魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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前話ラスト部分を少しだけ書き直しました


壊滅

パンドール率いるロウリア王国先遣隊は恐慌状態に陥っていた。

陣地構築のためエジェイに向かって先行していた、東部諸侯団の連絡途絶に始まり偵察に出たワイバーン12騎の撃墜確実。

ギムに残っていたワイバーンも応援に駆けつける前に全て撃墜され、ギム自体も敵の強襲を受けた様子で先程からいくら呼びかけても応答しない。

 

極め付けは先程から徐々に大きくなっている地響きだ。

騎兵隊の駆ける音に似ているが、その大きさは途轍もなく大きい。

千どころか万に届く数の騎兵が突撃を行っているかの様な音、それが()()()()()()()()()()()()

そちらに残しておいた騎兵隊は居ないし、本隊が到着するのもまだ先の話だ。となればこの音を響かせているのは敵という事になる。

つまり、クワ・トイネは背後に大量の騎兵隊を迂回させたという事になる、それもこちらに気取らせる事すら無くだ。

 

「ありえん。いや、ここはクワ・トイネ国内我々の知らない道があったとしておかしく無いが、だとしても!!これ程の音を立てられる騎兵隊をクワ・トイネが有している筈がない!!」

 

とはいえ敵が近づいて来ているのは事実、うろたえつったっている訳にもいかない。

 

「対騎兵陣!騎兵隊はまだ動くな!今動いても飲み込まれて終わりだ!!」

 

パンドールの指示に従い重装甲の重装歩兵が壁を作り、歩兵の中でも長槍を持った者達が槍を構える。

陣形が完成した時、遂に迫り来る敵の姿が見えた。

 

「ん?思ったよりも少な、いやまて!なんだアレは!?なんなのだあの巨大な騎兵は!?」

 

地響きはさらに大きくなり、土煙も見える。

だと言うのに予想した騎兵の大軍の姿は無く、向かってくる騎兵の数はたったの24騎。

だがその24騎はパンドール達の見慣れた騎兵と全く違った。

まず何よりデカイ、普通の騎兵とて馬の背に人が乗る以上、人間からは見上げる必要があるがアレはそれ以上、ケタ違いにデカイ。

見た目は鎧に身を包んだ重騎兵の様に見えるが、馬の頭が見当たらず人の上半身が直接くっ付いているらしく、まるでおとぎ話に見る魔獣の様な姿だ。

だが魔獣では無い、その騎兵の左肩にはクワ・トイネ公国の国旗が描かれている、つまりアレは敵だ。

 

 

 

《目標視認!!対騎兵陣です!》

《既存の騎兵相手ならばいざ知らず、このケイロンを相手に陣を敷くのは命取りだぞロウリア!ランサーリーダーよりランサー各騎!突撃用意!》

《了解!!》

《グリズリー各騎ランサーに合わせて展開せよ》

 

隊長の命令によってランサー隊の12騎は矢印の縦棒部分に指揮官機を置かない、変則的な蜂矢陣の隊形を取る。

更にその両翼にグリズリーが6騎ずつ付く。

 

《全騎突撃!!》

 

➖ダダダダ!➖

 

号令一下

ランサー隊が構える突撃槍の内蔵型20mm機関砲12門と、グリズリー隊が両腕に構える20mm突撃砲24門が火を噴いた。

(因みに、火を噴いたと言うのは表現であり実際には両装備共に、空圧による初期加速をバレルに展開した加速術式[アマツバメ]によって加速する方式なので、マズルフラッシュは発生しない)

 

20mm通常弾が次々と吐き出される。

口径も小さく、対魔法装甲用の術式加工もされていない通常弾である為、機巧ゴーレムやロシアや中国の多脚戦車相手では基本牽制程度にしか使えないが、対人では圧倒的な威力を誇る。

 

着弾地点に居たロウリア兵が血飛沫となって消えて行く。

鎧を身に纏い巨大な盾を構えていた重装歩兵とて例外では無い、第一彼等の装甲程度では地球基準では装甲目標にすらなら無い。

因みに、地球においては非人道的であると言う理由で、対人使用が禁止されている20mm口径弾が使用された理由としては、単純に機巧ゴーレムが装備可能な銃火器で最も口径が小さいものが20mmだった為である。

もっとも、歩兵主体のロウリア軍相手に機巧ゴーレムを投入している時点で過剰戦力なので、口径の大きさなど今更であるが。

 

《全機散開!作戦通りに攻撃せよ!》

 

ロウリア軍の前衛部隊を軒並み大地のシミに変えたランサー隊とグリズリー隊は、二手に別れ敵軍を外周から削り落とす様に襲いかかった。

 

「なんだコレは、我々は一体何を敵にしてしまったと言うのだ!?」

 

パンドールには理解出来ない光景であった。

一見重装騎兵の様に見える巨大な鉄の騎兵の持つ、巨大な槍と箱の様な物がダダダダと音を発する度に、兵士達が赤い血飛沫となって死んでいく。

それだけでは飽き足らず、混乱と恐怖で動けずにいる兵士達の下へと辿り着いた巨大騎兵どもは手にした槍や巨大な剣で兵士を薙ぎ払い出した。

 

「こんな!こんな事があってたまるか!!」

 

突然誰かが叫んだ。

声の方を見ると副将のアデムとその部下達が、脇目も振らず逃げ出そうとしていた、壁にするつもりなのだろうか率いている魔獣達に囲まれている。

 

《ランサー5よりランサーリーダー、魔獣の一団を確認》

《排除可能か?》

《了解、排除します。ランサー6続け》

《了解》

《グリズリーリーダーよりグリズリー3、貴様のエレメントも向かえ》

《YES Sir》

 

だが混乱の中でも目立つその動きは直ぐに捕捉されてしまう。

 

「(くそっこのままこんなところで死ねるかッ)」

 

➖ダダダダッ➖

 

アデムの思いも虚しく4騎は魔獣の集団を挟み込む様にして銃弾の雨を降らせる。

 

《何だあのバケモノ百足、えらく硬いな》

《アレは百足蛇と言う魔獣ですよ》

《魔獣かぁやっぱいるんだなぁ》

《でも可笑しいな、アイツらを使役する方法なんて無かった筈だけど》

《ともあれ敵だ、さっさと片付けよう》

 

彼等はお喋りしながらも引き金を弾き続ける。

魔獣が粗方地に沈んだ頃、弾代がもったいないと大太刀を引き抜いたグリズリー3が斬りかかった為、残敵の掃討は近接武器と脚による攻撃に切り替わった。

 

強力だった筈の魔獣が作業の様に簡単に排除されていく光景は、ロウリア兵達の心を折るのに十分過ぎる光景だった。

 

「こ、降伏しよう!」

「おいっ!何言ってやがる!?」

「ウルセェ!!このままじゃ虫ケラみたいに殺されるぞ!!」

「降伏したって同じだろう!!」

 

あちこちから、こんなやり取りが聞こえてきた。

個人や数人毎に固まって、ロデニウス大陸で降伏を意味する行動を取るものがチラホラ現れ出す。

見た目が派手な鎧に身を包んだ諸侯や武官達が、槍を突き付けその動きを止めようとするが、逆上した兵士達に殺されたり取り押さえられたりと、誰もその動きを止められないでいる。

 

「閣下!あちこちで兵達が勝手に降伏を!!」

「.........やむ終えん。全軍に通達降伏するぞ」

「お待ち下さい!我ら司令部部隊はまだ!」

「馬鹿者が、周りをよく見てみろ」

「は?」

 

パンドールの降伏宣言に、司令部の幹部達はまだ戦えると言いよるも促され周りを見渡す。

目に入って来たのは巨大な鉄の騎兵に蹴散らされ中を舞う兵士達、降伏を示している者は放置されている様に見える。

そして、一切攻撃を受けず健全な司令部部隊。

 

「?、ッ!?まさか!我等はワザと!?」

「そうだ、攻撃の意図が有ればとっくにやられているだろう。にも関わらず我々の周りは無傷。まぁこれ見よがしに将旗を掲げているのだ、私を捕虜にするつもりなのだろう」

 

でなければ指揮官であるパンドールがいる場所など、指揮系統を潰す為に真っ先に攻撃されていてもおかしくない。通常の騎兵ならば不可能でもあの騎兵で有れば可能だろう。

 

「降伏するぞ」

「......はっ」

 

今度は反論も起きず、すぐ様命令が伝達され司令部部隊は武器を捨て降伏を示す。そしてそれを見たまだ抗おうとしていた部隊も次々と降伏を示していく。

 

《ランサーリーダーより全騎へ、敵司令部の降伏を確認。攻撃を終了せよ》

 

作戦通りにロウリア先遣隊の司令部から目を離さず監視していたランサー隊の隊長によって、攻撃停止命令が出ると機巧ゴーレムは全騎ピタリと攻撃を止め、歩兵部隊到着迄の監視の為囲い込む様に分散する。

隙をついて逃げ出そうとした者には今後ゲリラにでもなられれば厄介なので、容赦無く銃弾が撃ち込まれる。その光景は何ヶ所かで見られ、他の兵士の心を完全に折る事となった。

 

ここに、クワ・トイネ公国ロウリア王国間の戦争での、クワ・トイネ公国国内における戦闘は終わりを迎えた。

 

 

 

クワ・トイネ公国軍野戦指揮所

 

「B軍集団より入信!ロウリア王国先遣隊は完全に降伏!現在歩兵部隊が捕虜収容中との事!尚友軍に被害無し!」

 

通信兵の報告に天幕の中がワッと盛り上がる。

バンザイをしている者や、感極まって泣いている者。

司令部に詰めている日本兵に握手を求めている者など様々だ。

その光景を見てノウも思わず頰が緩みかけるが、まだ国内に侵攻して来た敵を排除しただけだと、気を引き締める。

 

「喜ぶのは構わんが、戦争は未だ終わっていない。我々も進軍を再開!国境まで進出する!!」

「「「はっ!!」」」

 

ノウの命令を受けロウリア先遣隊東部諸侯団を殲滅した地点から西に5km程の所にいたクワ・トイネ公国軍は進軍を再開した。

 

「戦争の本番はこれからだ」

 

 

 

 

クワ・トイネ公国政治部会

 

ここでは軍務卿から戦闘の報告が行われていた。

 

「以上が戦闘の経過となります。今回の戦闘において捕虜おおよそ9,000に加え、将軍パンドールの身柄の確保に成功しました。また、我が軍の被害はありません」

「ありがとう軍務卿、軍は素晴らしい働きをしてくれた」

 

政治部会の雰囲気は明るい。

報告を行なっていた軍務卿や首相カナタの声も、安堵感を感じるものだった。

勝てる見込みの殆ど無かった戦争で、一度は国内への侵攻を許したものの目立った被害も無く、国内へ入り込んだ脅威を排除できたのだ、浮かれるのも仕方がないだろう。

 

「ただ一つ懸念事項が」

「何だろう?」

「は、日本軍顧問団には以前より忠告を受けていた事なのですが、エジェイにて敵軍を撃破した後に敵軍がいた跡の検分を行った兵士や、機巧ゴーレム隊の一部騎兵に心理的な消耗を訴える者が居ます」

 

いわゆるASD-急性ストレス障害と呼ばれる精神障害だ。

エジェイでは蒸発した人間の跡や、ドロドロに溶けた鎧をみた兵士が。機巧ゴーレム隊では自身の攻撃で消し飛んだ敵兵や、槍で弾き飛ばしたり、脚で蹴飛ばし踏み潰しぐちゃぐちゃになった敵兵を見た騎兵が、それぞれストレスを訴えていた。

 

「顧問団曰く、人の死に関わる事などで心的外傷を経験した後、体験を思い出したり悪夢を見たりして、結果過剰覚醒状態になったり、その体験に関わる事を避けたりなどの傾向が続き、一過性のものとなる者やその後長期間に渡って継続してしまう事もあるそうです」

「ふむ、彼等に対するケアをしっかりする必要があるな。とは言え我々にはそれに関するノウハウは無い、外務卿日本皇国に医者か?この場合は、まぁ兎も角人員の派遣と教育に関する依頼を行なってくれ」

「直ちに手配します」

 

カナタの指示を受け、外務卿は背後に控えていた外務局の幹部に指示を出す。

 

「では次の話をするとしよう。議題はロウリア相手にどこまでやるかという事だ、軍務卿」

「はい、現在我が軍はロウリア海軍大艦隊に続き、国内へと侵攻を許したロウリア軍の排除に成功しました。しかし、この軍勢は日本軍による高高度偵察の結果先遣隊でしか無いと判明しています。本命たるロウリア本軍は未だロウリア国内を移動、国境付近へと集結中で有りますがその数は少なくとも先遣隊の10倍が確認されています」

 

先遣隊の10倍と言うその数にどよめきが起こる。

クワ・トイネ国内へと侵攻して来た先遣隊ですら3万にも及び、現在クワ・トイネ軍が動員可能な兵数の半数以上だ。

 

「装備面においては一部部隊や派遣されている日本軍の第7師団の方が圧倒してはいますが、数の面においては依然ロウリア軍が圧倒的である事に変わりは有りません。そこで、次弾作戦として海軍を投入致します」

「海軍を?陸軍では無く?」

 

カナタや他の幹部達が首を傾げる、

 

「はい、皆様もご存知の通り海軍は3隻のみで有りますが、航空艦を保有しています。今回はこの3隻を使用します、理由としては先程も述べた通り陸軍では装備面で勝っても数では圧倒的に不利です、戦争において“数”と言うのは力ですから、装備で優っていても不測の事態が起こらないと限りません。故に陸軍はギムの西部にて防備を固めロウリア本軍を引き付けます、そしてその隙に航空艦をもってロウリア王国王都ジン・ハークへと一気に進出、ロウリア王に対し講和会談を呼びかけます」

「拒否された場合どうする?航空艦で乗り込むのであれば脅しと取られる可能性がある、徹底抗戦の姿勢を取られた場合は?」

 

脅しと取られる可能性があると言うより、まんま脅しでありそもそも軍部とてロウリア王が簡単に講和会談を受け入れるなどと思っていない。

講和会談を呼びかける事自体は本気であり、受け入れてくれるならそれに越した事は無いのだが、当然拒否された場合の事も考えている。

 

「その場合は特殊部隊を投入しハーク城を制圧、ロウリア王の身柄を確保、ロウリア軍全軍に対し武装解除を要求します。軍がこれを拒否し徹底抗戦を唱えた場合は致し方有りません、航空艦による攻撃を敢行します」


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