魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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戦後

ロウリア王国クワ・トイネ公国に敗れる。

この情報は瞬く間に世界中に広まっていった、なんて事は無かった。

はっきり言って文明圏外の辺境の地での出来事だ、大半の国家特に文明国や列強国の大半からしてみれば、関係は全く無いと言って良い。

だが、ロウリア王国やクワ・トイネ公国と関わりのあったロデニウス大陸周辺の文明圏外国には、驚きと共に広がっていった。

周辺国家にとって、ロウリア王国は頭一つ抜き出た大国であったし、クワ・トイネ公国が軍事的に強いと言う話を聞いたことも無かった。

だと言うのに今回の戦勝、しかもクワ・トイネ側に被害は殆ど無く、圧勝であったと言う。

 

信じ難い話であり誤報か何かか、局地的に勝利したクワ・トイネが国民を鼓舞する為に話を盛ったのが流れてきたと考える国も多かった。しかし、いつまで経ってもクワ・トイネ公国が滅びたと言う話は聞こえて来ないし、クワ・トイネ公国やクイラ王国との貿易は続いているが、ロウリア王国との貿易が減少していっている事から、漸く「事実であるかもしれない」と認識される様になって来た。

 

そしてそれは噂から確信へと変わっていき、周辺国家に衝撃を与える事となる。

 

「何故クワ・トイネ公国はロウリア王国に完勝できたのか」

 

と。

そこにはある国が関わっていると言う、その国の名前は「日本皇国」、彼の国がクワ・トイネ公国に力を与えたと。

各国は半信半疑ながらも、クワ・トイネ公国の勝利と言う事実に、こぞって日本皇国との接触を求める様になる。

 

その中には文明圏外国の雄 アルタラス王国も含まれていた。

 

 

第三文明圏 列強パーパルディア皇国 国家戦略局

 

「ロウリア王国が負けただと?」

 

パーパルディア皇国国家戦略局・文明圏外国担当部南方課課長のイノスは部下である係長パルソの報告に、一瞬何を言っているのか理解が出来なかった。

 

「何を言っている?ああ、油断しきっていて局地戦で負けたか?ふん、数だけはあっても所詮蛮族か」

 

そう思ってしまうのも仕方が無いだろう、ロウリアの力はパーパルディアからしてみれば取るに足らないが、あの大陸では頭一つ抜き出ている。

まずその人口からしてクワ・トイネ公国とクイラ王国を圧倒しているし、対外戦争の経験が無い両国と違いロウリアは大陸西部の統一において戦争を繰り返して来た分、経験値や戦略面において優っている。

それに加えて、今回はパーパルディア皇国がロウリア王国からすれば莫大な、パーパルディアからしてみても相当な支援、国家予算の1%のに始まり陸軍数万に数百のワイバーンの派遣、魔導砲すら載せていない様な旧式ではあるものの船の建造支援等を行った。

そうやって6年かけて準備されたロウリア王国による大陸統一戦争が、ロウリア王国の敗北によって集結した等、どうして信じられようか。

 

「いえ、ロウリア王国より通達のあった事実です。去る中央歴1639年6月1日、ロウリア王国王都ジン・ハークはハーク城にて講和文章にロウリア王国国王及びクワ・トイネ公国外務卿両名の署名がなされ、『ハーク講和条約』が結ばれ両国は完全に終戦状態となりました。また、講和とはなっていますが全体的にクワ・トイネ公国側が有利な条件で、実質ロウリア王国の降伏であったと派遣している局員から報告が上がっています」

「馬鹿な!?あり得んだろうがッ!!ロウリアが事実上の降伏?一体何がどうなったらそうなる!?」

 

思わず声を荒げるイノスにパルソは首を振る。

 

「目下調査中です。ただ、局員は講和会談の場には立ち入れなかったのですが奇妙な報告をしてきています」

「奇妙な報告だと?」

「はい、なんでも王都上空に巨大な飛空船らしきものが9隻現れ、講和会談中ずっと王城を取り巻く様に静止していたと。また、それらは木造では無い様に見え帆が見当たらない代わりに、甲板上に魔導砲の様なモノが見えたと」

「百歩譲って飛空船は構わん、我が国の属国であるパンドーラ大魔法公国等の魔法文明国の一部は保有している。だが木造で無ければ帆も無い、更には空中で静止した上に魔導砲を載せていただと?一体何の冗談だ?」

 

飛空船とは読んで字のごとく空を飛ぶ船だ。

パンドーラ大魔法公国の様な魔法文明国によって、軍事利用を目的に開発が行われていたもので、現在では少数が高速の輸送船として使用されている。

その形状は普通に水に浮かんでいる帆船と変わらない姿をしており、空を飛ぶ事は出来るもののあくまでも「飛べる」だけであって、停泊などは水の上で行うしかなく、離着水にある程度の距離を取る必要があり、当初期待された「敵陣の後ろに軍を降ろす」といった運用は難しいと判断された。

また、魔導砲を載せることも検討されたが、頭上から攻撃出来るというアドバンテージはあるものの、タダでさえ狙って当てられない魔導砲を上から下に向かって狙いを付けるのは難しく、魔導砲自体を斜めに取り付けるだとか、砲撃の際に船体を斜めに傾けるといった方法が検討されたものの、技術的に難しいと結局採用にはいたらず。

ならいつもの様に数を増やして「砲弾の雨を降らせば」となったのだが、今度は大量の魔導砲とその砲弾の重量によって「飛び上がれない」という結果に終わり、更にパンドーラ大魔法公国で「無理に空を飛ぶ船にこだわらなくとも、その技術を応用して足の速い軍艦を作ればいいのでは?」という意見が出された事により、以降そちらの方に開発がシフトして行き、結果的に飛空船の軍艦は誕生しなかった。

 

それがパーパルディア皇国を始め文明圏国家においての常識であり、今回とそして前回の海戦に関する報告にある様な「空中で停止する」「魔導砲による攻撃を行い、しかもそれが百発百中」などと言った報告は眉唾を通り越してふざけているとしか思えない報告だった。

だからこそイノスは「訳のわからない報告」よりも、目下問題となり得る事項の確認を優先させた。

 

「そんな事よりも、派遣した陸軍3万と竜騎士隊200騎はどうなった?まさかとは思うがやられてはいないだろうな?」

「それが......竜騎士隊のワイバーンは全て撃墜されたとの事です」

「ばか、な......全て?全てだとッ!?1騎2騎ならばまだしも、辺境の蛮地で蛮族のワイバーンに我が皇国のワイバーン200騎が全て墜とされただとッ!?冗談もほどほどにしろッ!!」

 

イノスの怒鳴り声にパルソは身を竦める、とは言え報告している彼としてもイノスの言いたい事は分かる。

今回の竜騎士隊のロウリア王国への派遣は「蛮族の国に行く」という事もあって、素行の余り宜しくない竜騎士達への懲罰を含めたものであり、その練度は皇国竜騎士隊全体からみれば高いとは言えないものであったし、配備しているのも通常種のワイバーンであったが、それでもパーパルディア皇国基準での話だ。

竜騎士もワイバーンも文明圏外のそれよりも、練度性能共に上位である。

確かに1騎2騎ならば蛮族のワイバーンが、死に物狂いで群がって攻撃すれば墜とされる事もあるだろうが、派遣した200騎全てが墜とされるなどあり得ないし、有ってはならない事だ。

 

「現地の局員は竜騎士隊の地上指揮官への聞き取りで、派遣部隊200騎全ての撃墜は間違い無いと確認したとの事です。また、ロウリア王国の竜騎兵隊指揮官への聞き取りでも、ロウリア王国に展開していたワイバーン全てが撃墜された事は確実であると」

「馬鹿な、そんな馬鹿な事があるか...文明圏外の蛮族に、我が皇国の竜騎士が1騎残らず?」

 

余程ショックが大きかったのだろうか、うわ言のようにブツブツと呟くイノスにパルソは報告を続ける。

 

「ロウリア王国はハーク講和条約への署名を持って、遠征軍の大多数の武装解除を始めています。また、ロウリア王国は今回の我が国の“投資”に対する返済の一部を国内の亜人奴隷ほぼ全てで行いたいとの事で、派遣軍の撤退に合わせて亜人奴隷の輸送を行う為の輸送船の派遣を要請しています」

「返済を亜人奴隷でか、まぁある程度の額にはなるか......ん?いや待て、クワ・トイネは亜人の多い国では無かったか?それをクワ・トイネが許すのか?」

 

パルソの報告に取り敢えず持ち直したイノスは頷きかけるが、クワ・トイネがロウリアが亜人を切り売りする事を許すのかと首を傾げる。

 

「は、それがどうも同じ亜人ではあっても元々は他国の者であったと、賠償金代わりの一部奴隷の引き渡し以上には亜人奴隷に関しては何も言って来なかったとの事です。ただ、クワ・トイネの後ろにいる日本皇国が“奴隷”という存在に難色を示したようで、日本の不興を買いたくないと、国内の奴隷総数をある程度でも把握される前に、我が国へ支払う事によって()()()()()にしたい様です」

「ふん、群れの者以外はどうでも良いか、所詮は獣だな。それにしても日本皇国......文明国クラスの国ではあると思うが、ロデニウス大陸への進出は奴隷を求めてのものではなかったのか?」

 

イノスは日本皇国は最近魔導砲を製造できるようになった、新興の文明国で国力の増大の為ロデニウス大陸へと進出したものと考えていた。それがロウリア王国の奴隷の存在に難色を示すというのはどう言う事であろうか?普通喜び勇んで奴隷を接収するなり、戦争で負けたロウリア人を奴隷にするなりする筈である。

 

「訳がわからんな。兎も角竜騎士隊に関する情報を最優先で集めさせろ。ロウリアの提案はそのまま進めて➖バタン!!➖

 

情報が少な過ぎて日本皇国の考えなど読めない為、取り敢えず今必要な指示を出そうとしたところに、慌てた様子の局員が飛び込んできた。

 

「何事だ!」

「ロウリア王国派遣チームからの、きっ緊急連絡です!!陸軍の派遣部隊が、ロウリア王国遠征軍の一部と共に戦争継続を訴え王国東部の城塞へと立て籠もりましたっ!!」

「「なんだトォッ!!?」」

 

 

 

ロウリア王国三大将軍の1人スマークは困り果てていた。

その原因は彼の視線の先にある城塞に立て籠もる一団にあった。

 

自身が率いる遠征軍の頭上を例の巨大な空飛ぶ船が、悠々と通り過ぎて行った翌日、総司令官パタジンからの直接の魔信により祖国がクワ・トイネ公国と講和した事を知った、それが殆ど降伏同然である事も、合わせて講和の条件として軍の武装解除を行う事も。

武装解除命令に基づき各部隊の指揮官を集めると、当然と言うべきか反発の声が上がった。

ただ意外な事にその声は然程大きいものでは無かった。

いや、意外では無いのかも知れない、何せ遠征軍本隊に居た人間は指揮官から雑兵に至るまで、全員があの空飛ぶ船を直接見ている。

そして、僅かに残っていたワイバーンが呆気なく墜とされる様も。

 

あの力が自分達に降りかかってくるかも知れない

 

そう考えるだけで恐ろしかった。

ワイバーンをあれほど簡単に撃墜する力が地上に向けられれば......想像するだけでもゾッとする。

だからこそ、スマーク自身としては降伏と武装解除に反発の声が僅かとはいえ上がる事に驚いた。

確かに自分達は未だに一戦もしておらず、敵の力を直接向けられ被害を被った訳では無い。

しかし、海軍の要請で飛び立った竜騎兵隊は結局1騎も帰って来なかったし、同じ三大将軍の1人パンドールが率いていた先遣隊は音信不通となっており、恐らく全滅したか或いは降伏したものと考えられる。

極め付けはあの空飛ぶ船に、国境線のクワ・トイネ側に展開した巨大な鉄の騎兵に見たことも無い兵器の数々。

さらに言えば講和文章に署名したのは国王陛下ご自身だ、ここまでの条件が揃ってなお継戦を訴えるのは相手の印象を悪くするどころか、国王陛下への反逆とも取られかねない。

そんな状態で何故継戦を主張するのかと疑問に思い確認してみれば、何の事は無い継戦を訴えていたのはロウリア王国の部隊では無く、パーパルディア皇国から派遣されている部隊だった。

 

「辺境の蛮地に派遣されたのを略奪や陵辱を楽しみに我慢していたのに、ロウリアが勝手に負けて武装解除して帰れと言うのは認められるか」

と言うのが彼らの主張だった。

何の役にも立たなかったくせにいい迷惑である。

「国境のクワ・トイネ軍など所詮虚仮威しの案山子で、実際に戦えば鎧袖一触だ」とも豪語しているが、「なら勝手に突撃でも何でもしてくれ、何で籠城してるんだよ」と言うのがスマークの本音だった。

まぁ実際に突撃をした場合、彼等がパーパルディア軍の旗を持たない以上ロウリア軍が行った事になり、クワ・トイネ軍に犠牲者がでようものなら、自分の極刑は免れないであろうから、馬鹿正直に突撃しなかった事に感謝もしているが。

最も城塞を占拠された事や、自軍からも少数とは言え離反者出してしまった事の責任を問われる事は間違い無いであろうが。

 

「スマーク様、パタジン総司令よりの通達です。『城塞の包囲は王国軍3万で継続、その他の各諸侯軍は直ちに武装を解除した後帰還させよ』との事です」

「包囲部隊が大幅に減る事になるがそれは?」

「武装解除の監督の為越境するクワ・トイネ公国軍及び日本皇国軍が包囲に加わるとの事です」

「我が国の恥、とは言いたく無いが国内で起こっている事を他国に任せる事になってしまうとは......これが敗戦か」

 

戦力的には自分達でも十分対処可能であるのに、武装解除が優先され他国の軍にその役割を奪われる、これ以上無い屈辱だった。

祖国が初めて経験する「敗戦」に、この先国民は耐えられるのか不安になりつつ、スマークはパタジンの命令を伝える為指示を出すのであった。


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