クワ・トイネ公国軍とロウリア王国侵略軍との間で、ギムでの小規模戦闘とは違う本格的な軍対軍の戦闘は、攻撃側であったロウリア王国東伐軍からでは無く、クワ・トイネ/日本連合部隊の砲兵隊が榴弾の雨を降らせる事から始まった。
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中央歴1639年5月6日
城塞都市エジェイより西に5km
ロウリア王国東伐軍先遣隊
先陣部隊東部諸侯団の戦闘との距離凡そ15km
集結したクワ・トイネ公国軍と派遣された日本皇国陸軍はロウリア軍の意表をつく為、エジェイでの籠城では無く野戦を選択した。
「ノウ将軍、大内田閣下がお越しになりました」
「お通ししろ」
野戦陣地の司令部の天幕にて、クワ・トイネ公国軍西部方面師団の将軍にして、反攻作戦の指揮官に任命されたノウはほんの2、3ヶ月前の事を思い出す。
日本皇国
突如として空を飛ぶ巨大な船で現れた彼等。
最初はその船が軍艦であったと聞き、力を見せつけてから外交を行おうとするその行動に反感を覚えもした。
だが国交が結ばれ齎された彼等の技術、特に軍事に関するソレを目にして考えが変わった、「彼等が覇権主義を唱え、他国に侵略を行う国で無くて良かった」と。
ワイバーンよりも速く飛ぶ人の作り出した竜。
銃と呼ばれる剣や槍の達人で無くても、敵を簡単に倒せる武器。
既存の騎兵では手も足も出ない鋼鉄の騎馬。
そして、空を飛ぶ巨大な船。
それらは非常に強力であり、「勝てない」と悟るのに時間は要らなかった。
日本皇国から提供や販売が行われたそれら兵器はロウリアとの戦争に備えて構築された、エジェイ要塞防衛線に対し優先的に配備され、日本から軍事顧問団がエジェイに派遣され教育が行われた。
そこで行われた日本人との交流の中で、ノウは日本に対する態度を軟化させていった。
顧問団が着ていた緑の服装ー野戦服と呼ばれるソレを最初は貧相だと思ったが、機能性に優れ動きやすいとあって今では顧問団にねだって手に入れたソレを愛用している。
「ロデニウス沖海戦と言い、先日の避難民救助と言い、日本の力を一部とは言え我が物に出来たからこそなし得たことだ」
過日、ロウリア王国艦隊4,400をクワ・トイネ海軍の練習航空艦隊と日本皇国艦隊のたった8隻の軍艦が撃退せしめたと言う、それも日本艦隊が主体となったのでは無く、クワ・トイネ艦隊が主体となってだ。
日本軍との直接的な交流が無ければ到底信じられない話だが、陣地の後方に存在する巨大な航空艦ー日本皇国海軍の強襲揚陸艦2隻の存在を思い出し、然もありなんと納得する。
「失礼します」
「大内田閣下お待ちしておりました」
天幕に入って来たのは先日派遣されて来た日本皇国陸軍部隊の指揮官だ、ノウは日本軍との交流以降クワ・トイネ軍でも使われる様になった敬礼で出迎える。
額から黒い角を生やす彼は鬼人と言うらしく、彼の率いている部隊は全てその鬼人で構成されているらしい。
「ノウ閣下、ついに時が来ましたな」
「ええ、兵達には随分待たせてしまった」
「我が第7師団は既に展開を終了しています、ご命令があればいつでも行動可能です」
頼もしいと思う。
派遣されて来た兵力は数字でこそ8,000程であったが、その大半を機動戦力が占め、むしろ彼等だけでロウリアを逆に攻め滅ぼせてしまうのでは?と思う程の戦力だ。
日本皇国陸軍第7師団は日本の北部の防衛を担う部隊の一つで、かつての「樺太戦役」での影響もあり鬼人が多く配置される北部方面隊の中でも唯一、全兵員が鬼人で構成されている。
今回の派遣に第7師団が選ばれた理由は上記の様に鬼人だけで構成された部隊であり、最精鋭の部隊の一つである事。
ソ連との間で結ばれた協定の結果、兵力を常駐させられない樺太において、同じ様に兵力を配備出来ないソ連軍が上陸を行った時などの有事に備え、即座に樺太に展開出来る能力を有する事。
その為に例外的に海軍の強襲揚陸艦2隻が指揮下にあり、日頃から迅速な乗艦と展開の訓練を行っている事から、ロウリア王国侵略軍の進撃に迅速に対応する為に、早急に部隊展開を終え戦闘準備が出来る部隊として、第7師団が選ばれるにいたった。
ノウと大内田が作戦開始までのしばしの間談笑をしていると、天幕の中に設置された日本皇国製の通信魔道具の前に座った通信兵が声を上げる。
「クロネコより入信!ロウリア軍の戦列、中央集団まで射線に入りました!」
それは斥候部隊からのロウリア軍の大半がキルゾーンに入った事を知らせるものだった。
「ふむ、やはり前進を続けて来るか」
「斥候の尽くを潰されて尚止まらないとは......彼等にも止まれない理由があるのか?」
ホーク騎士団第15騎馬隊からの音信が途絶えた後、前進を再開させた東部諸侯団は第15騎馬隊を全滅させたと思われる存在を恐れ、多数の斥候を放っていたのだが、それらの部隊はクワ・トイネ軍と日本皇国軍が放った斥候に尽く始末されていた。
当然それらの斥候も通信魔法具を有しており、定期的に通信を行なっていた。
それらからの音信が途絶えて尚、進軍を続けるその姿にノウとも大内田もなんとも言えない気味の悪さを感じた。
「だが、このまま見ているだけでは余計な被害も出ましょう」
「左様ですな。通信兵!全部隊に繋げ」
「はっ!」
ノウにマイクが渡される。
「全将兵に告ぐ、遂にこの時がやって来た」
静かに語る
「ギムの街を荒らし、我が物顔でクワ・トイネの土地を歩き回る不届き者どもに、鉄槌を下す時が来たのだ!!ギムで勇敢に戦い散って逝った戦友達に報いる時が!!」
そして、抑えていた感情を爆発させるが如く声を張り上げる。
「日本皇国と言う力強い友を得た事により!我等はロウリアと戦う力を得た!そして今ここに、対ロウリア反攻作戦を開始する!全将兵がその持ち得る力を遺憾なく発揮する事を願って訓示とする!」
遂にクワ・トイネが振り上げた拳を振り下ろす。
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クワ・トイネ/日本皇国連合部隊砲兵陣地
「クロネコからの観測情報入力!」
「全門射角調整よし!射撃用意よろし!」
ノウの号令に最初に答えたのはクワ・トイネ公国陸軍魔装化混成大隊砲兵小隊並び、日本皇国陸軍第7師団第1砲兵大隊第1射撃中隊の合計12門のりゅう弾砲だった。
クワ・トイネの120mm牽引砲3門と、日本皇国の155mm自走砲9門の砲身が空を睨む。
「撃ち方始めぇ!!」
階級的には日本の中隊長の方が序列的に上だが、戦場がクワ・トイネ国内であり日本皇国軍はあくまでも援護である事もあって、クワ・トイネ砲兵隊の小隊長が命令を行う。
➖ダァン!!➖
ハンマーによって押し出された砲弾は、砲身内に展開された物体加速術式[アマツバメ]によって850m/秒まで加速され飛び出した。
○
連合部隊偵察隊クロネコはロウリア軍との接触を続けていた。
彼等の視線の先には整然と並び移動をするロウリア兵達の姿が見える、斥候を尽く始末して来たのだが動揺している様子が見られない辺り、末端には知らされていないのだろう。
時計を見ていた隊員が声を上げる。
「間も無く着弾する。5、4、3、2、だんちゃーく今!」
瞬間光が弾けた。
「着弾観測、命中を確認。戦果確認中......効力を認む。観測情報に基づき順次砲撃を敢行されたし送レ」
《砲兵隊了解。観測情報に基づく砲撃を続行する終ワリ》
通信具を持つ隊員が砲兵陣地へ連絡を入れる。
それを横目に他の隊員が思わず呟く、
「しかし、実物を見るのは初めてだが......エゲツない威力だな」
「ああ、人間なんて1人も残っちゃいない。規制食らうのもまぁ納得だわな」
彼等の視線の先の着弾地点、先程までそこに居たロウリア兵は1人も残って居なかった、死体すら残っていない。
○
「な、何が起こったッ!?先頭の連中は何処へ消えたッ!?」
ジューンフィルアには何が起こったのか理解出来なかった。
いや、ここにいる人間の誰一人として何が起こったのかなんてわからない。
導師が空からとんでもない速度で魔力の塊が飛んでくると報告した瞬間、進軍する部隊の先頭に何かが飛び込んだ。
なんだ?と思う暇もなく、光が弾ける。
あまりの光量に思わず閉じた瞼を開くと、先頭集団はその姿を消していた。凡そ1,500程の人間が跡形もなく消え去った。
死体すら残っていない理由は連合部隊の砲兵隊が発射した弾頭にあった。
今回使用されたのは通常の火薬を使用したりゅう弾ではなく、魔法弾頭と呼ばれる砲弾だった。
「
この弾頭は着弾地点を中心に半径25mの円形魔法陣を展開させる。広がった魔法陣は炎を発生させる術式で、6,000度もの超高温の炎を5秒間ほど発生させる。
魔法陣より外側に被害を及ぼす事はないが、内側では人は愚か鉄すらその原型を留めない。
その効果から術式名には、生まれた時の火傷が原因で母を殺してしまった神
加害半径こそ化学式のサーモバリック爆弾のそれに遠く及ばないが、その威力の高さ故に非人道的であると、国際条約において規制され廃棄を始めようと言うところで転移が起こった。
当然第7師団に通常配備されている訳でも、クワ・トイネへ輸出された訳でも無く、今回ロウリア王国を相手に圧倒的に勝利する為と、クワ・トイネへ改めて皇国の力を見せる為、廃棄予定であった物が特別に使用される運びとなった。
「ジューンフィルア様!先程の魔力がまたっ!!」
「くっ全員逃げろー!!」
そんな時間は無かった、そもそも何処に逃げろと言うのか。
咄嗟に出た言葉だったがジューンフィルア自身、何処に向かって逃げれば良いのかなんてわかる筈がない。
そうこうしている内にも次々と魔力の塊が降ってくる。
そしてその度に光が弾け軍勢がゴッソリと消えて行く。
戦友が、歴戦の猛者達が、指揮官も一兵卒も、関係無く無慈悲にいっそ清々しいまでに、消されて行く。
その様子は最早戦いなどでは無く作業だった、効率的にロウリア軍をすり減らすと言う作業だった。
「亜人どもは一体いつのまにこの様な力を手にしたと言うのだ!?こんな攻撃!大魔導師数千を集めて尚不可能だ!!」
それがジューンフィルアが発した最後の言葉だった。
彼は部下達と同じ様に光に飲まれ、「熱い」と感じる事すらなくこの世から消え去った。
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ロウリア軍先陣部隊1万程の「消失」の報告を受けたノウは素直に喜ぶ気持ちになれなかった。
祖国を侵さんとする驚異の一部を排除できた事は大変に喜ばしい事だし、それを成したのが自身の指揮下にある部隊であるというのも、誇らしい事である。
しかし、しかしだ......
「(日本皇国、これ程とは......)」
日本皇国の強さに関して知ったつもりでいた。
だがそれは「つもり」でしか無かった様だ。
特別な弾頭であると聞いてはいたがここまでとは思っていなかった。
もしこの力がクワ・トイネに向けられたらと思うと、
「(やはり彼等が敵でなくて良かった)」
こうして、ロウリア王国東伐軍先遣隊先行部隊は僅か数分の内にその尽くを殲滅された。
生き残ったのは後方に居て、最初の着弾の時点で怖気付いて逃げ出した一団だけで、その数は100人にも満たない。