魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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プライド

「あんなものは所詮張りぼて!辺境の蛮族が精一杯自分を大きく見せようと虚勢を張ったに過ぎん!!」

「所詮は蛮族の浅知恵!底が見えているわッ!」

 

「ではミリシアルが態々やって来た理由はなんだと言うのだ!!あの会談の内容は!!」

「そもそも!あんな巨大なモノを()()()浮かび上がらせる事が蛮族に出来ると言うのなら!何故我がパーパルディアがそれを有していない!!」

 

「貴様らッ!蛮族の肩を持つのかぁ!?」

「そう言う貴様は彼らの船を!ミリシアルの対応を見て日本皇国を蛮族と侮れるとは!随分とオメデタイ頭をしているな!!」

 

パーパルディア皇国皇宮内にある大会議室はそれはもう荒れに荒れていた。

今ここにはパーパルディア皇国の第1から第3までの各外務局局長以下職員と情報局関係者、皇国軍最高司令官アルデ以下軍関係者に皇帝ルディアスの相談役ルパーサまでもが集まって会議を行なっている。

議題はつい先日接触した「日本皇国」について。

 

日本皇国はつい先日接触したばかりの()()()で、東の果て文明圏外からやって来た列強は当然、文明国にすら劣る蛮族の国家である.........

 

今までのパーパルディアの常識であればそれで間違い無い筈であった。

これまで通り国交を行う条件として、治外法権を認めさせ奴隷や適当な土地を献上させ、すでに価値のない技術をくれてやれば馬鹿のように喜ぶだろうと、話を聞いた外交に関わる人間全員がそう思っていた。

 

しかし

 

日本皇国使節の到着によってその「当たり前」はあっけなく崩れ去った。

要因は二つある、先ず一つが彼等の外交官が乗ってきた船だ。

パーパルディア皇国は今、技術の粋を集めて建造した【ヴェロニア】を建造中だ。

この船は性能向上によって離陸距離が伸びたワイバーンオーバーロードを運用する為の竜母で、全長130mにも及ぶ全長を持ち木造船建造技術の限界を迎えた第三文明圏最大の艦艇だ。

だが、日本皇国の艦艇は最も小さな艦ですらその【ヴェロニア】を上回る巨体で、最大のものに至ってはその小さい船の倍ほどのサイズをしていた。

【ヴェロニア】自体まだ進水すらしていないので、実際に並べて比べた訳では無いけれども、最も巨大な艦と並べれば「小船に見えるのではないか」と言うのが、あの日エストシラントで日本艦隊を見た海軍軍人達の正直な気持ちだ。

 

そしてもう一つ、日本皇国が訪ねて来たのと時を同じくして世界最強の国家神聖ミリシアル帝国、それも外交官では無く外務大臣が態々()()()()()()()()()()()()()

ミリシアルは外交において基本的には自ら出向くと言う事をしない、大抵の場合ミリシアルとの国交を求める国がやって来るのだ。

例外としては新たに列強と認められた国にその通達を行う時や、列強国を始め高い国力を持つ11の国が集まって行われる、「先進11カ国会議」への参加打診などである。

ただ、それだって態々外交のトップである外務大臣がやって来るなんて事は無い、精々ちょっと偉い外交官程度だ。

 

だと言うのにミリシアルは今回、日本と会う為だけに外務大臣を派遣した、しかも滅多に国外に出さない主力艦隊に乗せて。

神聖ミリシアル帝国の誇る主力艦隊の軍艦は列強2位であるムーのものすら引き離し、正に世界最強の海軍と言えるものだ。

今回パーパルディアへと現れた艦隊には最大最強のミスリル級は含まれていなかったが、それでも今のパーパルディアが逆立ちしたって勝てる相手では無い。

 

だがそんなミリシアル艦隊すら日本艦隊の前には霞んでしまった。

何故なら、船として当たり前の海上航行でやって来たミリシアルと違い、日本の艦隊は()()()()()()()()()()()からだ。

 

「空を飛ぶ船」と言うのはパーパルディアにとっても珍しくは有るが、既知の存在である。

しかし、それはあくまでも空を「飛ぶ」物であって、海上と同じ様に「航行する」物では無い。

離着水にはある程度の距離が必要だし、空中でピタッと止まる事などとてもできやしない、それが空を飛ぶ船「飛空船」に対する常識だった。

そしてそんな常識を軽々と撃ち破ったのが日本艦であった。

エストシラントを母港とする第1〜第3までの海軍将兵、そしてエストシラントに住む皇国人や他国の人間の見守る中、徐々に速度を落とし空中で完全に停止してから、あろう事か垂直に海面へと降り立った。

皇国が誇る100門級魔導戦列艦フィシャヌス級や、ミリシアル艦すら超える大きさの巨艦がだ、目撃者達に与えた衝撃はとんでもないものだった。

近付いた戦列艦がそれこそ小舟に見えるその姿に、多くの者は自然と恐怖を覚えた。

 

日本艦は1隻を除き砲と思わしき物を少数しか持っていなかった為、舷側に多数の魔導砲を並べた戦列艦を見慣れた市民の中には「攻撃力は大した事は無い」と考えた者も多数居たし、技術者の中にも「命中率の悪い魔導砲を少数しか配備していないので脅威にはならない」そう考えた者も居たが、冷静に考えられる者は違う考えをもった、即ち

 

「命中精度が高いから少数でもいいんじゃ無いか」

 

そう考えたのだ。

事実、列強1位のミリシアルも2位のムーも、戦列艦と比べれば軍艦の砲門数は圧倒的に少ない。

その事で2国を馬鹿にしたりしないのは彼等が列強国で、技術力が高いと誰もが知っているからだ。

そして、彼等と同じ様に少数の砲しか持たない日本艦も、高い技術力に裏打ちされた無駄を省いた結果なのではないか?と。

加えて言えばエルト達各外務局の局長クラスはミリシアルと日本の会談の後、招かれた日本艦の中で砲門数の少なさなど全く問題にならないモノを見ている。

 

だからこそ、日本皇国に対して「文明圏外の蛮族による新興国」等と見下し、これまで文明圏外国や通常の文明国相手に行って来た外交方針を踏襲するのは危険だと判断した。

神聖ミリシアル帝国が態々会いにやって来て、気を使う様な相手を何かの拍子で怒らせる様な事が有ればどうなるかわかった物では無い。

 

とは言え、誰も彼もが同じ様に考えられる訳ではなく、旧来の常識や認識を引き摺り日本皇国を見下す者も居る。

そんな者達はエルト達の方針を「弱腰外交だ」と罵り、日本皇国と他の列強国と同様の内容での国交開設をと考えていた外務局の計画に横槍を入れ、頓挫させてしまった。

その結果日本がパーパルディアから帰った時点では国交に関する取り決めは疎か、関連する話し合いに関する調節すら出来ていなかった。

 

そして今、多数の省庁の人間が集まって日本皇国の国力分析や戦力評価、そしてどの様に関係を構築するかの話し合いが行われているが、意見は「日本皇国の力を認める者」と「あくまでも日本皇国を文明圏外とする者」とで真っ二つに割れ、会議は遅々として進んでいない。

 

そんな中、会議での決定を待たず、独自に動きを見せる物が居た。

 

 

 

パーパルディア皇国第3外務局局長執務室

 

「対日本方針会議は又喧嘩別れで終了、全くもって話にならんな」

 

今日も又会議はあまりにもヒートアップしてしまった為、何の決定も下す事なく終了した。

皇宮から引き上げて来た第3外務局長のカイオスは執務室に入るなり溜息をついた。

 

日本皇国の力を内心思う所はあっても認めている者達と、如何あっても文明圏外にそのような国がある事を認められない者達。

前者の多くは例のミリシアルと日本の会談に居合わせた者や、エストシラントに総司令部を持つ海軍の人間だった。

翻って後者は陸軍や皇族に貴族などの、彼等を直接見ていない者達だった。後何気に海軍も割れていて海軍軍人の中でもワイバーン乗りの竜騎士達は「奴らの船に乗っていたワイバーン擬きは身じろぎひとつしなかった、アレは蛮族が見栄を張って作ったハリボテだ」「奴らの船などデカイだけで、良い的だ」と笑う者が多かった。

幸いなのは上層部は冷静で「ミリシアルやムーの軍艦に似通った日本艦は脅威たり得る可能性がある」と考えている事だろうか?

 

「国家戦略局がロデニウスでの戦争に関わっていたとはな。しかもそこで派遣した竜騎士隊は恐らく日本に全滅させられた......」

 

先日第1外務局と情報局が掴んだ情報だ。

事の発端はパーパルディア皇国を訪れた日本皇国の本来の目的の一つ、「ロウリア王国内にて籠城するパーパルディア皇国兵3万の処遇について」。

日本側としては彼等に対するパーパルディア側の消極的な姿勢に対し、どうするつもりなのか?と尋ねただけのつもりだったのだが、尋ねられた外務局としては寝耳に水だった。

 

「ロウリア王国に皇国兵がいる?それも3万、しかも籠城している?」

 

誰もが首を傾げ、日本から提供された資料に目を通して漸く理解した。

そこからは流石と言うべきか早かった、すぐ様情報局へ連絡が行き国家戦略局への立ち入り調査を始め、ありとあらゆる書類がほじくり返され、結果として国家戦略局の独断が判明した。

まあ、国内の書類を漁らなくとも日本が持って来たロウリアに残っていたと言う資料だけでも、十分すぎる証拠だったのだが。

この事は直ちに皇帝ルディアスへと報告され、国家戦略局で主導した人間イノスとパルソは即座に召喚され、御前会議での詰問が行われた。

皇帝直々の呼び出しに、覚悟して会議に望んだイノス達は予想通り皇帝の叱責を受けた。

イノス達は国家予算の補填に関して自身の資産の殆どを献上し、その他の損失(主に派遣されていた200騎の竜騎士)に関しても、ロウリアからの借金返済と合わせ後始末の用意は出来ていると報告し、どうか自分達の首だけで済ませて欲しいと、それはもう見事な土下座をしてみせた(実に無様であった)

 

そんなイノス達に対しエルトの取り成しもあり、皇帝ルディアスは寛大な様を見せ、部内全員に1年間の俸給の3割減、国家予算持ち出しに関わった財務局員の降格で事を収めた。

というのも、ロウリアに派遣されていた竜騎士隊に配備されていたワイバーンは「原種」と呼ばれるもので、パーパルディア皇国軍では既に旧式化が始まっていた事、派遣された竜騎士達も練度も高くなくて、素行に問題があるもの達だった事。

派遣された陸軍部隊も何故か籠城しているらしいが、ほぼ無傷で残っている事。

結果としてパーパルディア皇国が失ったものと言えば、練度が低く戦力価値の低い竜騎士達(最も諸外国、文明国や文明圏外国からすれば十二分に脅威)と国家予算の2%だけであり、国家予算に関してはイノス達の資産や減給分、そしてロウリアからの借金返済で補填可能であった事が理由だ。

 

ただ、騒動自体は大体丸く収まったのだが問題はいくつか残った。

一つは今尚ロウリア王国で籠城を続けると言う陸軍3万の処遇だ、この事に関してはあまり長い期間放置する事によって、仮に暴発する様な事があれば現在ロウリアの宗主国の様な立場にある日本皇国が、どう言う動きを見せるかわかった物じゃないと言う外務局3局長の働きかけもあり、早期に人を派遣して帰還に着いて話し合う事となり、最終的には皇帝の命により帰還が決まった。

 

そして、もう一つが練度が低い原種のワイバーンとは言え、列強国であるパーパルディア皇国の竜騎士が、文明圏外で()()()()()()()と言う事実とである。

この事に付いて議論は紛糾したがカイオスはコレに日本が関わっていると確信していた。

 

「とすると、フェンへの監察軍による懲罰は計画を練り直す必要があるな。攻撃対象に関して徹底するべきか」

 

カイオスの手には今朝上がってきたばかりの報告書があった。

そこには「フェン王国主催の軍祭に、日本皇国が軍艦を派遣する」とそう記されていた。

そうなった経緯は不明だが、問題なのは日本がフェンに軍艦を派遣すると言う事実だ。

 

フェン王国とはパーパルディアの東側210kmにある島国だ。

パーパルディア皇国で文明圏外国を担当するカイオス率いる第3外務局は、そのフェン王国に対し国土拡張政策の一環として、王国南部縦20km横20kmの森林地帯の献上を求めた。

第3外務局としては土地献上の実績が出来ればそれでよかったし、フェンにしても開拓もしていない様な土地を献上する事で、懐が痛ませずパーパルディアへの忠誠を示す事が出来、準文明国扱いで技術を手に入れられ、パーパルディアの同盟国として周辺からの侵略の危険が減ると言う、国土は発展して国は富むと言う実に素晴らしい提案だった、筈なのに。

 

フェンは愚かにもその申し出を断ったのだ。

さらには代案として示した同地の489年の租借に関しても、フェンは断ってきた。

フェン王国の剣王シハンはとても丁重に断ったのだが「はいそうですか」と、引き下がれる筈もなかった。

 

だからこそ「列強の顔を潰された」として、第3外務局は指揮下にある監察軍、その東洋艦隊を派遣してフェンへと懲罰を与える事を計画していた。

その実行日は奇しくも軍祭の日であった。

フェンへの懲罰だけでなく、集まって来る他の文明圏外国への牽制、皇国の力を見せつける事を目的にこの日が選ばれたのだったが、

 

「日本皇国が参加するとなれば話は別だ。まかり間違って日本艦を攻撃する様な事があれば......」

 

日本皇国の反感買うのは間違い無いし、最悪の場合神聖ミリシアル帝国が介入してくる可能性がある。

それも中立的立場では無く、大いに日本寄りの立場としてだ。

あの日のミリシアルの日本への態度はカイオスにそう判断させるほどに丁重なものだった。

だがフェンへの懲罰そのものを中止とする事は出来ない、何せ皇国の列強国としての威信がかかっているのだ。

 

「かと言って東洋艦隊は既に出港している、今更日付を変えるのは難しい、となるとやはり攻撃目標をフェン王国へと集中させるしか無いか」

 

そう考え、東洋艦隊に対し新たに発する命令書の制作に入ろうとしたカイオスに凶報が届けられた

 

「失礼します!!カイオス様!!緊急事態です!!」

「何事だ?」

 

ノックもせずに執務室へ飛び込んできた局員に眉をひそめつつ尋ねる。

 

「先程、監察軍司令部に押し掛けたレミール様が強引に東洋艦隊に対し、『フェンの軍祭へ参加している日本艦艇へ攻撃せよ、コレは皇国の威信をかけた命令である』と命令を発したと報告が!」

「なんだと!?」

 


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