魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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接触

「コレで一先ずの戦後処理は終わりか」

 

ロウリア王国より引き渡された亜人奴隷の解放証へのサインを終えたカナタはほっと一息ついた。

籠城を続けるパーパルディア皇国軍3万という決して小さく無い問題が残っているものの、アレはどちらかと言うとロウリア王国の問題であって、講和条約で設定された非武装地帯よりも西側である以上、クワ・トイネ公国が直接関わる必要がある問題では無い。

 

日本皇国から聞いた話ではロウリアが戦争の為にパーパルディアから受けた援助への返済に関する協議の中で、彼らに関する話もしようとしているのだが、どうにも反応が良くないらしい。

ロウリア側は自分から言い出す事は無いが、返済の一つの手段として「領地の一部割譲を行い彼らをそこへ移す」という事も覚悟していたのだが、どうにもパーパルディア側が彼らを既に居ない者として扱おうとしている節があると言う話だ。

そうなるとロウリア側からはどうしようも無くなってしまう、パーパルディアが彼等を居ない者として扱うからと言って、「君達は祖国から見捨てられた」と教えて取り込もうにも、プライドだけは高いパーパルディアの兵士がそれに応じるとは思えないし、そもそもそこまでして人口を増やす必要もない。

そして、実際に彼等を殲滅すると言う訳にもいかないだろう。

遠征軍のほぼ全てが武装解除された現在、僅かに残った国防軍には籠城する3万の敵を撃破する力など存在しない。

日本皇国軍に依頼すればそれこそ一瞬で片がつくだろうが、虐殺に等しい行為を行ってくれるとは思えない。

現状ですら日本からの指示でロウリア国内の継戦派に見せかけて、食糧の提供などを行なっているのだ。

その為の食料をクワ・トイネから買い上げてくれているので、臨時収入があって有り難いのだが、少し甘いのでは無いかとも思う。

まぁ外交の手札として使うつもりであろうし、列強パーパルディアの戦力が大陸内へ拡散してしまう事よりは1箇所に固まっており、最悪の場合日本皇国軍の攻撃で容易に殲滅可能である現状は悪くは無いのだが。

 

それに近々日本が根本的解決に動くらしい。

 

 

 

 

フィルアデス大陸南東沖 上空1,000ft

 

朝日を受け鈍く輝く黒塗りの巨船が7隻、光の翼を広げながら優雅に空を泳いでいた。

 

太陽の旗をはためかせながら航行するその船団は日本皇国の派遣した特別艦隊で、目的地は第三文明圏の列強パーパルディア皇国。

 

中央に平べったい艦形をもつ戦闘艇母艦を据え4隻が周囲を取り囲み、2隻が戦母の下方を航行する所謂「立体輪形陣」や「独楽型陣」と呼ばれる陣形だ。

ただしこの陣形を組む際、基本的な機動艦隊は下方の艦艇は1隻のみであり2隻が付く事は無い。

では何故この艦隊は下方に2隻を配置しているのか、その理由は先頭を航行する艦艇にあった。

 

日本皇国海軍近衛艦隊【戦艦秋津洲】

 

それが彼女の名前だ。

 

 

ーー【戦艦秋津洲】 彼女は大日本帝国海軍の時代に、航空艦技術獲得以降唯一建造された「戦艦」だ。

 

建造当時、航空艦の開発によって高度差によるアドバンテージを得た事と、剣砲クサナギの完成により巨大で金食い虫な戦艦を建造する必要が殆ど無くなった大日本帝国であったが、初期の[アメノトリフネ]では現在程の高度を航行する事が出来なかった。

また、日本からの[アメノトリフネ]の提供を受けて航空艦を建造していたイギリスを除き、列強の多くでは航空艦の登場により航空機に力を入れ出したとはいえ、艦艇としては大艦巨砲主義が主流であり、大型戦艦の建造競争が行われていた。

それらの事情や、戦艦はその時点で保有している建艦能力の粋を集めたものでもある事や、軍事知識に疎い一般人にも巨大な船体にデカイ大砲を乗せた戦艦は分かりやすく強い船であった事などから、一隻のみではあるものの建造が認められる事となった。

 

そうして建造されたのが【秋津洲】であった。建造当時大日本帝国が持ち得たあらゆる最新技術が惜しげも無く使用され、就役当初こそ[アメノトリフネ]の出力不足が原因で、水上航行しか出来なかったが、武装面では主砲として採用された試製魔力砲や、副砲として配置された剣砲クサナギ、防御面においては出来たばかりであった魔法障壁[ヤタノカガミ]を採用した事も有り、就役時点で間違い無く単艦戦闘能力に於いて最強の戦艦であった。

現在【秋津洲】は唯一の海軍近衛艦隊艦艇として海軍に在籍している。

 

また、友好国での観艦式や王族に関する式典等に招待された時には【秋津洲】を旗艦としその時の最新鋭艦で編成された臨時編成艦隊、通称「祭祀艦隊」が編成され派遣される事になっているーー

 

 

今回艦隊が派遣されるに至った理由は早い話が「砲艦外交」だ。

 

「砲艦外交」とは外交を行うに当たって、軍艦を始めとした軍事力を用いて間接的な威嚇を相手国に与える事により心理的圧力を掛けつつ、国家意思を示し外交交渉を有利に進める為の外交手段である。

この世界でも列強国は勿論、文明国や文明圏外国であっても普通に行われている行為であり、日本皇国も地球において砲艦外交はされる側もする側も経験していた。

 

最も今回は相手を威圧するという目的よりも、相手に舐められない為という目的の方が大きい。

と言うのも、クワ・トイネ公国とロウリア王国がパーパルディア皇国が「列強」であると言う事を殊更主張しており、ただ外交官を派遣しただけではろくな対応をされない可能性があると考えられる為だ。

通常の艦隊だけでなく【秋津洲】が組み込まれ祭祀艦隊編成での派遣となったのもその一環である。

木造の戦列艦が主力だと言うパーパルディアにとって、戦艦はサイズだけでも相当脅威に見える筈だし、魔導砲なる火砲を有しているならばその主砲を見れば、ある程度の力は想像が出来るであろう。

更にはロウリア王国が最初日本皇国を侮った(言い方による行き違いがあったとは言え)理由であるこの世界においての軍事的ステータスのワイバーン、コレに相当する兵器である機竜と戦闘艇を普段はまずしない戦母の上部甲板へ駐機する事によって、外から見える様にしている。

 

これでこちらの事を侮るのであればパーパルディア皇国は情報には無い、「これ以上の戦力を保有している」もしくは「戦力分析もろくに出来ない」かのどちらかだ。

 

スワロウ1(CAP機)よりオールドレディコントロール(秋津洲FIC)、パーパルディア皇国軍と思わしきワイバーンと接触した》

 

 

 

 

 

パーパルディア皇国 皇都エストシラント

軍港に隣接する海軍総司令部は今蜂の巣を突いた様な騒ぎになっていた。

始まりは第1艦隊の竜母所属の竜騎士からの通報だった。

 

曰く、「ムーの飛行機械と思わしき飛行体を発見した」

 

通報を受けた第1艦隊は当初その事を然程問題視していなかった。

と言うのも、パーパルディア皇国とムー国は国交を結んでおり、パーパルディアの国内にもムーの飛行機械が使用する為の空港なるものが存在する。

その為、ムー国人の移動などの為飛行機械が飛来するのはそう珍しい事でも無かった。

だからこそ「何時もの事だ」と誰も対して気にもしなかった。

ただ1人ふと気になってムーの飛行機械の飛行予定を確認した航空司令が、「今日ムーの飛行機械が来る予定なんて無い」事に気付くまでは。

この世界は古くからワイバーンや火喰い鳥の存在もあって「制空権」や「領空」という概念が存在した。

故に、例えそこそこ良好な関係を築いているとは言え、相手国の許可無しに領空へワイバーンなどを侵入させるのは問題行為である。

まともな通信魔法具を持たない文明圏外国であればいざ知らず、パーパルディア皇国とムー国は列強国だ、両国間を直接繋げられる通報魔法具を有している。

だからこそ例え元々の予定に無かった飛行であっても、事前に通知する事は出来る筈である。

そして、改めて考えてみれば通報してきた竜母は大陸南西部では無く、()()()()()を航行中の竜母であった。そんな方向からムーの飛行機械がやって来る筈がない。

 

さらにそこに新たな情報が入る、

「発見した飛行体はムーの飛行機械と違って高速回転しているプロペラが無く、後ろから二条の光を出しながらワイバーンロードよりも速く飛んでいる」

 

速度に関しては如何にワイバーン通常種よりも高速を出せるロード種と言えど、ムーの飛行機械よりは残念ながら遅いので驚く事では無いが、問題はその後であった。

「光を出しながら飛んでいる」飛行体......艦隊司令はそんな特徴を持つ飛行体を一つしか知らなかった。

即ち、列強第1位神聖ミリシアル帝国の天の浮舟だ。

ミリシアルの天の浮舟に関しても、外交関係でムーの空港を利用して飛来する事はあるのだが、そこでも通報が南東にいる竜母から行われていると言うのが問題になる。

何故ならムーもミリシアルもパーパルディアから見て西に存在する国家だ、東からやって来るなんて事がある筈が無い。

 

そこに、混乱する艦隊司令部にとどめを刺す様な情報が入った。

 

「巨大な飛行船が7隻、東の方角からやって来た。その船団は日本皇国と名乗り、パーパルディア皇国との国交樹立を求めている」

 

との事であった。

そんな報告があったのが1時間前、唖然とする第1艦隊の頭上を悠々と通り過ぎエストシラント沖にその7隻が着水し、エストシラントの街全体が見たことも無い飛空船に大騒ぎになる中、海軍総司令部にとんでもない知らせが飛び込んだ。

 

「完全武装の神聖ミリシアル帝国艦隊が現れた」

 

最早意味不明な状況である。

東から現れた巨大な鉄製と思わしき飛空船をもつ未知の勢力「日本皇国」だけでも面倒ごとだと言うのに、よりにもよって世界最強の海軍の来訪である。

しかもこれ又事前の告知も無く、さらには稀に寄港する事もある地方艦隊などでは無く、れっきとした主力艦隊であると言う。

海軍司令バルスは頭痛を覚えた頭を抱えずにはいられなかった。

 

 

 

パーパルディア皇国外務局監査室に所属し、現在第1外務局へ出向している皇族女性レミールは、ハッキリ言って今の状況を面白く思っていない。

無論勤めて顔には出さないが、隣に座った第1外務局長のエルトはそんなレミールの気配を感じ取ったのか、チラチラと顔色を伺ってくる。

彼女が不機嫌な理由は今彼女の眼前に広がる光景に有った。

 

列強国第1位の神聖ミリシアル帝国()()()()と、文明圏外からやって来たと言う日本皇国の大使との会談が今、彼女の前で行われていた。

 

“最強”たるミリシアルの外務大臣が態々他国まで出向いて、文明圏外国の大使と会談していると言う事には驚きと混乱があったが、会談そのものは別にレミールの機嫌を悪くする要因では無かった。

では何故彼女が不機嫌になっているのかと言うと、会談が行われているこの場所にあった。

 

パーパルディア皇国第1外務局大会議室

 

そこが会談の行われている場所であった。

つまり、この場所の主はレミール達パーパルディア皇国である。

いくらミリシアル帝国であろうと、他国の施設を勝手に使う事など出来る筈も無く、この会議室が使用できているのもミリシアルの強い要請に、パーパルディア側が折れた結果だ。

また、エルト以下第1外務局の人員が臨席しているのも、ミリシアルからの要望があったからだ。

 

ーだと言うのに、これはどう言う事だ!

 

いざ会談が始まればミリシアルがパーパルディアへ話を振る事は一切無く、日本皇国も元々パーパルディアとの国交を求めてやって来たと言うのに、ミリシアルとの会話に夢中になっている。

まるでこの場にパーパルディアの人間などいないかの様な扱いだ。

 

ー何故皇国がこの様な仕打ちを受けなければならない!!

 

その怒りのせいか、レミールの耳には両者の会話内容は全く入って来ず、ミリシアル帝国の外務大臣が態々出向いて来た理由を知る事無く、彼女は神聖ミリシアル帝国と日本皇国への怒りを募らせて行く。

 

 


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