魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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開戦

●中央歴1639年4月11日午前

ロウリア-クワ・トイネ国境

ロウリア王国側東伐軍 先遣隊本陣

 

クワ・トイネ解放(・・)軍の内先遣隊が国境沿いに布陣して以降、クワ・トイネ公国の外務局からは魔法通信による国境からの撤兵要求が再三に渡ってなされているが、戦争は既に国王によって決定された事である。亜人供やそれに与する蛮族供が今更何を喚き騒ごうが無視だ。

 

先遣隊の指揮官Bクラス将軍パンドールは与えられた戦力3万について、頭の中で反芻する。

兵力3万の内訳は

歩兵20,000

重装歩兵5,000

騎兵2,000

攻城兵器等を扱う特化兵1,500

遊撃兵1,000

魔獣使い250

魔導士100

竜騎兵が150

 

歩兵が多いのは現代でも歩兵と言う兵科が無くなっていない様に、市街地や砦・城・基地などの建造物を制圧する際にはどうしても必要となってくるからだ。

だだっ広い平原が多いクワ・トイネに攻め込むに当たって、騎兵の数はもっとあった方が良いかもしれないが、まぁ先遣隊なのだこんなものだろう。

 

何より竜騎兵が150騎もいる。

 

1部隊10騎で1万の歩兵を足止め出来る空の覇者が竜騎兵だ。

本来高価な兵科である竜騎兵はロウリア国内の部隊を全て掻き集めても精々200騎だ、それが先遣隊だけで150騎。

本軍の部隊を含めれば対クワ・トイネには500騎もの竜騎兵が参加している。

この数を揃えるのには、北の第三文明圏のフィルアデス大陸の列強国・パーパルディア皇国からの援助があったなどと言う噂があるが、実際のところは表には出て来ないので謎である。

とは言え、クワ・トイネ如きに全500騎はおろか先遣隊の150騎でも明らかに過剰戦力だ。

亜人供に恐怖を与え絶望させるには都合が良いかもしれないが。

 

「明日、ギムを陥とす」

「ギムでの戦利品についてはいかが致しましょう?」

 

本陣の天幕に居並ぶ各部隊の指揮官に宣言したパンドールに、副将のアデムが話しかける。「戦利品」要するに占領したギムのクワ・トイネ人をどうするか、と言う事だ。

アデムは冷酷な騎士として知られている。

ロウリア王国の拡張期、小国を多数併合した際の占領地での残虐な行いは語るに耐えない。

 

「副将アデム、お前に任せる」

「了解致しました」

 

将軍に一礼したアデムは控えていた部下に命ずる

 

「全軍に通達せよ。ギムでの略奪は一切咎めない。人も金品も好きにさせよ、女を嬲った場合は後で全て処分する様に。それから1人も逃すな、全て殺処分しろ」

「はっ!!全軍に通達!ギムでの略奪は一切咎めず!人も金品も自由!女を嬲った場合はその後に処分!街からは1人も逃さず全て殺処分!」

「よし行け」

「はっ!!」

 

アデムの部下は命令を伝える為、直ぐさま天幕を飛び出そうとするが

 

「いや!ちょっとまて!!」

 

すんでの所でアデムが引き止める

 

「やはり全て殺すのは無しだ。嬲っても構わんが100人ばかりは終わってから解放しろ」

「解放でありますか?」

「そうだ、恐怖を伝播させるのだ、逃す100人は死なない程度に特に念入りに凌辱しろ。それから、敵騎士団の家族などがいた場合は特に残虐に処分せよ」

「りょ、了解しました!!100人程を念入りに凌辱した後解放!敵騎士団の家族は特に残虐に処分します!!」

 

部下の男はその恐怖の命令を復唱する為、さっき以上に腹に力を入れて大きな声を出す、そうでもしなければ人の心を持たないのではと思えるアデムに呑まれてしまうのではと思えたから。

 

程無くして、アデムの命令は全軍に確かに通達された。

 

 

 

●中央歴1639年4月12日早朝

 

クワ・トイネ公国国境の街ギムでは現在、住民達とギム以西からの避難民達の航空輸送船での避難作業がいよいよ大詰めを迎えていた。

後は現在乗艦作業中の日本皇国海軍の輸送艦に残っている人々が乗艦し、【紀伊】が飛び立てばギムからは少なくとも非戦闘員は1人も居なくなる。

今ギムにいるのは乗艦中の住民1,500人と、クワ・トイネ公国西部方面騎士団の歩兵2,500・重装歩兵500・弓兵200・騎兵200・軽騎兵100・魔導士30に西部第一第二飛竜隊の竜騎兵24騎。

それから機竜訓練飛行隊ギム分遣隊の教官機を合わせた5機の機竜だけだ。

だからこそ、心の何処かに油断があったのだろう。

ギムの人々は西の空に立ち昇った赤い煙を見ても、一瞬それが何を示しているのか思い出せなかった。

しかし、次の瞬間けたたましく通信用魔法具が音を立て、緊迫した声での通信が入った事により冷や水を被せられた様な気がして、背筋がスッと冷えるのを感じた。

 

「至急!至急!!こちら国境監視小屋!!ロウリアのワイバーンが越境!!続く様に歩兵数万も越境した!!ロウリアが侵攻を開始!繰り返すロウリッ ➖ブツン➖」

 

魔法通信は突如として途絶える、おそらく生存者はいないだろう。

 

「第一第二飛竜隊直ちに離陸!敵ワイバーンに当たれ!!軽騎兵!直ちに出陣!敵側面より強襲!撹乱せよ!!騎兵隊は遊撃だ!出撃待機!!重装歩兵は堀の内側に並べ!歩兵はその後ろだ!!弓兵!櫓に登れ!最大射程にて援護!!魔導士は全力でこちらを風上にしろ!日本の輸送艦に連絡!住民の乗艦作業を急ぐよう伝えろ!!機竜隊は船が出るまで待機だ!」

 

モイジの吼えるような命令に、全員が弾かれた様に動き出す。

命令は即座に全部隊に通達され、直ぐさま飛竜隊が滑走を始め大空へと飛び立つ。

 

ワイバーンを運用する従来の飛竜隊が24騎全力出撃する中、飛行の用意をしながらも一向に飛び立つ気配を見せない者達が居た。

ギムの東側に着底した【紀伊】への乗艦作業を見守る、大板少佐達機竜訓練飛行隊ギム分遣隊だ。

訓練飛行隊の内整備員達は既に【紀伊】へ乗艦しており、残っているのは乗機して待機状態にある彼等だけだ。

 

《教官殿!我々は出撃しないのですかっ!?》

《我々にも参戦の命令を!!》

「ならん、我々に与えられた命令は待機だ」

 

訓練飛行隊の訓練兵達は飛び立つ仲間達の姿を見ながら、自分達もロウリアと戦うとそう主張するが、大板は即座にそれを退ける。

現在機竜訓練飛行隊ギム分遣隊の上位指揮権はギムの守将であるモイジにあり、その彼が待機を命じた以上それは絶対だ。

そして何より

 

「我々の訓練機が民間改造品で戦闘能力を持たない事を忘れるな」

《しかしっ!それでも敵ワイバーンの撹乱などは行える筈です!!》

「くどい!命令は待機だ!」

 

大板とて訓練兵の主張は感情面を含めて理解出来る、彼だってひと月近くギムで暮らしているのだ、その間この町の人々や騎士団の兵士達と交流もあった、自分達を温かく迎え入れてくれた彼等を守りたい気持ちは当然ある。自分達が乗っているのが本来納入されている筈だった「サラマンダー(攻撃飛竜紅龍のクワ・トイネ仕様機)」であったのならば、今すぐにでも飛び立ってロウリアと戦いたい。

だが、武装の一切無いこの訓練機で出て行ったって、確かに性能差はあるだろうが攻撃手段のない事、彼を除く訓練兵の練度がまだ十分とは言えない事を踏まえれば、量で攻められれば落とされる可能性は充分ある。

クワ・トイネ政府が機竜への転換訓練を受けた竜騎士を失いたく無いと考えている以上、迂闊な行動は出来ない。

 

だが、その待つ時間は彼等に優しくは無かった。

 

《くそっ後ろにっぐぁっ》

 

《振り切れない!くそっくそっクソォ!!》

 

《地獄に堕ちろ!クソロウリア!!ぎゃあ!?》

 

《クワ・トイネに栄光あれ!!》

 

《後は頼んだぞ!!》

 

仲間達の声が、今空で戦っている仲間達の声が通信魔法具に混信する。それは断末魔であったり、ロウリアを呪う言葉であったり、クワ・トイネを讃える言葉であったり、機竜隊へ未来を託す言葉であったり。

でも暫くしてそれは全て途絶えた。

大板も訓練兵達も涙を零す、中には声を上げて泣いている者もいた。そんな彼等に1番待っていた言葉が通信越しに聞こえてきた。

 

《日本皇国海軍輸送艦【紀伊】より大板分遣隊へ、貴隊の指揮権はモイジ将軍より本艦艦長へ移譲された。【紀伊】は所定作業を繰り上げ終了、現在離陸作業中。未収容の住民にあっては小型輸送艇に収容の上、上空にて本艦へ収容する。大板分遣隊は直ちに離陸、本艦直掩へと付け。尚レーダーが西方上空にロウリア王国のワイバーンの騎影を複数探知、数100以上。交戦規定に基づき、本艦の脅威たり得る敵騎については防衛兵装にて攻撃を行う、IFFの起動を忘れるな》

 

「全機起動!離陸用意!!」

《了解!!》

 

大板の命令に訓練兵達は弾かれるように機竜の心臓に火を入れる。

民間機だがレース機とあって強力な魔力炉は、直ぐさま機竜の全身に魔力を行き渡らせる。

翼を広げ離陸用意に入った時、【紀伊】からまた通信が入った。

 

《伝え忘れていた訓練兵諸君。新たな牙と爪が、エジェイで君達を待っているぞ》

「聞いたなお前達!何が何でもエジェイに辿り着け!!いいなッ!!」

《はいっ!!》

 

そして彼等は飛び立った。

コレは確かに敗走なのだろう、けれども彼等の心は熱かった。

ただ逃げる訳では無い、散って行った仲間の仇を取る為に!

 

《ロウリアめ今に見ていろ!》


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