「おおお、お金あげましゅううう! だからぁあああ!! たすけて! たすけてくだしゃあああああいいいいいい」
「うわあぁ……」
両足を焼きちぎられた帝国兵の隊長らしき人物は、村の広間にたどり着くまでだいぶ時間が立ったというのに、大音量で命乞いをしていた。
周囲には倒れ伏した騎士たちの姿。皆殺しにするためか、集められた村人たちは抱きしめ合ったり、縮こまったままだ。
だが、彼らは村の外から歩いてくるエンリと、その手をつないでいるマーレに目を向ける。
「お、おお! エンリや、無事だったのか」
「は、はい、村長! マーレさんが、彼が助けてくれたんです。騎士を倒したのもマーレさんの魔法です」
エンリの妹のネムより少し年が上に見えるくらいの子供だったが、その肌と耳から正体がわかったのだろう。
喜びの声を上げる。
「おお! 伝説のダークエルフさまでは! 賢王が森を守り出すまでは彼らがこのあたりを守っていたと子供の頃にひい爺さんに聞いたことがあります!」
安心のため、わざと声を大きくしているのだろう。
村人たちはどこか安心したようで、体から力を抜いていく。
「えええ、エルフだな! 下等な種族! お、俺をたすけろおお! なんなら飼ってやるぅうう!! 可愛がってやるからおれをたすけろおおおぉ」
そんな彼らの空気を引き裂いたのは生かされた隊長だった。
マーレがやったことだとは全く知らずに、まさかの命令だ。
溺れるものは藁をも掴むというが、本当に見境なしだ。
「うーん、生かすやつ間違えたかも……」
正直、惨めに命乞いをする姿はみっともなく、聞いていて気分が悪くなる。
ペロロンチーノは社会的には強者ではなかったが、悪のギルドの一員としての矜持はあった。
たとえ命を脅かされようと、相手が美ロリであったらば口説きに走る気概があった。
こいつは根性が足りないやつだ。うん。
男だったら一矢報いようとするか、逃げることに全力をつくすか……したような、しないような。
仕方がないにしても、これはないよなあと思った。
「あの、そいつうるさいんで、どこかにしまっておいてもらっていいですか? このあと来る仲間が口をわらすの得意なんで」
小石を蹴るように隊長の腹を足で小突くとポーンと放物線を描いて空を舞う。
ドスンと落ちるとともに、聞こえた「ぎゃふっ」という一言とともに声は聞こえなくなった。
「く、口ですか?」
「えーと、情報収集、必要ですよね? 俺、森のものなんですけど、見た感じ、ここ悪い村じゃなさそうだけど、騎士が大人数で狙うほど裕福な村ってわけじゃなさそうですし」
伝説の剣でも封印されていれば話は別だが、特段そんな感じもなさそうだ。
「それは、そうですな……カルネ村のすぐにあるトブの森には賢王……強くて賢い魔物がおりますし、盗賊が隠れるところも無ければ奪うものもない村でしたから。かろうじて行商人の行き来と、エ・ランテルに住んでいたエモット家の伝で薬剤師とつながりがある程度の村ですから……」
村の生き残った若い男たちが隊長を縄でぐるんぐるんに拘束すると、空き家へ連れて行くのを横目で見送る。
**
場所を村長の家に移してあれこれと聞いていくと、マーレはだんだんテンションが上っていくのを感じる。
「いやあ、異世界に転移。何でも無い村。謎の兵士の襲撃か。むふふっ」
「な、なにか?」
「いえ、なにも!」
ペロロンチーノはエロゲーマーだが、エロゲーしかしないわけではない。全年齢ゲーにもそれなりには正通している。
その経験がいっている。この展開はあれである。
次のイベントがすぐ、もしくは翌日辺りには来るな、そう睨んだ。
来るのはおそらく神官系美少女あたりだろう。
ムチムチロングのくせにパツパツシスター服を着ているやばい系か、清楚な巫女系だろうか。
謎めいた少女の可能性もあるか。
いわゆる信託の勇者イベントが来るに違いない。
すなわち敵国も信託を受けて荒らしに来たのだ。間違いない。
マーレはそう確信していた。
**
「私の名前はガゼフ。ガゼフ=ストロノーフ。王国戦士長だ」
おっさんゴリラかよっ!
どうやら序盤にしてはレベルが高いが後で再開するとあいつそこそこだったよな、な先輩キャラのお迎えだった。
可愛いヒロイン候補のお顔見せイベントを期待していたのに、出てきたのはごつい戦士である。
たくさんの戦士が馬に乗って現れたが、くっころ映えのしそうな女戦士もいない。
マーレにとっては途端に彼らがゴブリンと、ゴブリンリーダーの群れに感じてきた。
「あ、あの、マーレです……。村が襲われてたので、た、たすけました!」
面倒になって子供ぶって乗り切ることにした。
生意気に見えがちな俺っ子よりは娘っ子のほうが真面目そうな戦士にはウケが良いだろうという判断である。
難しいことも聞かれないだろうという悪知恵も働いている。
そのぶりっ子に村長と心配してついてきたエンリは不思議そうに首をかしげたが、ガゼフは特にそれを不思議に思わなかったようだ。
「なんと! それは素晴らしいお行いだ。ぜひ王都に来られた際は歓迎しよう。それで、後ろの御仁は……?」
後ろを振り返ると、そこにはしっとマスクをつけたマジックキャスターがいた。
「ぶふっ」
マーレモードになっていたはずなのに、一瞬でペロロンチーノの意識になっていた。
反則すぎるだろ。
現れたモモンガはどこからどう見ても不審者な仮面をつけている。その名もしっとマスク。
クリスマスの際に一定時間ログインを続けていると強制的にプレゼントされる捨てられない呪いのアイテムだ。
地味に毎年デザインが違う運営のセンスを疑うアイテムである。
マーレに会いに来るのは主に姉ちゃんと仲良かった女性陣だったため、モモンガさんが何年分持っていたかは知らないが、あのモモンガさんであるからして、毎年もらっていたんだろうなぁ……。
いや、だとして、この場面でつけるチョイスかよ。
『ちょっと、笑わないでくれますか?』
『いや、笑わせないでくださいよ』
襲われたばかりの村長と、助けられなかったたくさんの開拓村を見てきた戦士長をよそに、なんとも気軽な二人だった。
モモンガさんだからそんな感じしませんでしたが、
マーレで書いてみると実に異世界転移テンプなムーブ感ですね!
はたして、覇王エンリにはなれるのか。ただのおっさんゴリラ扱いされているガゼフはこの先生き残れるのか?
中々更新できずすみません。期待するのは?
-
ダイジェストでもいいので完結
-
別に書いているのが終わったらしっかり更新