時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC   作:ざんじばる

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ジョバンニが一晩でやってくれました。このスランプは何だったのか。あとはエピローグを残すのみです。


別れ。そして終結

「まだ出せんのか!」

 

 ナイチンゲールのコックピット越しにハマーンの声が響く。その声は焦燥に駆られていた。既にメガラニカ周辺で戦火が確認されている。そこにはミネバとバナージたちが先行しているというのに、ハマーンはいまだネェル・アーガマで足止めされていた。

 

 というのもナイチンゲールに突貫で行われている強化処置が今も続いているからだった。仮に敵戦力の中核がシナンジュだけであれば今のバナージとユニコーンならどうとでもなる。この状況で袖付きが仕掛けてくるとすればそれ以上の切り札を投入してくることが予想され、そうであれば少しでもナイチンゲールを強化しておきたいという意向だった。

 

 もちろんナイチンゲールのスペックは今なおMSの最高峰に位置する。ただサイコフレームの搭載量という観点で言うとユニコーンやシナンジュに遅れをとるのも事実だった。サイコマシン同士の対決となればサイコフレームの量は彼我の優劣に直結する。そのため鹵獲したバンシィからサイコフレームを引っぺがし、半分無理矢理にでもナイチンゲールに増設しているのだ。

 

 結論から言うとこの処置には先見の明があったというべきだろう。メガラニカ周辺をエコーズとともにゼータプラスで警戒していたロニから大型のサイコマシンが潜んでいたこと、彼女たちを振り切ってメガラニカ内部へと突入していったことがつい先ほど報告された。その際の戦闘で彼女たちは手痛い損失を被ったらしく、撤退を開始していた。

 

 メガラニカ内部、ビスト邸へと突入したミネバとバナージが孤立してしまう。だからこそこうしてハマーンは焦っている。ナイチンゲールのモニターに映し出される相手、最終調整を担当しているタクヤも必死になって端末を操作している。

 

『ちょい待ち、ちょい待ち、ちょい待ち、ちょい待ち……できたッ!』

「ッ! よくやった。ハマーン・カーン、ナイチンゲール出るぞ! すぐに離れろ!!」

 

 タクヤが親指を立てて合図をよこしたとともにハマーンはナイチンゲールを操作する。タクヤは慌ててその場を蹴り離れる。そしてバナージたちを頼むと通信をよこした。無言で頷くハマーン。彼女の要請でネェル・アーガマのハッチが開く。次の瞬間、白い巨獣が一筋の閃光となって飛び出した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 メガラニカの外壁を突き破り、フル・フロンタルの駆る巨大MAが飛び出してきた。それを追ってユニコーンも続く。巨大MAはユニコーンと相対するために振り返り、その直上から強力なメガ粒子が直撃した。

 

『ハマーンさん!』

 

 その一撃はナイチンゲールの放った大型メガ・ビーム・ライフルのものだ。バナージからの呼びかけにハマーンは「来るぞ」と警戒を促す。視線の先には、Iフィールドで保護され無傷の巨大MAの姿があった。

 

『ハマーン・カーンか。その機体……よくも引っ張り出してきたのものだ』

 

 仕返しとばかりに幾筋ものメガ粒子を放ってくる。それらを回避しながらバナージが仕掛けるが敵のIフィールドはビーム・マグナムすら無効化してしまった。ならばとIフィールドを展開できない瞬間、敵機の攻撃に合わせてナイチンゲールとユニコーンが射撃する。

 

 その攻撃は巨大MAの両脚に当たると思われるプロペラントへそれぞれ直撃。けれどフル・フロンタルは自壊直前にプロペラントを切り離し、なんら戦闘能力に影響を受けていないらしかった。

 

『ガンダムとハマーン・カーンがこの私にそろって楯突くか』

「ふん。やはり貴様は赤い彗星とはほど遠い。やつならそんなデカブツに好き好んで乗ろうとはしなかっただろうさ」

 

 ハマーンの脳裏にゼロ・ジ・アールに乗るのを拒みゲルググを求めた、在りし日の彼の姿が思い出され、苦笑した。

 

『ふむ。一応この機体はネオ・ジオングというのだがね』

「……悪趣味な。貴様はやはり一刻も早くこの世から消え去れ」

『ならば受けて立つまで。ガンダム──そして、ハマーン!』

 

 巨大MA──ネオ・ジオングの背面に何らかのパーツが展開され、巨大な光輪が現出した。さらに何らかの不可視な力場が展開された。その感触を感じ取りハマーンは顔を顰める。

 

「やつめ……いったい何を……むッ!? いかん! 間に合うか!?」

 

 ナイチンゲールの前方に位置取っていた、ユニコーンのビーム・マグナムが突如として赤熱化した。バナージは咄嗟にビーム・マグナムやビームサービルを手放す。それを見て取ったハマーンも即座に行動に移した。

 

 大型メガ・ビームライフルやファンネルなどの搭載武装を放出するとともに腹部メガ粒子砲へのエネルギーバイパスをカットする。次の瞬間、胸部バルカン砲と隠し腕にマウントされたビームサーベルが赤熱化し弾け飛んだが被害はそれだけに留まった。

 

 ネオ・ジオングが放った不可視の力場攻撃。ハマーンの咄嗟の機転がその命を救った。腹部メガ粒子砲に被害が及んでいれば致命傷になりかねなかった。しかしながら、いまだ健在のネオ・ジオングに対し、ナイチンゲールとユニコーンはすべての武装を失ってしまった。

 

 けれど彼女たちが諦めることはない。ユニコーンが正面から。それに呼応するようにナイチンゲールが背面からネオ・ジオングへと徒手空拳で挑みかかる。対してネオ・ジオングも余裕の表れか、正面から格闘戦で迎え撃った。

 

 ユニコーンには大型マニュピレータ2機とネオ・ジオングのコアユニットであるシナンジュ自身の両腕で。ナイチンゲールには大型マニュピレータ4機を背後へ向けて対応する。ユニコーンはがっちり組み合って押し潰されそうになりながらも危うい拮抗を保つ。ナイチンゲールは4方から迫る大型マニュピレータを躱しながら、隙を見て蹴りを叩き込むが思わぬ頑強さに有効なダメージを与えられない。

 

 先に状況が動いたのは正面。バナージの思いに応えるように出力を急増したユニコーンがシナンジュのアームを、ネオ・ジオングの大型マニュピレータを一本ずつ叩き潰し、引き千切る。そしてついにはコアユニットのシナンジュへと手傷を与えた。

 

『ええいッ。仕方ない!』

 

 残るアームはハマーンの対処に回しており手がない。対応に窮したフル・フロンタルは背中の光輪──サイコシャードに頼ることにした。不可視の力場、サイコ・フィールドが展開される。このフィールドの中ではフル・フロンタルの望む脳内イメージや想念を実現・具現化できる。先ほどはナイチンゲールなど敵機の武装に干渉し、暴発させたが今回は──

 

 

 

 ◇

 

 

 

「なんなのこれは!?」

 

 サイコ・フィールドに包み込まれた次の瞬間。ハマーンの目の前からはネオ・ジオングもユニコーンも消え去り、不可思議な空間に漂っていた。そしてまもなく前方へと引きずり込まれ、気づいたときには地球とそこへ赤熱化しながら落下していく巨岩が。

 

「あれはアクシズ……? それにあそこにいるのは……あ、ああ、あああああ!」

 

 落下するアクシズの先端。そこには一機のガンダムがいて、まるで狂気の沙汰か、地球へ落下するアクシズを押し返さんとしていた。サイコフレームの輝きに包まれ、その手にはMSの脱出ポッドのようなものを握っていた。

 

 思わずハマーンが悲鳴を上げたのは、その脱出ポッドからシャア・アズナブルの気配を感じ取ったから。

 

「止めてぇ!! 大佐を連れて行かないでぇぇ!!」

 

 絶叫し、彼を救い出そうとするかのように手を伸ばす。けれど、その手が届くことはなく。次の場面へと切り替わった。ハマーンが気づくことはなかったがそれは陥落・炎上するア・バオア・クー。そして更に場面は切り替わり、MAN-08エルメスと赤いゲルルグがガンダムと戦う場面。その赤いゲルルグからもハマーンはなぜかシャアを感じた。そして。

 

「ドズル……様?」

 

 緑の円盤のようなものから両足が生えたような奇形のMAビグザム。苛烈な閃光をまき散らすそこに戦闘機が激突し、次の瞬間、ガンダムがビームサーベルを突き立てた。意思が散っていく。そこにハマーンは亡き姉の夫にして主人の父親、ドズル・ザビの姿を見た。

 

「これは過去あった光景……? どんどん遡っているの?」

 

 ここまで来てハマーンはようやく理解した。自分は『刻』を垣間見ているのだと。そして光景は今回の事件の始まり、初代連邦首相官邸ラプラスが砕け散るところまで巻き戻った。そこから先は最早意味も分からぬ不可思議な空間をくぐり抜け。やがてただただ寒い絶望の闇に至り──

 

『──それでも!』

 

 誰かの力強い言葉を聞いた気がした。暖かな光が自分を貫いていき。そして次の瞬間──

 

「あ……ああ……あああああああ……」

 

 ハマーンは思わず嗚咽を漏らす。

 

「すまないな。ハマーン」

 

 気づけば彼女の目の前に一人の男が佇んでいた。赤いノーマルスーツ。柔らかな金髪。

 

「私の至らなさからおまえには随分つらい目に遭わせた」

 

 男はその顔を覆うバイザーを外し、困ったような、あるいは寂しそうな表情を向けた。

 

「思えばおまえには押しつけるばかりで、なにも与えなかった。私があのときもっと大人であったなら、いくらでもしてやれることがあっただろうに」

 

 ハマーンにはこれが最後なのだとなぜか分かった。彼は既にこの世のものではなく。これは何かの奇跡で。ほんの僅かな隙間に自分に会いに来てくれただけなのだと。

 

「私を恨んでくれていい」

 

 本当は彼に会えたなら話したいことがいくらでもあった。けれどそれはもう叶わないから。だからどうしても伝えたいことだけ。彼を想った言の葉を。

 

「いいえ。大佐。私はただあなたに恋をしていただけです。それだけで十分幸せでした。だから大佐を恨むことなんてありません」

「……そうか」

「妹には重いなんて気味悪がられてしまいましたけど」

「フフッ。そうか。……ありがとう。ハマーン」

 

 その言葉を最後に彼は消え去ってしまった。ハマーンの頬を滴が伝い、次の瞬間にはもとのナイチンゲールのコックピットにいて、目の前には宇宙空間が広がっていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『ハマーンさん。メガラニカが狙われています。この宙域も危ない。早くネェル・アーガマへ連絡を!』

 

 気づけばバナージから通信が入っていた。言うだけ言って先行するユニコーン。慌ててハマーンも後を追う。あとにはネオ・ジオングの残骸だけが残された。そこから3色の思惟が飛び去ったことを知るものはいない。

 

 ネェル・アーガマの観測機器で調べた結果、ルナツー近傍にコロニーレーザーの存在が判明した。ハマーンにとっても因縁のあるグリプス2である。今のハマーンは知るよしもないが。連邦政府は、あるいはビスト財団はコロニーレーザーをもってラプラスの箱の真実を知るものごとメガラニカを抹消することにしたのだ。

 

『ネェル・アーガマはこの宙域から離脱して下さい。メガラニカ前方にサイコ・フィールドを張ります』

 

 バナージが無謀な提案をする。ネェル・アーガマクルーが口々に無茶だと騒ぐ中、最初にミネバがバナージへ賭けた。インダストリアル7に避難せずメガラニカに残るのだと言う。のみならず必ず成功させ自分のもとに帰るよう約束しろと発破を掛けた。そこにジンネマンが、ダグザが、そして学友たちが乗った。

 

「私も付き合おう」

『ハマーンさん!?』

「サイコマシンは一機でも多い方が良かろう?」

 

 戸惑うバナージへミネバが通信越しに頷いて見せた。

 

 そうしてユニコーンとナイチンゲールがメガラニカ前方へ並び立った。ハマーンとバナージは同時にコロニーレーザーから放たれた奔流の接近を感じ取る。ユニコーンが前へ出て二枚のサイコ・フィールドを張る。その後方へハマーンがもう1枚。直後に閃光が突き刺さった。

 

 閃光はすぐさま第一層を抜き、第二層へ。そこも抜き第三層へ到達し、何とか押しとどめることに成功する。けれどそれはサイコ・フィールドを張る二人へ猛烈な不可をかける危うい拮抗。

 

 二人は苦悶を漏らしながらも耐える。けれど幾条かの閃光が第三層より漏れはじめ、前方に位置取ったユニコーンの装甲に亀裂が入る。次の瞬間。ユニコーンの装甲の亀裂から光の結晶体が何本も突き出した。

 

 それはサイコフレームの結晶体。ハマーンとバナージ、二人のNT。そしてナイチンゲールとユニコーン、2機のサイコマシンによるサイコフレーム共振がこの現象を引き起こした。それはネオ・ジオングの用いたサイコ・シャードと同種のものだった。

 

 サイコ・シャードはバナージの意思に従い、コロニーレーザーを無効化する。やがて閃光の奔流が収まり。ここでハマーンが動いた。何とかコロニーレーザーの第一射は防ぎきったが次がないとも限らない。

 

「ナイチンゲール! おまえが大佐の機体だというなら今こそその力を見せてみなさいッ!!」

 

 ハマーンが吠える。ナイチンゲールをユニコーンの前へ出し、サイコ・フィールドを砲身状に展開。ネオ・ジオングのサイコ・シェード対策でカットしていた腹部メガ粒子砲へのエネルギーバイパスを復旧。全エネルギーを注ぎ込む。

 

 そしてフルチャージ以上の状態で解き放った。回路を焼き焦がしながら励起されたメガ粒子が先ほどレーザーの通過したコースを直進する。本来の有効射程であればとても届くはずのない距離をサイコ・フィールドの増幅によって走破し、グリプス2へと突き刺さった。その返礼の一撃はグリプス2を吹き飛ばすには至らないまでも第二射が不可能になるには十分な爪痕を残すのだった。

 

 

 ミネバからのメッセージ(ラプラスの箱の真実)が響く。メガラニカから世界中へと。そしてその演説をバックに彼らは動き出す。そこには連邦(ロンド・ベル)ジオン(ガランシェール)もなく。メガラニカごと大脱走を開始した。それを追うゼネラル・レビル。大量のMSを吐き出し牙を剥く。

 

 これをユニコーンが出迎えた。その腕の一振りでなぜかゼネラル・レビルのMS隊は動きを止めてしまう。それはまるで魔法のようで。動きもどこか人間を感じさせない異質なものだった。

 

 けれどハマーンは心配しない。なぜなら飛び去ろうとするバナージの思惟を抱き留める父親と、それを迎えに飛び出す少女の思惟に気づいていたから。

 

「……ふふ。これもまた一つのボーイ・ミーツ・ガールか」

 

 こうしてラプラス事件は幕を下ろした。


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