【本編完結】原作に関わりたくない系オリ主(笑) IN ダンまち 作:朧月夜(二次)/漆間鰯太郎(一次)
本日はこれで終わりです。
(仕方ねえ……稼ぐか。ベル君現れるまではしゃあないわな)
結局ライトは主神のお願いを聞く事にした。
実際お金が無ければひもじい異世界生活になる。
それはライト自身も嫌だった。
そんな訳で朝からダンジョンに出かける為に外に出たものの、バベルには入らず、中央広場で座りながら塔を見上げていた。
どうやら面倒だから帰ろうか、でも財布の中が……等と葛藤をしていたらしい。
結局のところ彼が悩んでいるのはひとえに原作知識のせいだ。
原作を知るからこそ、ファンとしてはベル君の偉業を近くで見てみたい。
けど現実はどうか。
ベル君のベの字も見かけない。
それどころか厄介事を避けようにも、向こうからやってきた。
なにせ彼は気絶している間にヘスティアに恩恵を刻まれたのだから。
────まあそれはいい。今さらどうしようもねえ。
ライトはとりあえず割り切る事にした。
当面はヘスティアに飯を食わせつつ、もしベル君が登場したら、ミアハ神かヘルメス神のとこに改宗しよう。
そうすれば関係は保ちつつもベルのハーレムを邪魔せずに済むだろうと。
────オレ、ナァーザもアスフィも好きだしな。
と、そう言う事らしい。
しかし彼の苦難は続く。
前の時とは違い、正式にヘスティアファミリアの一員としてダンジョンアタックをするならば、きちんとギルドに登録しなければ色々と問題がある。
そう思って受付に来た訳だが、担当アドバイザーがまさかのエイナである。
全力で向こうからすり寄って来やがる……そう歯噛みをしたところで如何ともしがたい。
ライトは悟りを開いた修行僧の様なアルカイックスマイルを浮かべ、新人研修的なのを耐えきった。
────優良ドライバーの30分講習でも辛いのに。
そんな事を考えつつ。
とは言えエイナの鉄板ネタである”冒険者は冒険をしては云々”を生で聞けて少し嬉しかったようだ。
実は彼女、前々からライトに目を付けていたらしい。
というのもライトが勝手にダンジョンに潜っていた時の事は、例のアイズに目撃されていた。
彼女はレベル5の実力者だ。
そんなアイズの目をもってしても、ニンジャであるライトのスリケンは圧倒的だった。
その事を当然彼女は団長に話したし、無名だがそんな実力者がいるのなら、彼自身の野望もあり興味は沸く。
結果彼はギルドの担当者に聞いたのだ。
ライトの特徴を事細かに伝え、出来ればコンタクトを取りたいと。
しかし当然そんな冒険者などいない。
当たり前だ。登録していないモグリなのだから。
エイナは自分の仕事に誇りを持って臨むタイプの人間だ。ハーフエルフだけど。
では彼女達アドバイザーはどういうふうに上から評価されるのだろう。
その基準とは、ズバリ担当している冒険者の死亡率である。
抱えている冒険者がぼろぼろ死んだらそりゃ、ね。
エイナはそう言う成績的な意味合いでは無く、ただ冒険者たちが無事に帰って来てほしいと願っている。
故に原作では頼りない(そう見える)ベルにあれだけ親身になったのだろう。
決してイケメンのショタが好き等と言う性癖の為ではないのだ。
そんな風に仕事を神聖視している彼女からすると、その強いとしてもルールを守らない赤いヤツは許せんッ! そう思うのは当然である。
そんな矢先に件の赤いヤツがのこのことやってきた。
見た目こそ胡散臭いが、そのメンポの下からは”へへへ……”などヘラヘラしているのが伝わる。
故に講習に入る前に、小1時間ほどライトは説教を喰らったのである。
なるほど、原作のあの感じは素なんだ等と感心しながら。
ただし眼鏡が似あう委員長タイプのエイナに烈火の如く怒られ、それを神妙に聞いているスレイする方のニンジャっぽい大男という構図は非常にシュールであった。
さて、そうこうしている間にも時間は過ぎ、結局昼ごろになってしまった。
ダンジョンに入る許可は貰ったが、まずは腹を満たしてからでいいか、と彼はギルドを出て中央広場に戻った。
何やら辻売りのパンなんかをモグモグしながら芝生に座っている。
この男、意外と異世界生活を楽しんでいる様だ。
そんな時に冒険者風の集団が通りかかった。
どうやら今日は結構稼げたらしく、自然と話す言葉も大きめになっていたのでライトにも聞こえた。
すると彼らの一人が、19~24階層あたりに出没するレアモンスターのヴィーヴルと言うのがドロップするアイテムがヤバいと叫んでいるではないか。
何がヤバいかと言えば、鱗や爪が落ちてもひと財産になり、さらに涙でも手に入れた日には億万長者レベルで儲かるという。
しかしヴィーヴルは上半身が女性で下半身が蛇と言う、神話のゴルゴンめいたヤベーやつなのだ。
故に彼らは、自分らでは無理だけど、そんなレアを拾ってみてーなー! と冗談っぽく話していただけである。
しかしライト、それを真に受けた。
ヴィーヴルのいる場所、そしてドロップが美味い、その都合のいい部分だけを。
ならばそれをゲットすれば、こつこつダンジョンに潜る必要は無いのでは?
そう考えたのである。
親も親なら子も子である。
互いにブーメランを投げ合う仲の良い親子と言えるだろう。
それに────とライトは考えた。
ダンまち云々、原作ヒロイン云々、この際そこはどうでもいい。
大切なのはこのオラリオ、大歓楽街もあるしカジノもある。
ならばダンジョンでレアを当て、それを資金にカジノで大儲け、そして歓楽街で豪遊!
このフローチャートが一瞬で出来上がった。
それを世間では捕らぬ狸の皮算用と言うのだ。
そうして彼がメンポの下でニヤリと悪辣に嗤ったその時であった。
「あのー冒険者様? サポーターはいりませんか?」
「…………ファッ!?」
あまりの驚愕にライトからきたない悲鳴が漏れた。
(アイエエエ!? リリルカ!? リリルカナンデ!?)
それじゃあいっちょ乗り込みますか……と思ったところで目の前には見覚えのあるチビがいた。
というかベルのヒロインその2ことリリルカ・アーデじゃねえか。
そう慌てようが、ニンジャのメンポのお蔭で平静を装えたライトである。
違うだろ。ちーがーうだーろっ! お前はベルのとこいけよー。
いい加減原作キャラからの接触に疲れてきたライトは心の中でそう罵るも、現実は非常である。
「えっと、如何です? リリは結構力持ちなので、装備や道具を山ほど持たせて頂いてもまだドロップを集める余裕がありますよ?」
────いや知ってるから。縁の下のなんとかってスキルでしょ(真顔)
そう思いつつ、ライト。
今回は流石に回避しようと決めた。
ここで流されたらズルズルと行く。
けれどフレイヤ様には魅了されてもいいかも……。
そう強く決意し、彼は言った。
「せ、拙者はソロ専門なんでな(震え声)」
「ソロなら尚更ですよっ! ドロップアイテム倍増ですよっ!」
「アッソウ……」
抵抗虚しくさらにグイグイ来るリリルカであった。
ちきしょうめ、こいつ絶対引かない気だなッ。
ライトは恨めしく思った。しかし彼は何故一人称を拙者にしたのだろうか。
原作におけるリリルカ・アーデは結構悲惨な生い立ちだ。
両親が所属していたソーマ・ファミリアで、主神が造る神酒に魅了された両親はダンジョンで死に、その流れでソーマの眷属になるが、団員たちには苛められ金を巻き上げられる始末。
結果、彼女の中で冒険者イコール糞という認識になる。
なので金を稼いで今の状況から出来れば抜け出したい等と考える、結構重たいガールである。
ライトはリリルカが引かないとして、次善策に移行した。
とりあえず連れていく事にはする。
実際彼女のサポーターとしての能力は高い。
それは原作にも記されている。
彼女が悲惨な目に遭うのは、偏にスキルは有用でも戦闘には向かないためだ。
なら連れていって適当に魔石をパクらせれば満足するだろう。
ライトはそう考えたのだ。
実際彼女が冒険者にすり寄るのは、復讐心と金になるカモであるからだ。
だがライトにはアイテムボックスめいた持ち物がある。
どういう理屈かは知らないが、一杯持てるのだ。
なら高そうなのは自分で持ち、微妙なのをリリルカに任せればパクられても大丈夫、そう言う事だ。
そもそもライトの戦闘スタイルは、数あるレア装備……は使わずに、コマンドアビリティの【なげる】オンリーだ。
山ほど増やした(ゲームの中で)手裏剣を投げる。相手は死ぬ。そう言うスタイルだ。
故にリリルカが狙う高額で売れそうな装備なんか持っていない。
正確には保有しているが装備はしていないのだ。
実際彼はマサムネなども持っているし。
「あ、うん、じゃ来てもいいよ」
「やったぁ! それでは冒険者様? リリはリリルカ・アーデと言います。冒険者様は何というんですか?」
諦めてそう返事をしたライトに満面の笑みで喜ぶリリルカ。
その無邪気な様子にライトもほっこりである。
ならばとライトは立ち上がり、
「ドーモ、リリルカ・アーデ=サン。ライト・ニンジャですっ」
「ふぇっ!? あ、えっと、どーも?」
オジギをした。
人間関係においてアイサツは実際大事。
それは古事記にも記されている。
ライトの中の人はニュービーではあるがヘッズである。
「と、とりあえずライト様ですねっじゃあいきましょう!」
(こいつ、スルーしやがった)
そんな訳で漸くダンジョンに向かう事になったライトである。
因みにギルドを通りサポーターを連れていくとエイナに言ったところ、彼を笑顔で送り出してくれた。
なるほど、そう言う恩恵もあったか、そう思うライト。
「よしリリルカ、役目は終わった! もう帰っていいぞ」
「何を言ってるんですかライト様。冗談はその姿だけにしてくださいっ」
なお、リリルカは原作同様毒舌の持ち主なのである。
☆
ところ変わってダンジョン内部。
意気揚々と突入したライトの即席パーティであるが、何故かリリルカが叫んでいた。
「ラ、ライト様ッ! 貴方は頭がおかしいんですかッ!」
リリルカめっちゃキレてて草等とほくそ笑むライト。
「いやここまで苦労しなかっただろう? ええやん。ガッポガッポやん。お前は金好きやん」
「そういうことじゃなくてああもうっ! こ、怖いんですけどッ!!」
状況を説明しよう。
バベルの地下にあるダンジョンは、地面に開いた大穴である。
上層と呼ばれる階層はそれほど強いモンスターも出現せず、駆け出し冒険者の力試しエリアだ。
だがライトは小銭が欲しい訳じゃない。
楽に儲けたいのだ。
つまり上層に用はない。
そこでライトはリリルカのリュックを奪い自分で背負うと、小柄なリリルカを小脇に抱えた。
彼はニンジャとしての身体能力をいかんなく発揮し、凄まじい勢いで走り出した。
その間モンスターが立ち塞がるも一切無視で。
と言ってもモンスターもライトについていけないので怪物進呈によるMPKなどは発生しない。
リリルカと言えば尋常じゃない速度に一瞬で気を失った。
それ程の速度だ。
あまりの速さに彼の足が踏み込む様子は見えず、十傑衆もかくやというレベルだ。
その後目的地である24階層に辿り着くと、そこにあった岩にリリルカを縛った。
そして彼女のリュックからとある物を取り出した。
それは特殊な匂いを発し、モンスターを集める効果がある。
勘の良い読者はもうお気づきだろう。
原作におけるリリルカがベル君を裏切るシーンのアレだ。
それを気絶するリリルカの頭の上に置いたのである。
結果はこうだ。
凄まじい勢いでホブゴブリンが集まってきた。
ホブゴブリンと侮るなかれ。
ハック&スラッシュ系の洋ゲーなら序盤に経験値を稼げる雑魚だが、ここでは違う。
その身体はゴツく、2メートル以上もあるのだ。
こんなものが集団で囲んでくるなど恐怖しかない。
ライトはリリルカを餌にモンスターを集め、離れた場所からスリケンを投じて作業の様にスレイしていくのみだ。
完全なる効率厨の姿がここにあった。
とは言えギャーだのモーだの叫ぶモンスターの騒がしさに、リリルカは目を覚ました。
視界に飛び込んできたのは、小さな小人族をおいしく頂こうと殺到する巨人の群れ。
……リリはほぼイキかけましたよ。とは彼女の後日談だ。
それに気づくもライトは「リリルカ涙目すぎワロタ」等と血も涙もない発言。
あまりの恐怖に絶叫するリリルカは何も間違っていない。
だがライトとしては苛めている意識など無い。
なにせスリケンの前にモンスターなど等しく雑魚である。
故に一投で確殺できるのが分かっているからこその効率プレイである。
もちろんリリルカには知った事ではないが。
ライトの目的であるヴィーヴルはレアモンスターである。
なので早々お目にかかる事はないのだ通常は。
アンツィオ高校の生徒の様にノリと勢いと下種な目論見でここにやってきた彼であるが、いないならいないなりに稼ぐかと、ワラワラ歩いていたホブゴブリンに標的を変えた。
それでも匂いはいつまでも続かない訳で、やがてモンスターの群れはいなくなった。
漸くこの地獄は去ったかと安堵の溜息を漏らすリリルカ。
「ううっ、もう帰りたいです……ライト様帰りましょうよ~」
「ええ……来たばっかやん」
「だってぇ……もう結構な額になりますからぁ~ってヒャアっ!? ちょっとやめてくださいよ! くすぐったいですって! セクハラはやめ……えっ?」
一難去ってまた一難か。勿論それはリリルカにとってだが。
見れば岩の陰からにょろりと蛇の尻尾、それもぶっといのが出てきた。
ヴィーブルである。ざっくりと9メートル近くはありそうな程の巨体だ。
その尻尾が興味深そうにリリルカを撫でていた。
「ちょ、えっ、ちょっ!? これリリ死にますってイタタタタタっ!」
そして尻尾はあっという間にリリルカに巻きつくと、そのまま締め上げたのである。
まるでコントみたいなリリルカのリアクションがツボに入ったライトだったが、目的のモンスターが自分からやってきたのだ。この機会を逃してはたまらんと颯爽と躍り出て、
「イヤーーッ!」
「ア、アバーーッ!」
首がポーンと飛んでいった。
スリケンでワンパンである。
白目を剥いているリリルカを放置し、ライトは疾風迅雷の速さでリリルカのリュックから空のポーション瓶を取り出すと、ヴィーヴルの首に駆け寄り────。
「ヴィーヴルの涙、獲ったどーーーーーーーーーーっ!!!」
会心のガッツポーズをしたのであった。
そして燃え尽きるヴィーヴルの死体。
なんとそこには鱗も爪も転がっているではないか!
ライト、まさかのレアドロップのコンプリートである。
そして彼はもうダンジョンには用はないとばかりに帰り支度を始めた。
巨大なリュックにリリルカを放り込んで背負う。
そして自分の持ち物から青くて気持ち悪いアイテムを取り出すと空に放った。
「ラッコのあたまをポーイ!」
その瞬間、ライト達は泡のように消え、ダンジョンの前に立っていた。
そうこれはダンジョン探索のお伴、ラッコの頭である。
効果はもちろんドラクエで言うとリレミトだ。
このアイテム自体、神々の間で物議を醸しだす恐れがあるがバレなきゃ無いのと同じである。
ラッコと言ってもガチのラッコのでは無い。
あくまでもそれっぽいキノコである。
こうしてライトの本格的なダンジョンアタックは無事に終わったのである。
そしてこのアイテムがこの後、とある場所で悲劇を巻き起こすのだが、それはまた別の機会に。
ベル「爺ちゃんの墓守、そんな生き方もあるよね」
村人「は、早くオラリオに行った方がいいんじゃ(震え声)」