魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

33 / 52
前話、潜水艦の艦名を【大鯨】から【伊470】へと変化しました。


日本とムー

第二文明圏、列強第2位の国ムー。

その首都オタハイトの軍港、ムー統制軍マイラスは岸壁に立ち海の方を眺めていた。

その視線の先には臨時で増設された浮き桟橋に、一隻の艦艇が接舷しようとしているのが見えた。

黒一色の流線型の船体は付近に停泊するムー海軍の艦艇とは似ても似つか無い。

それもその筈で、その船が掲げる旗はムー国やムー海軍の旗では無い、白地に太陽を模した赤い丸と十六条の放射線、日本皇国の十六条旭日旗だ。

 

日本皇国海軍 伊号第470型揚陸潜水艦4番艦 【伊473】

 

それがあの船の正体であった。

何故日本皇国の潜水艦がムーの軍港に入港しているのかと言うと、ムーと日本の間で結ばれた協定によるものだった。

 

 

日本皇国は神聖ミリシアル帝国と国交を樹立した事で、相当な規模の市場に参入する事が......

 

出来なかった。

 

と言うのもミリシアルの購買層、即ち国民の大半が日本の技術力を信用していなかったからである。

軍事技術の一部とは言え、直接見聞きした外務大臣のペクラスを筆頭に、遣日艦隊に同行していた魔帝対策省の古代兵器分析戦術運用部のメテオスなどは、各々思う所はあるものの日本の技術を認めていたし、彼等の報告を受けた皇帝ミリシアル8世や政府の者達は、日本の技術をある程度把握していたが、それらの情報は全ての国民に対して余す事なく全て公開された訳では無い。

 

加えて、日本皇国は客観的に見て、ミリシアルが「列強国家」として認める程の何かを成し遂げた訳では無く、多くの国民にとっては第三文明圏よりも更に東、文明圏外の新興国家と言う認識しか無かった。

皇帝の決定である以上、明確に反対する事はしないが、それでも政府の方針に不満があった。

パーパルディア皇国やレイフォル国の様な「列強と言っても格が低い」国家と違い、態々口に出して「蛮族」などと呼ぶ事は無かったが、文明圏外国を普通に見下しているのは同じなのだから。

 

その為、大々的にミリシアルの市場へ参入出来ず、僅かな取り引きだけしか出来て居ないのが現状だ。

尤も、日本としては200m超えの戦艦を動かす事の出来る機関を有しているのに、何故か漁船は帆船だったり手漕ぎだったりしている事に首を傾げつつ商機を見ているし、ごく僅かな日本企業と取引しているミリシアルの商人は日本の製品が、大量に市場に出回る様になるのも「時間の問題だ」と考えているのだが。

 

とはいえ、ミリシアルの人々が日本製品を認め本格的に取引が始まるのを待っていられるかと言うと、そう言う訳にはいかない。

造船業こそ、第三文明圏の文明国や文明圏外国からの注文で、嬉しい悲鳴を上げているところだが、その他の製品に関しては供給先を確保できていない状態にある。

ロデニウス大陸を始め、文明圏外ー大東洋諸国の国々に関して言えば日本製品が席巻しつつあるが、市場規模という点で言えば日本の供給能力と比較すると貧弱極まり無い。

文明国との取引も増えつつあるが、こちらもやはり地球の国々と比べれば......となってしまう。

開発援助などで各国の国力増強に手を貸してはいるが、各国の市場が日本の供給力に耐えられる様になるのはまだ暫くは先で有ろうと考えられていた。

 

パーパルディア皇国と国交を結ぶ事もできたが、この国はこの国で素直に日本製品を輸入する事は無いだろう。

海軍は航空艦に興味を示しているとの情報もあるが、周辺国から出来れば売らないで欲しい(お願いだからやめてくれ)との打診もあるので、パーパルディアの国家方針と合わせて考えても、やはり難しいと言わざるを得ない。

結局パーパルディアでもミリシアルと同じ様に、小規模な取引だけが行われている。

 

そこで目を付けたのがムーであった。

列強という事もあり、ミリシアルと同じ様に国民単位では日本の事を認められない者もいるだろうが、列強2位の国家の市場だ、多少でも市場に参入できれば御の字である。

潜水艦隊による情報収集とミリシアルからの情報によって、ムーが共産主義かも知れないという懸念は払拭(共産主義どころか王制国家)されていたので、ミリシアルに仲介を申し込み接触を行った。

 

 

マイラスは外務省からの命令で日本の技術力を測る為、ムーへやって来た日本の特使の観光案内を行った。

統制軍の第1種総合技将の資格を持つマイラスの下には、ロデニウス大陸でのクワ・トイネ公国・ロウリア王国間の戦争の情報ーより正確に言えばそこに投入された航空艦の情報ーは入っていたし、在パーパルディア大使館からは、パーパルディアを訪れた【秋津洲】以下祭祀艦隊の情報も入っていた。

加えてミリシアルからの「日本皇国の国力/技術力は列強として申し分無いものである」とのお墨付きだ。

正直言って気が重かった。

 

マイラスは普段ミリシアルの兵器の解析等も行い、現在は第二文明圏全体に対して宣戦布告を行った国家、グラ・バルカス第八帝国の兵器解析も行なっている。

第八帝国も第八帝国で、例の戦艦【グレードアトラスター】を見ただけで、ムーの誇る最新鋭戦艦【ラ・カサミ】ですら敵わないのでは無いかと思えたが、【秋津洲】を捉えた魔写の与えた衝撃は【グレードアトラスター】以上だった。

【グレードアトラスター】よりも巨大な艦が空に浮かんでいるなど、はっきり言って理解の範囲外だ。

 

ムーにも飛行船はあるが、アレはあくまでも浮かぶことを前提に設計されているものだ。

明らかに水上艦と同じ形状をしているものが空に浮かぶ等、日本皇国が魔導文明国家だと聞かされても、どう言う理屈で浮かんでいるのか全く解らない。

下手をすると同じ魔導文明国家であるミリシアルよりも上では無いかとも思える相手に、「ムーの技術力を知らしめろ」と言われれば、気が重くなるのも仕方がないだろう。

 

結果から言えば、日本人達は【ラ・カサミ】にも最新鋭戦闘機マリンにも対して驚かなかったし、車にも乗り慣れている様だった。

それどころか日本から見れば【ラ・カサミ】が100年、【グレードアトラスター】ですら70年は前の旧式になると言われ、戦闘機(日本では戦闘飛行艇と言うらしい)に至っては音速を超えると教えられ、マイラスの方が大層驚いたくらいだ。

 

唯一日本人が驚いたのはムーが元々この世界にあった国ではなく、1万年の昔に異世界から大陸ごと転移して来た国家だと告げた時だ。

ミリシアルからの情報にもあったが、日本皇国もまた転移国家で、しかもムーと日本の居た世界は年代こそ1万2千年の開きがあるものの、同じ世界だったのではと言う話になって、またもやマイラスは驚かされる事になったのだが。

その事もあって、ムーと日本の国交は比較的あっさり結ばれた。

 

その過程で日本側がムーに対して、主に対グラ・バルカス帝国を見据えた、第二文明圏以西での潜水艦の活動の為の母港を求め、ムーは潜水艦建造の技術協力を条件に港の使用を認めたのであった。

 

 

 

潜水艦という軍艦の話を初めて聞いた時、マイラスはその存在をとても恐ろしく感じた。

海に静かに潜み攻撃を行ってくる船、今のムーには探知する事も撃沈する事も難しい存在だ。

しかも、日本皇国の話ではよりにもよって()()グラ・バルカス第八帝国は、推察される技術力的に潜水艦を保有している可能性が高いとの事だ。

第二文明圏全てに対して宣戦布告している第八帝国が、潜水艦をもって海軍艦のみならず、商船などの民間船へと攻撃を行えば、ムーはそれに対抗する事も出来ず、ただ船が沈められて行くのを指を咥えて見ているしか無い。

 

だからマイラスを始めムー海軍の者は潜水艦の話に震え上がったのだが、その話を語って聞かせた日本は潜水艦を厄介な存在とは考えていても、明確な脅威としては捉えていない様子であった。

それもその筈で日本の艦船で海上を航行しているものは、漁船か敢えて海上を航行する豪華客船、沿岸警備隊の艦艇位のもので、沿岸警備隊に至っては潜水艦を狩る側の存在だ。

 

日本曰く、地球において潜水艦は一度廃れかけた兵器だと言う。

それは矢張り日本の航空艦が齎した影響で、軍艦にしろ輸送船にしろ海上ではなく空を航行する様になった事で、潜水艦による通商破壊は困難になった。

魚雷による攻撃は当然当たりっこ無いし、浮上して対空砲なんかで攻撃しようにも、仰角の問題でそもそも狙いをつけられない。

 

勿論、日本や早期に航空艦の技術を得る事が出来たイギリスを除けば、大半の国が軍艦といえば海の上を行くものだったし、現代でも海軍イコール水上艦の国が無くなった訳でも無いので、結局潜水艦が姿を消す事は無かったと言う。

その任務は情報収集や通商破壊だけでなく、特殊部隊等が敵地に秘密裏に上陸する際に使われたり、弾道ミサイルなる超長距離兵器の発射母艦になったりとの事だ。

 

第二文明圏以西で活動している伊号第470型揚陸潜水艦は、「揚陸」の名が示す通り敵地への陸戦部隊揚陸を行う為の潜水艦だと言う。

日本皇国海軍の最新鋭潜水艦で、形状は細長いヒマワリの種の様な形で、中央やや後ろ寄りに一体型の流線形艦橋を持つ。

船体中央に二ヶ所格納庫を持ち、合計4機の機竜(ワイバーンを模した人工の竜らしい)を格納でき、両舷に配置されたドライチューブに片舷2機、合計4機の乙型機巧ゴーレムなる兵器(人が中に乗って直接操作するゴーレムで、まさかの水中で行動が可能だと言う話)を搭載可能だと言う。

また自衛兵装として魚雷と、揚陸支援用の対地ミサイルを装備しているとの事で、もし仮に敵対したとすれば一隻でムー海軍を蹴散らしてしまいそうなこの潜水艦だが、実を言うと情報収集は専門では無いと言う話だ。

 

勿論隠密性は地球基準でも高レベルであるとの事だが、情報収集が専門の巡航潜水艦と比べれば隠密性と、情報収集能力そのものが劣っていると言う。

では何故そんな潜水艦が第八帝国の情報を探っているのかと言うと、実は日本海軍にとっては最悪な事に、保有する巡潜の約半数を転移によって失ってしまい、残ったものは本国周辺から容易に動かせる状況では無く、仕方なく揚潜を外地の情報収集に使っている状態だと、伊471の艦長がため息混じりに教えてくれた。

機密ではないのかと思ったが、おそらく知られた所で問題は無いと考えているのだろう。

また、彼の話はブラフである可能性もあるが、巡潜よりも隠密性に劣ると言う揚潜ですら、ムーだけで無くミリシアルでも、第八帝国でも探知出来ないのだから、実は揚潜は見せ札で巡潜も潜んでいたとしても、見つける事などできないのだから。

 

「日本が売ってくれる技術を元に一刻も早く第八帝国の潜水艦に対抗する術と、潜水艦の獲得を目指さないとな」

 

日本は魔法技術を根幹とする国で、それだけ聞くと魔力探知レーダー等一部には魔法を取り入れているとは言え、科学文明であるムーがそのまま技術を取り入れる事は難しい。

日本の兵器などのコンセプトを科学に置き換えていかなければならない為、ただ単に進んだ技術を取り入れるより大変だろう。

もちろん日本にも科学技術はあり、幸いな事に潜水艦はほとんど魔法では無く科学で作られていると言う。

 

理由としてはこの世界と同じ様に地球でも魔力を探知する技術が発達しており、魔力炉という魔導機関を搭載していては炉が生成する膨大な魔力が簡単に探知されてしまうので、ディーゼル機関と大容量バッテリーを載せているとの事だ。

ムーで姿を見ることができる伊470型であれば、魔力炉を搭載しているのは機竜と機巧ゴーレムだけで、それらは揚陸時にしか起動し無い為、普段は探知される事は無い。

また、隠密性の要である[消音結界]と言う自艦が発する音や敵艦のソナーの反射を消滅させる結界魔法は、海中に溶け込んでいる魔力を使用して発動しているらしい。

その程度であれば魔力を持つ海中生物の発する活性魔力(日本での何かに使用された魔力の呼称)と、大して変わらないらしい。

 

そんな訳で、ムーは日本からディーゼル機関と大容量バッテリー、潜水艦の船体構造に関する情報、[消音結界]用の加工が施されたタイルを手に入れる事になった。

ムー海軍は日本潜水艦の隠密性の要である[消音結界]を、術式そのものでは無く加工済みのものとは言え、平然と提供してきた事に驚いた。

驚く彼等に対して何ともなさそうな日本側担当者の顔を見て、おそらく特定の音、それこそ日本艦のソナー音は消失し無い細工がされているのだろうと当たりを付けたが、ならば[消音結界]の導入を諦めるか?となると、諦めるには魅力的に過ぎた。

結局ムー海軍は日本海軍に対して潜水艦が丸裸になる可能性を飲み込み、[消音結界]の導入を要求した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




民間でだが、はやくもムー国内に残された資料や、日本にあった資料を元に、アトランティスに関する考察、日本の魔法のルーツに関する考察が早速行われている。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。