日本皇国がロデニウス大陸での戦争に介入し、ロウリア王国が降伏したのとほぼ同時期。
第一文明圏を挟んで反対側、第二文明圏でも戦争が起こっていた。
主役となった国は五大列強国の1つであるレイフォル国。
そしてもう1つが日本と同じくこの世界に突然姿を見せた新興国、
当事者達以外に知りようも無いが、第八帝国は日本と同じく異世界からやって来た帝国だった。
転移当初こそ事態に混乱していた第八帝国であったが、周辺に存在するのが自分達基準で言えば、国家とも言えない様な国々であった事から嬉々として侵略を開始、瞬く間に周辺国を飲み込んだ。
ある程度侵略が進んだ所で“文明圏”の存在に行き当たり、融和姿勢を取るべきと主張する皇族や、軍部の慎重派による提言もあり一時外交による世界進出へと舵を取った。
しかし事件は起こった、
「余の血族たる皇族を一方的に捕縛し処刑するなど、断じて許される事では無い。これは我がグラ・バルカス帝国に対する挑発である。殲滅せよ、パガンダなる国家を情け容赦無く殲滅せよ」
これは事件の報せを聞いた皇帝グラ・ルークスが、政府関係者・軍関係者を帝王府へ呼び出し発した言葉である。
事の発端は第二文明圏の文明国--パガンダ王国によって外交官であった第八帝国の皇族が処刑された事にあった。
皇族の中でも穏健派であったハイラス王*1は特別顧問として、第二文明圏の文明国と接触する外交使節に同行していた。
列強国であるレイフォルの筆頭保護国であるパガンダ王国との接触は、第八帝国にしては「惑星ユグドの人間が聞いたら耳を疑うレベル」な程温和な挨拶から始まった。
第八帝国としてはこれまで制圧した国の傾向から、いきなり飛び抜けて強いとは言わないまでも文明国とされる国。更には背後に“列強”などと呼ばれる国が有る事から、多分に警戒しての行動であった。
加えて、この新世界において第八帝国の名と力はそれ程広まっていない事も理解しており、従来の様な高圧的な外交では反発を生みかねないと、ある程度下手に出た外交を行ったのだが......
それをパガンダは勘違いした、
「所詮西の蛮地でチョット力を付けただけの新興国、蛮族に過ぎない」
と。
故にパガンダの王族であり、外交長の立場にあったドグラスは高圧的で傲慢な態度で接し、第八帝国を散々に侮辱した挙句、頭がおかしいとしか言い様の無い国交の条件を示した上に、外交局や自身に対するバカの様な賄賂を要求した。
これに対しハイラスが
「先程からの我が国に対する礼節に欠ける態度に言動、これ以上は座して聴くには目に余る。貴国は外交相手に最低限の礼を示す程度の品格も無いのか」
と、苦言を呈した。
ハイラスとしては国と国とのやり取りである以上、自国に誇りを持つ事は結構だが、ある程度相手を尊重する必要があるとの考えの下での発言だったのだが。
残念な事に相手が悪かった。
ドグラスは列強レイフォルの保護国であるパガンダ王国の王族として生まれた事を誇り思う程度なら兎も角、無駄にプライドだけが高く「俗物」とはまさにこの事だと示す見本の様な男だった。
文明圏外国人を「利口な猿」程度にしか思っておらず、彼らの国を「猿の群れ」だと本気で思っており、常日頃からレイフォルの権威と軍事力を傘に傲慢な態度をとっていた彼は、
猿が自分に刃向かうなどと、カケラも思っていなかった。
故にハイラスの言動に激怒した。
側から見ていればどう考えたって、相手の事をよく知りもしないのに見下したドグラスの方が悪い--100歩譲って“文明圏”と言う単語に必要以上に警戒した第八帝国側の失策とも言えなくも無い*2--が、残念ながらそんな理屈ドグラスには通用しない。
激昂したドグラスはそのままハイラスを拘束すると、あろう事か不敬罪で公開処刑してしまった、ご丁寧に第八帝国の外交官達に見せ付けながら。
ハイラス処刑の後、強制的に国外退去させられた外交官達は怒りと、ハイラスを守る事も亡骸を回収する事も出来なかった無力感を胸に帰国、御前会議にて起こった事を余す事なく皇帝へと報告した。
皇帝グラ・ルークスは激怒した、そして怒鳴り散らした。
文明圏外国の制圧の際も相手国に熟考の時間を与え、併合や植民地化した後も現地人に合わせた統治を行う提案をし、正に帝王として相応しい大器と慈悲深さを持つ彼は滅多な事では怒りはしない。
例え怒ったとしても、それは静かなモノであり決して声を荒げる様なモノでは無かった。
故にその怒り様に周囲の者は驚いた。
だが考えてみれば当然だろう、其々の主義主張の違いはあれどそれでも血の繋がった存在だ。
それが一方的に理不尽な理由で殺され、その死を辱められたとなれば怒らない方がどうかしている。
皇帝は外交官達にも苛立ちを覚えたが、それ以上にその怒りはパガンダ王国、そしてその宗主国であるレイフォルに向けられた。
皇帝の命を受けすぐさま帝国軍が動き出す、パガンダ王国の存在するパガンダ島は帝国海軍によって蟻一匹逃がさない海上封鎖が行われ、封鎖線を突破しようとした船は軍民問わず、パガンダ籍かそうで無いかに関わらず全て沈められた。
パガンダ海軍をあっという間に排除すると、ハイラス達がドグラスと会談を行ったパガンダ最大の港湾都市である王都に、陸軍兵が上陸した。
パガンダ人は軍人か民間人か、貴族か平民か、一切確認される事もなく目に付いた者から撃ち殺された。
これには第二文明圏の他国人、それこそレイフォルの商人なんかも巻き込まれたが、その事が考慮される事は一切無かった。
また、王都以外の港町は戦艦の砲撃に晒され、内陸都市は空母から飛び立ったシリウス型爆撃機による爆撃や、アンタレス型艦上戦闘機の機銃掃射によって蹂躙された。
王都にのみ陸軍が上陸した理由としては奪われたままのハイラスの亡骸を奪還する事が目的であり、その他の都市に関しては「価値のないもの」とされ、皇帝の殲滅命令に基づき徹底的に破壊された。
結果、僅か7日の内にパガンダ王国は歴史上の存在となった。
王都を制圧し、無雑作に埋められていたハイラスの亡骸をなんとか回収できた第八帝国はドグラスを始め、パガンダの王族を考えつく限り最も残虐な方法で処刑すると、パガンダの通信用魔道具による魔信を利用し、第二文明圏の全ての国に対し宣戦を布告した。
○
第二文明圏の列強の内の1つ、レイフォルの艦隊--竜母と100門級魔道戦列艦を含む主力艦隊43隻が、風神の涙と呼ばれる魔道具から生じる風を帆いっぱいに受け南へと急いでいた、「突如自国の筆頭保護国であるパガンダ王国を強襲し、あまつさえ第二文明圏全てに宣戦布告した第八帝国なる蛮族」殲滅の為である。
まず最初にパガンダ王国沖合にいる艦隊の殲滅を行い、その後本国へと乗り込む。
将兵達には皇帝の名で、蛮族を殺すも犯すも自由であると告げられていた。
「将軍!西方を偵察中の竜騎士より入信!敵艦を発見との事!!」
竜母から飛び立った偵察騎からの報告だ、
「詳細は!」
「はッ敵は1隻、されど......300mを超える巨体で帆を張らずに航行中!!またとんでもなく巨大な“砲”を搭載しているとの事です!!尚、偵察にあっていた竜騎士は魔信の後応答を途絶しています」
報告に将軍バルが顔を顰める。
レイフォルの誇る艦隊相手に1隻などただのカモだが、船の大きさと巨大な砲とやらが気にかかる。
報告を行った竜騎士が以降応答しない事もだ。
船のサイズや巨大な砲など、見間違いか錯覚では無いかと思うのだが、肝心の竜騎士が魔信に応答しない為、問いただす事も出来ない。
敵は蛮族であるハズだが......しかし、あっという間にパガンダは制圧されている、少なくともパガンダよりは強いという事だが......
そこまで考えてバルは頭を振る。
例え第八帝国とやらがパガンダよりは強かろうが、それでも列強たるレイフォルの敵では無い。
「竜母に下命、艦隊直掩3騎を残し他全てを攻撃に向かわせよ!艦隊も敵艦に進路を取れ!!」
「はっ!!」
艦隊は波をかき分け一斉に進路を変える、その様は一糸乱れぬ動きで、他に見ている者がいれば「流石は列強の海軍だ」と感心しただろう。
竜母からは次々と攻撃隊のワイバーンロードが飛び立つ。
彼等は綺麗な編隊を組むと、西へと向かった。
▽
「艦長、対空レーダーに反応あり。こちらに向かっているレイフォルの艦隊より航空目標が現れました。数40、約350km/hにてこちらは向かっています」
グラ・バルカス帝国国家監査軍所属・超弩級戦艦【グレードアトラスター】の航海艦橋で、レーダー士官から上がってきた報告を副長が艦長へと報告する。
彼等は今、【グレードアトラスター】単艦にてレイフォル艦隊と相対せんと東進していた。
超弩級戦艦【グレードアトラスター】
第八帝国の造船技術の粋を集めて建造された戦艦だ。
全長263.4m全幅38.9mもの巨体で、主砲には46cm三連装砲3基9門を持ち、ハリネズミの様に配置された三連装高角砲が空を睨む。
主砲はレーダーと連動した砲撃を可能としており、最大射程にして40kmにも及ぶ。
高角砲も近年開発された近接信管を使用した砲弾を使用し、数年前までの時限式信管とは比べものにならない命中率を叩き出す。
防御面においても、当然“戦艦”の定義たる「決戦距離で自艦の砲撃に耐える」をクリアしており、最重要区画は46cm砲の砲撃に耐え得る防御力を持つ。
中央に聳えるまるで城郭の如き艦橋もあって、正に浮かぶ要塞と言っても過言では無い。
前世界では、否!この世界に於いても間違いなく最強の戦艦だ。
「例のワイバーンとか言う飛び蜥蜴か」
【グレードアトラスター】艦長のラクスタルは報告を聞き、先のパガンダ王国殲滅戦を思い出す。
確かあの時もパガンダ王国近衛竜騎士団とか言うのと制空戦が行われたが、せいぜいが230km/hくらいしか出ていなかったワイバーンでは先進的な低翼、スマートな機体形状、そして徹底的な軽量化によって550km/hもの高速と旋回性能を持ち、高威力の20mm機銃に合わせ、信頼性の高い7.7mm機銃で武装を施した我が国の最新鋭戦闘機アンタレスの前には、手も足も出なかった。
口から火を噴くのには驚かされたが、速度も遅く回避が容易だし、230km/hの低速しか出ないのでは高い練度を誇る帝国飛行兵の前では的でしか無い。
実際に戦闘では竜騎士団側は全騎撃墜されたのに対し、アンタレスは1機たりとも落とされていない。
まぁ飛行兵としても、あんなものに落とされるのは恥以外の何者でも無いだろう。
「350km/hと言うのは、仮にも“列強”などと名乗る国であると言う事かな?」
「野蛮な世界とは言え列強などと称しているのです、それで格下の国と同じ装備では示しが付かんのでしょう。まぁ、我々としてもパガンダと同じ装備を出されてきても、興ざめも良いところですが」
副長の言葉に苦笑するラクスタル、しかし頭の中では冷静に分析している。
敵には攻撃機も艦爆も無い様だし、おそらくワイバーンの炎もよっぽど当たり所が悪く無い限り大丈夫だろう。
駆逐艦とかであれば魚雷や爆雷の誘爆などが怖いが、戦艦の露出している可燃物など、せいぜいが木製甲板程度だ。
とは言え万一と言うのはあり得るし、こちらにも上空支援は無いのだ、近接信管で対空射撃命中率が上がったとは言え、100発100中では無いのだ、見張り員などに死傷者が出てしまう可能性も捨てきれない。
「方位0-9-3!対空目標を視認!!距離31km!!」
大型の双眼鏡を覗いていた見張り員が声を上げる。
ラクスタルは窓に近づき双眼鏡を覗き込む、東の空に小さな黒い点が辛うじて見えた。
相手が低速である為、その姿は中々大きくならない。
「対空戦闘用意!」
「対空戦闘用意!!」
「対空戦闘!!対空砲要員は配置につけ!!」
ラクスタルの号令一下、【グレードアトラスター】艦内は俄に騒がしくなる。
伝声管を伝って各所に命令が届けられ、対空戦闘を報せるブザーが鳴り響く。
「艦長、対空主砲弾の使用を具申します」
砲術長の意見具申だ。
今回試験的に近接信管を用いた新型の対空主砲弾を搭載している。
あまり近くなると使用出来ない為、使うのなら30km程である今の距離で使用するのが望ましい。
「よかろう、対空主砲弾を使用する。主砲砲戦用意!」
「はっ!主砲砲戦用意!主砲1番2番に対空主砲弾装填!斉射でいきます」
「うむ」
主砲の砲撃を報せるブザーが鳴り響き、見張り員を含め艦外に居た者が艦内へと退避する。
同時に主砲がゆっくりと動き、6本の牙が空を睨んだ。
「射撃用意よし!」
「艦長、射撃用意整いました」
砲術長の報告に頷くと、ラクスタルは声を張り上げる。
「主砲撃ち方始め!!」
「主砲撃ち方始め!テェェーー!!」
轟音
46cm砲6門が一斉に火を噴く
凶弾が敵を殲滅戦と飛び出した。
▽
レイフォル海軍竜母機動部隊所属のワイバーンロード40騎からなる竜騎士隊は、敵艦への攻撃の為隊列を組み飛行していた。
敵は信じられない程の巨大艦との事で、竜騎士の数を考えれば散発的に攻撃を行っても、攻撃が外れる確率は少ないと思われるが、対艦攻撃の定石通り密集隊形をとっている。
さて、基本的に竜騎士となれる者は目が良い、
「!?なんだ!?」
1人が異変に気付く。
向かう先の空にポツポツと黒い点が現れた
「何かくrー!?」
爆音と閃光
前衛編隊20騎に飛び込んで来たナニカが、猛烈な爆発を起こした。
空に信じられない大きさの火の花が咲いた。
「なッ何が起こったぁぁ!?」
「散開だ!散開しろぉぉぉ!!」
前衛編隊が突如として肉片すら残さず消え去った事態に、後衛編隊は混乱するが、このまま固まっていれば前衛の二の舞いになるかも知れないと気付いた者が声を張り上げ、密集隊形を解く。
「見えたぞ!!」
そうしているうちに、視界に船が映った。
帆を張っていない巨大艦、間違いない敵だ!!
「前衛の連中の仇だ!!全騎突撃ぃー!!」
「ウオォォォ!!!」
編隊長の号令一下、彼等は敵艦を撃沈せしめんと、勇猛果敢に突撃を敢行した。
しかし
「くッ、何という物量だ!?」
隣国で列強の一角であるムー国、かの国の対空砲火ですら敵わないのではないかと思える程の対空攻撃。
神話の語る古の魔法帝国の“対空魔船”では無いかとすら思える程の光の雨。
1騎、また1騎と光に絡め取られて堕ちていく。
この光はどうにも直撃だけで無く、掠めたり近くを通っただけでも爆発して殺しに来る様だ、
「クソッ!クソッ!クソォォ!!!」
僅か10分の後、空に飛んでいる者は居なくなった。
レイフォル艦隊旗艦【ホーリー】
「竜騎士隊通信途絶!攻撃隊は......全滅したものと思われます」
「何だとぉ!?貴様ッ!本気で言っているのかぁ!!」
通信士の報告に将軍バルは声を荒げる
「まっ間違い有りません!『我突撃を敢行す』の入信の後、攻撃成功の報告も無く、こちらからの呼び掛けにも全騎一切答えません!編隊長だけでは有りません!全騎!全騎なのです!!」
通信士の必死の叫びにバルも事態が事実であると受け止める、
「おのれ!おのれぇ!!全艦に通達!速力を上げよ!!文明圏外の蛮族に!!列強が!!栄えあるレイフォルが破れるなど有ってはならんのだ!!魔導砲の肥やしにしてくれる!!」
○
竜騎士達を叩き落とし、レイフォル艦隊へ向けこちらも増速した【グレードアトラスター】を海中から見つめる目があった。
日本皇国海軍第三潜水艦隊ー揚陸潜水艦【伊470】
「気付かれた様子は?」
「ありません、[消音結界]は問題無く作動していますし。対象艦は魔力感知計を装備していない様子なのに加えて、どうやらパッシブソナーの感度はそれ程良く無い様子で。アクティブに関しては、打って来なければ測りようがありませんが」
彼等は【グレードアトラスター】が主砲を発射する少し前にここに来て、それ以降静かに潜んでいた。
「まぁ気付いていないと言うのなら、問題は無かろう。潜望鏡収納、深度30へ、追いかけるぞ」
「アイサー」
潜望鏡を収納した【伊470】はゆっくりと【グレードアトラスター】の後を追いかけ始める、目的はあの戦艦の性能調査だ。
【グレードアトラスター】が対空戦闘を開始する少し前から覗き見していたが、実を言うと偶然の出来事であった。
彼等が遠路遥々第二文明圏までやって来たのは、ムー国の調査が主目的であった。
クイラ王国にあった「油井」が理由であった。
現地においては利用価値のない物であるはずの石油を、小規模とは言え採掘している事に驚いた日本がクイラへと尋ねた所、列強の1つムー国の名が出て来た。
詳しく聞けばそのムーと言う国は魔法を使わない機械文明で在るらしく、クイラからも小規模ながら石油の輸入をしているのだと言う。
機械文明と聞いて日本人が最も最初に思い付いたのは、共産主義だった。
勿論日本皇国をはじめ、英連邦王国や魔法同盟各国とて一切機械、即ち科学を使用していないかと言われればそんな事は無いのだが、それでも「文明」という括りで考えれば「科学文明イコール共産圏」という方程式が出来上がってしまっている。
共産主義の否定する[魔法]と君主のツーコンボを決めている日本皇国は、ソ連崩壊に至るまで半世紀以上バチバチに睨み合っており、転移直前には同じく共産主義を掲げる中国共産党と、戦争秒読みとすら言われていた程には相容れない存在だ。
勿論、地球においてはそれこそ長い付き合いがあり、笑顔で握手しつつ後ろ手にナイフを隠す位の事はやっていたが、この未だ力が全てみたいな所のある新世界において、よりにもよって“列強”などと呼ばれる国家が共産主義を掲げていた場合、それが出来るか怪しいと、少なくとも日本政府は考えた。
後々になって考えてみれば、クイラからの情報に共産主義を匂わせるものは無かったし、日本と同じく君主のいる神聖ミリシアル帝国との関係も悪くない、と言うのだから全くの早とちりであったのだが、まぁ転移直後の混乱期の事だったので、致し方無いと言えば致し方ない。
そんなこんなで数隻の潜水艦が、秘密裏に第二文明圏へと派遣された。
彼等は「新世界の国家に潜水艦の存在に気取られない様、一層の隠密行動に努めるように」とのオーダーと、海域データの全く存在しない海を手探りで進むという無茶を成し遂げ、第二文明圏の東海岸にてムーに関する情報収集を行っていた。
そんなおり、第二文明圏の全ての国家に向けた宣戦布告を、ついでとばかりにムーと同じ列強とされるレイフォルの調査を行なっていた【伊470】が傍受した。
そして、第二文明圏の海軍の戦闘能力を直接測れるチャンスでは?と考え、魔信の発信源に向かっていた所、単艦で東進する【グレードアトラスター】に出くわしたという訳だ。
「ソナー、僅かですが西進してくる音を捉えました。数10以上、おそらくレイフォルの艦隊と思われます」
【グレードアトラスター】をストーカーする事暫く、ソナーから報告が上がる。
「対象艦転身。右っ腹を艦隊に向ける様です」
「砲撃する気、でしょうな」
「だろうなぁ、レイフォルの艦艇は確か木造帆船だったよな?」
艦長の質問に資料を確認した副長が答える。
「はい、潜望鏡にて停泊しているモノを確認したのと、密かに上陸した特殊部隊からの報告では木造の戦列艦です。上陸隊からの報告では何やら薄い鉄板か何かを張り巡らせではいる様ですが」
「第二次欧州大戦型戦艦と戦列艦の戦闘ですか、いやはやなんとも」
水雷長が苦笑しながら言う。
「そうとは限らんぞ?あの戦艦は確かに46センチかそこらの砲を装備しているが、レイフォル側の包の威力が判らん。この世界にも[魔法]はあるんだ、存外に見た目からは想像もつかん攻撃をするかも知れん」
そう言った艦長は潜望鏡深度に付く様に指示を出す。
ゆっくりと浮上した【伊470】は潜望鏡深度にて停止する。
「潜望鏡を上げろ、映像はモニターに、見学会といこうか」
○
木造帆船ばかりで、列強と粋がる国ですら戦列艦程度の遅れた世界で、まさか自分達以外に潜水艦を保有している国が有るとも、しかも先程からずっと見られているとも、思いもしない【グレードアトラスター】は射程に捉えたレイフォル艦隊を攻撃しようとしていた。
レイフォル艦隊に対し右舷側を向けた【グレードアトラスター】の3基の主砲と、右舷側の副砲1基が旋回し砲口を突き付ける。
相対距離約5km、レーダーに連動した照準を行う【グレードアトラスター】にとってはこの距離は最早必中距離と言っていい。
「敵艦こちらに舷側を向けています!!」
「大型の魔導砲と思わしきモノがこちらに!まさかッこの距離で届くのか!?」
だが、レイフォルにとっては漸く敵艦の姿をハッキリ捉えた程度の距離、敵艦があまりにもデカく実際の距離よりも大きくは見えるが、それでもこんな距離で撃っても当たる筈がない。
「ありえんっこんな距離で当たる筈があるか!我等強大なるレイフォル艦隊の姿に気圧された蛮族が、焦って早っているだけだ!!砲艦を前面に押し出せ!!我が国の炸裂式魔法付与砲弾の味を、タップリと味あわせてやるのだぁ!!」
砲艦が前へと出る、43隻による一斉攻撃、いくら巨大とは言え単艦で凌げるものではない。
むしろデカイ分良いマトである。
だが
「てっ敵艦発砲!!」
巨大な爆炎と黒煙で一瞬敵の姿が隠れる、
「子供騙しだ!臆する事なくススメェ!!」
➖ドカアァァン!!!➖
凄まじい音と共に、先頭の5隻の前後に水柱が立つ。
その内の3つは信じられない程高くまで上がった、水柱に一番近い艦がそれでバランスを崩す程だ。
「なっなんだ!?この威力は!?」
「射撃でこの精度だと!?」
レイフォル艦隊の驚きなど知った事かと、副砲が再び火を噴いた。
「もう次を撃って来ただと!?」
再び水柱が立つ、そして今度は水柱だけでは無かった
「戦列艦【ガオフォース】被弾!!!」
80門級戦列艦の【ガオフォース】が、運悪く1発被弾してしまった。
たかが1発と楽観はできなかった、【ガオフォース】に当たった15cm砲弾は、その防御--対魔弾鉄鋼式装甲を易々と食い破り、最悪な事に弾薬室で暴威を振るった。
「あぁ!!【ガオフォース】がぁ!!」
轟沈だ、
「オノレェ!!全艦全速にて突撃せよ!!ヤツを仕留めるのだ!!」
風神の涙を限界まで酷使して、更に速力を上げる、
だがそうこうしている内に、今度は主砲が再び火を噴く。
今度は3隻が狙われた、
「戦列艦【トラント】轟沈!それに、あぁ!【レイフォル】が!戦列艦レイフォルが!!」
狙われた3隻の内幸運な事に生き残ったのは1隻、残りの2隻は水柱が消えた後、もう何処にも居なかった。
「ば、馬鹿な、【レイフォル】までもが」
100門級戦列艦【レイフォル】。
国の名を戴くこの艦は最新式の対魔弾鉄鋼式装甲を装備し、世界最強だと国内では謳われていた......
それなのに、蛮族の巨大艦のたった一度の攻撃で、たった1つの砲弾で、跡形すら残さず消え去った。
しかも、相手はこちらの射程の遥か外から攻撃して来ている。
砲撃の音が続く
現実はゆっくりと絶望する時間すら与えてはくれない。
1隻、また1隻と撃沈されて行く。
最高の艦に乗った歴戦の猛者たちが、なす術なく、たったの1発も打ち返す事すら出来ずに死んでいく。
風神の涙を目一杯、限界以上に使っているのにも関わらず、彼我の距離は縮まら無い。
「ちくしょうガァァ!!......ちくしょう、ちくしょう!」
気付けばバルの座乗した【ホーリー】以外、1隻も残っていなかった。
おそらく【ホーリー】が残されたのは大将旗を掲げているからだろう。
絶望させてから沈めるつもりなのか、もしくは降伏するのを待っていたのか......どちらにせよ、
「降伏旗を掲げよ」
俯いたまま命じるバル、【ホーリー】のマストから大将旗が下され、代わりにこの世界で降伏を意味する旗が掲げられる。
「おのれぇ、蛮族めタダで済むと思うなよ」
バルが、ボソリとつぶやく
「敵艦近付きます!」
巨大艦がゆっくりと近付いて来る。
ガバッと顔を上げたバルが、艦長を見て言う
「やつとの距離が必中距離になり次第、全門をもって蛮族を攻撃せよ!」
「なっ!?」
信じられない命令に全員が驚きを隠せない。
降伏を装った攻撃など、
「お待ち下さい!その様な真似をすればレイフォルの名に、陛下のお顔に泥を塗る事になりま➖パァン➖」
「ッ!?」
「参謀は敵の凶弾にて名誉の戦死を遂げた、良いな?」
バルは1人反対を口にした参謀の頭をピストルで撃ち抜くと、艦長へと向き直る。
その顔は狂気が滲み出ていた
「艦長、砲撃だ。我が国の炸裂式魔導弾を至近距離で食らえば、浮いていられる船など有りはしない。相手は1隻だ、沈めてしまえば我々が喋らなければ誰にもバレやしない、死人に口なしだ。それとも何かね?キミはこのままオメオメと蛮族の虜囚になると?」
「ッ砲撃...用意!」
バルの眼力に押されて......いや、それだけでは無い。
艦長の中にも少なからずバルと同じ思いはあったのだ、命令を受け砲撃の為動き出した水兵達の中にも。
「くくっそうだ馬鹿面晒して近付いてこい。俺の艦隊を沈めてくれた代償、しっかりと払ってもらうぞ!」
近付く【グレートアドラスター】の姿にほくそ笑む。
甲板上の動きを全て見られているなど、思いもせずに。
○
ラクスタルは双眼鏡を手に【ホーリー】を見ていた。
彼の目には降伏旗を掲げていながら、片側の魔導砲を忙しなく動かしている様子が映っている。
その動きは照準を付けようとしている様に見えた。
「ふん、降伏を装っての攻撃か。列強などと言いつつ、その程度か」
「直ぐにでも沈めますか?」
砲術長の確認に首を横に振る
「そうだな...いや、撃たせてやろう」
「正気ですか?」
遠慮のない砲術長に苦笑しながら答える
「正気だとも。奴らの防御力の程はわかったが、攻撃力がわからん。一度くらい食らってみても良いだろう」
「しかし、」
「キミの懸念もわかるさ。魔法とやらがある世界だ、どんな攻撃をして来るかわからんと言うのだろう?」
「わかっておいででしたら何故?」
砲術長の懸念も最もだ。
これまで魔法とやらが脅威となった事は無かったが、今回の相手は“列強”なる存在だ。
攻撃に関しては想像もしない攻撃を行って来るかもしれない。
しかしだ、
「砲術の専門家としてのキミの意見を聞きたいが、これまでの事例を踏まえた上で、アレがこの【グレードアトラスター】の装甲を食い破る力を持つと思うかね?」
片舷50門の大砲、字面だけ見れば脅威であるが
「これまで軍事力を見た国で、最も進んでいたのがパガンダです。が、そのパガンダの砲兵器はごく初期のものでしたし、今回の相手であるレイフォルも、パガンダと比べても多少大きいだけの戦列艦、技術的にそこまで離れているとは思えません。さらに攻撃は真横から来ます、よっぽどでない限り【グレードアトラスター】の装甲が破られる事は無いかと」
「では、やはり撃たせてやろう。便衣兵など絶望させてから殺すくらいで丁度良い」
ラクスタル達がそんな会話しているうちに、レイフォル側の射程に入った。
そして、
➖ダダァン!➖
【ホーリー】の50門の魔導砲が火を噴いた。
砲弾の殆どが【グレードアトラスター】に着弾し
➖ババババン!➖
次々と炸裂した。
バル達の視線が砲撃の噴煙と炸裂弾の煙で塞がれる。
「はははぁ!見たか蛮族め!!これがレイフォルに逆らったもののまつ、ろ......!?」
煙が晴れるとそこにはゆっくりと【ホーリー】に砲口を向けんとする【グレードアトラスター】が。
「敵艦健在!!」
「馬鹿な、炸裂魔導弾50発の直撃を受けて、健在だと!?」
その姿に慌てるバル
「主砲砲撃用意よし」
「撃て」
撃ってしまった以上、ラクスタルが容赦する理由も無く
「このッ!この化け物がぁぁぁ!!」
撃ち出された46cm砲弾は【ホーリー】も、当然乗っていたバル達も、一切合切をこの世から完全に消しとばした。
「砲弾の数はどれ程残っている?」
「全門共に70発ずつです」
「ふむ」
ラクスタルは伝声管に近寄ると副長を呼び出す
「副長レイフォルの首都は海に面しているので間違いなかったな?」
『は、間違い有りません。ここから東に350km程です』
「砲撃でお仕置きだ。最大船速で東へ向かえ」
『はっ!』
ラクスタルの命令を受け、【グレードアトラスター】はレイフォルの首都砲撃の為、再び東へと舵を取った。
▽
【伊470】指揮所
「大口径実弾砲の砲撃というのは、こうなんとも言えない凄まじさがありますなぁ」
「まぁ魔力砲とは違った迫力はあるな。で、どう見る?」
戦艦の砲撃になんとも言えない興奮を覚えているらしい水雷長に、キミは水雷屋では?と苦笑しつつ艦長は副長に話しかけた。
「は、砲撃の仕組み自体は発砲炎と噴煙から考えるにおそらくは火薬式のものでしょう。威力に関しても46cm砲弾相当の破壊力はあるものかと」
「ふむ、照準に関してはどう見る?」
「かなりスムーズに照準を合わせていましたから、おそらくレーダー連動射撃はできるものかと」
総評として、大型戦艦の、性能は欧州大戦終結時のソ連戦艦【ウラジミール・レーニン】クラスであろうとされた。
「で、あの船また東に向かっているが、何をするつもりだ?」
「ここから真東と言えば、確かレイフォルの首都ですが......」
「追いかけてみようか」
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中央歴1639年6月21日
第二文明圏の列強国レイフォルは、首都レイフォリアを襲ったグラ・バルカス帝国の戦艦【グレードアトラスター】による全力砲撃によって、皇帝以下政府要人が軒並み死亡。
国軍も次々と降伏し、レイフォルは亡国となる。
以降第八帝国からの入植が行われる事となる。
【グレードアトラスター】
その名は単艦にて列強レイフォルの艦隊を全滅させ、更にはその足でレイフォルの首都を焼き降伏せしめたとして、世界最大最強の戦艦として伝説となった。
その事に特に恐怖したのは第二文明圏の国々であったが、恐怖はあっという間に世界を巡り、“列強”の陥落は世界を激震させた。