魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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会談

この世界にあって“最強”と言える国家はどの国か?

そう問われた時、大人も子供もこぞってこう答えるだろう、

「神聖ミリシアル帝国」と。

ミリシアル帝国は国の発展具合において、経済力も軍事力も他の追随を許さない。

だからこそ、帝国は外交の場面でも余裕を崩さない、

 

()()()()()()

 

 

 

神聖ミリシアル帝国の外務大臣-ペクラス、彼は無理を言って借り入れたパーパルディア皇国第1外務局の会議室で酷く緊張していた。

 

何せこの会談で世界の行く末が変わってしまうかも知れない。

 

始まりは酒場での商人達の噂であった。

第三文明圏の外、ロデニウス大陸であった戦争での噂話だ。

 

曰く、「クワ・トイネ公国とその同盟国である日本皇国は4,400隻ものロウリア王国艦隊をたったの8隻で壊滅せしめた」と言う。

初めは笑い話にもならないと誰も本気になどしていなかった。

それはそうであろう、我が国神聖ミリシアル帝国が誇る世界最強の海軍であればロウリア王国の魔導砲すら持たない通常帆船など鎧袖一触、それこそ噂話にあるように8隻で4,400を壊滅させるなど容易い事だ。

しかし、噂に出てくる国-クワ・トイネ公国は高級果実の産地として知られてはいるものの、所詮は「周囲の文明圏外国よりは豊かな生活をしている」程度の文明圏外国だ。

なんの被害もなく一方的に大艦隊を壊滅させられる様な力など持っていよう筈も無い。

もう一つの日本皇国なる国は初めて聞く名前だが、クワ・トイネの同盟国であるならば文明圏外国だろう。

となれば同じ様に強大な海軍など存在しないだろう、噂は所詮噂で広まっていくにつれ尾ひれが付き、数字が大きくなっていったのだろうと誰も本気になどしていなかった。

 

当然政府にそんな噂話が報告される様な事も無く、気が付けばロデニウス大陸での戦争はロウリア王国の実質的降伏によって終結していた。

その事自体はミリシアルが気にする様な事では無い。文明圏外国の、それも東の果ての様な場所で起こった戦争など影響など出ようはずも無いから。

だがその態度は新たに流れてきた二つの噂によって覆される事になる。

 

「飛空船とは比べ物にならない程巨大な空飛ぶ船を見た」

「光の翼を見た」

 

この二つの噂は元々は一つのものだったのだが、伝わる過程で二つに分かれてしまっていた。

当然噂を聞く側でしか無かったミリシアルがそんな事を知る由もなく、偶々仕事終わりに立ち寄った酒場でこの噂を聞いた情報局員は飛び上がりそうになった。

 

一つ目の噂はまだ良い。

いや、事実とすれば軽く流せる様な話では無いのは確かだが。

巨大な飛行艦など現在帝国が実用化しようとしている“アレ”位で、帝国ですら難航しているそれを他の国、例え列強2位のムーであっても早々建造・実用化など出来るとは思えないが、飛空船という前例は有る。

だから何処かの魔法文明国が巨大な飛空船を作り出す可能性は絶対に無いとは言えない。

 

そんな事よりも問題なのは二つ目の噂だ。

「光の翼」ミリシアル帝国にとってその単語で連想する存在など一つしか存在しない。

即ち、古の魔法帝国ことラヴァーナル帝国の光翼人だ。

彼等は非常に傲慢な種族で、自分達以外の種を全て下等種族と見下し人としてすら見てなかった。

高い魔力と知能を持ち高い文明を築いた彼等は驕り高ぶり、やがて神にすら弓引いた。

神々はその様に彼等の文明そのものを滅ぼす為行動を起こしたのだが、それに対し彼等は自分達の大陸に結界を貼り未来へと転移すると言う、まさに魔法技術の極致とも言える大魔法を行使し神罰から逃れたと言う。

『復活の刻来たりし時、世界は再び我らにひれ伏す』と言う不壊の石板を残して。

僅かに残った彼等を吸収/絶滅させて出来たのが神聖ミリシアル帝国だ。

だからこそ、神聖ミリシアル帝国は彼等の復活を誰よりも恐れていると言える。

そして、復活を恐れる光翼人の特徴が、()()()使()()()()()()()()()()()()()()()と言うものである。

 

だからこそ、神聖ミリシアル帝国はこの噂に反応した、それも過剰反応では無いかと言うレベルで。

即ち第三文明圏外国ロデニウス大陸への海軍主力艦隊派遣である。

派遣人員の中に外務大臣であるペクラスがいるのも、外交官では判断出来ない状況となる可能性がある事を考慮した結果である。

実際政府は()()()()()()()()()()()()すら有ると考え、全軍に対し即応待機命令を出しているし、それによってミリシアルは緩やかに準戦時体制へと移行しつつある。

後々思い返せば全くもって無駄な行動だったし、艦隊派遣が逆に刺激してしまう可能性もあった訳だが、「光の翼を見た」と言う複数情報にパニックになっていた政府に当時その事に気付ける人物はいなかった。

冷静に考えれば現地国家であるクワ・トイネ公国と同盟を結んでいたり、ロウリア王国を滅ぼしていなかったり、そもそも国名からして違う等、判断する要素は幾らでもあったのだが。

 

兎にも角にも、慌てて出撃したミリシアル艦隊は補給の為立ち寄ったパーパルディア皇国の首都エストシラントの港に停泊する巨大艦を目撃する。

どう見たって重武装の巡洋艦と駆逐艦、甲板の状態から空母と思わしき艦艇、極め付けは神聖ミリシアル帝国海軍が誇る最新鋭にして世界最大最強の戦艦「ミスリル級戦艦」よりも巨大な戦艦。

一瞬まさかパーパルディアが建造したのかと思ったが、湾内を見れば戦列艦や竜母が停泊しておりそれは無いと判る。

ムーかとも考えたが、マストに飜るのはムーの国旗では無い、「では一体何処の」そこまで考えたペクラスの脳裏に閃くものがあった。

即ち「日本皇国」の艦艇では無いかと。

 

すぐ様パーパルディアに確認を取ると、相手は確かに日本皇国と名乗っているとの事だ。

そのまま会談の仲介と部屋の貸し出しを要請した。

最初は渋っていたパーパルディアであったが、ごり押しした結果折れてミリシアルと日本の会談の場を用意する事を了承した。

 

そして今に至る。

 

パーパルディアの職員に案内され日本皇国の外交官が会議室に入って来た。

ペクラスは向かい側へと着席した人物を失礼にならない程度に観察する。

まず目が行くのはその服装だ、外交官と言うのは他国に赴いたり他国の外交官を出迎えたりする事から、国力を示す為基本的に着飾ったものが多い、質素な服装だと舐められるからだ。

例外はミリシアルとムーで、両国では近年政府関係者や外交官の正装としてスーツと呼ばれる服装が用いられる事が増えていた。

他国の外交官と比べスーツはシンプルなデザインだが、ミリシアルもムーも国力を示すのに服装を使う必要性は低い。

誰だって列強の1位2位の両国の国力が高い事は知っているし、その国の外交官の服装がシンプルだからと馬鹿にした態度は取らない。

なので、着飾るよりは生地や仕立ての技術をさり気無く見せると言う方向へとシフトしているのだ。

 

日本の外交官の服装はスーツだった。

 

それも一目見て上質だと判る生地だ。

外務大臣であるペクラスが身につけているものとそれ程差が無いように見える、それをよくよく見れば対面の男だけでなく、向こう側の人員の全員が同じ服装をしている。

それはつまりそれ程の余裕があると言う事だ、パーパルディア皇国との交渉の為用意したとも考えられるが、だとしても揃えられると言うだけで意味がある。

そして、その事に気付かないものはミリシアル側には居ないし、居合わせるパーパルディアにも日本人の服装が一見質素だからと馬鹿にする者は(若干一名を除いて)居ない。

 

それから顔に目をやる、黒い髪を七三訳にしており眼鏡越しに鋭い目つきが伺える。だがその瞳にこちらを見下す様な色は見受けられず、ただ真剣にこの場に挑んでいると言うのが伝わって来る。

 

「突然の申し出にも関わらず、話を受けて下さった事感謝します。改めて自己紹介させて頂きましょう、私は神聖ミリシアル帝国外務大臣ペクラスと申します」

 

日本側が全員着席した事を確認したペクラスが、この場のホストとして口を開く。

 

「いえ、世界最強と名高い神聖ミリシアル帝国との会談をこうも早期に行える事は我が国にとっても願っても無い事です。私は日本皇国外務省の朝田と申します」

 

朝田と名乗った外交官の声音には矢張りこちらを見下したり、人とすら見ていなかったりと言った色は見当たらない。

というかそもそも彼等が本当に古の魔法帝国だったならばこの会談自体成し得なかった事だろう。

仮に会談を行えたとしても、それは一方的なものになるだろう。

ここまで来ると流石にペクラスも「あの噂話だけで『古の魔法帝国復活では!?』となってしまったのは早計だったか」と思える様になっていた。

そうして考えてみれば「そうでは無い」と判る要素はいくつかあった。

だが、日本皇国が神聖ミリシアル帝国と少なくとも海軍に置いては同等か、下手をすればそれ以上の力を持ち得るのは港に停泊する艦隊を見れば明白だ。

それが建造したものなのか、何処かから手に入れたものなのかは判らないが、それでも保有しているという事実は変わらない。

だからこそ、憶測では無く直接尋ねる。

 

「単刀直入にお伺いしたいのです、貴国は古の魔法帝国と呼ばれる存在と何か繋がりがあるのでしょうか?」

 

 

 

パーパルディア皇国第1外務局長エルトはこちらの存在を半端無視する形で話を始めたミリシアル帝国外務大臣に、どうにも機嫌が悪くなっている様子のレミールを気にしながらも、眼前の会話に集中していた。

ペクラスが質問した「古の魔法帝国」、その存在はエルトとて知っている。御伽噺の様な話だが太古の時代に間違い無く実在した存在で、その事は彼等の技術を利用していると言うミリシアルの存在が証明している。

「東の文明圏の外からやって来た連中が、古の魔法帝国と関係する筈が無いだろう」と普通なら言いたくなる所だが、彼等が乗って来た船を見ていたエルトとしては頭から否定は出来ない。

何せ彼等は飛空船とは違う、ミリシアル帝国の軍艦と変わらないものに乗って空からやって来たのだから。

 

エルトは朝田の顔色が変わったのに気付いた。

一瞬聞かれると都合の悪い質問であったのかと思ったが、どうにも違う様だ。

彼の顔は何というか「またその話か」とでも言いたげに見える。

 

「古の魔法帝国、ですか。以前ロウリア王国の方に話を伺いました。何でも遥か昔に存在した超大国で、優れた魔法文明を有していたとか。そして、我が国の魔法技術の幾つが非常に似通って見えると」

 

そこで一旦言葉を切りペクラスの目をまっすぐ見て続ける

 

「結論から申しましょう。我が日本皇国は古の魔法帝国なる国家とは何の関係もありません。我が国は異世界からの転移国家です」

「「異世界からの......転移国家」」

 

ペクラスとエルトは思わず声に出してしまう。

朝田はチラリとこちらを見たが、エルトの様子に口を挟むつもりでは無かったのかと、直ぐペクラスの方へと視線を戻した。

その仕草に隣のレミールがまた憤っている、気にしている様子は無いが隣に座るエルトだけで無く、ペクラスと朝田も気付いているだろう。「今すぐに叩き出してしまいたい」と思うが相手は皇族だ、行動に移す訳にはいかない。

ミリシアルと日本に外交の場に「未熟者を臨席させる国家」と取られるかも知れないと思うと頭が痛くなるエルトであった。

 

そんな彼女の苦労を他所にペクラスと朝田の会話は続く。

 

 

異世界からの転移国家。

俄かには信じ難い話だがそもそもの話、古の魔法帝国は未来へと転移したと言うし、列強2位にしてこの世界で普遍的に広まっている魔法技術とは別系統の技術、即ち「科学」を扱うムー国の存在する大陸ムー大陸は遥か昔に異世界からやって来た大陸だと言う。

 

「では貴国の技術は古の魔法帝国とは何の関係も無いと、そうおっしゃるのですか?不確かな情報で申し訳無いが、光の翼を見たと言う証言もあるのです」

 

少なくとも頭ごなしに否定できるものでも無い、そう判断したペクラスは次の質問を行う。

日本皇国の技術、即ち巨大な飛空船とパーパルディアへ着くまでに新たに入った情報である、巨大な鉄の騎馬。

特に後者に関しては「ゴーレム」と呼称されていたとの未確認情報もある。

今掴んでいる情報は日本が古の魔法帝国の技術をミリシアルと同じ様に再現しているか、或いはそれ以上に扱いこなしている事を示している。

そして光の翼。

 

「ええ、我が国の【魔法技術】はその誕生から100年程しか経っておりません。現在使用されている【魔法】に関してもこの100年で開発されたものです」

「100年?たったの100年ですと?」

 

信じ難い数字だ。

ミリシアルですら長い時間をかけて漸く古の魔法帝国の技術をモノにしたと言うのに、僅か100年であれ程の技術を手に入れるなど。

 

「我々の世界は元々【魔力】発見以前は科学が発展途上にある世界でしたが、今から100年前の【魔力】発見以降我が国や同盟国では【魔法】が開発され、以降進化発展を続けながら今に至ります」

「・・・・・・」

 

ペクラスの沈黙を他所に朝田は続ける。

 

「我が国の【魔法】は我が国の『神話の再現』を目指して開発が行われました」

「神話の再現ですか?」

「ええ、正確には神話に登場する神々の『権能』や『逸話』、神話に記述のある『出来事』などの模倣を行ったのが我が国の魔法です」

「神々の、権能を......」

 

神々の力の再現などペクラスは疎か、この世界の人間には想像もつかない事だ。

古の魔法帝国の技術を再現しているミリシアルは似た様な所が有ると言えるが、あくまでもそれは実際に存在した技術だ。

超常の存在である神の力の再現/模倣など......

 

「結果として、我が国は前世界において魔法文明国家の中でも突出した魔法技術を得る事ができ、現在では民間軍事問わずありとあらゆる場面で魔法が使用されています。光の翼はソレが貴方方にとってどう言う意味を持つのかは存じ上げませんが、我が国関係で光の翼と言うと、恐らく航空艦の航空術式[アメノトリフネ]の副次効果で発生する光の翼の事でしょう」

「.........それは、なんとも」

 

漸くそれだけを絞り出した。

突拍子も無い話、そう神々の権能の模倣など想像もしないしまして挑戦しようとも普通は思わないだろう。

それがあろうことか日本皇国はそれに挑み、そして成功していると言う。

そして光の翼に関しても種族的特徴では無く、航空艦の術式の特徴であると言う。

朝田の様子には嘘を言っていたり、此方を騙す様な様子は見られない。その眼差しは何処までも真剣で「事実しか語っていない」とありありと伝えてくる。

 

「ですが、実のところ本当にこの世界で古の魔法帝国と呼ばれる国家と完全に関係が無いとは言い切れないかもしれません」

「それは一体どう言う事でしょう?」

 

どう言う事だ?今しがた自分で否定したばかりだろうに。

 

「ロウリア王国からの情報では古の魔法帝国は神罰を逃れる為転移を行ったと有ります」

「ええその通りです、彼らは巨大な儀式魔法を行使して未来へと転移したと言います」

「“未来への転移”と言う情報がある以上、可能性としては低いですが古の魔法帝国が()()()()()()()()()()()()()()()も存在するのです」

 

古の魔法帝国が異世界から来たと言う日本皇国の神話と関係するかもしれない?いかん混乱しそうになってくる。

 

「我が国の魔法開発の噂話と言いますか、都市伝説じみた話なのですが。『神話とはかつて実際にあった出来事であり、そこに登場する神々こそ太古の昔【魔法】を操った我等の祖先である』そう言った話があるのです」


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