時の流れを越えてやってきた17歳のハマーン様UC   作:ざんじばる

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心温まる前話から打って変わって今回は推理パートです。
連邦とネオ・ジオン、それぞれの勢力から登場した二人の探偵がハマーン(17)(時かけ)というミステリーに挑む。
果たして先に真実にたどり着くのは。
少々(当社比約二倍)長くなりましたが分割なしでお送りします。
お楽しみあれ。


探るものたち

『ジンネマン艦長。マリーダとガンダムの収容は完了したかな?』

 

 ネェル・アーガマ周辺の戦場から離脱したフル・フロンタルはガランシェールへ連絡を入れた。

 

『はッ。おかげさまでつつがなく。現在はパラオへ帰投する航路にあります』

『そうか。なによりだ。ところでキャプテン。私もこのままそちらへお邪魔していいかな』

『は? もちろん歓迎いたしますが、何かございましたか?』

『なに。例のキュベレイとやり合ったのでね。とれた戦闘データを見てもらって、キャプテンやマリーダの意見を聞きたいのだよ』

『なるほど。承知いたしました。お待ちしております』

 

 次にレウルーラへも通信を入れた後、シナンジュはスラスターを噴かしガランシェールの後を追った。一筋の赤い彗星はやがて偽装貨物船へと追いついたのだった。

 

 ガランシェールの格納庫に片膝を着いた姿勢で動力を落としたシナンジュ。そのコックピットからフワリと仮面の男が飛び降りてきた。その周囲では既にジンネマンやマリーダを始め、ガランシェールの乗組員たちが首魁の到着を待ち構えていた。

 

「すまんな。手間をとらせる、ジンネマン艦長」

「いえ、お待ちしておりました」

 

 ジンネマンは敬礼と共に挨拶を返す。周囲もそれに合わせた。が、次の瞬間、ジンネマンは眉をひそめ、疑問を口にする。

 

「大佐、あのシナンジュの胸部装甲は……?」

 

 ジンネマンの視線の先、現ネオ・ジオンの象徴たるシナンジュの胸部装甲に僅かながら灼けたような跡がついていた。

 

「あれも若さ故の過ちというべきか……もう若くはないつもりでいたのだがな。あれもあってガランシェールに寄らせてもらったのだよ。まあ実際に見てもらった方が早いだろう」

 

 ジンネマンは目を丸くするが、続けてメカニックに指示を出し、シナンジュの戦闘データを外部ディスプレイで再生する準備が進めさせた。やがてメカニックが準備OKの旨、ジェスチャーで示し、ジンネマンもただ頷くことで返す。

 

 再生されるシナンジュの戦闘データ。白い花のようなモビルスーツとの激しい格闘戦の様子がそこに映し出された。ジンネマンたちはその内容に目を見張る。それを見てフル・フロンタルは少し愉快げにジンネマンに問いかけた。

 

「どうだね。キャプテン?」

「これは……正直驚きましたな。マリーダとの戦闘は見ていますが、まさか旧式機で大佐のシナンジュとここまで渡り合うとは……。もちろん大佐も本気ではなかったのでしょうが」

「これは痛いところを突かれたな。……私見ではあるが、確かにあのキュベレイのパイロットはかなりのNTに違いないと思う。操縦技術の方もまだ荒削りな部分はあるが、センスは飛び抜けている。あちらの腕に見合ったモビルスーツがあれば……いや、ファンネルさえあれば、先の作戦は失敗していたかもしれん。そういう意味でもマリーダには感謝するべきだろうな」

 

 話を向けられたマリーダ自身は「いえ」と控えめな態度で称賛を固辞する。その瞳が自分はアイツを消耗させるのではなく撃破したかったのだと告げている。その硬い態度に笑みを浮かべてフル・フロンタルは再び映像に向き直った。

 

「そして最後にこれだ」

『ここからいなくなれぇぇぇェェェ!!』

 

 接触回線から流れた敵パイロットの音声が再生され、今まで以上の鋭さ、タイミングで振るわれたキュベレイのビームサーベルが回避行動をとるシナンジュを僅かに上回った。胸部装甲でスパークが発生し、そこでシナンジュは撤退行動に移る。戦闘記録はここまでだ。映像が停止された。

 

「どう見るね。キャプテン」

「そうですな……どうやら大佐はあの敵パイロットにはひどく嫌われたらしい」

 

 フル・フロンタルに問われ、ジンネマンは茶目っ気を持たせた回答をよこす。それに仮面の男は苦笑するも、本題に入るよう続きを促した。

 

「戦闘中に進化する操縦技術にも驚かされましたが、それよりあの声……女性というよりは少女のものですな」

「ああ。私もそう思う。おそらく20は越えていないだろう」

 

 若くしてとてつもない戦闘技術を持つ少女という希有な存在。それは事態は驚くべき事だが。

 

「これは亡霊の線は消えましたか」

 

 少なくともかの女帝が死んでおらず戻ってきた、ということではなかったらしい。だが。

 

「いえ、あれは確かにハマーン・カーンです」

 

 女帝を殺すべくプログラミングされた存在がそれを否定する。あれは確かにアイツなのだと。

 

「正気かマリーダ。死人が若返って蘇ったとでも言う気か?」

「いや待て。キャプテン」

 

 ジンネマンは一言の元に否定しようする。が、それを止めたのは意外なことにフル・フロンタルだった。

 

「強化人間である彼女の感覚はそうやすやすと否定するできるものではない。それに私もあれは本当にハマーンなのではないかと少し疑っている。実際に戦ってみてな」

「いえ、しかし……」

 

 なおも食い下がるジンネマンに対し、フル・フロンタルは決定的な言葉を告げた。

 

「それに、死人が若返って蘇る。そんな超常現象を現実のものにする方法を我々は知っているだろう。キャプテン」

 

 仮面の下のその目はマリーダを見詰めていた。そこでジンネマンもそのことに思い当たり呻く。

 

「まさかそんな……」

「まあ、それをわざわざ旧式機(キュベレイ)に乗せる意味はわからんがな。…………あるいは姫様と二人、ジオン共和国とネオ・ジオンを丸ごと掌握するための象徴とでもする気か」

「なんと……」

 

 

「いずれにしてもその存在には最大級の警戒が必要ということだ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 優勢が一転、ユニコーンがバナージごと強奪されたことに静まりかえるネェル・アーガマのブリッジ。ミネバが足早に出て行くのを見送ったコンロイはそっとダグザへと話しかけた。

 

「中佐、すこしよろしいでしょうか」

「どうした? ミネバ・ザビを追え、コンロイ」

「いえ、その彼女がいないうちにお話ししておきたいことが」

 

 そう言って、公にできないことなのかブリッジの外へと誘うコンロイ。なにやら重要ごとらしいとみたダグザは従って外へと出た。そうしてブリッジから少し離れた無人の小部屋に入る。

 

「それで何事だ、コンロイ?」

 

 早速話を催促するダグザ。それに答えるコンロイ。

 

「あのキュベレイの少女のことです。中佐」

「ああ。あの悪趣味なコードネームを付けられたミネバ・ザビの護衛か」

「それが……ブリッジではミネバ・ザビが言っていなかったことがあるのですが」

「なんだ?」

「あの少女は、ハマーン・カーンの遺伝子から創り出したクローンだと言うのです」

「なに?」

 

 特殊部隊の指揮官として、冷静なダグザもさすがにこの言葉には目を瞠った。そして真偽を吟味するかのように呟く。

 

「ハマーン・カーンのコピーの強化人間? そんなもの存在し得るのか?」

「分かりません。ただ、それが事実だとすれば説明はつくかと。ハマーン・カーンの容姿に似た少女の存在。優れた操縦技術にNT兵器の適正。その全てに」

「少々できすぎているように感じるが……」

 

 とはいえ否定できる物証がないことも事実だった。

 

「ともかくミネバ・ザビの言うことを鵜呑みにもできん。あの戦闘能力。NT適正。あの少女が重要なファクターであることには違いない。我々自身でも少し調べるぞ」

「さし当たっては……あのモビルスーツでしょうか」

「ああ」

 

 方針を決めた二人は速やかに動き出した。足早に格納庫へと向かう。ネェル・アーガマの格納庫には現在、リディのリゼルとキュベレイの二機しかない。ガランとしたハンガーに直立する巨人たちには整備士がそれぞれ張り付いてメンテナンスを始めていた。

 

 開いたキュベレイのコックピットにも、格納庫の中にもあの少女の姿はない。既に格納庫を出てどこかへいったらしい。どこへ行ったのか気にはなるが、本人がいないほうが今はむしろ都合がいい。

 

 ダグザはキュベレイについている整備士へと話しかけた。

 

「その機体の状態はどうだ?」

「え? あ、中佐殿。今、自己診断プログラムを走らせていたところですが、ダメですね。しばらく戦闘には出せそうもありません」

 

 そう言った整備士はあのユニコーンのコックピットハッチを開放した、アナハイムからの出向の人間だった。担当するユニコーンをロストしたことで手隙になった彼のところへキュベレイ整備のお鉢が回っていたらしい。

 

「戦闘中にダメージらしいダメージは受けていなかったように見えたが?」

「ええ。ですが前回の四枚羽との戦闘に続いて、今回のシナンジュとの戦闘がまずかったですね。ただでさえ機体に負担の大きい格闘戦を、圧倒的にパワーが上の相手とやったわけですから」

「だが、ああするしかあのパイロットには勝機がなかった」

「それははい。ビームガンは明らかに威力不足でしたし、ファンネルの補充もできませんでしたしね。そんな機体であの化け物らとやりあったあの少女の技量はとんでもないものでしたが……」

「機体の方が彼女の腕に着いてこられなかったか」

「ええ。関節系や駆動系のパーツが限界に来てます。戦闘中に露呈しなかったことが不幸中の幸いですね。でもこのままじゃまともに動かせませんよ」

「消耗パーツの予備はこの艦にも積まれているだろう?」

「互換性がありませんよ。今でこそ連邦もネオ・ジオンもモビルスーツはアナハイム製ですが、当時は違いますからね。特にネオ・ジオン初期のモビルスーツはアクシズでガラパゴス的な進化をしていて……いずれにしてもこの艦にある資材で何とかするには、それなりに改修しないと。少し時間がかかります」

「アクシズ時代オリジナルのパーツを使っているのか?」

「外観から判断する限りはそう見えます」

 

 考え込むダグザ。近代化改修されていない第一次ネオ・ジオン抗争当時のままの機体。これは何を意味しているのか。

 

「そうか…………このモビルスーツのことで他に何か分かったことはあるか?」

「いえ、さすがにまだ……これから分解整備を始めますのでもう少し時間をいただければ何か分かるとは思いますが」

 

 この整備士をダグザは信頼することにした。ユニコーンの情報について、上役のアルベルトに逆らってまでダグザへ提供してくれた気骨ある人間だからだ。

 

「この機体について分かったことがあれば、内密に私だけに教えて欲しい。これも謎が多い機体だからな。戦局を左右する重要な情報が眠っているかもしれん」

 

 事の重大さを察したのか、その整備士は無言で、けれど慎重に頷いて見せた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「モビルスーツから情報を得るにはもう少々時間が必要か……他に何かあるか、コンロイ?」

 

 格納庫を後にした二人。次の方法を模索する。先にハマーンのことを知ったコンロイはあらかじめ考えていたことをダグザに提案した。

 

「ハマーン・カーンの血縁を当たって見るのはどうでしょう?」

「ハマーン・カーンの妹、セラーナ・カーンか。確かネオ・ジオンの穏健派で今は連邦に亡命しているのだったか?」

「はい。彼女はシャアの反乱直前までネオ・ジオンにいたようですし何か有用な情報が持っている可能性はあるかと」

「そろそろさっきの戦闘で撒かれたミノフスキ-粒子の散布域から抜け出るはず。長距離通信も可能か」

「ええ。それにユニコーンを持ち帰るのに袖付きは忙しいはず。ネェル・アーガマに向けられる目も今は」

「傍受される可能性は低いか。よし通信室へ向かうぞ」

 

 二人は足早に通信室へと向かった。早速通信機をオンにしてみれば、やはりミノフスキ-粒子の散布域からは既に抜けたのか通信は回復していた。今頃ブリッジでも参謀本部に報告を入れ、補給を要請しているところだろう。ダグザもエコーズ本部へと繋いだ。そこから連邦のどこかで保護されているセラーナ・カーンへのアクセスを要求する。

 

 しばらく待たされた後、モニターに一人の女性が現われた。艶やかなワインレッドの髪を肩に掛かる程度まで伸ばした20代と思われる美女。その容姿はあのハマーンと呼ばれる少女や記録に残るハマーン・カーンと血のつながりを感じさせるものだった。

 

「突然のお呼び出し申し訳ない。私は連邦軍中佐ダグザ・マックールであります」

『いえ、お気になさらず。エコーズから緊急案件だと言われるとなればよほどのことなのでしょう。私がネオ・ジオンの外務次官……と言っても追放されて亡命中の身ですが、セラーナ・カーンです。それでどのようなご用件でしょうか?』

「はッ。……失礼ですが、これからお話しすることは機密事項としてご理解ください」

『もちろん承知しています。他言無用ということですね』

「恐縮であります」

 

 セラーナと事前の取り決めを確認したところで、ダグザは改めて切り出す。相手のモニターに一枚の写真を映し出し、そして聞いた。

 

「セラーナ次官はこの少女のことをご存じでしょうか?」

 

 キュベレイのコックピットから救助された直後、医務室のベッド眠るところを撮影された少女の写真だった。それを見て、あまりに意外なものを見たとでも言うように目を瞠るセラーナ。

 

「これは……姉がまだ17、18のころの写真ですね。どこで撮ったのかや具体的な日付までは分かりませんが……」

「姉とはやはり?」

『ええ。ハマーン・カーンです。連邦の方には怖いイメージしかないでしょうけど、ネオ・ジオン……アクシズではご覧の通り可憐な美少女で通っていたんですよ?』

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべて言うセラーナ。そして「なぜあなたがこの写真を?」と逆に聞いてくる。それにダグザは淡々と答えた。

 

「これを撮影したのは数時間前。連邦の戦艦内においてです」

『は?』

 

 ダグザが発した言葉にセラーナは今度はポカンと口を開けた。美女が台無しな間抜けな表情だがどこか愛嬌があった。そして数秒おいて再起動する。その時には険を含んだ表情へと変わっていた。

 

『何の冗談です? いえ、冗談にしても質が———』

「実の妹であるあなたがそこまで言うということは、どうやら他人のそら似などではなさそうだ」

『———本気で言ってるのですか?』

「伊達や酔狂ならそもそもこの通信は行われていません。今あなたと私が話している。このことそのものが事実を表していると認識いただきたい」

 

 ダグザの断固とした言葉にしばらく絶句したセラーナは、やがて大きな溜息をついた。

 

『それが極秘であることの理由ですか。詳しい話を聞かせてください』

 

 そして強い意志を湛えた瞳でダグザを見据え、続きを促す。系統は違えど確かに女傑の一族だと思いながら話を続けるダグザ。

 

「は。この少女は数時間前、とある宙域で勃発した連邦と袖付きの戦闘のさなか、AMX-004キュベレイに乗って突如出現。袖付きのエースパイロット級が駆るモビルスーツと戦闘を行いこれを撃退。その後ブラックアウトしたところを当艦に収容しました」

『キュベレイでネオ・ジオンと戦闘……その少女の身元は照会したのですか?』

「戦闘後つい先ほどまで、昏睡していたためまだ本人に聴取はできていません。また階級章やドッグタグ等の身元が分かるものも携帯していませんでした。ただし別の人物から口頭での説明は受けています」

『別の人物?』

「これも内密に願いたいのですが……本艦には現在ミネバ・ラオ・ザビが乗艦しています」

『ミネバ様が連邦の艦に…………』

 

 またしても絶句するセラーナ。ダグザは構わず話を続けた。

 

「ミネバ・ザビによればこの少女は彼女の護衛とのことです。近親や縁者など改めて心当たりはありませんか?」

『いえ。父マハラジャ・カーンには存命の親類はおりませんし、子供は私と姉二人、長女マレーネ・カーンと次女ハマーン・カーンだけです。その姉二人も既にこの世を去っています。マレーネに子供もいません。それに親類縁者というには……』

「ハマーン・カーンに似すぎている?」

『はい……ちょっと待ってください。確かその頃の姉の写真が残っていたはず……』

 

 そう言ってしばらく端末を操作していたセラーナはやがて一枚の写真を表示した。一機の直立するモビルスーツとその前に集まった人達を写した和やかな雰囲気の写真。人々の中心にいるのはワインレッドの髪を持つ二人の少女。そのうち年上と思われる少女はあのネェル・アーガマに現われた少女と瓜二つだった。

 

『これは姉が17歳のころ。まだ開発中だった後ろのモビルスーツ、キュベレイの何かのテストの成功を祝して開発メンバーといっしょに撮影した写真です。どう見ても同一人物でしょう?』

「確かに…………実はミネバ・ザビはあの少女をハマーン・カーンのクローンだと言っているのです」

『はぁッ!?』

 

 ダグザが後追いで告げる事実に目を剥いて声を荒げるセラーナ。明らかに衝撃を受けている。少なくともセラーナが関与しているということはないと判断したダグザは聞きたかった本題に入る。

 

「ですが、ハマーン・カーンのクローン……実在すると思いますか?」

『……姉がそんなものを許すとは思えませんが…………でもフラナガン研究所にいたころに遺伝子を採取されていたとしたら……?』

 

 散々迷いながらもセラーナが出した答えは、無いとは言い切れないというものだった。

 

『でも、現実に姉の少女時代と同じ顔をした人間がいるのだとしたら信じるしかないのでは……?』

「ふむ。やはりそうなりますか……」

 

 そうして二人が迷いながらも結論を出そうとする中、コンロイは先ほどの写真に違和感を感じ、その正体を探り続けていた。そしてその違和感の正体にたどり着いた。

 

「中佐ッ。この写真を!」

「なに……? ッ、これはッ!?」

 

 コンロイは端末を操作し、もう一枚写真を表示した。それを見てダグザも驚きの声を上げる。それは、キュベレイのコックピットが開いた直後。コックピットから担ぎ出されたばかりの私服姿の少女の写真だった。そしてその写真をセラーナ側にも公開し、驚きを共有する。

 

 少女時代のハマーン・カーンを写した写真。そしてネェル・アーガマに現われたハマーン・カーンと酷似した少女の写真。その二枚の全く違う時間に撮られたはずの写真に写る少女はなぜか全く同じ服を着ていたのだ。

 

『ど、どういうことでしょう……?』

 

 動揺するセラーナにダグザは問う。

 

「セラーナ次官。この服は今もどこかで売られているのでしょうか?」

『いえ。あり得ません。姉が着ている服は当時アクシズで縫製されたものです。そのブランドはとっくに廃業しています』

「「…………」」

 

 あるいはあの少女を徹底してハマーン・カーンの再来として仕立てたい人物や組織があり当時と同じデザインの服を用意した、などという無理な事態を想定するのでなければ。それはあまりにも荒唐無稽な仮説を導くものだった。

 

 これ以上追求できる事実はなく、そこで会話は打ち切りとなった。問題ない範疇で構わないからこの少女のことで続報があれば教えて欲しいと頼み込むセラーナに了解を返した上で。そして静かになった通信室で改めてダグザとコンロイは考え込んだ。

 

 

 そこに一本の通信がダグザの個人端末当てに入った。相手はあの整備士だった。キュベレイのメンテナンスに当たっているはずの。即座にダグザは通信を繋ぐ。

 

『ダグザ中佐。あのキュベレイについて分かってきたことがあるので連絡しました』

「そうか。感謝する。……それで?」

『はい。結論から言うとおそらくあのキュベレイは先行試作機です』

「試作機? 制式化されたものではないということか?」

『ええ。その通りです。キュベレイを分解して調べたところ使われている部品の刻印は全てUC.0084以前のものでした。それにソフトウェアのアップデートもUC.0084の年末が最後のようです』

「…………つまり?」

『おそらくそこでこの機体は試作機としての役割を終えたのでしょう。それから現在まで何らかの理由でモスボールされていたのだと推測します。そして今になってその骨董品を引っ張り出してきたのではと』

「…………なるほど」

『もっと言えばこの機体は、制式機のカタログスペックに若干ですがおよばないようです。このこともさっきの推測を裏付けるかと』

「そうか」

『あと戦闘データからもっと何か分かるかと思ったのですが、残念ながら四枚羽との戦闘以前のデータは消されたのか存在しませんでした。以上です』

「……了解した。貴重な情報感謝する」

『いえ、それでは整備に戻ります』

 

 言って整備士からの通信は切れた。後にはただ沈黙する二人が残る。

 

 整備士が告げた情報。それを常識的に解釈するならば確かに整備士の推測通りの結論となるだろう。だが…………これを先ほどのセラーナ・カーンとの会話から得た情報と重ね合わせると———

 

 

「馬鹿な……」

 

 

 沈黙が支配する通信室に、ダグザの呟きだけが響くのだった。

 




「たったひとつの真実見抜く、見た目は巨漢、頭はモヒカン、その名は名探偵———!」
ということで探偵対決はダグザがリード(というかほぼゴール目前)するのでした。

裸男「せやかてマックール!」
灰原崑路偉「勝因は有能な助手の存在よ」

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