「日本国召喚-外伝-新世界異譚」に関するネタバレを含みます。
「太陽神の使い」
その呼称と日本皇国が初めて接触したのはロウリア戦役時、疎開の為東へ向かっていたエルフの一団を、ロウリア王国騎兵隊の攻撃から守った時であった。
以降、クワ・トイネ公国各地で日本皇国の国旗を見た人々--主にエルフ--が旗を「太陽神の使いの旗」と呼び、皇国軍を「太陽神の使い」と呼ぶ様になった。
最初こそ、太陽を模した旗を掲げる日本を「太陽神の使い」だと持て囃しているのかと考えられていたのだが、クワ・トイネ政府から古い「神話」の話を聞いた事によってその考えは改められた。
曰く、神話の時代
北の大地から現れた「魔王」によって人類は追い詰められていた。
人類は全ての種族が手を取り合い、存続の為戦っていたが徐々に徐々に追い詰められて行った。
人類最後の地とすら呼ばれたロデニウス大陸
そこに住まうエルフ達は遂に最後の手段に打って出た。
聖域たる神森にて自分達の信仰する“神”に救いを請うたのである。
エルフの神--豊穣の女神は自らの“名”を捧げ、子らの願いに応えた。
そして、いよいよ滅びの時かと思われたその時、彼等は現れた
天に輝く太陽の旗を掲げて
彼等「太陽神の使い」の圧倒的な力によって、魔王の軍勢は次々と破られ、遂に反撃に出た人類は少しずつ少しずつ魔王軍を押し返し、北の大地にて人類を守る壁を築いた「太陽神の使い」は役目を終え帰っていった。
そして魔王は勇者の手によって封じられたという。
この話は別を聞いた日本人は殆どが、「神話の話だ」としか捉えなかった。
偶々似た様なもの特徴を持つ神話の存在と、ロウリアの魔の手から救ってくれた日本とを重ね合わせて居るだけだと。
だから、「太陽神の使いが残していった鉄巨兵が残されている」と言う情報には心底驚かされた。
興味を持った考古学者が日本政府を通してクワ・トイネ政府に、調査させてほしいと願い出た。
本人としては場所がエルフの聖地だとされている事もあり、ダメ元ででの要請だったのだが、意外な事にあっさりと許可が出た。
それは、日本がロウリアから救ってくれたという感謝と、いつか「返さねばならない」と言い伝えられていたからだった。
好奇心を隠しきれず、喜び勇んでクワ・トイネへと乗り込んだ考古学者であったが、現地にて彼を出迎えた者に仰天する事になる。
▽
クワ・トイネ公国、エルフの聖地リーンノウの森
日本皇国
クワ・トイネに来て、航空船から降りるまではワクワクが止まらなかった中村は現在、背後から聞こえてくる会話に戦々恐々としていた。
「うーん、森の様子は大分違いますが、なんと言いますか雰囲気は変わらん気がしますなぁ
「そうだな
会話をしているのはどこか和服の様なデザインの軍服をキッチリ着こなした壮年に
どう言う訳かマイハーク港にて中村達を待ち構えていた彼等は、驚く中村達を飛行艇に押し込むとさっさと飛び立った。
事情の説明を求める中村に帰ってきた言葉は「勅である」の一言。
それで言外に「聞くな」と言われた事を察した中村は以降質問はしなかったが、同時に何故ここで帝が出て来るのか全く解らず、更には森に入ってからの2人の会話、何故か中将は少将を少尉と呼び、少将は少将で中将を中佐殿と呼ぶ。
しかもなんか、この森を知ってるみたいな会話をしている。
「到着しましたよ」
案内をしてくれているハイエルフが立ち止まり、女性の方--ミーナが中村達を振り返る。
彼女が指差す方には草で出来たドーム状の建物がある。
「おお...」
「......これは」
中将と少将が感嘆とは違う声を漏らす、
「この中にはエルフ族の宝が収められています。ご存知と思いますが神話の時代、迫り来る魔王軍より我らの祖先を救った太陽神の使いが、残していった鉄巨兵です。当時のエルフは戦いが終わった時に返還すると約束し、今では失われた時空遅延式魔法を用いて鉄巨兵を保管しました」
「いや、ドキドキしますな。神話が実際にあった話で、しかもその証明が今もなおココにあるとは」
中将達の会話で精神を削られつつあった中村は努めて明るい声を出した。
そんな姿にクスリと笑ったミーナは草に手を当て、何やら呪文の様なものを呟いた。
すると草がひとりでに動き出し、人が通れる穴が開いた。
「どうぞ」
促され一同は建物の中へと足を進める
草の建物は隙間もなく、中には光が届かない筈なのに光のカーテンがあり明るい。
光のカーテンを潜りその向こうへ、
「これが、我らエルフの至宝。太陽神の使いの鉄巨兵です」
両手を広げ紹介するミーナの背後、巨大な巨人が鎮座していた
「な、これは!?」
「乙型!?いやしかし!見たこと無い型だぞ!?」
とても驚いた様子の日本人達をミーナは不思議に思い尋ねる
「どうされました?確かにこの鉄巨兵は太陽神の使いの残したもので、この世界の物では無いエルフの宝ですが。何かそれ程に驚くものなのでしょうか?」
中村達にはミーナの声は届かず、彼等は固まってしまっている。
そんな中、違う動きを見せる者が2人。
「どうかね?少尉」
「はっ、間違い有りません」
中将と少将だ。
彼等は固まっている中村達を追い越し鉄巨兵に近づく。
「試製乙型機巧ゴーレム第四号機《村正》で間違い有りません。当時と、小官が最後に見た姿と全く変わりません」
「そうか......やはりそうだったか」
2人の様子に中村達だけでなくミーナ達も首を傾げ、間に入っていけない空気を感じ、何も言えないでいる。
「75年...いや神話の時代って位だ、お前にとっては数千か、もしくは数万年ぶりか?」
少将はそう呟きながら更に鉄巨兵、否、日本皇国製完全人型の機巧ゴーレムの試製機《村正》に近づき、そっと手を触れた。
エルフの至宝であるソレに勝手に触れるのは、例え日本人であっても許せる事では無い、その筈なのに......ミーナ達は彼の雰囲気に、何も言えない、
「随分待たせてしまったなぁ。だが、約束通り迎えに来たぞ」
後にエルフと日本皇国皇室との交渉によって、《村正》は正式に日本へと返還される事となった。