時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC   作:ざんじばる

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エピローグ

『ハマーン様。そいつの調子はどうです?』

「いまのところは何の不満もないわ。これに比べればナイチンゲールはやはり少々重すぎたわね」

『そう言っていただけると俺たちも力を入れた甲斐があります』

 

 MSのコックピットの中、機体を自由に操りながらハマーンは開発スタッフと通信を交わす。現在彼女は、新型MSのテストのため宇宙へと乗り出していた。

 

「本当に自分の手足のようによく動く。反応が自然過ぎて怖いくらい」

『例のMSを連邦に引き渡す前にごっそりいただいたサイコフレームを基礎部分にふんだんに仕込んでますからね』

『もう。連邦とはサイコフレームの研究を封印する協定を結ぶ予定なのに、そんな機体を作って……』

 

 コックピットに新たに通信ウィンドウが開いた。眼下をゆく航宙戦艦メガラニカからのものだった。そこに映るのは彼女の主。新たな玩具にはしゃぐ二人へ苦言を呈してきた。

 

「協定の締結はまだ今しばらくかかるのでしょう、ミネバ様?」

『そう。チャンスは今しかないのですよ!』

『あなたたちと来たらまったく……』

 

 ミネバは頭痛がするとでもいうように眉根を寄せて目を閉じ、額に手を当てた。

 

 ラプラス事件が集結し、ミネバ一行はメガラニカごと逃亡生活に入った。そうしてまもなく。サイド3の辺境に身を寄せて、ひとまずの安定を得た。そこに合流してきたのが、ナイチンゲールの提供でハマーンを支援をしたジオン穏健派のMS開発チームだった。

 

 ミネバはてっきりジオン共和国の資産であるナイチンゲールの回収にきたものだと思っていたのだが、彼らはなんと到着するなりナイチンゲールなど見向きもせず、ハマーン専用の最強MSを作りたいなどと宣った。

 

 その時点でミネバたちが保有するMSは封印予定のユニコーンに、大破したシルヴァ・バレトと連邦に引き渡す予定のバンシィのみ。独立勢力として立つために戦力が少しでもほしいところ、彼らはどこから見つけたのかスポンサーまでついていて資材は自前で調達するという。断る理由がなかった。なので好きにさせた結果がこれである。

 

 AMX-414。キュベレイの設計をリファインして開発されたその機体は、けれど中身はもはやオリジナルとは完全に別物と化している。ジェネレーターは当然最新式のものを採用。そしてムーバブルフレームは先の開発スタッフの言葉通りふんだんに、いやそのほとんどがサイコフレームでできていた。

 

『ユニコーンやバンシィの危険を訴える私たちがなんという……』

 

 沈痛な様子のミネバに、けれど開発スタッフは気楽に言う。

 

『大丈夫ですよ。フルサイコフレームじゃないですから。別物です。別物』

『95%はサイコフレームじゃないですかッ! あからさまな協定逃れの分、余計に質が悪い!!』

 

 姫様キれる。開発スタッフの方は「その5%が重要なのです。偉い人にはそれがわからんのです」などとどこ吹く風だが。ミネバは最強を目指すなどというMS開発者のエゴを甘く見ていた。そして何より誤算だったのが。

 

『ハマーンも。あなたが彼らを諫めないでどうするのです!』

「あ……いえ。ミネバ様。ですが、No.1を目指すというのは技術の進歩のためにも重要なことでして……」

 

 腹心の部下が意外に乗り気だったことだ。過去にはMS開発のテストパイロットも何度かこなしていたこともあり、また凄腕でもある彼女にとって、当代一の高性能MSを造り上げるというのはなかなかに興味を引かれるものがあった。結果サイコミュの調整も率先して行っていた。

 

『この機体はインテンション・オートマチック・システムとファンネルを同時搭載した初のMSでして──』

 

 などと得意げな開発スタッフの自慢話が続く。ネオ・ジオング? あれはMSじゃねぇ。

 この様子にはさすがのミネバも処置なしと諦めた。話題を変える。

 

『ところでハマーン。このMSの名前はなんとしたのですか?』

「ペーセフォネーと。AMX-414ペーセフォネーです」

『ペーセフォネー……冥界の女王ですか。あなたが駆るそのMSはきっとその名前に恥じぬ活躍をするのでしょうね』

「そのような機会がないに越したことはないと分かってはいるのですが……」

『よい。備えることがそなたの職分と理解しています。必要と思う限りのことをやりなさい』

「はい。ありがとうございます」

 

 言うべきことは言ったということか。ミネバの通信ウィンドウが閉じた。お目付役がいなくなったことに大きく息を吐く二人。開発談義に戻る。

 

「インテンション・オートマチック・システムを搭載している? でもユニコーンのような爆発的な機動性は発揮しないわね?」

『あんなのは強化人間の耐久性を前提にした無茶すぎる仕組みですよ。ハマーン様にあんなものは使わせられません。AMX-414ではあくまで人機一体というレベルに制限してあります。学習コンピュータがパイロットの限界値を見極めながら上限値を引き上げるようにはしてありますが』

「制限の解放はできないの? 緊急回避時にはあれも有効だと思うけど」

『……念のためパイロット側からリミッターカットできるようにはしてあります』

「なるほど……システム。リミッターカット」

『ちょ!? ハマーン様!?』

 

 モニター上にシステムからのメッセージ。ハマーンのリクエストに従いインテンション・オートマチック・システムのリミッターが解除、全機能が解放されたことを告げている。その状態でスロットを開けた。

 

 それまでとはペーセフォネーの動きが一変した。ハマーンが脳裏に描いた動きをトレース、いや先読みして再現する。ターン・ストップ・再加速。俊敏すぎる反応がパイロットに限界を超えたGを課す。それを歯を食いしばりながら御すハマーン。

 

 ハマーンには自負があった。優れたMSパイロットとしての。バナージ・リンクス(素人)にできて自分にできないことなどあってたまるかという無意識下での対抗意識が彼女を奮い立たせ。その苛烈な意思にサイコマシンは応える。

 

 リミッターが解除されたことで解放されたのは機動性の劇的向上だけではない。システムを介して直結されたサイコフレームがハマーンの意思に呼応して励起する。励起されたサイコフレームが拡張。合わせて展開した装甲の下から露出する。

 

 ペ-セフォネーが菫色の燐光を放った。サイコフレームの覚醒に伴いさらなる性能を発揮する。それは同時に操縦者にさらなる負担を強いる諸刃の刃で。けれどハマーンの空間認識能力を圧倒的なまでに拡大していた。

 

 リアスカートに格納されたファンネルが解放される。それらはすぐさま行動に移った。それはもはやハマーンが指示を下したというレベルですらなく、彼女の願望を独自に汲み取って自律行動しているのに近い──先の試験で放出されたまま周囲を漂っていたターゲットドローンを一斉に火の玉へと変えた。

 

 役目を終えたファンネルたちは親機へと速やかに帰還する。そうしてようやくペーセフォネーは動きを止め。いつの間にか放つ燐光は菫から碧へと色味を変えていた。その機体をサイコフィールドが包んでいる。

 

『ハマーン様! ハマーン様、何が起こっているんです!?』

 

 コックピット内に響く通信にハマーンは疲労から俯いていた顔を上げる。モニターに映る星々の瞬きが滲み、歪んでいた。リニアシートに座るハマーンの足下から碧色の光が漏れ出す。その光はどこか暖かく。

 

「あ。これ……前に見たことある……」

『ハマーン様!? ハマーン!!』

 

 ハマーンの呟きに不穏なものを感じた開発スタッフはがなるように呼びかけた。けれど次の瞬間、彼女は完全に光に包まれ、何も見えなくなった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「この踏み込みはっ!」

 

 RGM-79Vジム・ナイトシーカーは激しく旋回しながら敵機とビームライフルを撃ち合う。そのコックピットの中でヴァースキはうなった。敵機が撃ち合いを止め、接近戦の間合いへと踏み込んできたのだ。

 

 その思い切りの良さにヴァースキも自然と野性的な笑みを浮かべる。臆することなく自機にもビームサーベルを握らせ応じた。交錯するビームサーベル同士がスパークを起こす。

 

「迷いがない……イングリッドはシャア・アズナブルと言っていたが」

 

 その赤いMSの動きの良さに感嘆していた。と同時に不思議なものを感じる。

 

「こいつ本当にあの金ピカを操っていた男なのか?」

 

 彼の雇い主の義理の愛娘が喝破した目の前のMSのパイロット、元ジオンのトップエース、赤い彗星シャア・アズナブル。その人物とヴァースキは以前の戦争で実際に矛を交えたことがあった。強化人間であるイングリットの直感を疑うわけではないが、そのときの印象と今相対する敵とではあまりに差があった。

 

 切り結び、離れてもバルカンで、シュツルム・ファウストで、ビームライフルで。火線を交わし続ける。極上の相手に、ヴァースキは試作ライフルの加熱の早さをもどかしく感じていた。

 

 サラミスの残骸たちの間を駆ける二機。試作ライフルのオーバーヒートにより、どうしても敵機に対して火力で劣るヴァースキ機。けれど時折、援護するように赤いMSへ長距離射撃が襲い、均衡を保っていた。

 

「気づかれたか!」

 

 ジム・ナイトシーカーの射撃頻度の甘さに悟ったのだろう。赤いMSが大胆に踏み込んでくる。ぎりぎり放熱が済んだライフルを放つ。だが、苦し紛れの一撃は敵機のシールドを貫いただけだった。

 

 クロスレンジ。ジム・ナイトシーカーが先に斬り掛かる。赤いMSは紙一重、機体を入れ替えるように躱した。間髪おかず蹴りつけてくる。ヴァースキはその衝撃を無視してバックブースト、背面から体当たりを敢行した。

 

 背中合わせに交錯する二機。衝突。反発。その勢いのまま同時に旋回をかけ、先にライフルを突きつけようと──

 

 

 次の瞬間、空間が歪んだ。

 

 

「なにっ!?」

『これは……?』

 

 不可視の力に無理矢理引き剥がされる両機。意味不明の事態に戦闘が途切れた。互いに何が起きたのかと間の空間を注視する。そこには見たことのない碧色の燐光だけが漂い。いや、忽然と一機の巨人が現れていた。

 

 それは白亜のMS。他のMSとは一線を画す優美なシルエット。曲線を折り重ねて造ったような装甲。その装甲の隙間から碧光は漏れ出していた。ジム・ナイトシーカーに搭載されたコンピュータが不明機の解析を行う。コンピュータがはじき出した答えは。

 

「かっはっ!」

 

 哄笑とともにヴァースキはスロットは押し込んだ。不明機へと躍りかかる。

 

「亡霊だか何だか知らんが借りは返させてもらうっ!」

 

 モニターには『解析適合率70%:AMX-004』と表示されていた。今気づいたとでもいうように不明機のメインカメラがジム・ナイトシーカーを捉えた。不明機はふわりと身を翻す。そのともすればゆったりとした動きだけで、ヴァースキの鋭い斬撃を紙一重に躱す。不明機の右腕がジム・ナイトシーカーを押し留めるかのようにかざされる。その袖口からは鈍く光る銃口が覗いていて──

 

『そいつやばいよ! 離れて、おっちゃん!!』

 

 不明機は必殺の反撃を放つことなく回避を打った。メガ粒子が不明機のそばを突き抜けていく。イングリットのヘビーガンが放った援護射撃だ。そのままこちらへ突っ込んでくる。

 

「よくわかっているさ、姫。このプレッシャー、そうそう忘れられるものかよ……何の冗談かは知らんがっ!」

 

 イングリッドの介入により一生を拾ったヴァースキも躊躇うことなく突っかける。不明機と敵対した瞬間から放たれる重苦しいプレッシャー。ヴァースキにはよくよく覚えがあった。それは彼にとってシャア・アズナブルなどよりよっぽど因縁深いものだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「さてどうしたものか……」

 

 専用ディジェの中で彼は独りごちた。希に見る好敵手に心踊らせていた。つい先ほどまでは。けれどその連邦の新型機とガンダムは、不明機が割って入るや否やそちらと遊び始めてしまった。半ば取り残される形になってしまった彼はここからどうするべきか思案していたのだ。

 

 あの不明機は、まあおそらく友軍のものではない。彼の部下からもそのような報告は受けていないのであるし。何なら割って入って、まとめて相手してもいいのだが。

 

 だが、どこか見たことあるMSに、どこか覚えのあるプレッシャー。かつて鬱屈したまま戦場にあった自分を叩きのめした彼女に似たその相手。それがあまりにも不可思議な現れ方で目の前にいるのだ。結局、見に回ってしまっていた。

 

 MSもパイロットも尋常ではないものであるらしい。自分と渡り合っていた連邦の新型機とガンダム。さらに腕利きの狙撃手に、これまた一流と見える後から加わったゲルググとギャンまで加えて、まとめて散々に痛めつけ、追い散らしてしまった。

 

 これは自分でも一対一では危ないかも知れない。そう感心していると、やがてその不明機はこちらへ向き直る。そしておそるおそるとでもいうようにこちらへ近づいてきた。敵意は感じられず、どこか戸惑っているように見える。興が乗った彼はその不明機へ通信を入れてみることにした。

 

「さて。助力は感謝するが、君はどこのだれなのだろうか?」

 

 その問いかけに応えたのは。

 

『大佐…………?』

 

 やはりどこかで聞いたことのある少女の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続かない。




セラーナ「姉さん新型機の名前どうせならアルテミスかヘスティアーにすればよかったのに」
ハマーン「なんで?」
セラーナ「どっちも永遠の処女し——うぼぁっ」(殴打音)

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