コドクナマレビト前日譚

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葛葉ライドウvs悪魔食らい

順風満帆の快朝焼けのもと、漁師たちは仕事に精を出していた。とある一隻の漁船で仲間たちに交じって網を引き揚げていた息子が、船長に呼びかける。

 

 

「おやじ、おやじ、なんだこの魚ァ」

 

「あん?見せてみろィ」

 

「これだよ」

 

「なんつう奇怪な魚だ、こら珍しい」

 

「どうすんだ」

 

「とりあえず引き上げっぞ。先生がいい値で買い取ってくれるかもしれねえからな」

 

「あ、ああ」

 

 

よいせー、よいせー、と威勢のいい声が響く。今日は久々の大漁だな、と船長は空を仰ぐ。

 

 

5つになる娘と同じくらいの大物である。しかしながら尾びれから鮮やかな赤色を帯び、なんともうまそうであるのだが、奇妙なことに胸鰭あたりになると鱗がうすくなり、つるりん、とした白雪のようないろになる。

 

くびれやかたち、そして頭の部分はまるで人のように奇怪な形をしている。縄にかかっていたためにちぎられたひげのせいで、まるで丸坊主にされたおなごのよう。

 

「・・・・・な、なんなんだい、この魚は」

 

「ほら、先生こういうのに詳しいだろィ?だからわかるかと思ってよ。どうだ、言い値で」

 

「そ、そうはいわれても、私は・・・その、単に片手間のつもりで研究しているだけだから・・・」

 

「またまたァ」

 

 

ばしばし、と肩をたたかれ、先生と呼ばれた青年は、はあ、と小さくため息をついた。昔からのよしみで新鮮な魚を安くあげたりなにかとよくしてくれた漁師にはいまだに強くいえない。

 

もとよりその虚弱な精神と気弱で控えめな性格からして、三つ子の魂百までというが四半世紀生きたとしても性質はなかなか変わらない。とはいえど、好奇心には勝てない。

 

また余計なものを買ってきて、とただでさえ婿養子で肩身が狭いうちに持って帰れば、倹約家の妻がまた頭を抱えてしかるだろう。でも、たしかに話の題材に日々飢えている創作が仕事の身としては、とても魅力的なものとみえるのもまた、事実である。

 

結局彼はそれをひと月に妻からもらう小遣いの三分の一を費やすこととなる。

 

それはとても奇妙な魚だった。いや、魚というのも怪しげなものであるが、高等師範学校までしか進むことができなかった彼は、もちろん生物学はもとより海洋の知識など皆無。

 

だから大学にいる友人のつてで一部を調査に出したり、自分なりに蔵書だけは自慢できる蔵に埋没しながら探したのだが、どうもうまいこと合うものがない。

 

さすがにたべる、という勇気はない。ただ、こっそりと冷蔵の蔵に時折入ってはにやにやしながらそれを眺め、それを題材にした資料を集めていくうちに、ようやくご無沙汰だった意欲がわきだしてきた。

 

それを元に書き上げたのが、のちに彼を怪奇ものの作家としてそこそこの知名度をあげることになる。

 

処女作を「蒼狗伝」という。もちろん、創作というものはいつでも元となる基礎というもの、題材というものはつきもので、それは彼にも同じであった。

 

八百比丘尼という伝承をご存じあろうか。文字通り、八百年生きた尼の話である。

 

関西の漁業の盛んな地区において、人魚の死体が打ち上げられ、興味本位で煮魚にして酒盛りに出した主人の目を盗み、気味悪がった客は誰も口にせず捨ててしまった。

 

しかしかわやに行っていた男は客人たちの話し合いに参加しなかったばっかりに、ひとりそれを持って帰ってしまう。家族に自慢するために。棚にしまっておいたところ、事情を知らぬ娘がそれを食べてしまう。

 

素晴らしく美味だったという。人魚の肉というものは他国においても不老不死の妙薬として伝承が残っている。娘はやがて嫁入りし子供を産みそして老いていく。奇妙なことに、死に別れた途端、彼女は肉を口にしたころの年齢まで若返ってしまう。やがて2回も繰り返せば周囲は気味悪がり、すっかり親族も死に絶えてしまった彼女は出家。

 

しかし、恋しなければ不老不死のまま。妖怪として追い立てられ、彼女は好きなツバキを全国の海岸沿いにうえてあるき、やがて故郷に帰ってくる。そしてその寺の和尚にすべてを明かしたのち、そのはずれの洞窟にこもり、前に植えたツバキが咲いたら死んだものと思って弔ってくれ、といって姿を消した。なんともはかなく悲しい物語である。

 

 

 

そしてある日、それは起こった。

 

「おとーさま、なに、して?」

 

「うわあああああっ、え、あ、き、きぬえじゃあないか。どうしたんだい、女の子がこんなところに来てはいけないとおばあ様にいわれているだろう?いけないじゃないか」

 

「ごめん、な、さ」

 

「ああ、すまないね、扉を閉めなかった私が悪かったね、ああ、なかないでおくれ、さあ」

 

「はい」

 

ほう、とため息をついた彼は、さてどうしたものか、と考える。かわいらしい盛りの娘とは言え、純粋無垢なそして無邪気な彼女は素直に今ここで会ったことをすっかりおばあ様に話してしまうだろう。

 

はてさて参った、大学で資料として提供したのにまだ魚の部分が残っているというのに。これから捨てに行くとしても車なんて高級なものもってなぞいないし、まして捨てるにしても。こてんと首をかしげる彼女に、彼は目線まで腰をかがめると頭をなでた、ほにゃりと笑う。

 

「おさかな?」

 

「あ、ああ、そうだね。でも内緒にしておくれ、これはね、私の大切な仕事道具なんだよ」

 

「おしごとの?」

 

「ああ、これはお薬らしいのだよ、きぬえ。だから、食べてはいけないよ、とっても大切なものだからね」

 

「おくすり?」

 

「そう、どんな病気でもたちまち治ってしまうというお薬だ。でもとても貴重なもので、本当に大切なときだけにしかつかってはいけないんだよ。これは私ときぬえだけのやくそくだ、いいね?」

 

「はい!」

 

ゆびきりげんまん、とうれしそうに彼女は小指を差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

「おとうさま、大丈夫?」

 

「あ、ああ、すまないね、きぬえ。入ってきてはいけないよ、移ってしまう」

 

ごほごほ、とせき込む彼は、毎年季節の変わり目のたびに風邪をひく。男のくせに弱いんですから、とすっかりあきれ返っているおばあ様と妻には頭が上がらない。

 

女中が少しだけですよ、とふすまを開ければ、とてとて、と5歳の子供が持つにはあまりにも大きなお盆である。だって、と泣きそうな顔のわが子を見ると、彼は何も言えなくなってしまう。

 

まるで結核でもかかってしまったかのような大げさなほどの大病を患った患者のような扱いをされる。ありがとう、と身を起こしたかれは、差し出されたさじを口に含んだ。

 

「・・・・・これは?」

 

「おとうさまがいってた、おくすり。だから、はやく、げんきになってね!」

 

口の中に広がる信じられないくらいのうまさに、目を開く。ほんわりとした温かさが広がる。ぽかぽかする。彼は笑った。

 

「ありがとう、きぬえ」

 

「うん!」

 

この日から彼は風邪ひとつひかなくなったという。

 

 

 

 

 

 

彼は結局それをうちの裏に埋めてしまう。丁寧にツバキの花を近くの木に植える。毎年、きれいな花を咲かせるそのツバキは裏庭の名物となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

汽車を乗り継ぎ、志野田の名もなき神社へ。からから、と鈴鹿根を鳴らせば、気配もなく深く布地を被った女が立っている。デビルサマナーが属する組織、ヤタガラスと唯一接触できる末端を名乗る彼女に、ライドウは「異界」へ行くことを伝えた。女の送還で、「異界」に降り立ったライドウは、別件の依頼主を探す。

 

人が生きる世界を「表」とするならば、まったく同じ風景でありながら人が存在しない、代わりに「悪魔」と呼ばれる存在が生きているこの世界は、さしずめ「裏」と言える。

 

常に空には月が存在し、世界は闇に包まれている。月齢に悪魔は色濃く影響を受けており、理性あるものならば交渉したり会話したりすれば応じてくれるものが多い悪魔でも、「満月」は理性を失い、問答無用でひとであるライドウに牙をむく。

 

魔を持って魔を打つデビルサマナーにとって、「新月」もまた避けるべきものだ、と目付役の黒猫ゴウトはいう。おなじ悪魔であろうと人であろうと出会うものに「死」を与えることに存在意義を見出す「魔人」なる存在が闊歩する。

 

いくら葛葉ライドウを襲名したうぬでも、とてもではないが、このなりのおれでは手助けもかなわん。それと遭遇すれば即刻説教部屋いきだ、としっぽを揺らした。

 

ちなみに説教部屋とは任務に失敗したサマナーが問答無用で魂のみの存在となった時に飛ばされる牢獄であり、先代たちの罵声、叱責、過度な檄励を浴びせられ、猛反省を強いられる精神所業より酷な場所のことだ。

 

サマナーの称号をもつものはいずれも肉体と魂を解離できる能力を有する。幸い、いまの月齢はまだ若い。

 

黒の学帽に、制服、そして使役する悪魔を封魔している管、呪詛を断つ日本刀にコルトライニングの銃。それらを覆い隠す書生のマント。ひらり、と翻し、ライドウは依頼主が待つという裏路地へと急いだ。かつかつかつ、と革靴がなり、後ろからゴウトがかけていく。

 

「ひーほー」

 

ふよふよふよ、とマント揺らしながら、浮遊するものがいる。

 

南京瓜にまん丸の目玉と鋭いさけた口をかたどった顔が上にのっかっており、中にはぎらぎらとした何かが光りを放っている。マント越しに灯篭をかざすこれを人はジャックランタンという。

 

アイルランドおよびスコットランドの鬼火である。堕落した性質の男が天国にも地獄にもいけず、安住の地を求めてさまようなれのはて。一説には狡賢い農夫が悪魔をだまし、地獄につれていかないという契約を交わしたはいいものの、歩んだ人生の悪路に天国にも拒否されどちらにも行けなくなったという。

 

伝承にもよるが、森に迷い込んだ旅人を道案内するという親切な部分もあるらしい。ライドウの気配に気づいたのか、ジャックランタンが身をひるがえして近くに寄った。

 

 

「お前がさまなーなのかほー?」

 

ライドウはうなづいた。サマナーと悪魔は共生関係にある。悪魔を使役する代わりにサマナーはマグネタイト(以下MAG)という生命エネルギーを与える。他にも悪魔がサマナーに加担する理由があるのだが、それはまたおいおい。

 

「ああ、いかにも小童だが14代目葛葉ライドウとはこいつのことよ。で、おれは目付役の業斗童子。別件依頼について詳細が聞きたい。話してくれないか」

 

「わかったホー。おいら、みたんだホー!」

 

興奮した様子でジャックランタンは話し始めた。

 

それは満月でも新月でもない弓月の刻。ジャックランタンは、いわゆるミイハアだという。強いと評判の悪魔がいればどこでも飛んで行き、まるで追っかけのファンの如く野次馬のように一目会いたいと無謀にも探す。

 

ホワイトライダーにあったことがあるんだほー、と自慢したジャックランタンに、聖書に書かれている支配の騎士にか?!と思わずゴウトは食いついたが、ライドウに制され、ぬう、と黙る。

 

脱線気味のジャックランタンの話をまとめると、「悪魔喰らい」とよばれる「魔人」が新月でないにもかかわらず出現し、ところ構わず遭遇した悪魔を「喰う」のだという。「殺す」でも「倒す」でもなく「喰う」のだという。どういう意味だ、とライドウは先を促す。

 

「そのままの意味なんだホー。ばりばりぼりぼり頭のてっぺんから足の先まで全部食べちゃうんだホー。悪魔がご飯変わりなんだほー。こわいホー。こわかったホー。おいらが隠れてるとき、あいつに会った友達が食べられちゃったんだホー。「クワセロ」って言ってたホー」

 

ぶるり、と震えたせいか、燈篭がゆらめく。面妖な、と足元で呟く声があるので、ライドウはゴウトをみた。

 

「何の周期もなく出現し、しかも「死」をもって洗礼する「魔人」とは性質が違いすぎる。聞いたことがないぞ、新手か」

 

日本が世界を知ってからゆうに60年がたつ。開けていくにつれてデビルサマナーが使役、敵対する悪魔はうなぎ上りに増えている。古来からの知識だけでは賄えないことが増えた、とゴウトは嘆く。ライドウは、口元に指を寄せる。思案しているときの癖である。

 

「しかも、この前は異界に迷い込んできた人間を襲ってたんだほー。最初の方は二人魂を食べられちゃって、しんじゃってたけど、でももう一人は生き残ってたからあの時はオイラが逃がしてやったんだホー。でその次は迷ってたから龍穴まで案内してやった途中で会っちゃたんだホー。なんとか逃げられたんで、これはそのおれいにもらったんだホー!」

 

自慢げにジャックランタンは鮮やかな色を残す椿の花を見せる。ほう、とゴウトはつぶやく。いつまでたってもきれいなんだホー。人間いわく、これはお守りだからずっとこのままだって言ってたほー。

 

くるくる、と回す。乾燥花か、それにしてもずいぶんとうまくできておるわ、まるで咲いたばかりのようだな、とゴウトは言った。

 

つられてほほ笑んだライドウだったが、先ほどジャックランタンが口にした言葉が引っ掛かったのか、ゴウト、と名を呼んだ。真剣なまなざしだ。

 

「ああ、うぬの言う通り、確かに異界に迷い込む人間がいるのなら、どこかに龍脈の乱れか亀裂があるにちがいないな。早々にふさがねば。それに、その「悪魔喰い」とやらは人まで食らうのか。あまりにも危険すぎる。もしそやつが帝都にまで出現するとなるとただでは済むまい。・・・・・心してかかれよ」

 

ライドウはうなづいた。

 

「にして、「悪魔喰い」はどのような姿をしておるのだ?」

 

「人間を襲ってた時には、ぎらぎらしててサマナーよりずうっとおおきくてくろくて鋭い爪と牙だったんだホー。でもこの前人を襲ってた時には、ほとんどサマナーみたいに人間そのもので、初めは迷い込んできた人間と区別がつかなかったし、人間はなんかその姿見て固まってたから、たぶん皮をかぶってるんだホー。人間には大切な何かに見えるし悪魔には人間に見えるんだホー」

 

「擬態の能力があるのか・・・厄介な。にしても、二回も襲っておるのか?」

 

「そうだホー。おいらが助けた人間はしわくちゃのとサマナーくらいのだほー」

 

「・・・・・予想以上に事態は深刻だな。調査を早くせねば」

 

「頼んだホー」

 

任せておけとばかりにライドウはジャックランタンの頭をなでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤堂真之介といえば、八尾(やお)という名の怪奇に題材を求めた伝奇ものを得意とする作家である。その由来は、処女作の「蒼狗伝」で題材を求めた八百比丘尼から。

 

所在地は矢来区筑土町の神代坂沿いにある富士子パーラーを曲がり、北へ抜けた先にあるかの政治家、大道氏の屋敷に程近い。負けずとも劣らない屋敷である。

 

他作品としては、「鳴り神の果て」「孤高」「佐鳥」「お宮さん物語」などすでに絶版となっているものも多い、長年ヒットに恵まれない不遇の物書きであったが、5年ほど前某週刊誌にて不定期連載をしていた「妖都偽録」シリーズが徐々に評価される。

 

歴30年にしてようやく日の目をみた遅咲きの作家である。

 

しかし皮肉にも世間に知られるようになったのは、藤堂家で起きたとある事件で彼が被害者となったからである。世間の好奇にさらされ続けた彼は一度体調を崩し、以来代役を立てて表舞台には立たなくなった。

 

不幸にも一切姿を見せない風変わりな作家としての様相を呈してから、過去作品に注目が集まるようになった経緯がある。何も語らないをいいことに印象が先行し、勝手に像を作られてしまっている。

 

記者が張り付くこともあったが、彼の姿を明確にとらえた写真が残るのは、初期の作品の帯にのせていたもののみ。そのため出版社が依頼するにしても、縁戚の青年を介してしか受け付けない。

 

そんな作家に帝都新報での独占連載契約を結んで来い、と編集長に発破をかけられた朝倉葵鳥(きちょう)、こと朝倉タエは緊張をほぐそうと緩やかに息を吐く。正直不安であったのだ。

 

男女平等を掲げる思想に傾倒している活動家であると胸を張れるとはいえ、世間一般の感性でいえば、まだまだ女が、と指をさされることもおおい時代である。

 

だからこそ平塚せんせいから拝借した名に、男とも女ともつかない名を織り交ぜたのだ。しかし電話越しでは声のごまかしなど出来やしなかった。

 

初めての電話は、呼吸が止まるか、というくらい緊張しきりであった。しかし、幸いにしてマネージャーの青年は十分と先進の思想に柔軟な人間であったらしい。

 

ずいぶんとあっさりとした了承であった。マス・メディアに徹底した距離をおく作家にしてはずいぶんだ、と同僚たちと首をかしげたものだ。

 

奇跡的にアポイントメントをとりつけたのが二日前、待ち合わせ場は富士子パーラー。応対慣れしているらしい電話口の青年は、藤堂伸治と名乗った。気さくな話がらから、気難しい祖父の信頼を唯一獲得している理由がわかる気がした。

 

粗相のないように、春色の袖を通したばかりの洋装、帽子、そして慎重にしてきたメイク崩れがないか念入りにチェックする。そして、いざ、と彼女はすでに腰かけている青年の席へといく。

 

・・・・・なんてことだ、すでに待たせているなんて!腕の時計に目を走らせるが、待ち合わせ時間までまだ15分ある。どうやらまじめな青年らしい。

 

・・・・・もしかしたらいけるかも知れない、と淡い期待も込めて、タエは葵鳥になる。青年はタエと同じか少し上くらい、スーツ姿に帽子。タエを見つけて笑った。

 

 

「こんにちは。えっと、先日ご連絡いただいた帝都新報の方ですよね?はじめまして」

 

「はじめまして、帝都新報の朝倉と申します。お忙しいのにご足労いただいて、すみません」

 

「いえ、お構いなく。実はお使いを頼まれまして、はは。わた、いや、祖父がいうものですから・・・はい。なかなか男一人では入りズラくて参りました」

 

彼は帽子をとり会釈するので、少しばかり緊張も薄れて自然とあいさつを交わせた。やはり八尾先生はそこにない。

 

開店以来女学生やモボの絶えない繁盛しきりのこの店一番人気が、甘酸っぱいイチゴの乗ったショートケーキなるものである。こちらに気を使ってくれたのか、と気おくれしたものの、彼がガラス越しに目移りしているところからして無類の甘味好きらしい。

 

腰かけた葵鳥と社交辞令を交わし、名刺を交換した彼は、挨拶も早々にケーキと紅茶を注文すべく給仕の女性を呼ぶ。いかがですか?と言われ、遠慮する理由など皆無だった。

 

確かに男がこのようなものを好むとあっぴろげに公言できるほど、まだ世間は寛容ではない。

 

それにこのパーラーの外観、神代坂のド真ん中という否応にも人目を引く立地、そしてほとんどが女性客となれば従業員、もしくは勤める職人でもない限り立ち入ることすら億劫だろう。

 

なかなかいい情報を得た。人前に姿を現さない作家の素顔はなかなか知られていない。もしかしたら、なかなかにおもしろい人なのかもしれない、そう思った。

 

「あの、藤堂さん」

 

「そうですね、では始めましょうか」

 

藤堂はいう。はじめましょうか、と彼は言った。一瞬その意味をつかみかね、ぱちぱちと瞬いたタエだったが、思わぬ好感触に口元が緩む。つまりこの代理人は前向きに検討するうえでこれからについて相談するためにここにいると宣言したのだ。

 

女性だからという理由で門前払い、という苦い経験もあるタエはうれしくなった。がんばろう、と書類を広げる。そして、少々意見の相違があったものの、うまいこと調整がきき、なんとか珈琲3杯で納めることができたのである。

 

「ありがとうございました」

 

「はは、僕はあくまで代行ですから、やめてください」

 

「じゃあ、その、先生によろしくお伝えください。帝都新報は先生を大きくバックアップしていきたいと思いますので、なにとぞよろしくお願いしますって」

 

「あはは、ずいぶんと御贔屓いただいているようで、お恥ずかしい。でも、わかりました。あれも喜ぶと思います」

 

「そうですか」

 

「はい、それはもう。実は、もともと臆病というか気弱というか、どうにもこういう対話というものが苦手な性質でしてね。よく恒夫さん・・・ああ、お義父さんに怒られてばかりで。自分の意志というものを現すのが肩身狭い立場のせいか、極端に苦手なもので」

 

「なんだか意外ですね、あの、八尾先生が」

 

「まさか。とてもではないが、世間様のおっしゃるような大層な性質ではありませんよ、ええ。それに加えて、少々厄介な病にかかっておりまして、なかなか難しいものですね。しかし、朝倉さんのような若い方に作品にそこまで御熱心いただいて、さぞ喜ぶと思います」

 

「そうなんですか」

 

まるで自分のことのように恥ずかしそうに話す藤堂に、くすり、とタエは笑った。なるほど、どうやらこういう仕事を孫に代行してもらっているには応相の理由があるようである。

 

先生と養い親のぶんのケーキを土産にと買って帰る藤堂を見送って、今度の打ち合わせの時には土産においしいまんじゅうでも差し上げようかしら、とホクホク顔でタエは思った。大収穫であった。

 

「どうやら、止まったようじゃのう」

 

「ほ、本当に?これ以上、にはならないのかい?長野」

 

「ああ、先日と比べても変異は最小にとどまっていたが、とうとうなんの変化も見せなくなったわい。ほれ、みろ。あんだけ活発だったーーーーがーーーーーて、――――――とる。代わりに、のう、藤堂」

 

「よかった・・・助かったよ、ふう。これ以上ひどくなると、いくらなんでもごまかしが効かないからね」

 

「安心しとるようで言いにくいんじゃが」

 

「えっ、ま、まだ何かあるとか・・・言わないだろうね。勘弁してくれ」

 

「非常に言いにくいんじゃが、今度は何も起こらんじゃろう」

 

「え?」

 

「この先、そのまま現状維持が続くのか、進行していくのかはわからんが、このわけのわからん病気が治まって元に戻るということは限りなく零に近いということだ」

 

「つまり・・・え、嘘だろう?そんな・・・馬鹿な、話があってたまるか!長野、なんとかできないのかい?」

 

「身をもって体感しとるお前さんが一番わかっとるじゃろう、藤堂。なんとかしてやりたいのはわしとておなじじゃ!全世界の稀有な症例を洗いざらい調べたんじゃ、一軒もないわ!原因もわからん時点で、到底発見できるとは思えん。辛いじゃろうが、わしから言えることは何もない」

 

「なんてことだ」

 

キヌエや恒夫さんに、使用人たちになんと説明すればいいんだ、と頭を抱え、うなだれる級友に老医師は肩を叩くしかない。

 

そこに、きい、と開く音がある。はっとして、二人はその先を見つめる。きぬえ、と彼はつぶやいた。今にも泣きそうな顔でハンケチを握りしめる娘と本当なんですか、先生、と絶望のまなざしで連れ添う旦那の姿がある。

 

「まさかこのまま、なんて、そんな・・・いや・・・おとうさまぁ」

 

「お義父さん・・・」

 

目をそらす彼に、キヌエは夫のもとを離れて泣きついた。母と息子をいっぺんに失った矢先の出来事だ、気が動転するのも無理はない。

 

ああ、すべては私のせいだ、と彼は眼を閉じた。脳裏をよぎるおぞましい光景。ぞわり、と悪寒だけが残っている。このような姿になったことに心当たりがないわけではない、しかしながらあまりにも非常識すぎるために、いくら医学の権威を謳われる旧友にも打ち明けることなどかなわない。

 

もとより娘と自分しか知らなかったことだ。今さらなぜ、しかもこういった形で!悔しさに涙をにじませる。

 

「わたしが、わたしが、あの時・・・・・ごめんなさい、おとうさま」

 

「いいんだよ、いいんだ。泣かないでおくれ、キヌエ。私まで悲しくなってしまうから。・・・・・すまないね、恒夫さんにキヌエ。厄介ばかりかけるよ。許してくれないか」

 

「そんな」

 

「めっそうもない。おれたちでよければ、いくらでも力になりますから、顔を上げてください、お義父さん」

 

「ありがとう」

 

私は幸せ者だ、と彼は笑った。

3年ほどまえのことである。

 

 

 

 

 

筑土町にある軽子川が流れる沿いに立ち並ぶ商店街。やがて石造りの橋がかかるT字路正面、ケヤキづくりのたたずまいを今に残している創業1716年の老舗甘味屋の釘善がある。

 

若狭境の奥山でとれた「くず」を使った葛切りが名物であり、それを求めて多くの客人が訪れる。数ヶ月前から竹筒に模した容器に入れたお持ち帰り商品も販売して、かねがね好評であるらしい。

 

葛切りはもちろんのこと、ついてくる黒蜜の絶妙な甘さとつやつやとしたそればかりはほかの店ではまねできないものである、と常連である藤堂は思っていた。半世紀経とうとここだけは何も変わらない。

 

今となってはそれだけが妙にうれしくあったりするのだが、さておき。長蛇の列を待ちわび、ようやく入れた店内。からころ、と下駄を鳴らし、やはりこちらのほうが落ち着くとばかりに、仕事もないので、と私服である着物姿で二階の喫茶へと足を延ばす。

 

何やら一階の厨房が騒がしいが、どうしたんだろう?と思いつつ、席に着いた。いらっしゃいませ、あら、伸治くん、と女主人が顔を出す。お邪魔するよ、と笑った。

 

「葛切りをひとつ」

 

「あら、ごめんなさいね、ちょっと、」

 

「おや、品切れかい?」

 

厨房を見て、女主人は苦笑した。ちらり、と時計をみるが、まだ開店してから間もないというのに、珍しいこともあるものだ、と藤堂は思う。まだほろ酔いの残る体にはあののど越しが最高なのだが、ないのならば仕方ない、と肩をすくめた。

 

「実は「黒蜜」が、忽然と・・・」

 

「ここも?たしか富士子パーラーでも忽然とアイスクリンが消えるという珍現象があったと聞いたけれど」

 

「まあ、本当?いやだわ。警察部に届を出さないと」

 

「そうだね、そうした方がいい。ではあんみつを頼むよ」

 

「はい、ただいま」

 

厨房に消えた女主人を見送り、いいネタが入ったな、とこっそり彼は思った。

 

「あの、土産にならあるかな、葛切り」

 

「ええ、こちらはなんとかね。キヌエさんがたにお土産?親孝行だねえ」

 

「親孝行、か。・・・・・はは、みんなここの葛切りには目がないんだ」

 

「うふふ、御贔屓にどうも。そうそう、真之介さんはお元気?最近ちっとも来てくださらなくてさみしいわ、今度ご一緒にどうぞ」

 

「・・・・・できれば、ね」

 

「やっぱり御病気なの?」

 

「ああ。あまり大きな声では言えないけれど、とても」

 

目を伏せる藤堂に、お大事に、と女主人は一つおまけで分けてくれた。複雑そうな顔で店を後にした藤堂は、小さくため息をつく。やはり界隈は狭すぎる。優しすぎる分、辛いものがあるなあ、とひとり呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わざわざお越しくださって、ありがとうございます」

 

へこり、と中年の女はこうべを垂れた。使用人、執事ともども頭を下げる。告げなければならない事実をひっさげて訪れた警部は、5度目の見舞いに訪れていた。

 

心中複雑である。代々庭園の隅に安置されている墓には、まだ新しい名が二つ刻まれている。立派な墓である。花を生けて、手を合わせた。いくら簿名を刻み、世間的に葬式を済ませ、弔った形式をとったとしても事実を知る者にはそれは虚構でしかない。

 

この土の下には眠るべき遺灰はおろか、未来を担うべきだった跡取りの安否すら明確ではない。遺体盗難、なんという罰あたりな。

 

毎年少しでも情報を、と待ち望んでいる遺族のまなざしにとうとう答えられなくなってしまったことを、大きな挫折として彼は受け入れ、そして伝えなくてはならなかった。

 

「・・・・・大事な、お話があります」

 

ぎり、とこぶしに爪が大きく食い込んだ。

 

 

 

 

 

矢来区筑土町の高級ビルヂングが立ち並ぶ一角にある銀楼閣。その三階に鳴海探偵社はある。きい、と扉を開けると、高級そうなふかふかのソファが向かいにあり、アンティークなテーブル。

 

さらに奥にはコーヒーメーカーに電話が置いてあるデスクと社長いす。両脇には本だな。すべてが高級品で統一されている。部屋の隣には生活スペースが確保してあり、ライドウとゴウトの部屋、そしてこの探偵社における名目上のライドウの保護者にあたる鳴海という男の部屋がある。

 

鳴海は偽名で、経歴の一切は不明である。年はライドウより一回りほど上。天然パーマの男で、いつもイタリア製のベストスーツと帽子を身につけている。

 

ヤタガラスの傘下で監視するいわば上司なのだが、基本的に楽観主義でより好み激しく、そして面倒事はすべて丸投げといういい加減な男で、報告書は基本的にライドウの発言を全面的に肯定した上で私情を大いに混ぜ込んだ上で書いている。確認するたびにゴウトはむう、とぼやいている。

 

どうやら鳴海は不在のようだ。おそらくどこかで掛け賭博にでも興じているかツケで飲み屋を回っているのだろう。ライドウはソファに座る。ゴウトが傍らに飛び乗った。

 

 

紅蓮属性の悪魔には発火、という人のやる気をたきつける能力がある。使ってみようか、と相談したライドウだったが、やめとけ別の意味で全力になるとかえって厄介だ、とゴウトに止められた。

 

この任務が完了したら、悪魔に単独捜査させて観察記録でもつけてやろう、とひそかに心に決めている。こちらに来てからというもの、一切給与が与えられていない。ヤタガラスに要請すべきであるのだ。いつまでもゴウトに電車賃を建て替えてもらってはいけない。

 

「全く、別件依頼にしては想像以上に厄介だな、錠平」

 

ゴウトはライドウの真名を知る唯一の存在である。ゴウトの声はデビルサマナーもしくは悪魔でなければ聞こえないため、原則的に異界にいる時、そしてデビルサマナー御用達の情報交換所であるミルクホール、志野田の名もなき神社などにおいては「ライドウ」で貫き通すが、こうして周囲に人間しかいない場合はそう呼ぶ。

 

ちなみに鳴海はゴウトの声も悪魔の存在も声も知覚できない。ゴウト自身は「ライドウ」という役名で呼ぶことを好かないのだが、当代のライドウの名をやすやすと知られてしまえば言霊に秀でる存在を駆使すれば容易に危険が及ぶ。ああ、と錠平はうなずいた。

 

ゴウトの首輪にはさみこんである小さなメモ帳を差し出され、広げる。探偵手帳というべきか、猫でありながら達筆な字は十分に読める。

 

「まず気にかけておくべきは、悪魔喰いの背後に、「死体喪失」という奇怪な事件が頻発していることだな。手口は異界に引きずり込んで、そして持ち去る。それも夜にな。ずいぶんと大胆だ。もしかして悪魔喰いは闇夜にしか活動できないのかもな、ひと月前のもう一つの未遂事件でも、悪魔の捕食も全部夜だ。しかも悪魔喰いは一人ではないらしい。5年ほど前、そう、悪魔喰いが初めて出現したとジャックランタンがいっていた事件は、老人と青年のほかには老女の亡骸があり、青年が命を奪われ、老人は重傷。そして老女と青年の亡骸をやつは持ち去っている。つまり、死体の方が目的、襲ったのは邪魔ものの排除にすぎなかったんだ。悪魔を無差別に襲い、くらっているのも、単に人間に餓えていてそれを補っているにすぎない。しかし、だ」

 

「今度は、人を直接・・・」

 

「ああ。今度は死体収集の邪魔もの排除ではなく、真っ先にたまたま異界に引きずり込まれた青年を襲ったが、ジャックランタンの誘導により未遂に終わっている。これは明らかに違うな。あくまで死体をほしがっていることは事実。だが、最近はすでに死体を集めるために、異界に人を迷い込ませている。龍穴に意図的に開けられたあの亀裂が証拠だ。事態はどうやらやつをあせらせているらしい。これは・・・異常事態だ。ヤタガラスにも応援を要請すべきだな」

 

「それに、」

 

「ああ、実際に被害者が出てるんだ。こちらの世界で事件が明るみになっている可能性が高い。5年前の方から調べるか」

 

「わかった」

 

ゴウトに探偵手帳を返した錠平は、ふと扉に目をやる。きいい、と扉が開いた。

 

こぽこぽこぽ、といれたての珈琲を注ぐと、ふんわりとした香りが広がる。なるほどね、と鳴海は慣れた手つきでカップを並べて向かいに座る。

 

簡単な概略を説明した錠平は、うーん、とうなる上司を横目に砂糖とミルクをたっぷりといれる。かき混ぜていると、いやいやいや、入れすぎだろ、と焦りの声。ああせっかくの風味が、とぼやいている。ため息をついて珈琲に口をつけたのち、鳴海は笑った。

 

「まあ、おれにできることなんて限られてるんだけどさ」

 

『その最低限度まで放棄しているお前が何を言うか、怠け者』

 

「・・・・・・なーに、ゴウトちゃん。おれになんか文句でもあんの?なんだ、なんかすっげー馬鹿にされた気がするんだが、ライドウ・・・ってなんでそこで目をそらすんだよ」

 

珈琲を飲んでいるデビルサマナーは、まだ十代後半の少年だ。大目に見てやろうではないか、と堪える。まあ、とにかくだ、と仕切り直し。鳴海は今朝の新聞を差し出した。

 

「五年前の事件ってこれじゃないか?ライドウ」

 

「これは・・・」

 

「皮肉なもんだよな、この事件をきっかけにこの作家は有名になって、今じゃ帝都新報の連載までしてるってのに、肝心の事件が打ちきりじゃ。ライドウは知らないだろうけど、あんときはずいぶんと話題になったもんだ」

 

三面記事の独占である。「神隠し事件、迷宮入り」「今だ帰らない息子を待ちわびる夫婦の悲劇」「孤高の作家、未だ語らず」「藤堂氏に聞く、仏強奪事件のすべて」などの言葉が躍っている。隅の方に事件を回想する当時の写真や記事が並んでいる。

 

あらましはこうである。5年前、資産家の藤堂家では病死した祖母(一般人のため名は伏せられている)の葬式をしていた。通夜も葬式も済ませ、家族で最後の別れを惜しんでいた夕暮れ時、何者かが屋敷に侵入。

 

警備員と使用人らの制止を振り切り一家を襲う。娘夫婦が負傷し、執事が警察部に通報。その間に遺体を棺桶ごと盗みだすという凶行に及び、追跡した喪主の真之介氏と孫の真明さんともども行方不明になる。

 

翌日、重体の真之介氏が発見され、病院に搬送されなんとか一命を取り留めるも、犯人と真明さん、そして盗まれた遺体は発見されぬまま捜査は困難を極めた。

 

真之介氏は前後の記憶があやふやで証言が得られなかったことも原因。これがきっかけとなり藤堂家は数年にもわたりマス・メディアに振り回されることになり、過労で倒れた真之介氏は、3年前からは縁戚の伸治氏を代行に立て、世間には一切姿を見せなくなる。

 

1カ月前、伸治氏が何者かに誘拐される事件が起こり、またも意識混濁の状態で発見され、何らかの進展がみられると思われたが、突然の捜査打ち切り。マスコミは、何らかの圧力があったのではないか、と盛りたてていた。

 

『これは驚いた。5年前の事件と最近の事件が、まさか同じ家族が被害者とはな』

 

「どうしたの、二人とも見つめ会っちゃって。はは、おれの情報、役に立ったか?」

 

「ありがとうございます、所長」

 

「お、おお、どういたしまして。あ、出かけるのか?いってらっしゃい」

 

ぱたん、とあわただしく去って行った見習と黒猫に、おれも少しばかり仕事するかな、と鳴海はぬるくなった珈琲を飲みほした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、サマナー。いくら俺でも、こりゃあ無理だ」

 

ライドウの使役する悪魔の中で最も古参の悪魔は、封魔試験で初めて成功した、最も忠誠心の高い悪魔でもある。

 

地獄の最も罪が重いものが放り込まれるマグマの釜ゆでにひたすら火をくべる役を任されていると伝承されるこの悪魔は、ウゴバクといった。

 

全身生物ではありえない濃い緑色をしており、ごぶりんのような醜い姿ながら、ながいしっぽをびたんびたんと叩きながら、絶やさない火がゆれる大きなさじを抱えている姿はやがて愛着をもつ。

 

悪魔は人間と違って成長しないため、習得できる技は限度がある。よってデビルサマナーに加担する悪魔の理由の一つには、合体という別の悪魔と一つになることでさらなる強さを身につけられるという、何とも彼ららしいものがあった。

 

そろそろオレも、とライドウにアピールしているものの、あいにくライドウはほかの悪魔の忠誠度を上げることに躍起になっており、しばらくは望めそうにない。

 

それはともかく。ウゴバクは単独捜査の報告をした。ごくろう、とライドウは管に封魔する。今度はもっと楽しませろよ!と笑い声が消えた。

 

ゆるやかな、拒絶である。まるで退魔の水を振りまいたような、強力な結界が敷地内全体を覆い尽くしていた。おかげで並みの悪魔では突破することができない。

 

この霊気、どこかで。錠平はジャックランタンが礼にもらったという椿ではないか、と告げる。ああ、確かに、とゴウトは塀を見上げた。やはりこの邸宅の住人が被害者となったのは確定したと確信する。

 

「抜かりないな、やはり2度も被害にあえば相応の用心はするか。事件のことはよく覚えていない、とか言ってたが、どうやら嘘だな。なにも知らないならこのような術は施さんぞ。どうやら事件の犯人は悪魔だとどこか感づいているらしいな。どこかの術師に頼んだか」

 

「ゴウト、にしてはこの結界、馴染みすぎている」

 

「ぬう、確かに。ということは、古来よりここはそういう土地に守護されているのかもな。ということは、だ、錠平。悪魔喰いはこの結界を突破して一家を襲ったことになるぞ、相当の使い手だ。気をつけろ」

 

「ああ」

 

打ち切りという最悪の形で新聞各紙に大々的に事件を蒸し返された影響で、連夜対応に追われているらしい藤堂家は、やはりぴりぴりとしていた。

 

約束ごとなどする機会もない書生の突然の訪問など認めてくれるはずもなく、探偵、という言葉を口にした途端、ますます態度を硬化させる。ご機嫌伺いすらさせてもらえず、門前払い。

 

そして試みたのが単独捜査だったのだが、ライドウの使役できる悪魔を優に超えるレベルでなければ突破できない結界が阻む。まさに行き詰まりであった。

 

「こい、アルプ」

 

やっちゃうよーっ、と妖艶な笑みをたたえて現れた女体型の悪魔は、なになにサマナー、とばかりにふよふよと羽を瞬かせる。

 

長き黒髪に、きわどいラインを強調する布地、翼の数は2羽、下級であることを示している。宙に浮く彼女はセクシーポーズを決めていることが多いが、あいにく使役する錠平というさマナーは鈍感なのか色恋沙汰に興味がないのかいまいち反応が悪く、それが少々不満であるらしい。

 

男性を誘惑し、生気を吸い取り、そして堕落させ挙句は奴隷にするというおそろしき彼女もデビルサマナーのもとでは、危険なしぐさは表向きなりを潜めている。なぜなら必要ないからだ。

 

MAGという人間のエナジーよりよっぽどおいしいものをただで、もちろん働けば相応にもらえるのだ、腹を満たすために醜悪問わない仕事をするより、美大夫のもとで使役される方がなかなかいいものだというわけである。

 

「読唇術を」

 

「はーいっ!」

 

悪魔の存在は一般の人間には知覚できない。ゆえに指令は小声で迅速に。学帽のつばを抑え命じたライドウに従い、アルプは特技を披露する。警備員たちの心の声が聞こえてきた。

 

(全く、今度は野次馬か。真之介さまはお人がよすぎるのだ。取材だのなんだのと押しかけてきおって、さっさと追い返せばいいものを。ようやく束の間の休息を得られたのだ、留守は俺たちがきっちりと守らねば)

 

(今度こそアイスクリンをお持ち帰ってくださるといいなあ・・・葛切りもなかなかだったが、早くお帰りにならないものか)

 

どうやら当主は珍しく外出中のようである。妙な違和感に気づいたライドウは、ゴウトを呼んだ。ああ、うぬも気づいたか、とゴウトはしっぽを揺らす。

 

「おれたちは伸治氏に用があると言ったのに、なぜ出てくる名が当主なんだ?普通、聞かれた人間のことを考えるんじゃないのか?・・・・・謎だな。だが、これ以上はどうしようもないな。もうここに用はないだろう。仕方ない、今度は事件の現場にいくか、錠平」

 

アルプを戻したライドウは、颯爽とその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

庭先の椿を見るたびに、伸治は思い出すのである。かれこれ二十数年ほど前になるのだと。

 

なぜ椿なのだと婆さまは訝った。花からぽとりと落ちてしまう不吉な花なのに、おまえさんは、と愚痴られたものだった。もしキヌエが気に入っていなければ供養もかなわなかったろうと回想する。

 

やはり椿はお供えに不向きだろうかと桟橋の欄干にひっそりとおかれたビンにいれ黙祷。あの頃と違い落ち着いた現場は静かだ。夕暮れどき。あの日から恐ろしくて日中しか歩けなくなった伸治には充分の覚悟である。

 

ごくり、とつばを飲み込んで、息を吐き、ゆっくりゆっくり振り返る。

 

視線を上げ、振り向く。

 

そこには、真明が立っていた。

 

 

 

影がない。

 

 

 

何も言わず、ただこちらを静かに見つめている。

 

じいさま、と真明は言った。

 

ああ、やはり私を恨んでいるのだね、と伸治は怯える膝でかろうじて立つ。あのときは驚いて振りほどいてしまったが今度は喜んで差し出そう。もともとあってないような命なのだ。なけなしの気勢だけが逃げ腰の臆病風を止めている。

 

私ではなくおまえが生きるべきなんだ。そうつぶやいた。藤堂家では二代に渡って男児に恵まれなかったのだ。真っ先に墓前の婆さまに報告し、自分の名前にあやかり名付けてしまった娘夫婦に驚き、こんな気弱な旦那さまにならないでちょうだいなとあやした妻がいた記憶が懐かしい。

 

爺さまと慕ってくれた初孫なのだ。…目前で私をかばい死んでしまったやさしすぎる孫なのだ。

 

にくいだろう、そうだろう、私は見捨てて逃げたのだ。

 

じいさま、と真明が変わらない人懐こい笑顔でいう。人でない私を未だにじいさまと呼んでくれるのか、思わず涙が浮かぶ。私はおまえにはなれないよ。

 

迷惑を掛けまいと伸治として振る舞ってきたけれどやはり私にはむいていない。真之介の姿に戻れたら、と願うものの相も変わらず体は若かりしときの姿のままだ。

 

ごうと風が吹いた。

 

呑まれる。三度目の異界はさして驚きも恐怖もわいてこない。ただ遺体があがらないとまた葬式がやっかいだなとぼんやり思うのみ。鋭いつめが伸治の足を貫く。

 

ぐうとうめいた彼は何もないのに倒れこむ。血が吹き出す。体感してきた体の異常な回復力は人魚の呪の侵食。不老だが不死ではないだろう。そう信じたかった。

 

「じいさま」

 

ああ、一思いに、と目を閉じた。

 

軽快な革靴の音は真明ではない、何かの悲鳴。圧迫が解かれる。激しく咳き込んだ伸治は呼吸する。いまさら恐怖が訪れ腰が抜けて立てない。震えているのだ。情けないと伸治は笑った。

 

間に合ったな、という声がする。

 

書生が真明と戦っている。あれはウゴバク?地獄の業火の吹き焚きをする末端悪魔がなぜ、いやここは異界だし、しかし書生に従うなんて!

 

その指示に従い、火炎でその体を焼いている。強烈な刺激臭に伸治は気付く。焼ける匂いに交じり、まるで腐敗しているような。現実に引き戻された伸治は吐き気を覚えて手を押さえた。

 

やはり真明は死んでいる。たたってあらわれたものとばかり思っていた伸治はその操りびとと化している孫に言葉も出ない。なんなんだこれは。真明と伸治は呼んだ。さっぱりわからず茫然としている伸治に一匹の黒猫があらわれた。

 

「悪魔喰いの正体が真明氏だと?!と、いうことは、もしやあれは傀儡か!罰当たりめ」

 

猫が舌打ちする。そしてこちらを見上げて驚嘆したので、ますます開いた口がふさがらない。

 

「しかし驚いたな。さしずめ守護霊の加護か?にしてはたちの悪い…まるで希有な呪だ。やはり藤堂家には何かあるのか?」

 

「え、なにを、え、猫が、しゃべ、え?」

 

「 なにい、おれの声が聞こえるのか?」

 

「あ、ああきこえるよ、聞こえるとも、どうしてかはわからないけども、確かに」

 

「まあ詳しくはあとだな。無事でよかった」

 

きょろり、と猫は周囲を見渡す。そして、猛攻を繰り広げている書生を見て、満足げに鳴くが、到底猫とは思えないような人の笑い方である。尻尾は割れていないのになあ、と少し落ち着きを取り戻した伸治は思う。

 

「ぬう、さしずめ高嶺の花か、助かったぞ」

 

「た、たかね?」

 

「ああ、どういう理屈かは知らんが、うぬの気は悪魔を寄せ付けないんだ。本来悪魔が持つ特技の一つなのだが、人が持つとは初めて見たぞ」

 

緑の光が爆発する。跡形なく真明は消えてしまった。

 

「あの刀は邪念をたつ。真明氏も呪縛に解放され天に召されるだろう」

 

緑の瞳が見上げた。ほっとしたのか、一気にふらりと体がゆれる。お、おい、という黒猫の声が遠くなる。じい様、という真明の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

八尾比丘尼という女と極めて似ている体質だな、と開口一番にヴィクトルは言った。

 

伝承によれば悪魔を喰らい不老不死になり、己も悪魔に身を落としながら最後まで人であると信じ込んで引きこもってしまった哀れな悪魔だ、と付け加える。確かどこかの漁村の洞窟にこもっていると聞いたが、とも。

 

「ああ、正しく悪魔喰いだな」

 

「もしやこの男は悪魔に身を落としたとはいえ、人間だった女をくらったのか!」

 

「いや、共食いというのは生物にとって極めて禁忌とされるものらしくてな、業斗童子。資産家のこいつが飢餓を経験したことなどないのに、それはないだろう。遺伝子レベルで拒絶反応を起こす生理的嫌悪を通り越して、珍味として食ったとしても頭の中がでろでろになってしまうのだ。みたところ、こいつの血液、細胞、それもつま先から頭のてっぺんまで正常、健全、でありながらこの蘇生能力と回復力は目を見張る!すばらしい!私は太陽のもとで生きることを代償にこの不老をてにいれたが、このような人間は見たことがない!是非とも研究資料として被験者となってもらいたいものだ!」

 

マッドサイエンティストの血が騒ぐのか、わきわきとしているヴィクトルに、くれぐれも本人の了解を得ておけよ、とゴウトは忠告した。

 

勝手に体をいじりでもしたら、この研究室の大家である金王屋(守銭奴の主人が商いする珍品を扱う骨董屋である。サマナー御用達の道具もある)になんらかの手段を持ってこの男を追い出してしまうだけの財力と影響力を藤堂家は持っている。

 

多額の電気代を数か月も滞納しているようなこの科学者にはいささかリスクが高い。下手をすれば悪魔合体や武器鍛錬で多大な恩恵にあずかっている錠平をはじめとしたデビルサマナーや掃除屋(ヤタガラスの傘下のいわば人に対する処罰を執行する人間のことである。

 

デビルサマナーより地位は低い)に大ダメージを与えかねない。しかしヤタガラスはきわめて個人的な私情をはさむ事態に対してすぐに対応してくれるほど柔軟な組織ではない。何とかしろ、と丸投げするのが関の山である。

 

体系化された強大な組織はいつでも小回りは利かない。不満そうに口をゆがめたヴィクトルだったが、肩を落とした。

 

とりあえず先決すべきは、深い眠りに落ちている伸治の治療である。一人と一匹が見つめる中、ヴィクトルは静かに生き生きと怪しげな機材を握りしめた。

 

「退屈は猫をも殺すというからな、八百年も生きれば気狂いする。さみしかったのだろう」

 

ケロリとした顔でヴィクトルは言い放った。

 

「海にでも身を投げ、その衝撃で朽ち果てつつあった己の器を失くしでもしたらしいな。やはり人間としての心と精神、悪魔としての本能を共存させるとなると、よほど強靭な意志が必要となるらしい。少なくても八尾比丘尼はやはりそこまで強くない、おんなでしかなかったということだ。器を失えばよりどころもない。ただ、生存本能に任せていきる知能レベルもきわめて低い、悪魔会話すらろくにできない原始的な悪魔になり下がる他ない。それも自らの実体すら築けない虚弱な魔力のな。そんな悪魔の取る手段といえば、憑依か消滅かしかない。大方、魚にでも憑依していたんじゃないか?それこそ業斗童子のようにな」

 

「それを不幸にも食べてしまったというわけか」

 

「おそらく生態系の循環の中で新たな憑依対象を見つけるたびに鞍替えしていて、その男も一環でしかなかったんだろう。だが、人間はヒエラルキーの頂点だ。そして悪魔にとって極めてありがたいエネルギーも事欠かない最高の対象、味でも占めたんだろう。しかも最近こぞって上位層は遺体の残る土葬ではなく火葬をしているからな、極めつけが土に帰れもしない箱入れと固めたアスファルトへの埋葬だ、他へ移る暇もない。おそらく親族の葬式でもみて、やや知能を回復しつつあった中で危機感でも覚えたんじゃないか?絶対にこの男を失ってはならないとでも思ったんだろう。その矢先の2度もの悪魔の奇襲だ。体の蘇生力は老体より若い方がいいに決まっているし、逃げるためにもそちらの方が都合がいい。おそらく、藤堂家当主の真之介氏とこの伸治という男は同一人物だろう」

 

「・・・・・信じられんな。ということは、ヴィクトルよ、まさかいずれこの男は悪魔に堕ちるということか?」

 

「いや、一度最低レベルまで落ちた知能を人間まで回復することは極めて難しいから、肉体を乗っ取ろうなぞ高等な思索すらないだろう。現状認識と学習能力がある程度か、まあ生存本能の延長上でしかないから、憑依体であるこの男が肉体的に死ぬも精神的に死ぬも同じ。廃人にでもなって異界にでも放り込まれてみろ、逃げられはしないからな。つまりだ、この男は望む望まざるにかかわらず、八尾比丘尼のなれの果てに生かされているということだ。ある意味、魔人といってもいいやもしれん」

 

「成程」

 

「藤堂さんから八尾比丘尼は・・・?」

 

錠平は当然浮かぶ疑問を口にした。

 

「できるとも。ずいぶんと長きにわたって悪魔憑きとなっていたようで、今までに類をみないほど同化しきっているが、問題あるまい。ただ、吾輩の研究(ヴィクトルは、とある理由のために悠久の生命についての研究を行っている)とは反対のこと、吾輩は興味がない。これはむしろおまえたちの領域だろう」

 

「・・・・・だが、それは」

 

ゴウトは言いよどむ。錠平は、傾げる。

 

「なに、簡単だろう。呪の効果が届かぬほど、魔力を消費させるか、いっそのこと祓えばいいのだ、葛葉!」

 

「そうか」

 

「ああ、八尾比丘尼の呪が解ければ、もとの姿に戻る。だが。この男の肉体年齢を考えれば、ただでさえ短い生命力にどれだけ負担をかけるか知りはしないがな。本来人間はせいぜい120歳が限界の蘇生能力、つまり寿命しか持っていないのだ、それをこの男は5年もの間細胞の限界を度外視、酷使させて生きている。ただの人間に戻れば最後、どうなるか、わかるだろう?」

 

つまり、真之介氏はもはや日常へ帰還することは不可能なのである。錠平は沈黙するしかない。そして、奇異な運命をたどっているこの男を眺め見て、複雑そうに眉を寄せたのである。

 

 

 

 

 

数週間後

 

 

 

 

 

「お願いできますか?」

 

薄墨色の着流しに袴姿といういで立ちで現れた依頼人は、ふかりふかりとするソファに落ち着かない様子で浅く腰かけると、鳴海に話しかけた。

 

差し入れのケーキと、どうもコーヒーは性に合わないので、と紅茶まで持ち込まれてしまった手前(それもめったに手に入らない一等品!)、他に持ち合わせがない鳴海探偵社では、当然交渉の席にそれらが並ぶ。

 

これは心ばかりの手付金です、と差し出された封筒をみれば、その分厚さに思わず息をのむわけである。さすがは藤堂家の跡取り養子、とさっぱり事情を知らない鳴海は、感嘆するしかない。断る理由がない。

 

 

5年前に起きた藤堂家の祖母の遺体強盗事件の正式依頼である。

 

 

来るとは思っていた、と鳴海は思う。近頃再び藤堂家はあわただしかった。帝都新報で、幾日か前、息子の真明氏の遺品と思われる衣類や所持品、そしていくつかの白骨化した遺骨が発見されたと報じられたが、警察部の調査にも関わらず犯人は見つかっていない。

 

しかし、ようやく遺族の元に帰還した彼は、ようやく荼毘に服された。こうして、跡取りを失った藤堂家では正式に伸治氏が跡取りとして養子縁組をむすぶことになったのだ。

 

しかしながら事実上の立場が正式に法で認められるだけの建前ができたため、移行しただけにすぎない。ちょっとこの人が出てくるタイミングがよすぎるけどな、と一部ゴシップしに伸治氏を犯人であるかのように書き立てる中傷記事があり、藤堂家および他のグループ会社が出版社を相手取り裁判を起こしたばかりであることを思い出し、ちらりとみた。

 

ないな、と思う。依頼人が鳴海探偵社を頼ってきたということは、藤堂家の事件は悪魔がらみということだ、なにより人殺しの目をしていない。

 

「僕はあくまで代行に過ぎません。祖父の依頼です、これを」

 

差し出されたのは、祖父から預かったという直筆の手紙である。そこに書かれているのは言うには及ばないだろう、事件解決を切に願う、寿命短い老人の願いが書かれていた。

 

「藤堂家として全力でこの件に関してバックアップしていきたい、とのことです。どうか、解決に助力していただけないでしょうか、葛葉君、鳴海さん」

 

ゴウトさん、と猫にまで挨拶するやや変わった青年だが、回答など決まっている。膝をたたいた鳴海はライドウを見た。うなずく彼は、真剣なまなざしを帯びている。

 

「お受けしましょう。この件に関して、鳴海探偵社として、尽力させていただきます」

 

伸治氏は心底安心したのか、お願いします、と深々と頭を下げた。

 

 

 

数ヵ月後、帝都新報に、真之介氏が亡くなり、葬儀が執り行われたという記事が掲載される。婿養子の恒夫氏が当主を引き継いだとのことである。

 



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