魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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反撃

中央歴1639年4月30日

 

今要塞都市エジェイにはクワ・トイネ公国中から戦力が集結しつつある。旧来の騎士団や日本皇国から提供された武装を持ち、派遣された軍事顧問団の指導を受け練成を行なっていた魔装化混成大隊も明日には到着する。

 

反撃の準備は着々と進んでいる。

 

そんな中、機竜隊はギムからエジェイ間のまだ避難が終了していない住民、特に森の奥などに住んでいて情報伝達の遅れたエルフの疎開支援の為、哨戒飛行を行っていた。

 

《ミミズク02(マルフタ)よりファング8、9(エイト、ナイン)。3時の方向、疎開中と思われる集団を視認。その後方に騎兵隊、ロウリアの国旗を掲げている。ファング8・9は急行敵騎兵隊を排除、避難民の安全を確保せよ!》

「コピー、ファング8!」

《9!》

 

日本軍の偵察機竜からの情報を受け、レモーネ(ファング8)は僚機と共に機体を加速させる。あっという間に景色が流れ、今にも難民に襲い掛からんとするロウリアの騎兵隊の姿がモニタに映った。

 

「やらせるかっ!ファング8エンゲージ!!」

《ファング9交戦します!》

 

2機の機竜がワイバーンの導力火炎弾とは比べ物にならない威力と速度を持つブレス(収束火炎弾)を放つ!

 

 

エルフの少年パルンは妹のアーシャの手を引きながら必死に走っている、彼らの後ろには恐ろしいロウリアの騎兵がどんどん、どんどん近づいてくる!

 

「はぁはぁっ、アーシャ大丈夫!お兄ちゃんが絶対守るからなっ!」

「うん」

 

ギムとエジェイ間にある村の殆どは日本軍の協力を得て、そのほとんどが避難を完了していたのだが、パルン達の村は外との交流が殆ど無く、国側も正確な位置を把握していなかった事も有り、ロウリア王国軍の越境の情報が届くのが遅れてしまっていた。

現在日本皇国が軍民問わず、ロデニウス大陸に存在する人員輸送可能な航空船を総動員して、彼等の様に避難が遅れてしまった人々の避難支援を行っているが、ここでもまた他との交流が少ないという事が災いして、ギムでの出来事が歪んで伝わってしまった事から、パルン達の村は慌てて自分達だけで逃げ出してしまった。

 

だが、遮る物が無い平原を行く彼等は偵察に出ていたロウリア王国の騎兵隊、ホーク騎士団の第15騎馬隊に見つかってしまった。

 

「(父さんと約束した!アーシャは僕が守る!絶対に!)」

 

➖ドドドド!➖

馬の足音がもうそこまで迫っている、

 

「ひゃっはー!おいおい、そんなちんらた走ってていーのかよぉ亜人どもぉ?」

「ギムで楽しめなかった分ここで楽しむんだ、早まって全部殺すなよっ」

「おいおい外でやんのかよ!?いー趣味してんねぇ!」

 

騎兵達の下品な言葉も聞こえてくる。

騎士団とは名ばかりの盗賊・山賊崩れの連中だ。

 

「きゃっ」

「うわっ」

 

アーシャが足に躓いたのかコケてしまい、手を繋いでいたパルンも一緒に転んでしまう。

 

「うぇ、おにぃちゃぁん」

「くそっ」

 

一緒に逃げていた大人達は誰もパルン達を助ける様な様子を見せず、それどころか振り返りもせず一心不乱に走って行く。

誰だって自分の命が惜しかった。

 

「お願いします、神様ッ」

 

パルンは祈る。

太陽神に、かの神が遣わした使者に。

はるか昔、エルフが魔王の軍勢に滅亡寸前まで追い詰められた時、エルフの神は太陽神に祈った。

その声に応えた太陽神は自らの使いを遣わした。

太陽の旗を掲げた彼等は“空を飛ぶ神の船”や“絡繰の巨人”を操り、神々しく輝く光線と雷鳴の如き爆音を放つ魔導をもって、魔王の軍勢を焼き払ったと言う。

 

太陽の使いはエルフの差し出した金銀財宝を決して受け取らず、空飛ぶ神の船でこの地を去った。

 

母が聞かせてくれたお話だ、御伽噺では無く実際に有った出来事だと言う。

事実、パルンは見た事は無いが聖地リーン・ノウの森の祠に、故障してしまった為彼等が置いていった絡繰の巨人が、時空遅延式保管魔法をかけられ今なお大切に保管されていると言う。

 

もし、もしその話が本当なんだとしたら、

 

「僕はどうなっても良い!だから、だからせめて妹だけ➖ズダァン!!➖へ?」

 

迫り来る騎馬隊の先頭が轟音と共に弾け飛んだ。

 

「な、なな、なにが、」

 

先頭を走っていた第15騎兵隊の隊長、赤目のジョーヴは周囲の部下と共に跡形も無く消え去ってしまった。

集団の真ん中程に居た次席指揮官は今この瞬間まで、確かにそこに居たジョーヴ達が痕跡すら残さず消えた事に、咄嗟に指揮を執る事すら出来ず思わず馬を止めてしまう。

彼だけで無く他の騎兵達も同じく動きを止める。

彼等の視線の先には転がった亜人の子供2人と、焼け焦げた地面が映っている。

 

そんな彼等は空から狙う襲撃者にとって、格好の獲物に過ぎなかった。

 

➖ズダァン!!➖

➖ズダァン!!➖

 

連続して爆発が起こる、その度に騎兵は纏めて数騎ずつ消し飛んで行く、文字通り死体すら残さず。

逃げる事も、反撃する事も、悲鳴をあげる事すら許されず、ホーク騎士団第15騎馬隊は一人残らず殲滅された。

 

➖ギャオォォン➖

 

余りにも呆気なく、恐怖の象徴であったロウリア騎兵が消え去った事に、実感を感じられず立ち尽くすエルフ達の頭上を2機のサラマンダーが通り過ぎる。

 

「ファング8よりミミズク02。ロウリア王国騎兵を殲滅、避難民の安全を確保。現在本機から確認出来る範囲には死者は無し、怪我人については不明。避難民の収容を要請します」

《ミミズク02了解。ファング8・9は周囲を索敵、敵騎兵隊の生き残り及び別働隊の有無を確認せよ。避難民の事は我々に任せてくれ》

「ファング8コピー、索敵を行う。ファング9私は北回りで、そちらは南回りで」

《ファング9コピー。ブレイク》

 

「赤いワイバーン?」

 

二手に別れたサラマンダーを目を開き見つめるパルンの耳に誰かの声が聞こえた、

 

「東から何か来るっ」

 

つられて、其方を見たパルンの目に3隻の空を飛ぶ船の姿が映った、

 

「空飛ぶ、神の船......」

 

光の翼を広げ空を飛ぶその姿は母が聞かせてくれた、神の船そのものだった。

着陸したその側面に描かれた太陽のシンボルまで。

中から人が出てくる、全身青色の服装の見慣れない人達。

彼等はエジェイからすっ飛ばして来た、日本皇国海軍輸送艦【紀伊】艦載の高速輸送艇部隊だった。

 

「お怪我のある方はおられますか!」

 

その中の一人、指揮官が突如途轍もなく大きな声を上げる。

拡声器を使用したものだったが、人のものと思えない程のその声にエルフ達は恐怖を覚え動けない。

 

「あっあの!妹が転んでしまって!」

 

パルンが声を上げる。

するとすかさず一人の女性が近づいて来た。

 

「見せて下さいね。ああ、お嬢ちゃんちょっと染みるけれど我慢してね」

「(綺麗な人だなぁ。それに額の“角”と太陽のシンボル...)」

 

アーシャの治療を始めたその女性の横顔に見惚れるパルン。

彼女の額の角に気付いた彼は母の話の中の太陽の使者の姿の話を思い出す、彼等の中には額に黒い角を持つ人も居たと言う話を。

 

「あのっ」

「これでよし、と。どうかしました?あら、ボクも怪我してるのね」

 

声をかけたパルンの方を向いた女性は彼の膝小僧を見て、自分も怪我をしていると主張したのだと考え、こちらの治療に移ろうとする。

 

「あの、そのっお姉さん達は太陽の使いですか?」

「へ?(太陽の使い?まぁ確かに皇軍の最高指揮官は大元帥陛下だから、太陽の使いっちゃあそうだけど、よく知ってるわねこの子。それに国旗も太陽を模したものだから、子供にはそう写っちゃうのかしら?)ええそうよ、良く知ってるわね」

「!!」

 

パルン達を治療する女性ー海軍衛生兵の沢村中尉ーとしては「日本の事を良く知っているのね」と言う意味合いを持たせたつもりだったのだが、受け取る側にそれが正しく伝わるとは限らない。

 

どよどよ

 

ざわざわ

 

声が聞こえたエルフから徐々に周囲の村人へと、ざわめきが広がって行く。

突如としてエルフ達は大地にひれ伏す。

 

「え?ってこらっ今治療したばっかりなんだから!」

 

パルンやアーシャまでひれ伏すので、沢村中尉は慌てて辞めさせようとするがどこにそんな力があるのか、2人はひれ伏したまま動かない。

いくら怪我をさせない様に気を付けいるとは言え、鬼人である彼女の力に対抗している様は後ろで見ていた日本兵達には驚きだった。

 

結局、村人達を説得するのに時間をかける事になってしまった。

そんな彼等の頭上には連絡を受けた2機のサラマンダー、どこか呆れた様子で旋回を続けていた。

 

 

 

「ホーク騎士団第15騎馬隊との連絡が途絶えた。また、今なお1騎足りとも帰還していない」

 

ロウリア王国東伐軍先遣隊から更に先行してエジェイを目指すロウリア王国東部諸侯団。

その本陣で東部諸侯団を纏めるジューンフィルア伯爵が集まった諸侯を前にそう告げた。

諸侯の間に動揺が走る、何せ一部隊とは言え第15騎馬隊は100騎もの騎兵からなる部隊だ、それが連絡を絶ったばかりか1騎足りとも帰還していないなど、驚くなと言う方が無理な話だ。

 

「導師の報告では騎馬隊からの連絡が途絶える直前、東の方角でワイバーンより強大な魔力反応が確認されている。その数はおそらく2」

「では第15騎馬隊は2騎のワイバーンに全滅させられたと?」

 

敵がワイバーンを出してきたと言うのであれば解らない事でも無い、歩兵よりはマシとは言えやはり騎兵であっても、ワイバーンから逃げるのは難しい。

しかし、ジューンフィルアに対し非難めいた視線が多数向けられる。

ワイバーンで偵察しないから亜人如きに騎馬隊がやられてしまったのだと。

 

「その可能性は十分に有ると考える。しかしな......」

「しかし何だと言うのです?今回の事は明らかに候の失態ではありませんかな?」

「左様ですな。ワイバーンを上げていれば、亜人どもが幾らワイバーンを投入して来たとしても犠牲など出なかったでしょう」

「くっ」

 

諸侯達は好き勝手にジューンフィルアを非難するが、ワイバーンを偵察に使わなかったのは彼の判断では無い、先遣隊本隊の副将アデムがワイバーンを出し渋ったのが原因だ。

 

「確証のある話では無いのですが」

「何だね導師ワッシューナ」

 

東部諸侯団の導師を纏めるワッシューナが口を開く

 

「はい、導師魔信掲示板に掲載されていた内容で、余りにも荒唐無稽な書き込みだったので信じてはいなかったのですが」

「何だと言うのかね?」

 

「その、クワ・トイネの港町マイハーク占領を目した海軍の艦隊が、クワ・トイネ海軍に敗れその際、本陣のワイバーン350騎が全滅したとの話があるのです。今回ワイバーンを偵察に使えなかったのはそれが原因では、と」

「なっ」

「バカなっ、艦隊とワイバーン合わせてそれだけでクワ・トイネ全土を征服できる戦力だぞ!?」

「パーパルディアを相手にしても、防衛網をこじ開けて上陸くらいは出来るだけの戦力と力量なのだ、一湾港都市を制圧するには過剰戦力と言える彼等が、クワ・トイネ如きに敗れただと?」

 

諸侯に衝撃が走る。

先遣隊自体からワイバーンの数が減らされたのは事実だ、理由の説明は為されていなかったが、今の話が本当だとすれば辻褄が合う。

軍上層部は兵の混乱や動揺を恐れて、ロデニウス沖海戦に関する情報を高位幹部を除き規制していた。その為、前線にいる部隊にはその情報は伝わっておらず、ここに居る諸侯達もそれは同じであった。

だから、ワッシューナの言葉を信じられなかった。

 

「だが到底信じられる話では無い!」

「私の同期の書き込みです。船はいとも容易く沈められ、ワイバーンは突然爆破して粉々になり、敵に近付いたものはバラバラに切り裂かれた、と」

 

よくある戦場伝説であると、だれもがそう考える。

それ程までに突拍子も無い話だ。

だが、冷静に考えてみると第15騎馬隊が連絡を絶った際の、「ワイバーンより強大な魔力反応」と言うのも謎だ。

まさか文明国の持つワイバーンの上位種をクワ・トイネが有しているのか。

 

「とは言え、ここで足踏みをしている訳にもいくまい」

 

ジューンフィルアはそう言って、手にした命令書に目を落とす。

そこには「城塞都市エジェイの西側3kmまで進軍、陣地構築後は後続部隊の到着を待て」とある。

命令者の名前自体は先遣隊将軍のパンドールだが、実際には副将のアダムからのものだ。

ジューンフィルアは胃が痛くなるのを感じた。

 

要塞都市エジェイはその名が示すように街そのものが要塞となっている。簡易的な堀や土塁で守られていただけのギムとはその防御力も、戦力も桁が違う。

この命令が出された時点では「相手が打って出て来る事は無い」と考えられていたので、アデムがワイバーンを出し渋った事をパンドールは問題だと捉えなかった。それはジューンフィルアも同じであった。

しかしだ、状況は変わった。

 

威力偵察を行っていた騎馬隊の内、第15騎馬隊が連絡を絶ったのはギムから5km先行する東部諸侯団から更に20km程行った、ギムエジェイ間50kmの丁度半分程の位置だ。

敵がワイバーンを使って騎馬隊を倒したのだとすれば、クワ・トイネが籠城を捨ててそこまで軍を前進させている可能性も考慮しなければならない。

持ち得るワイバーンを全力で投入して先行させているとも考えられるが、それはそれでこのままワイバーンを持たない東部諸侯団だけで前進を続けるのは危険だ。

 

だが、命令に逆らう事は出来ない。

アデムの命令に逆らったらどうなるかわかったものでは無い。

自分が死ぬのならまだマシだが、間違いなくその手は家族にも伸びる。家族は惨たらしく殺される事だろう、それだけは避けなければならない。

 

「全部隊に通達、前進を再開するぞ」

 

かくして、ロウリア王国東伐軍先遣隊・先陣部隊東部諸侯団、約1万はエジェイ近郊へ布陣する為進軍を再開させた。

 

 

 

 

しかし、彼等はエジェイの城壁すら目にする事は無かった。


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