受けた。まさに人機一体と化しているハマーンとナイチンゲールとの差はことここに至って歴然だった。

 

 そのことは黒いユニコーンを相手にしながらなお、ネェル・アーガマを援護する余裕があったことからもうかがえる。サイコフレームにより拡大されたハマーンの空間認識力は、先の空間でネェル・アーガマに取り付かんとするネオ・ジオンのモビルスーツたちをはっきり捉えていた。

 

「いけッ! ファンネル!!」

 

 ハマーンの意を受け取った10機のファンネルたちは瞬く間にネェル・アーガマに迫る脅威を火の玉へと変えた。その間もハマーンの意識が目の前の黒いユニコーンから離れることはない。正確に言うならば今この場所からネェル・アーガマの周辺まで、余さず捉えていた。

 

 突っ込んできた黒いユニコーンの斬撃を右手のビームサーベルで受け止め、受け流す。死に体になった敵機を左手のシールドで殴りつけて。無防備に晒されている黒いユニコーンの懐に迷わず飛び込んだ。

 

「そろそろさよならだ」

 

 右肩から入って左下への切り下ろし。左肩から入って右下への切り下ろし。右腰から入っての斜め切り上げ。左腰からの斜め切り上げ。ナイチンゲールは4つのビームサーベルを操って黒いユニコーンをXの字に切り裂いたのだ。

 

 特にXの字の交点になったコックピットはズタズタになっている。パイロットは即死に違いない。脅威の殲滅をハマーンが確信した直後、肉体を失った意思が波のように周囲へと広がっていく。

 

「ちッ。パイロットはNTだったか」

 

 死に際のNTの思念が強力なサイコミュ兵器である黒いユニコーンを通じて増幅されたのだ。それはサイコフレーム搭載機であるナイチンゲールや、ネェル・アーガマに待避したクシャトリヤ、さらにはユニコーンへと伝播して共振した。

 

「なんだ。あの光は?」

 

 やがてハマーンが衝撃から脱却した頃にそれは起こった。ネェル・アーガマの更にその先。ユニコーンがいた辺りから碧色の輝きが溢れ、その光がナイチンゲールに触れるとナイチンゲール自身も翠の光を発し始めるのだった。




リディ「え…………え?(二度見)」



リディは犠牲になったのだ! ユニコーンを覚醒させるための犠牲にな!!

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