ロード   作:パラ峰

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第四話①

「それで?まあここまでの経緯の説明は受けたが。どうしてその人造救世主計画とやらでイタリア行きなんだ?」

 

 爆音に負けぬよう、声を張り上げ通路を挟んだ席の諏訪原に紋次が尋ねる。諏訪原主導で『教会』を脱出した三名はイタリア行き飛行機の離陸に滑り込むように搭乗していた。尚、黒瀬は調べるべきことがあると仄めかし教会の内部に残っている。

 

「声が大きい。どこに監視の目があるか分かったもんじゃないだろう。まず、私の所属していた『組織』はローマ、それもバチカンが総本山でな。ここまで言えば分かると思うが――」

「――デジモンの存在をひた隠しにしようとしているのは、基督教なのよ」

 

 基督教。成程確かに、デジモンのようなある種意志を持った暴虐の塊が存在していて、その存在が公になったらどんな悪用をされるか分かったものではない。そこに至り基督教は「デジモンを悪魔として禁忌扱い」することによって混乱を防ぐ手段を取ったのだと諏訪原が補足する。

 

「だがデジモンの中には天使型も存在する。奴等の中にも、流石に奇跡のような力を持った天使の形をした存在が現れたら否定する派閥と同時に崇拝する派閥も出てくる。まあ今では否定派は肯定派に潰されてしまっているがな」

「カトリックとプロテスタントみたいなもんだな。教義が変われば同じ宗教内部でも戦争は起こる、か」

 

 先程自分を勧誘してきた天使型デジモンも、自分を否定する派閥を蹴散らした上で救世主進行を推してきたのだという事実に紋次呆れ返る。丁度世界史も学んでいたところということも相まって、諏訪原の所属している宗教組織が非常に下らなく感じると同時に、そんな宗教バカどもがデジモンという武力を自在に扱ってしまうことに恐怖を覚えていた。

 

「そうだな。しかしお前やあのメタモルモンのように、何故かデジモンをこの世界に召喚してしまうケースも他確かに存在する。まあ宗教の無法地帯ということもあってか、特に日本では多いな」

「私も諏訪原もそこは同じね。そのあと曽呂君と同じように『教会』に追われるかなし崩し的に駒になるか――天使型デジモン以外のテイマーはそうなるか、そうでなければ悪魔使い[テイマー]として殺されるかどっちかよ」

 

 だからこそ、基督教の本場西洋と、宗教のサラダボウルこと日本、そしてアメリカ大陸には『教会』の息のかかった組織、テイマーが大量に存在する。それは野良ないしは召喚されたデジモンによる被害を防ぐためであり、基督教が人類のそれを遥かに上回る暴力を有することによって世界を支配するためである。

 

「成程、お前はそのカオスドラモンを殺されないために『教会』に味方し、神楽はテイマーの悲惨な状況を改善するため抜け出してきた、って訳か」

 

 駒として扱うからには戸籍も何も必要ない。所詮教会の者から見れば天使型以外のテイマーなど排除するべき異端なのだから。

 

「野垂れ死んでくれた方が都合がいい、なんて、許せる筈ないじゃない?」

 

 小夜の言葉には『教会』に対する恨みが込められていた。同胞を何人も失ったのだということがありありと見て取れる。

 

「そこに来てウィルス種の撲滅計画だと。……許せる筈がない」

 

 先刻まで『教会』の駒として動いていた諏訪原が小夜の言葉を引き継ぐ。デジモンのためとはいえ、散々駒として使われた挙句にこの仕打ちなのだから、その離反も無理からぬことである。

 

「ああ。それは俺も見過ごせないな。その点については、俺たち三人でもコンセンサスが取れると思う」

 

 三人が互いに目を合わせ頷き合う。

 

「――と。ではここから、俺が支部長達を仕留めて手に入れたデータの話をしよう。そもそも教会の上層部はほとんど天使型デジモンの支配下にあった。それも実働の俺が知っているぐらいだ、これは『教会』内部の共通認識としてもらって構わない」

「まあ当然よね。天使なんて彼らが崇拝して然るべきものだもの。その指示に思慮なく従って当然」

 

 また随分と腐敗しているんだな、と紋次が再び溜息を漏らす。残りの二人もどうやら苦笑を隠しきれないようだ。

 

「賢いのも確かにいたんだけどね。今代のローマ法王カピトリヌスがいい例よ。天使型の頭を押さえて基督教のトップなんてやってたんだもの」

 

 カピトリヌス。それは紋次でも知っているビッグネームだ。三年前に代替わりしたローマ教皇であり、薬物など社会の悪と呼べるものに対する硬派な方針でよく知られる人物だ。

 

「まあそのカピトリヌスだが、表向きはそうでもないが実際はバリバリの異端排斥論者でな。ウィルス種の排斥運動を推し進めてくれたらしい」

「そしてその思想に他の天使型デジモンも同調、か。難儀な話だな」

「それだけならまだいいんだがな。そのカピトリヌスこそが天使人間であり『救世主再臨』計画の実験体らしい」

 

 計画の全容はこうだ。カピトリヌスのようなキリシタンの強い異端排斥思想を軸として天使型デジモンとの合一化を図り、生み出された天使人間のカリスマと武力を持って教会の勢力を率い他宗教を殲滅、世界を基督教で塗り潰す。その上で世界そのものを召喚陣として天使人間こと救世主の名の下に神霊を召喚。神聖四文字の下に千年王国を形成する。

 

「デジモンの世界にも『神』は存在している。人間との融合により我らの神と両方に呼びかけ、より神霊の召喚効率を上げるということだな」

《イグドラシルやシャカモン、ファンロンモンにユピテルモンなど多数『神』と呼ばれる存在は多数存在するな》

 

 ドッグの中のデジモン達が反応する。

 

《まあ、いずれもまともなものではないがな》

 

 彼等が言及しているのは、嘗てデジタルワールドのホストコンピューターである『イグドラシル』が暴走した結果、不要なデジモンを処分しようとした事件を初めとする独善についてである。

 

「まあそうだろうな。凡そ神なんてものが下位存在に介入した場合良い結果をもたらしたことなどない」

 

 例え各地に伝えられていた伝承を紐解いたとしても、だ。

 

「話を戻すぞ。ここで重要なのは世界に存在するのは唯一神のみを崇める一神教のみであるということだな。異端を排斥するのが人間だ。異端の排斥を達成したその時――尤もそれでも時間がたてば諍いは再び生じるだろうが――世界に争いは全く存在しない。すると、どうなる――?」

 

 そのような条件下で召喚される神聖YHVHには破壊神としての側面は存在し得ない。

 

《……だが、そんなものは、唯のディストピアだろう》

 

 ドッグの中のデジモン達は誰からともなく呟いた。

 

「そういう訳で、とりあえず首魁であろうカピトリヌスを叩きに行こうという話だな」

 

●●●●●

 

 多数の天使型デジモンの妨害こそ受けたが、所詮大天使型が精々だ。その上ヴァチカンは総本山。行き過ぎた粛清故天使型以外のデジモンは存在すら許されていない。カオスドラモンとデュークモンがいれば難なく進撃は可能であった。

 

「遥々日本からお出での客人だ。歓迎しようじゃないか」

 

 三人の目の前には今代ローマ教皇であろう異形の男が佇んでいる。絡みついて離れないような声は、しかし同時に脳を直接貫いているような錯覚を覚えるだろう。凡そ人間とは思えぬ程の美貌に、その背中に生えた5対の金翼。人間離れした、どころか既に人ではないその威容からは、対デジモンの重圧に慣れている小夜や諏訪原をもってしてもたじろがせるに十分な重圧が発せられていた。そもそも彼女らが対峙してきたデジモンの放つプレッシャーとは全くベクトルが違う。単純な秩序にして善性の存在であり、それ故異端を決して認めない。そういう男に、外法によって熾天使が――大天使長が融合しているのだ。異教徒である紋次達が受けているのは単なる殺意などではなく、自分達こそが悪性なのだと言う事実の押し付けに他ならない。

 

「折角お越しいただいたんだ。このような無粋な舞台しか用意できないとあっては私の沽券に係わる」

 

 目を見張るほど流暢な日本語を口にし、カピトリヌスは指を鳴らす。周囲の光景が歪み始め、景色が入れ替わる。

 

「これは――」

「空間転移、という訳ではないよ?ただ異界を形成しただけだ」

 

 それは古代ローマにおけるコロッセオの如き威容。現代に残るそれとは異なり破損した部分など一つもない。強いてあげるとすれば、そこには観客が一人もいないといったところか。また同時に、カピトリヌスの姿も変貌する。黄金の鎧を纏い、5対の金翼を惜しげもなく晒しているその腕の先には巨大な『槌』が存在していた。その姿はもはや天使『人間』ではなく人ならざる異形。

 

「改めて、私が今代教皇のカピトリヌスだ。我が身には御使いたるセラフィモン様が降臨なされている」

 

 君達の要件は知らないが――と続けるカピトリヌス。滲み出る敵意に、続く言葉に備えるまでもなく、紋次達は臨戦態勢を取らざるを得ない。

 

「ここヴァチカンにおいて、君達と共にあるデジモン達は存在を許されぬ悪魔だ。用件を伺う前に、まずは化生の者を断罪しよう――!」

「――ッ!来るぞ!」

『リアライズ――!』

 

 コロッセオに顕現する二つの巨体と一つの人型。しかしダウンローダーを起動するよりも早くカピトリヌスが迫っている。

 

「こちらで受け止める!早くダウンローダーを!」

「任せろ――デジメンタルアップ――『ダウンローダー』!」

「ええ――カードスラッシュ!――『ダウンローダー』!」

 

 

 カオスドラモンが盾になるように間に滑り込む。すぐさま紋次と小夜が強制進化プログラムを起動。瞬く間に姿を変えるメタルグレイモンとデュークモン。だが、その進化が終わるまでの僅かな時間、カオスドラモンの質量に任せた強烈な打撃をものともしなかったカピトリヌスがカオスドラモンを地面に叩きつける。コロッセオ全体を揺るがす振動と共に床が崩れ瓦礫が飛び散る。半身を地面に埋められる形となりもがくカオスドラモンに目もくれず、カピトリヌスは残りの二体に狙いを定める。狙う先は――デュークモン。

 

「させるか――『クォ・ヴァディ――」

「――遅い。『セブンヘブンス』ッ!」

 

 カピトリヌスは七つの光球を生み出し、自分を中心にそれらと同時に突撃する。神槍グングニルから放たれるデュークモンの一撃は対象を電子分解し異次元へと送り付ける技。故に一つ一つがカピトリヌス自身と等しい程のエネルギーを有するセブンヘブンスと同時に突っ込まれては対応のしようがない。完全な読み違え。膨大なエネルギーを8連続で叩き込まれた体で、神剣ブルトガングで切り裂くインビンシブルソードならば――と思考せざるを得ない。

 

「外れた進化の申し子よ――!」

「この――ッ!舐め、るなあッ!」

 

 小夜の悲鳴とほぼ同時にカピトリヌスがブラックウォーグレイモンへ迫る。対応しかねるスピードではあるが、それでも闇雲にドラモンキラーを突き出す。

 

「ぐっ――貴、様ぁ!」

 

 苦し紛れに突き出されたドラモンキラーの一撃が鎧を引き裂きダメージを与える。自分が傷付けられたことが受け入れられないのか、怒涛の連撃は鳴りを潜め、距離を取ったまま停滞するカピトリヌス。

 

「体勢を立て直せ!」

「時間を稼ぐ!何とか手だてを――!」

 

 三体のデジモンが一か所に集中する。圧倒的なスピードの相手に分散しては分が悪いと踏んでの行動であり、耐え忍んで己のテイマーに判断を託すという意思の表れでもあった。

 カピトリヌスも同時に立て直すが、既に彼等に隙はない。三対一のアドバンテージを利用しカピトリヌスに対応している。

 稼がれた僅かな時間。テイマー達は思考する。カピトリヌスに対する有効打は――明白である。ドラモンキラーだ。

 

「でも――どうして対竜型特化のドラモンキラーが有効打になりうるの?」

 

 カピトリヌスは天使と人間の合体した姿。仮にもしドラモンキラーの効力が「対幻想生物特化」であるならば納得できるが――。

 

「断罪の雷を――『マボルト』」

 

 カピトリヌスは両腕の槌を叩き合わせ、コロッセオ上空に雷雲を召喚する。その言葉と姿はまるで雷神のようで、紋次は何か思いついたようにカピトリヌスに語りかける。

 

「さっきから言ってる『断罪』に『雷』――お前、天使人間とか言いつつ、元々人間じゃないな?」

「――ほう?では何だと言うのかね」

 

 カピトリヌスの動きが止まる。試すように紋次を睨み付け、続きを促す。

 

「さっき偶然聞いた話のお蔭で分かったんだけどな。お前――ユピテルモンだろう」

「な――」

「ハ、ハハ、ハハハハハハハ!」

 

 絶句するデジモン達と、対照的に高笑いを始めるカピトリヌス。

 

「成程ね。確かにカピトリヌスの三神と言えばユピテル神殿で祀っている神の事ね」

「随分と洒落た名前で人間に化けたものだな」

「く、はは――成程素晴らしい!流石は人間だ!三年もの猶予があって全く私の正体を見破れない愚昧な天使共とは違う!」

 

 カピトリヌスの三神。ユーピテル・ユーノー・ミネルウァの三柱の神。いずれもデジタルワールドにはユピテルモン・ユノモン・ミネルヴァモンという名で語られている。

 

「それならばドラモンキラーが通用するのも頷ける」

「ええ。白鳥だの雄牛だのに変身した逸話が残ってるんだもの。ドラゴンに変身したこともあるんじゃない?」

 

 ユーピテル。ゼウスの名で知られるその神は、裁きを担う最高神であると同時に多情な神だ。「ユピテルモン」と「ユーピテル」に如何程の同一性が存在するかは定かではないが、こと呪術的な――電子の世界というあやふやな――観点において、同一性のあるものは同じものと考えられる。

 

「ハ、ハハ――まさかその程度で私の正体に辿り着けるとはな!褒美だ。名を覚えてやろう」

「……曽呂 紋次だ。ウィルス種のデジモンをデリートしようとする奴なんかに覚えてもらう必要はないけどな」

 

 ユピテルモンは圧倒的強者としての尊大な姿勢を崩さない。負けじと強気に出る紋次に対して問いを投げる。

 

「では、私の目的については想像がつくかね?」

 

 紋次の左右の二人も首を横に振るばかり。デジモン達も無言を貫いている。

 

「『救世主再臨計画』というのは本当だ。そして私が天使人間ではないと言え、この身に熾天使を取り込んでいるのも本当だ。教会の連中に研究させた甲斐あって、天使型デジモン限定だが、他のデジモンと合体する技術――"デジクロス"が完成したのだ。やはり研究において人間の右に出る者はいないな。我々を生み出しただけのことはある」

 

 黒瀬が研究していたのもデジクロス技術に関わるものだ。教会は未だその真相を把握してはいないが、この技術はユピテルモンが他の天使型デジモンを取り込むために作られたものである。日本で諏訪原が手に入れた情報における融合条件「ウィルス種を撲滅しようとする強い意志」など必要なく、唯天使型デジモンの力を取り込むだけの"強制デジクロス"。それがこの『救世主再臨計画』の要である。

 

「そしてその計画。最後には神霊を召喚するという話だが?」

「そうだ。私はあのイグドラシルを!我等デジタルワールドを古来よりの支配から引き摺り下ろした傲岸にして不遜、悪辣なる神を!今ここに!あの者を生み出した人間の世界に!御座より引き摺り下ろす!」

 

 ユピテルモンの感情の高ぶりに応じるように、コロッセオに雷鳴が響き渡る。

 

「だが――だが。忌々しきことにイグドラシルは私よりも遥かに強大だ。ベルの名を冠する魔王型から力を奪い、我等オリンポスの神々を貶めた奴と私ではもはや天と地ほどの差がある。

 そこで私は考えた。ならば奴を生み出した人間を、奴と同一の存在を信仰する人間世界の基督教徒を利用してやろうと。奴に付き従う天使型から力を奪い――なに、奴も遥かな昔に行ったことだ、いまさら何も言うまい――天に昇る。そして私を筆頭に、オリンポスの神々による正しき治世を」

 

 一息に言い切りユピテルモンは紋次達に掌を差し出す。

 

「誤解があるようだが、そもそもウィルス種の撲滅など方便だ。君達が望むなら、新治世においてそのデジモン達と共にいられるよう便宜を図ろう。どうかね?私と共に、イグドラシルへ挑みはしないかね?」

「それは――」

 

 それは、魅力的な提案だ。そもそも紋次がこうして戦っているのは、小夜への協力、即ち『教会』の打倒ないしは変革を求め、そしてウィルス種の断絶を防ぎ、ブラックウォーグレイモンと共にあるためだ。ユピテルモンの案に乗れば、『教会』は壊滅。そのうえ小夜が戦う理由であるテイマーの人権問題こと、天使型以外のデジモンを悪と断じテイマーごと奴隷の如く扱う世界もなくなる。

 

「――認められんな」

 

 思わず肯定的な返事を返しそうになった紋次に制止の声がかかる。

 

「ええ。そうね。乗っちゃダメよ。ユピテルモンは重要なことを言っていないわ。イグドラシルを召喚というのは、私達の世界で言う神霊YHVHを召喚するのと同じ。つまり全世界を基督教義で染め上げる必要があるの」

「と、言うことは……だ。結局奴原の教義に従えば、俺達のデジモンはデリートされる。従う必要性など皆無だな」

 

 二人の言葉が進む程、先程は消えていた敵意がユピテルモンから再び放出されるようになる。

 

「そっか……成程。二人とも、ありがとな。危うく騙されるところだった」

「ということは、私に従わないと?」

 

 零落した神人型デジモンとはいえ、セラフィモンを取り込んだユピテルモンの力は圧倒的に過ぎる。既にデュークモンは満身創痍に近く、カオスドラモンはユピテルモンの余りにスピードに対応できない。辛うじてその速度についていけるブラックウォーグレイモンのみが、この戦況を覆せるかもしれない。つまり、紋次達にほぼ勝ち目はない。しかしそんな打算とは関係なく、誰からともなく拒絶を叩きつける。

 

「当然!」

「ならばロードして糧とするまで!我が復権の礎となれ!」

 

 ユピテルモンが再動を始める。雷撃と光球を軸に組み合わせながらコロッセオを疾走する。

 

「移動箇所を制限しろ!まずは動きを捕えるんだ!」

「了解した――『ハイパームゲンキャノン』!」

 

 強烈な熱線がコロッセオを二分する。如何にユピテルモンと言えどダークエリアの力をそのまま噴出するこの熱線に触れようとはしない。それだけで圧倒的な速度が失われる。それを嫌ったユピテルモンは次の一手、カオスドラモンに強力な大砲を叩きこまんとする。

 

「その程度の浅知恵――『ディバインブレーカー』!」

「今度こそ消してしまいなさい!」

「任せておけ!『クォ・ヴァディス』!」

 

 二度目の発動となる必殺技。神威を上乗せし威力を増幅した神殺しの一撃も、神槍グングニルから放たれる電子分解効果には耐えられない。動きの止まったユピテルモンに肉薄するブラックウォーグレイモン。

 

「ぶちかませ!ブラックウォーグレイモン!」

「応とも!『ドラモンキラー』ッ!」

 

 竜殺しの爪が黄金の鎧を引き裂く。しかしユピテルモンは左足のみを犠牲に上空へと逃れ出る。

 

「クソッ!仕留めそこなったか!」

 

 嘆く紋次の視界の中で、怒りに震えるユピテルモンが両腕を天に掲げる。己の雷神としての特性を活かし、熾天使最大の一撃を放つ。

 

「お、のれ――!受けよ神罰!『アセンションハーロー』!」

 

 コロッセオを埋め尽くさんとする怒涛の雷撃。回避の仕様がないどころか、デジモン達もテイマーを雷撃から庇うことしかできない。

 

「神罰を遂行しよう――」

 

 デュークモン、メタルグレイモン共に既にダウンローダーの効果が解ける程のダメージを受けており、カオスドラモンとて最早動けない。ユピテルモンは片足を切断された怒りからか、メタルグレイモンに狙いを定めて低空飛行でゆっくりと近づいてくる。雷撃の衝撃から真っ先に立ち直った紋次は思考する。この状況を打破できる何かがないか、と。

 

「畜生、こんなところで――」

 

 ――走馬灯とは、人が死に際に体験するといわれる一生の記憶のリピート現象の表現として用いられている言葉である。故に、幼少期の体験に始まり、デジモンと遭遇した時の記憶まで遡った時、紋次は一種の既知感を覚えた。

 そうして、デルタモンに襲われた際と同様に振り向いた先には――。

 

「アレだ!メタルグレイモン!アイツの足をロードしろ!」

「何だと、貴様――!」

 

 ――先程ドラモンキラーで切断されたユピテルモンの足が無造作に転がっていた。

 

「――応、とも」

 

 メタルグレイモンもまた、三体の中で真っ先に意識を覚醒させる。それは紋次を庇った際、背中のシールドが僅かながらも雷撃の威力を軽減したからに他ならない。それは紋次の立ち直りが早かった要因でもあり、その結果――。

 

「ハン、第三ラウンドと行こうか。ユピテルモン」

 

 ――黒の竜戦士が、再び雷神の前に立ちはだかった。

 

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