魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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伏龍

ーその光景は余りにも現実離れしていたー

 

あの日俺たちがギムの空で見たものだぁ?

何度も言ってるだろう、船だよ船!

船が空を飛んでやがったんだよ!なぁ!

 

ああ、オレたちが見たのは間違い無く船だったさ。

バカデッケェ船が確かに空を飛んでやがったんだ。

この国にあった軍船よりメチャクチャデカイ船がな。

あ?見間違いじゃ無いのかって?

ふん、あの時も副将様にそう言われたよ、けどなぁ!

教えてくれよ何と見間違うってんだ?

 

言い訳をしてるんじゃないかって、怒鳴られもしたな確か。

え、何の言い訳かだって?

勿論ギムの街で亜人の一人も殺せなかった事のさ。

あぁ言っとくがクワ・トイネの兵士の事じゃねぇぞ?

ギムに住んでた筈の住民の事だ。

大層楽しみにしてたからなあの副将は。

 

それがいざギムに入って見れば、守備兵以外に人っ子ひとりもいやがらなければ、空飛ぶ巨大な船を見たって報告に、ワイバーンが3騎落とされたって報告だ。

そりゃもう見事なキレっぷりだったよ。

腹いせかクワ・トイネの兵士を死体すらメチャクチャにしやがった位だったからな。

 

実際の所はどうなのかだと?

俺達が話を盛ってるんじゃないかって?

つくづく疑ぐり深いねぇ。

 

はん、言葉で信じられねぇってんなら、明日の朝一に東の空でも見てみやがれってんだ。

いやでも現実ってヤツが目に入るからよ!

 

 

 

●中央歴1639年4月12日昼

 

クワ・トイネ公国西部方面騎士団の必死の抵抗も虚しく、ギムはロウリア王国の手に堕ちた。

しかし、ギムの新たな支配者となった筈のロウリア兵達の顔には不満と苛立ちが目立つ、先遣隊の副将アデムなんかは特に。

 

「どぉっいう事だあぁぁあ!!何故一人も住民がいない!?」

 

アデムは仮の本陣となった西部方面騎士団の基地で怒鳴り散らしていた、誰何しているのかただ怒鳴っているだけなのか、それを受けているのは後ろ手に拘束されたモイジだった。

彼は既に自分以外は殺されギムもロウリア軍先遣隊に包囲されているのにも関わらず、笑みを浮かべている、それも勝ち誇った様なアデムを馬鹿にした様な。

 

「きっさまあぁぁぁ!!なんだっ!?その顔はぁ!!答えろ!亜人供を何処へやった!!!」

「ふん、答えるわけが無いだろう」

 

実の所アデムにも答えの一端に関しては報告されているのだが、

曰く「空を飛ぶ巨大な船を見た」とか「その船に近づいたワイバーンが突然爆発して落ちた」だとか、到底信じられる様な話しでは無く、ギムの亜人を取り逃がした言い訳をしているのだと、アデムは考えていた。

冷静になって聞いてみれば、そう証言しているのは1人2人では無く、竜騎兵にも歩兵にも其の外の兵士にも、一定以上の人数でそう言っている兵士がいる事に。更には本陣に残っていた兵士の一部にも似た様な証言をしている者が居る事にも。

極め付けにギムの東側に展開した部隊から、「まるで巨大な何かが押しつぶした様に草が潰されている」という報告が入っている事にも気付ける筈なのだが。

実際パンドールは同じ報告を聞き、得体の知れない何かが起こったと冷静になっているのだが、虐殺の命令を出したにも関わらず「亜人の一人も殺せなかった」と報告されて頭に血が上っているらしいアデムは、その事に気付く事が出来ていない。

 

「モイジ!!貴様は誰よりも惨たらしく殺してやる!!生きたままバラバラに引き裂いて魔獣のエサにしてやるッ!!」

「好きにすればいい。今更私が死んだ所で貴様らの負けは覆らん」

 

アデムは脅した積もりだったが、モイジの声は怯えの色など一切見えずどころか、覇気すら感じる。

モイジの言う通り、現在エジェイに集結中の戦力を持ってすれば、ギムを占領するロウリア軍先遣隊を被害は出るものの撃破し奪還する事は可能であり、しかもクワ・トイネ公国の戦力だけでだ、そこに本格派兵された日本皇国軍が加われば、最早敗北など万に一つも無くなる。

だが、

 

「ふっざけるなぁぁ!!貴様等亜人や亜人に与する蛮族にぃ!!我々が負けるだとぉ!?調子に乗るのも大概にしろォッ!!」

 

そんな事アデムが知る由も無いし、モイジの言葉を信じる理由も無い。ギム住民が居ないのは姑息にも早くから避難させていたから(国民を守る為の行為なので姑息もクソも無いのだが、アデムの目にはそう映る)で、西部方面騎士団は自軍の前に呆気なく壊滅している。

故にアデムにはモイジの態度も言葉も自分を煽っている様にしか感じられず、激情のまま首を刎ねてしまう。

 

「チッ!コイツを魔獣のエサにしろッ!一欠片たりとも残させるな!!」

 

思わず剣を振るったアデムは、嬲って殺すと言いながらアッサリ首を刎ねてしまった自分にも苛立ち、モイジの頭を思い切り蹴飛ばすと部下に命じた。

 

この後、ワイバーンや騎兵を用いて周辺の捜索を行ったものの、奇妙なまでに誰一人として住民は見当たらなかった。

この事から「ギムの兵は捨て駒だったのでは?」と考えたパンドールの判断により、ロウリア軍の進軍は一時的に停滞する事となる。

 

 

 

<クワ・トイネ公国空軍少尉レモーネ

 

ギムから東に50km、城塞都市エジェイにてギムから撤退してきた私達機竜訓練飛行隊の面々は、西部方面師団のノウ将軍と対面していた。

 

「諸君よくぞ生きて帰った。大板少佐彼等を連れ戻してくれた事、感謝する」

「いえ、本職はその職務を全うしたまでです」

 

将軍がギム分遣隊の指揮官である大板教官に礼を言うも、教官はそれが自分の仕事であると返す。

 

「謝礼くらい素直に受け取れば良いものを」

 

その様に将軍は呆れた顔をするが、直ぐに気を取り直して私達訓練兵達へ向き直る。

 

「さて諸君、格納庫へ行きたまえ。そこで今君達がすべき事が待っている。大板少佐、もう暫く彼等を頼む」

「「「「はっ!!」」」」

「お任せを」

 

 

将軍の前を辞すると私達5人は案内の兵士に連れられ、ワイバーン用の滑走路横に新設された格納庫へ赴く。

 

「おお少佐、みんなも。待ってましたよ」

 

そこで先に移動していた分遣隊の整備班の班長に迎えられた。

 

「ご苦労様です班長。機体は中ですか?」

「ええ、今総出で整備中です。もうすぐ終わりますよ」

 

こっちにと手招きする班長に続き格納庫に入ると、それが目に入って来た。

今年の始めまで乗っていたワイバーンとも、さっきまで乗っていた訓練用機竜とも違う、大きくて力強く見える機竜。

 

【戦闘機竜サラマンダー】それがこの機体の名前。

元は日本皇国陸軍の戦闘機竜「紅龍」、ヘリコプターと言う兵器を狩る為に作られた機体で「皇国陸軍が保有していて製造ラインが現存する中で唯一空戦能力を保有している」と言う理由で、クワ・トイネへの輸出機に決定したらしい。

暗い紅色単色で塗られた真新しい機体が4機と緑色系の迷彩が施された機体が1機、緑色の機体は胸部と翼にある国籍マークが赤色丸だから教官の機体か。

この機体を見ていると色々な思いがこみ上げてくる。

 

「さて諸君、見惚れるのは構わんがやる事があるだろう」

 

教官に言われて気付く、私達はいつの間にか機竜の姿に見惚れて動きを止めていた。

そうだ、私達は一刻も早くコイツを自在に飛ばせる様にならなければいけない、ギムの仇を取る為に。

 

「では諸君これから2時間休息とする。2時間後1500にハンガーへ集合、それまでは自由にして良いが昼飯だけはキチンと取っておく様に。以上解散!」

「「「「はっ!!」」」」

 

教官が格納庫から立ち去っても私達は動けなかった、動きたく無かった。

でも、多分このままだと私達は2時間後までこのままだと思ったんだろう

 

「そら!でてったでてった!少佐に言われたろう、昼飯は食ってこい!その後は作業の邪魔しなけりゃ好きなだけ眺めてればいい」

 

整備班長はそう言って私達を格納庫から追い出した。

 

 

 

 

●中央歴1639年4月20日

 

日本皇国海軍から派遣されて来た皇国海軍艦5隻と、クワ・トイネ公国海軍練習艦隊3隻からなる先遣艦隊8隻はマイハークへと到着した。

いい加減航空船は見慣れて来たマイハークの住民達であったが、流石に軍艦となれば話は違うらしく、多くの人が港に押し寄せたり高台に登ったりして見物したいる。目敏い人は内3隻が掲げるクワ・トイネの国旗を発見して、興奮した様子を見せている。

ただ、8隻共国旗の上に黒い紐を括り付けている理由が分かる人はいなかった。

 

➖ボォォォオー➖

 

先頭にいる一際大きな艦、巡航艦【大江】が大きな音を発した。

マイハークの住民達も聴き慣れつつある汽笛の音だ、なのでいつも通り入港の合図だと思っていた彼等は、続く行動に首を傾げた。

 

➖ドォン!ドォン!ドォン!➖

 

彼等は甲板の上の物を湾外の方に向けて、大きな音を順番に三回ずつ鳴らした。住民達はそれが何か理解出来なかったが、事前通告を受けていた湾港関係者やクワ・トイネ海軍第2艦隊、マイハーク市政長ハガマやイーネ達防衛騎士団は其々のやり方で死者に敬意を表する。

 

それは弔砲だった

 

ギムで起こった事の報告を受けた皇国海軍第10戦隊司令の命令による行動であった。

 

その後8隻は新たに航空艦用に拡張された軍港区画へ着水した。

彼等はこの後公国海軍第2艦隊司令と会議を行った後、ロウリア海軍の出撃が確認され次第迎撃の為に行動を開始するのだが、今はまだ静かにその時を待つ事になる。




伏龍
諸葛亮(公明)の若い頃の渾名。
ここではロウリアへの反撃の時を待つ
クワ・トイネ空軍機竜隊と海軍練習艦隊を指す。

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