時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC   作:ざんじばる

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ミネバ様の指導者ムーブ。
そして時を超えた主従によるハートフルストーリー。


あなたが必要です

 ネェル・アーガマ艦橋。赤い彗星の再来、フル・フロンタルの襲撃により加速度的に被害を拡大していくなか、ブリッジクルーは対応に追われ喧噪に満ちた空間になっていた。だれもが殺気立ち、自分の持ち場で奮闘している。そんな中。格納庫より一本の通信が入った。

 

「はいッ。こちらブリッジ。どうしましたッ? ……は? 何を言ってる!? はぁッ!?」

「なんだ! どうした!?」

 

 通信士がなにやら格納庫とやり合っているのを聞き咎めて、艦長のオットー・ミタス大佐が声をかけた。通信士は何やら困った顔で艦長席のオットーを見上げる。いいから早く言えとばかりに顎をしゃくるオットー。それに通信士はおずおずと答えて。

 

「その、格納庫からモビルスーツをもう一機だすからオペレートを頼むと」

「はぁ? 出せる機体はとっくに全て出しとるだろう!?」

「それがインダストリアル7で拾ったAMX-004を出すと」

「AMX-004?」

「キュベレイのことです。艦長」

 

 型式で言われてピンとこないオットーを副長のレイアム・ボーリンネア中佐がフォローする。オットーは言われんでも思い出したとでもいうかのように表情を歪め。

 

「出すったってパイロットがおらんだろうが!」

「それがその……もともと乗っていた少女を乗せて出すと」

「はぁ!? 身元不確かな、それも未成年を出撃させるなんて誰が許可した!? 俺は知らんぞッ!!」

 

 ありえない事態にオットーが吼える。それに対して。

 

「私が許可しました」

「は……?」

 

 答えたのは、ブリッジの扉を開けて戻ってきたミネバだった。

 

「正確には私が彼女に指示して、コンロイ少佐にモビルスーツデッキへの根回しをお願いしました。少しでも戦力が欲しい状況でありましょう?」

 

 ミネバの後ろから、コンロイが続き、オットーやダグザに対して頷いて見せた。が、オットーはミネバの行いに怒りを見せた。バナージに続いて今度は少女だ。もはや我慢ならなかった。

 

「プリンセス。あんたがどれほど偉いかしらんが、無関係の未成年を戦場に放り出そうなど非道なことを―――ッ」

「彼女は私専属の護衛です。問題ありません」

 

 怒りの台詞を途中で遮られ、パクパクと口を開け閉めするオットー。ミネバの言葉はオットーが言おうとしたことを先回りして否定していた。だからこそ次の言葉が出てこず。一拍開けてから反論するという格好悪いことになった。

 

「なるほど。ですが、この状況で彼女に裏切られでもしたら、この艦は詰むんですがねぇ。その時はプリンセスにも運命を共にしてもらいますよ?」

「ありえません。彼女は私”専属”の護衛だと言いました。彼女には連邦もネオ・ジオンも関係ありません。私の指示や私を守るためであれば相手がなんであろうと戦います。先の戦闘で四枚羽相手にそうしたように」

「結構。その言葉を信じましょう。……おいッ。発艦許可を出してやれ!」

「いいんですか?」

「いいさ。プリンセスがここにいるんだ。万が一裏切られても状況はそう変わらん!」

 

 オットーが怒鳴るように指示を出し、慌てて通信士がインカムを握った。格納庫へと許可を出し、やがて破損したカタパルトの上に特徴的なモビルスーツが現われる。AMX-004、キュベレイだ。

 

 艦内に緊張が走る。オットーの言うとおり、この状況でキュベレイがネェル・アーガマに武器を向けるようなことがあれば、そこで勝敗は決してしまうからだ。けれどブリッジクルーの不安をよそに、キュベレイは背を向けると、宇宙空間へと飛び出していった。

 

『キュベレイ、出ますッ!』

 

 耳心地の良い少女の声が艦内に響く。同時にブリッジに安堵の空気が流れた。ひとまず武器を向けられることはなかったらしい。一息ついたところでオペレーターのミヒロが振り向いて問いかけた。

 

「彼女のことは何と呼べば? 管制に必要ですので」

 

 その目がミネバを見ている。それに対してミネバはあっさり答えた。

 

「ハマーンと」

 

「「はぁッ!?」」

 

 ブリッジに驚愕の声が響く。誰もがみな思考停止に陥って。

 

「単なるコードネームです。深い意味はありません」

 

 続けてミネバが言った台詞に、「なんだそりゃ」と弛緩した空気が流れた。「悪趣味な……」という呆れの声も聞こえる。

 

 

 ブリッジに白けた空気が流れている内にも外の状況は刻一刻と変化していた。

 

「あの子……すごい…………」

 

 後詰めの位置にいたギラ・ズール二機に仕掛けたキュベレイは、最初の交錯でビームサーベルを突き立て一機を撃破。続けてもう一機に挑むと、今度は堅実に得物を奪い、その上で手傷を与えて後退させた。

 

 一方、シナンジュはガンダム化したユニコーンとリディが追い詰めつつあった。ここにハマーンのキュベレイが加われば撃退も十分可能。そう思われた。一転ブリッジは活気づき、けれど次の瞬間、重苦しい沈黙が満ちた。

 

 シナンジュに手傷を負わせたことで油断したのか、ユニコーンが突出し、誘い込まれて四枚羽に鹵獲されてしまったのだ。

 

『ごめん……オードリー……』

 

 意識を失う間際に呟いたバナージの言葉がブリッジに響き、クルー達はやるせない思いに俯いた。リディのリゼルはパワーダウンのため追えず、キュベレイの前にはシナンジュが立ちはだかった。もはや強奪されるユニコーンをただ見送るしかできないと誰もが思った。

 

「ダメッ! ハマーンさん戻ってッ!?」

 

 けれどただ一人、そうでないものがいた。キュベレイがシナンジュへと突進したのだ。ミヒロが半ば悲鳴のように叫ぶ。ハマーンのその行為はあまりに無謀に思えた。敵はリディを除くネェル・アーガマ直援部隊全てを単機で撃滅し、ユニコーンを罠へと誘い込んだ魔人のような相手なのだから。

 

 けれど。

 

「すごい……」

「あの赤い彗星の再来と渡り合ってやがる……」

「何者なんだ。あのパイロット……」

 

 白と赤のモビルスーツは一進一退の攻防を繰り返す。ビームサーベルを振るい、躱し、ヒラリヒラリと舞い続ける。それはまるで軽やかな舞踏のようにも見えた。お互いの命を本気で奪おうとするからこそ輝く危険な舞踏。

 

 永遠に続くかと思えたその時はやがて終わりを迎えた。キュベレイが放ったこれまで以上に鋭い斬撃がシナンジュの装甲を掠めたその直後。十分に時を稼いだと判断したのか、シナンジュは一筋の赤い流星となって戦場から去って行ったのだ。

 

 

 戦闘が終わり、ハマーンの奮闘からの興奮が冷め、再びバナージが掠われたことを思い出したのか、ブリッジを沈痛な空気が覆う。そんな中ミネバはそっとブリッジを出た。一路格納庫を目指す。本当はバナージのことをただただ嘆いていたかったが、彼女にはやらなければいけないことがあった。

 

 格納庫の片隅でそっと待つ。まずはリゼルが帰投してきた。機体から降りてきたリディは足早に格納庫を後にする。彼も周囲の整備士も生還を喜ぶ雰囲気ではなかった。当然か。ほとんど全てのパイロットが戦死し、勇敢な少年が奪われたのだから。

 

 やがて今度はキュベレイが帰投する。ハマーンが降りてきて、あれやこれや整備士に注文をつけた後、その場を少し離れ手持ちぶさたに周囲をキョロキョロしている。見知らぬ連邦の艦でどうしていいか分からないのだろう。

 

「ハマーン。こちらへ」

「あ。ミネバ様」

 

 ミネバの目的はハマーンだった。近寄って声をかけ、自分に付いてくるように言う。ハマーンを引き連れて格納庫を出た。向かうのは、ネェル・アーガマに救助されて案内された部屋の区画。並びの部屋に適当に入る。思った通り、そこは来客用の部屋で誰もいなかった。

 

「ハマーン。これから手短に状況を説明します」

 

 部屋に据え付けられた端末を起動し、ハマーンを手招くミネバ。ハマーンを連れてきたのは、一度この辺りで事情を話しておく必要があるだろうと考えたからだった。自分がどういう状況に置かれているのか理解させておかないと危険でしょうがない。

 

「あ、はい。ありがとうございます。ミネバ様」

「礼は不要です。これを見てください。聡いあなたのことです。だいたいのことはこれを見れば分かるでしょう」

「はい? これは…………?」

 

 ミネバが表示した情報をのぞき込むハマーン。そこに表示されているのはここ20年ほどのできごとをまとめたサイトだった。斜め読みしていくハマーン。

 

 U.C.0080 一年戦争終結。

 U.C.0083 デラーズ紛争。

 U.C.0085 30バンチ事件。

 

「えッ……?」

 

 U.C.0087 アクシズ地球圏帰還。

         ダカール演説。

 U.C.0088 グリプス戦役終結。

         ネオ・ジオン結成。

 

「これは……いったい……」

 

 画面の表示を切り替えるハマーンの顔がみるみる青ざめていく。無意識のうちに遠ざけていた可能性を真正面から叩きつけられて。

 

 U.C.0088 ダブリンへのコロニー落とし。

 U.C.0089 ハマーン・カーン戦死。

         第一次ネオ・ジオン抗争終結。

 

「私が死んだ……?」

 

 その無機質な文字の羅列を見て、ハマーンは引きつった笑みを浮かべながら自分の死を知る。大罪人とされ、そのあまりにもあんまりな最後を。そしてそれは彼女だけではなく、彼女の思い人も同じ。

 

 U.C.0092 シャアによるスウィート・ウォーター占拠。

 U.C.0093 5thルナ落下。

         アクシズ落とし。

         シャア・アズナブルMIA。

         第二次ネオ・ジオン抗争終結。

 

「……そんな……大佐まで」

 

 無言で端末の画面を落とすハマーン。ゆっくりとミネバへと向き直った。悲愴な表情で、蜘蛛の糸に手を伸ばすかのような心持ちでミネバに問う。

 

「ミネバ様……これ、嘘ですよね? きっとなにかの冗談。手の込んだ悪戯です、こんな……だってこんなことあるはずが……」

 

 ミネバにはハマーンがなんと答えて欲しいのか、手に取るように分かっていた。けれど、ミネバには現実を突きつけることしかできない。ハマーンにはなんとしても乗り越えてもらう必要があったから。

 

「いいえ。その情報は全て事実です。今は宇宙世紀0096年。この世界のあなたも、そしてシャア・アズナブルももう死んでいます」

 

 ミネバの言葉に、ついにハマーンの瞳から大粒の涙が零れ出す。そして声を荒げて否定した。

 

「嘘ッ! 嘘です! そんなこと! そんなことあるわけ!!」

「この私が何よりの証拠です。私は今16歳。あなたがいた時代から10年以上の時が流れているのです」

 

 ミネバはいっそ残酷なまでにハマーンに事実を突きつけていく。いかに彼女が泣いて否定しようと、ただただ事実を提示し、現実を認めることを迫る。けれど。

 

「そんなの……嫌ぁ…………」

 

 紫水晶の瞳が光を失う。華奢な体から力が抜けた。糸が切れた人形のようにその場へへたり込んだハマーンは、消え入るような声で拒絶の言葉を紡ぎ、そして。その瞳はもう何もみてはいなかった。

 

 ミネバは息を飲む。目の前で人が壊れていくところを初めて見てしまったから。そのあまりに無残な姿に言葉も出なかった。

 

 ミネバはやり方を間違えたのだ。ハマーンが自分と同年代の少女としてそこにいるという本当の意味を分かっていなかった。けれどミネバを責めることは酷かもしれない。彼女にとってハマーンとは強い女性の象徴ような存在だった。頭では今のハマーンが年若い少女にすぎないと分かっていても、無意識には常に女帝としてのあのハマーンの姿があった。

 

 考えてみればミネバは少女時代のハマーンをよく知らなかった。ミネバとハマーンの間には常に13年もの時の厚みが横たわっていていたのだから。少女時代のハマーンも幼いミネバにとっては常に凛とした姉貴分の存在だった。17歳のハマーンが今の自分とは違い、帝王学も知らない、まだ繊細な小娘にすぎないことを分かっていなかったのだ。そして、ハマーンがどれほどの苦難と、懊悩と戦って、あの支配者然としたパーソナリティにたどり着いたのかを理解していなかった。

 

 だから今回のことも、あの女帝然とした強さで乗り越えてくれるものだと見誤っていた。その結果がこれだ。目の前には、うち捨てられた人形のような哀れな少女。

 

 ミネバは自分が為したことに恐怖した。たやすく一人の少女を壊してしまったことに。けれど、人を率いる者として受けた教育が、その意思が、常人のようにただただ後悔に立ち止まっていることを許さなかった。

 

 それにこれはこれで都合のいい状況でもあった。この世界に根をもたない少女を自分に依存させ、自由に使い回すことができる。そんなことを考えてしまう自分に嫌悪しながらもミネバは呼びかけた。

 

「ハマーン」

 

 主の声に機械的に反応して、少女は顔を上げ虚ろな瞳を向ける。その瞳をしっかり見返しミネバは続けた。

 

「何が起きたのかは分かりません。けれどあなたはこうして時を超えてきてしまった。この世界にあなたのような存在は他に無く、あなたが置かれた境遇をだれも理解できないでしょう」

 

 その深く沈んだ瞳は揺れない。ミネバが淡々と語る、あまりに悲劇的な自分の状況をただただ受けて入れていた。

 

「ですが、ここには私がいます。私だけはあなたのことを知っている。私がこの世界に寄る辺の無いあなたに生きる意味を与えます。ハマーン。この私に付き従いなさい。それがきっとあなたがここへ現われた理由です。私はあなたを必要としていますよ」

 

 絶望に墜ちた稀代の少女は、世界に縛られた少女の言葉に無表情のままただ頷いた。

 




まとめ。

ミネバ「女帝やし、酷な事実も全然OKやろ」
ハマーン「ちょ。おまッ…あばばばば」
ミネバ「やっべ。今のこいつクソ雑魚メンタルやったわ」
ハマーン「ちーん…」
ミネバ「ま、ええか。おう、お前はなんも考えんとわしの言うこと聞いとったらええねん」
ハマーン「ジーク・ミネバ‼ /)`;ω;´)」

大体こんな話。

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