時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC 作:ざんじばる
「なんだ……ありゃ……?」
宇宙空間が歪むという不可思議な現象。その中から現われたモビルスーツを見てインダストリアル7から救出されて今は連邦軍の戦艦、ネェル・アーガマにいる少年、タクヤ・イレイは驚きの声を上げた。
「モビルスーツなのか? …………あの機体……もしかして? でも、まさか。しかも白……嘘だろ……? ガンダムに続いてなんだよそりゃ……」
タクヤはアナハイム工専に通うモビルスーツマニアである。そのタクヤをしても、その不明機が何なのか即座には理解できなかった。マイナーな機体だったというわけではない。むしろかなり著名な機体の一つだろう。しかし、それは今や存在するはずのない機体だった。
そのモビルスーツに衝撃を受けたのはタクヤだけではなかった。むしろ一番大きな衝撃を受けたのはその隣にいた少女。エメラルド色の瞳に落ち着きのある理性と高貴さを秘めた神秘的な美少女、オードリー・バーンに違いなかった。
「―――キュベレイ……」
彼女の口からそのモビルスーツの名前が呟き漏れる。
AMX-004、キュベレイ。サイコミュ兵器ファンネルを搭載し、グリプス戦役から第一次ネオ・ジオン抗争にかけて猛威を振るった高性能モビルスーツだ。しかもカラーリングが白となれば一層特別な意味を持つ。
「馬鹿な……彼女はとうに亡くなったはず…………それが、なぜこんなところに」
オードリーの呟きの通り。純白のキュベレイ、その唯一のパイロットはハマーン・カーン。第一次ネオ・ジオン抗争を主導した彼女とともに、7年前に散ったはずの機体だった。
どこかの酔狂者が、同型機をどこかから持ち出して、同じカラーリングを施したとでもいうのだろうか。その上で開けば連邦が滅びると言われる『ラプラスの箱』を巡って、ロンド・ベルとネオ・ジオンが争う鉄火場にわざわざ持ち込む?
オードリーにはまったく理解できないことだった。けれどそんな彼女をよそに事態は勝手に進行する。四枚羽のモビルスーツがその不審機を撃墜すべくファンネルを放ったのだ。一切の反応を見せず、宙を漂う無人の残骸かと思われたそれは、突如起動すると間一髪、身を捩ってビームの雨を躱し、そのまま追撃をかける四枚羽と戦闘に入った。
そして、端から見ても五分に戦い、四枚羽を追い返すことに成功したのだった。
これは尋常なことではない。オードリーは四枚羽のモビルスーツをよく知っていた。そのパイロットもだ。彼女たちの組み合わせは現在のネオ・ジオンでもNo.2。それも以下を大きく引き離して、だ。
実際、直前のガンダムとの戦闘では押されていたものの、その前のロンド・ベルとの戦闘では一方的に撃破を重ねていた。その彼女とファンネルまで駆使して渡り合える。この時点で相当強力なNTであることは間違いない。
「まさか……本当に、彼女なの…………?」
ワインレッドの髪をボブヘアーにして風になびかせていた彼女。オードリーにとっても因縁深い相手だ。幼少期、彼女は自分と共にあった。自分に尽くしてくれてはいたけれど―――
オードリーが回想に沈む内に、事態は次なる展開を迎えていた。四枚羽の戦闘宙域離脱と同時にガンダムが再び動き出したのだ。ビームサーベルを握りしめると突貫する。なんという性能か。かなりの距離があったはずが、あっという間に踏破してキュベレイへと斬りかかった。
キュベレイの反応は完全に遅れていた。四枚羽に意識を集中していたのだろう。それでも然る者。咄嗟にガンダムに組み付いて振り下ろされるビームサーベルを押し留めようとする。次の瞬間両者が激しく激突した。文字通りの激突だ。
ガンダムはほとんど勢いを殺すことなく、キュベレイを押し込んだ。猛スピードでの激突だ。キュベレイのコックピットがとんでもない勢いでシェイクされただろうことは想像に難くない。そして、やはり激突の衝撃でパイロットが意識を失ったのだろうか。キュベレイのツインアイが光を失い、機体から力が抜けた。このままでは次の瞬間にもガンダムに叩き切られるだろう。けれど。
――待ってッ。彼女を殺さないでッ。
そんなオードリーの祈りが通じた訳ではないだろうが、なぜか次の瞬間、ガンダムもメインカメラから光が失せ、展開していた装甲やアンテナを順次収納。もとの一本角のモビルスーツへと姿を戻した。まるでガンダムのパイロットも意識を失ったかのように、ただキュベレイと組み合った姿のまま宇宙空間を漂う。
一切の挙動を見せず沈黙した二機にロンド・ベル所属の可変モビルスーツ、リゼルが慎重に接近していく。共に
搭乗者の名前と所属、戦闘目的を明らかにするよう呼びかけるが一切反応がない。仕方なくネェル・アーガマブリッジの許可を受けた上で、鹵獲作業に移った。結局ネェル・アーガマに収容されるに至っても、何のリアクションもないのだった。
◇◇◇
「失態だな。スベロア・ジンネマン。ラプラスの箱を手に入れられず、姫様の身もお助けできなかったとは」
ネオ・ジオンの偽装貨物船、ガランシェールの中では通信が開かれていた。詰問するのはアンジェロ・ザウバー大尉。詰問を受けるのはガランシェールの艦長、ジンネマン大尉だ。ジンネマンの背後では、戦場からともに離脱してきたマリーダも待機している。
不測の事態発生を告げ、静観することを進言するジンネマンに苛立ちを隠さないアンジェロ。その彼と入れ替わる様に、バイザー型の仮面を着けた豪奢な金髪の男が現われた。現ネオ・ジオンの首魁フル・フロンタル大佐である。
「マリーダを退けたという敵、ガンダムともう一機だと聞いたが?」
「正確にはもう一機の方、単独で、です。もう一機が出現して以降はガンダムは静観していました」
「ほう。興味深いな」
「クシャトリヤの戦闘データから、そちらについては機体が判明しています」
「ふむ。勿体ぶらず教えてくれ。ジンネマン艦長」
「AMX-004。キュベレイです。それも白の」
予想外のモビルスーツの名に沈黙が流れる。次に口を開いたのはアンジェロだった。
「ふざけるなッ! ジンネマン!! 貴様、亡霊が出たとでも言うつもりかッ!!」
「落ち着け、アンジェロ。……ジンネマン艦長、それは確かかね?」
激高するアンジェロを窘めながら、ジンネマンに再度確認するフル・フロンタル。少なくとも表面上その様子は平静に見えた。
「間違いありません。接触次第、戦闘データをお引き渡ししますので、そちらでも確認いただけるかと…………ちなみに、現在我々の保有戦力にAMX-004は?」
「無いな。もちろん連邦が持っていたとも考えにくい。そもそもAMX-004の生産数は記録を見る限り3機だけ。その全ての喪失が確認されているし、出てきたのは量産型では無かったのだろう?」
「はい。…………しかし戦闘データを確認した限りでは、グリプス戦役当時のスペックと変わらないように見えます。当時の機体がアップチューンするでもなく新造された、というのは少々……」
「不可解か。確かにな」
ジンネマンの話は段々と核心へと移った。
「何より、そのキュベレイは当時のままと思われるスペックで、マリーダの操るクシャトリヤと渡り合っています。ファンネルも不足無く操った上で、です。少なくともパイロットが強力なNTないしはそれに準ずる強化人間であることは間違いありません」
「白のキュベレイに強力なNTか……」
もたらされた情報に考え込むフル・フロンタル。次に顔を上げた彼はマリーダへと問いかけた。
「マリーダ。直接対峙した君に聞きたい。どうだったかね? そのキュベレイのパイロットの印象は?」
「ハマーン・カーン。……あのキュベレイから感じたプレッシャーは、あの時の戦場を覆っていた思念と非常に近いものと感じました」
率直に答えたマリーダ。誰もが予感し、けれど考えたくなかった答えに沈黙が降りる。その沈黙を破ったのはまたもアンジェロ。あまりにも不合理なその回答に、叱責を浴びせようとして。
「ははは」
直後、首魁が上げた笑い声に、力を失い消えた。なおも笑いながら仮面の男は言い放つ。
「赤い彗星の再来に、新たなガンダム。そして再び現われたハマーンか。実に面白いじゃないか。ははは」
沈黙の場は打って変わってその男の笑い声に満たされた。そして笑いを収めた男が続けて口を開く。
「それでマリーダ。君が離脱した後、キュベレイとガンダムはどうなった?」
「ガンダムがキュベレイに襲いかかったように見えました。そこでセンサーの有効範囲から出てしまいましたので、その後どうなったかは分かりかねますが」
「ほう? その二機は味方というわけではないのか。ますます興味深いな。 ……ジンネマン艦長、その後どうなったと思うかね? 現場の意見を聞かせてくれ」
「ガランシェールのセンサーではその後、戦闘の継続は観測されていません。ガンダムが即座にキュベレイを破壊して、その後連邦の戦艦に収容されたか。あるいは直後に停戦、二機とも収容されたか。ですな」
「ふむ。ガンダムが返り討ちに遭った可能性はないのかね? 相手はハマーンの再来だぞ?」
「キュベレイはマリーダと渡り合いましたが、ガンダムはマリーダを圧倒しました」
「なるほどな。キャプテンの考えは分かった」
そこでフル・フロンタルは再び思考に時間を割き、そして結論を出した。
「私が出るしかないかもしれん。ガランシェールは連邦の戦艦の動向を探れ」
「はッ。この失態、一命に懸けて償う所存であります」
硬いジンネマンの態度を解すようにフル・フロンタルは最後に言った。
「過ちを気に病むことはない。ただ認めて次の糧にすればいい。それが大人の特権だ」
ということで、未確認モビルスーツとそのパイロット、”初”公開です(棒)
なぜ彼女がこの場に現れたのかについては、書きかけで放置している下記作品の一話を参照いただければと思います。
https://syosetu.org/novel/147597/
行き先が変わったということで一つ。