無口な瑞鶴さん   作:榊 樹

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今回、加賀さんが好きな方は見ない事をオススメします。



第7話:車の中でのひと時

最近、提督の機嫌が矢鱈と良い。機嫌がいいと言うか、余裕が出来たというべきだろうか?そんな提督にある日、いつものようにスピーカーで呼び出された。

 

もはや癖になった隠密行動の末、誰とも接触せずに無事到着。ノックしようとしたが、中で提督以外の気配がした。試しに聴覚を強化してみると確かに二人分の息遣いが聞こえて来た。

 

会話はしてないのかな?取り敢えず、ノックをしてみると提督の声で入室許可が下りたので気にせずにドアを開けて中へ入った。

 

中へ入ると、嘗ての私と似たような服装のサイドテールをした女性がこちらを背にして立っていた。私に気が付くとその女性はドアの開閉の音に気が付いてこちらに振り向いた。

 

 

同じ型の艦娘を見たことがある。一度に数十機を操って、回避行動に加え、周囲への命令も的確に熟していた艦娘だ。私のような例があるから、型は同じだけで違う存在である事は十分理解している。それでも、憧憬のような感情を抱かずにはいられない。だって、型が同じだけだと言っても私の目標と瓜二つなのだから。

 

ボーッとしていると、あちらが寄って来て握手を求めて来た。

 

 

「初めまして五航戦。一航戦の加賀よ。よろしく」

 

 

握手を返そうと右手で握ると強過ぎる力で握り返され、手の骨が一瞬でバキバキになった。勿論、骨が砕ける音は部屋中に響いたが、提督はいつものように厭らしく笑っていた。

 

そして、加賀さんは私の耳元に口を持ってくると純度100%の殺意を乗せてボソッと呟いた。

 

 

「他の子達が随分とお世話になったわね?提督(クズ)のお狗さん?」

 

 

そう言い終わると、手を離して提督の方へ向き直った。

 

 

・・・ふ、ふふ怖い。

凄い嫌われてるよ。

 

ていうかクズって提督の事・・・なんだろうなぁ。確かに提督は見た目があれで勘違いされやすい容姿だけど、艦娘の事はよく考えてるよ?現に私と他の子が接触しないようにいろいろと配慮してるし、必死になって集めた資材を他の鎮守府の為に使ったり・・・あ、これはギルティ。

 

やるなとは言わないけど、まずはここが余裕を持てるレベルには抑えて欲しい。優しさが空回りしてると言うか。まぁ、一介の艦娘である私が口出しする気は無いけど。言った所で否定されるだろうしね。

 

それでえーと、お狗さん?え?私、狗なんて呼ばれてるの?なんで?こっちは心当たりがまるで無いんですけど?

 

手は・・・まぁ、いつも吹き飛んでるし、特になんとも。提督も見慣れてるから特に気にした様子も無いし。寧ろ、私が今まで他の子にして来た事に比べたら粉々にされなかっただけで有難いよ。

 

 

「今日二人に集まって貰ったのは、大本営で半年に一回行われる定例会議の護衛だ。必須らしいが特にする事は無い。ただ付いてくればいいだけだ」

 

 

え、私が行ってもいいんですか?言っちゃあなんでが、私が居ると評判ガタ落ちだと思うんですけど。

 

 

「今日の昼に出発するから、それまでに門の前に集まっとけ。あぁ、瑞鶴はそれまでに手を戻しておけ。以上だ」

 

 

あ、はい。

いいんですね。

分かりました。

 

 

加賀さんの後に続いて部屋を出て、自分の部屋に戻ろうとすると加賀さんに声を掛けられた。

 

 

「五航戦。いや、これは他の瑞鶴に失礼ね。お狗さん、私は貴方を軽蔑するわ。あのクズがやっている事を知っておきながら、駆逐艦の子達が身を削りながら集めたと知っておきながら、尻尾を振ってそのおこぼれにあずかろうとする貴方に。貴方に艦娘としての誇りは無いのかしら?あぁ、そんものは狗にでも食わせてしまったのね」

 

 

・・・ぐ、ぐうの音も出ない。そして私が狗と呼ばれた理由が判明した。そりゃ嫌われても仕方ないわ。一介の艦娘だからって、他の子が苦労して手にした成果を別の所に渡してるんだから。

 

 

「っ!何とか言ったらどうなの!出会ってからまだ口を一度も開かない!挨拶の一つもしない!これだけ罵倒されても言い返す気配も無い!貴方にとっては私なんて話す価値も無いという事!?」

 

 

いや違います違います。寧ろ話したくて仕方がないです。運用方法とか戦闘のコツとか聞きたい事もたくさんあります。でも喋れないんですよ!

 

そう言い訳しようにも口は動かない。だからジェスチャーで伝えようとする前に提督の叫び声がした。

 

 

『五月蝿いぞ!さっさと行け!』

 

「ちっ、無能が・・・まぁいいわ、覚悟しときなさいお狗さん。お零れにあずかるしか能の無い貴方達を必ず地獄の底に叩き落としてあげるから」

 

 

なんか凄い不吉な事を言い残して何処かに行った加賀さん。

 

何が彼女をそうさせるのだろうか。考えられるのはやはり、他の子達への気持ちの大きさ。それが本来の艦娘としての在り方なのだろうかと思ってしまう。

 

艦娘は深海棲艦に対抗しうる唯一の手段であると記憶にある。要は兵器だ。人間が生き残るための道具。使えなくなったら道具は捨てられてしまう。

 

私だって生きたい。だから、欠陥だらけの私に仕事を与え、ここで働かせてもらえる、生かしてもらえる提督に恩返しをと思い従っているのだが、それは間違いなのだろうか。

 

何もさせてもらえず、ただ解体されるのが嫌だというのは我儘なのだろうか。

 

あぁ、でもそうだね。それがたくさんの少女達の犠牲の上で成り立っているのだとしたら、それは私だって生きたいとは思わない。その時は地獄に落としに来てください。出来ることなら、その役目は憧れである加賀さんに担ってもらいたいなぁ。

 

 

 

 

何かシリアスになってしまったが、時間があるとはいっても準備しなければならない。一応、部屋に戻って来た訳だけども、よくよく考えれば準備って何をすればいいんだろう?あ、取り敢えず手を戻そうか。

 

右手を見てみると手首から指先までぐにゃぐにゃになっていた。まずは手首から捻って形を戻し、指先へと順々に見た目だけでも普通に戻す。

 

グーパーグーパーしてみると、違和感はあるものの見た目的に触れられない限りは多分バレないだろう。後は・・・そう言えば護衛の為に付いて行くんだったよね。

 

なら、懐に何か武器とかいるかな?うーん、でも武器と言われてもなぁ。この部屋には何も無いし・・・あ、外に木が有ったじゃん。あれを加工して投げナイフ的な物が作れるかも。

 

 

艦娘の力を使えば片手でも加工は簡単だった。どちらかと言うと力があり過ぎて慎重になり過ぎたほどだ。出来たのは木という事もあり、ナイフというよりも針のようなものが出来た。

 

投げる練習も抜かりはない。加工や投擲などの手先の器用さを要求される事に関してはこの身体と相性が抜群らしくて、狙った所にヒュンヒュン飛んで行く。不安があるとすれば鑢代わりに弓の弦を使ったことくらい。

 

未だに破れてないからいいけど、仮に壊れた時はどうしよう?弦の梁型については記憶にあるからいいけど、材料が無い。あ、その時には提督に頼るか。

 

夢中になっていたら昼まで残り一時間になっていた。

 

ここでどこに隠すか、という問題が発生したが消去法でスカートの中になった。と言うかここしか隠す場所が無かった。太ももに当てて包帯を上から巻く程度で大丈夫かな。あ、髪の毛の手の高さ辺りに忍ばせとくのも取り出す時に楽かも。簪風にするのも考えたけど、この毛量だと流石に無理があるしね。・・・おぉ、これ凄い楽。丈夫なヤツを忍ばせとこう。

 

 

ふむ、こんな所でいいか。今更だけど武器と言う事で手頃な物を作った訳だが、私は一体何に備えているのだろうか?仮に深海棲艦が来たらこれら全ては無意味な代物になるし・・・あ、艦娘の力だけで十分じゃん。これらの小道具要らないじゃん。いや、でもあって困るわけでもないし折角だから持って行こう、うん。

 

 

 

 

得にする事も思い付かなかったので三十分以上の余裕を持って門の前に到着。帽子を目深に被った憲兵さんが送迎を担当するようで、私に気付くと敬礼をしてきた。敬礼を返した後に提督が来るまでは外で待っているように言われたので待機。聴覚強化をして周囲の安全を確保しながら待っていると十分前に加賀さんがやって来た。

 

 

「あら、お狗さんはこんなに早くから待っているなんて大した忠誠心ね。どんな神経をしていたらあんなのにそこまでご執心できるのかしら?」

 

 

・・・何と言うか恨まれてるなぁ、って考えなくても分かるその態度がいっその事清々しくて寧ろ好きだわ。そもそも私と面と向かって話せる人自体少ないから新鮮だ。

 

 

「はぁ、まただんまり。その顔に付いた口は一体何の為にあるんでしょうね。ご機嫌伺いの為?それともあのクズの足でも舐める為かしら?」

 

 

その冷めきった表情・・・もしかしてドS?加賀さん凄い美人だからその顔で見下されると、何かいけない扉を開きそうなんでできれば罵倒中にその顔は止めてほしいです。ちょっと憲兵さん?聴覚強化していたから分かったけど、今「いいな」って呟かなかった?

 

 

その後も提督が来るまで私を罵倒し続けた加賀さん。正論だし矛盾していないし同じことも言っていないので、何故か結構勉強になるし為になる事もちょくちょくあった。戦闘面の事は見た事無いから仕方ないとは言え、話してくれなかったのはちょっと残念。

 

トラック型の前と後ろが分かれたタイプの車。前に提督と憲兵さん、後ろに私と加賀さんが乗車をして出発。護衛が出来ないと思ったが、提督も加賀さんも何も言わないから問題は無いんだろう。

 

その後、一切の会話は無く、ただ車に揺られるだけだったので、聴覚を強化していると前からエンジン音に混じって話声が聞こえて来たが、エンジン音やタイヤの摩擦音で上手く聞き取れなかった。

 

 

 

 

後ろに瑞鶴と加賀が乗っている車両の運転席で提督と送迎に来た憲兵が会話をしていた。憲兵は何処か見下したような口調だったが、提督は気付くこと無く会話を続けていた。

 

 

「随分と飼い慣らせているようですね。あの瑞鶴を」

 

「お前が指示した無茶な量の書類の処理と敵の撃破をさせたまでだ」

「それに関してはすみません。最近は艦娘に関しての不正が大変厳しくなりましたから。何度もアリバイ工作やらしなければならないんですよ。それにあの書類を書かなければ貴方の首が確実に飛んでいたのも事実。それでも期待以上の成果である事に変わりはありませんがね」

 

「あの瑞鶴に任せておけば問題無いと断言したのはお前だろう。何を今更」

 

「そうですね。全て狙い通りです。そしてあの瑞鶴についても分かった事があります」

 

 

そこで一旦話を区切り、口端を上げる憲兵。

 

 

「・・・随分と悪い顔だな。折角の色男が台無しだ。それで、分かった事とはなんだ?勿体ぶらずに教えろ」

 

「そう急かさずともお教えしますよ。・・・これまでに送られた情報で分かった事ですが、あの瑞鶴は表情筋どころか、瞳にも身体のどこにも自身の感情が表れる事がありません。しかし、感情が無い訳では無い」

 

「あれ程の境遇で口一つ聞けないような気持ち悪いヤツにか?姉を脅しに掛けてもピクリともしなかったぞ」

 

「ええ、きちんと感情はあります。その一つとして最も必要だった提督の役に立ちたい、という感情。いえ、願望でしょうか?姉については実感が湧いていないだけでしょう。顔合わせすらした事が無いんですから当然です。そして貴方は他には無いブラックな労働環境に艦娘を置いている為、艦娘からの評判は地に落ちています」

 

「ふんっ。道具なんぞの信頼なんか要らん。道具は道具らしく使われていればいいんだ」

 

「そこはいいんです。貴方の方針に口出しする気はありません。しかし、あの瑞鶴にはこれまで様々な鎮守府へ行ってもらいました。自分がどういう立場にあるのか、自分は何も出来ない無能、そう言った負の感情を蓄積させ、提督の役に立ちたいという欲求を更に深める為に。思い通りの対応をしてくれる提督を吟味するのは骨が折れましたけどね」

 

「負の感情は蓄積させていいのか?それは・・・」

 

「いいんですよ。この程度なら何も問題はありません。寧ろ従わせるには丁度いいくらいです。そして出来上がったのがあの都合のいい機械のような瑞鶴です。建造に投入する資源を抑えされるのには苦労しましたよ。それにどうやら指示通りに周囲の艦娘への悪い情報を流すのもきちんと成功しているようですしね。その結果、更に孤立していき、情報統制が楽になる。最終的に命綱でもある貴方に縋るんじゃないですかね?全く、何もかもが上手く行って怖いくらいですよ」

 

「思い通りにいっているのなら何よりだ。して、本当に約束は守ってくれるんだろうな?」

 

「ん?当たり前ですよ。頭の硬い上層部を一掃した後は貴方が元帥です。私はその地位になんの興味もありませんしね。私を愚弄した老いぼれ達に復讐出来ればそれだけで十分です」

 

「ふんっ、ならばいい」

 

 

己の懸念が払拭され、目を瞑りふんぞり返る提督。その姿を蔑んだ目で見る憲兵。

 

 

(本当に愚かな肉達磨だ。自分が騙されているとも知らずに金と地位に目が眩んでここまで思い通りに動いてくれるとは。精々、残り短い余生を好き勝手生きる事だな)

 

 

憲兵が思っている事など知りもせず、大本営までの道のりを静かに進む中で眠る提督であった。




大体コイツのせい、憲兵?が登場。
加賀さんと瑞鶴を含めたその他大勢については、綺麗さっぱりこの憲兵の思惑に嵌ってしまった感じ。まぁ、それを抜きにしても毒舌の加賀さんにはなっていた模様。

加賀さんが罵倒していた時の憲兵さんの反応はいい傾向だ、って意味でのいいな。因みに瑞鶴はそっち方向の趣味があると勘違いされたまま。


次回も気長にお待ちください!


勘違い(瑞鶴→その他諸々)
・提督に対しての好感度がやたら高いが全て勘違い。実際は普通に自己中極まりなく、自分さえ良ければ他の人間(子供でも)を喜んで地獄に叩き落とすような人物。

・加賀さん大好き系瑞鶴さん。しかし、本人からは勘違いでゴキブリ以下並に嫌われている。

・使えなくなっても別に捨てられる事は無い。しかし、本人は道具のようにしか扱われて来なかったのでそれ以外の考えが既に思い付かなかい程に染み付いてしまった。

勘違い(加賀→瑞鶴(偽))
・瑞鶴(偽)は狗っぽいが、ちょっと違う。その通りにしないと生きていけないからそうしてるだけであり、実情を知れば自信を省みずに普通に提督を滅す。本人は何も喋らないのでその真意が届く日は来ないかもしれないしもしかしたら来るかもしれない。

・瑞鶴(偽)が喋れないと知らない。最初に挑発して瑞鶴(偽)が怒鳴った所でマウントを取ろうとしたが、何も喋らないどころか、表情一つとして変えないので相手にもされていないと勘違いして怒鳴ってしまった。瑞鶴(偽)本人は加賀さんと話したくて仕方無い模様。


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