魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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考察様々

惑星

 

「惑星の内部がスカスカなのかもしれない」派と「異世界なんだから、地球の常識が当てはまるかよ。俺たちが小さくなったんだ」派による論争は、科学者達のみならずネット上にも広がりを見せつつある。

 

ぱっと見の印象だと、正直何の事だと言いたくなる字面だが、割と真面目に議論されている。

この論争は日本皇国が転移した惑星の大きさが、水平線の遠さから一周約10kmと地球の倍以上の大きさがありながら以下の様に

 

・重力加速度9.8065m/s^2

・気圧平均1015hpa

・大気組成もほぼ同じ

・自転速度は24時間

・公転周期は1年365.5日でやや長い

・太陽迄の距離も役1.5億kmでほぼ同じ

 

と、地球とサイズ以外は地球とほぼ変わらない事が原因で起こった論争だ。

これには多くの科学者が頭を抱えた。

だが、彼等とて科学しか無い世界に身を置いていた訳ではなく、むしろ近年の科学者は「[魔力]と[魔法]がある事を前提として」考察するのが基本となっている。

人類が[魔力]を使うようになり活性化した[魔力]の影響は、人類に亜人を産んだのみならず、他の動植物や物理法則にすら影響を与え始めていた。

そうして[魔力]と[魔法]がある事を前提として考えた結果、「正真正銘の異世界である以上、地球における科学知識で考察するべきではない。重力加速度や自転速度等に変化が無い以上、惑星が大きいのではなく、惑星以外の全てが地球の2分の1しか無く、我々も転移時にそちらに合わさったのだ」という仮説を立てた。

 

当然ながら反論する研究者もいて、そんな彼等が「重力加速度等に変化が無い以上、日本列島や人が2分の1の大きさになったなどあり得ない。惑星の内部がスカスカなのに違いない」と反論した。

 

この議論はいつのまにか一般人の間にも広がり、日夜ネット上で議論が交わされている。

今の所双方の意見はとんとん位の支持を得ている。

ただ、前者も後者も何方も共に「異世界だし」「地球より[魔法]の歴史が古いし」「地球とは違って魔法生物みたいなのがいる世界だし」「やっぱり、なんと言っても異世界だから」と言う、「異世界だからそう言う事も有り得る」と言う理由での支持だ。

後者の仮説に対しては、冷静に考えてみればあらゆるデータから現実味が高く、「[魔法]は[魔法]。科学は科学。地球で[魔力]の活性化が物理法則に若干の影響を与えていたとしても、重力加速度等の法則が大きく変化することはない」と冷静な人達から一定の支持を得ている。

 

人造の星

 

日本皇国の有する宇宙ステーション【天津神】は、海抜高度540kmに浮かんでいた。

日本は異世界への転移によって、保有していた人工衛星のほぼ全てを失った。

新しい世界、それも地球よりも巨大で有ると言う事もあり、宇宙からの眼を失った事は早急に解決しなければならない問題であった。

幸いにして日本の人工衛星の打ち上げはロケットを用いた者ではなく、輸送船を用いて宇宙空間へと持ち上げ、その後打ち出して軌道に乗せると言うものであるので、大気圏を突破する為にロケットの新規開発などは必要無かった。

 

さて、人工衛星を失った日本であったが、宇宙に保有する施設の全てが完全に失われた訳ではなかった。

それが【天津神】である。

【天津神】は航空都市と比べれば小型であるものの、[タカアマハラ]を利用しており、宇宙空間での様々な実験などに使われる半官半民の宇宙ステーションだ。

転移当時には158名のスタッフが滞在していた。

また、その位置も日本の直上である事もあり、転移時に「日本皇国領」だと判断され地球に置き去りにされなかったのでは?と考えられる。

何はともあれ、決して安くはない金が掛かっている上に、優秀なスタッフを抱えたまま【天津神】が失われる様な事にならなかったのは、日本皇国にとって僥倖と言えた。

 

日本政府は【天津神】が変わらず頭上にある事を確認すると、地球では条約だとか国際関係だとかで阻まれていた計画を実行に移した。

【天津神】の軍事拠点化とそれに伴う海軍軌道艦隊の配備である*1

 

とは言っても、現行の航空艦では気密性だとか酸素の問題もあり、本格的に宇宙空間で運用する事は出来ない。

潜水艦は気密性だとか酸素の問題をある程度クリアしているが、潜水艦は宇宙に上がる為の足、即ち[アメノトリフネ]を持たない。

なので潜水艦の設計を元に、専用の航宙艦の建造が行われる事となり、予備の人工衛星と地球では既に宇宙である高度、海抜高度150kmに駆逐艦を巡航させる事で本格的な軌道艦隊までの繋ぎとした。

また、航宙艦の就役までの間に【天津神】も本格的な要塞化が行われる事となり、現在絶賛拡張工事中である。

 

 

 

 

拡張工事が行われている【天津神】であったが、宇宙での研究拠点という役割を終えた訳ではなく、外殻にて拡張工事が行われている間にも、研究は継続して行われていた。

もっとも今のところ、どこの研究室も地球との違いがどれほどの物なのかの確認と、観測されたデータ等を基に実験内容の練り直しなどに、てんやわんやしているのだが。

 

そんな中、政府直営の研究室の1つに地上からの客人の姿があった。

 

「こうしてこの場所に立って尚信じがたい。一歩“外”に踏み出せば、人間などあっという間に死んでしまう、そんな世界に。よもや人の暮らせる施設をそれもこんなにも巨大なものを作り上げた等など」

 

工事中のエリアの反対側、工事の内容が解らない位置にある展望窓から、星の海を眺めてそう呟いたのは、神聖ミリシアル帝国魔帝対策省-古代兵器分析戦術運用部のメテオス・フラッグマンである。

ミリシアル人である彼が何故【天津神】にいるのか、それは両国の交流の最中、在日ミリシアル大使館の職員がたまたまテレビで、人工衛星の軌道投入の報道を見た事に始まる。

 

神聖ミリシアル帝国はかつて過去の世界に存在したラヴァーナル帝国、通称古の魔法帝国の残した遺跡や遺物を調べ、その過程で手に入れた技術を()()して運用している国家だ。

もっとも、古の魔法帝国の技術のその全てを「十全に扱いこなせている」とは言えない状況ではあるが、模倣であってもその技術は他国を圧倒し、ミリシアルは世界最強の国家として君臨してきた。

ただそのことに満足している者は、立場が上がるにつれて減っていく。

それは政府に「魔帝対策省」なる省庁が存在する事からも分かるが、神聖ミリシアル帝国と言う国がいずれ復活するとされるラヴァーナル帝国を打倒する事こそを国是としているからだ。

現行のミリシアル帝国軍ではラヴァーナルを相手に、自信を持って「勝てる」とは言えない。

相手は自分達が使っている技術の“本物”を持っている、理論は解らないが何とか飛ぶ様には出来たので、その形で量産しているだけの天の浮舟。

最近になって漸く実践投入できるかできないか程度には、稼働させられる様になった空中戦艦。

 

そられは現状、他の列強すら圧倒する力ではあるが、やはり本物に敵うかと聞かれれば......

 

加えて新たに国交を結んだ国、即ち日本皇国の存在が、政府指導者層に危機感を覚えさせていた。

民間に対して広く開示された訳ではないが、日本の技術力の高さは政府関係者であれば知る事ができた。

 

自分達とは違い、ラヴァーナルと同じ様に自ら新たな技術を生み出している日本に、嫉妬もした、認められない気持ちもあった。

長年世界最強の国家として君臨してきたと言う自尊心が、認める事を邪魔した。

 

だが、認めざるを得なかった。

 

軍事技術だけでなく、街中のその辺に転がっている様な技術ですら、圧倒的に上だった*2

そしてそれは、ラヴァーナルの技術を解析する魔帝対策省の研究者達にこそ良く分かる事だった。

だからこそ彼等は、自国が保有し日本が持たない技術を対価にしてでも、「技術交流をするべきである」とそれはもう声高らかに訴えた。

 

流石に政府内部にも訝しげな声もあったのだが、あまりにも魔帝対策省がシツコイので、皇帝ミリシアル8世の鶴の一声によって、日本があるモノについて、解析できるかどうかで日本と本格的に技術交流をするか判断する事となった。

その形であるモノの名を「僕の星(しもべのほし)」、ラヴァーナル帝国が開発したと記録に残る、宇宙に浮かぶ人工の星である。

 

その僕の星に関する情報を日本へと開示しろと指示を得た所で、大使館職員が目撃したのが日本皇国宇宙開発機構による、人工衛星の軌道投入のニュースであった。

 

「既に日本は宇宙にすら勢力を伸ばそうとしている」

 

これは慌てた大使館職員が本国へ送った緊急伝だ。

この報せの詳細が届くと、ミリシアル政府は大騒ぎになった。

僕の星に関して「解析できるかできないか」とかそんなレベルの話ではなく、既に日本は僕の星を保有していると言うのだ。

 

再び議論が交わされ、最終的には「核心的技術は除くとしても、日本皇国との技術交流を積極的に行う」事とされた。

その手土産的に日本にラヴァーナルの僕の星についての情報が渡された。

日本皇国は人工衛星の軌道投入に際して、「惑星の準同期軌道上を何らかの物体が周回している」というのは分かっており、同じ様なサイズのものが複数ある事から、神聖ミリシアル帝国の人工衛星かと考えていたのだが、そのミリシアルからまさかの数万年前の古代文明の物だと知らされ、流石に驚きを隠せなかった。

 

ミリシアルの記録にも、何の為に作られたのか、どうやって作られたのかといった記述は無いらしく、「古の魔法帝国の復活」という脅威に対して前のめりなミリシアルの猛アピール(主に魔帝対策省)もあり、ラヴァーナル帝国の技術を良く知るミリシアルと、既に似た様な技術を持つ日本という2方面からの視点での共同研究が決定、その拠点として【天津神】が選ばれたのだった。

 

 

僕の星の研究は何基か見繕って【天津神】に持ち帰り、施設内での分解が予定されていたのだが、その打診を受けた【天津神】の研究者が、人工衛星であると認識した上でキチンと観測を行った結果とんでもない事が判かった。

 

僕の星は今なお稼働を続けていたのである

 

最初は何かの間違いかと思われた。

しかし、何度かデータをとり解析すると、やはり稼働しているとしか考えられなかった。

微弱では有るが、規則的に魔力が使用されている反応があるのだ。

これが、確認された僕の星の1基2基での事であれば「偶然」や「クマムシの様な生物が(異世界なんだから)魔力によって宇宙空間でも生存している(そういう事もある)」と言ってしまう事もできるが、活性魔力が観測されたのは確認された僕の星、34基全てでの事であった。さらに加えてそれらが相互に何らかのやり取りを行なっている事も分かっている。

ただでさえ、製造されてから数万年は経つであろうとされるものが、未だに準同期軌道に浮かび続けているだけでも信じられないのに、未だに生きているなどもはや理解不能である。

 

「ですので、我々としては僕の星が一体どう言う目的を持った物なのか、少なくとも現在でも使用されている魔力をもって、何を稼働させているのかが確認されない限り、不用意に回収を行う事は危険であると考えます」

 

【天津神】の一室、僕の星研究が持ち込まれた国営第四研究室にて、室長の宮野がモニタに表示されたデータ等を指しながら、ミリシアルの研究者達に説明を行なっていた。

ミリシアルの研究者の1人が手を挙げる。

 

「残念ながら我々には僕の星は勿論、貴国の保有される人工衛星に関する運用の知識というものが存在しません、なので僕の星がどの様な目的で作られたものなのか、と言うのを想像するのは難しい。僕の星と類似したものである人工衛星を運用されている貴国としては、どの様な目的を持ったものであると考えておられるのか、お聞かせ願いたい」

「ええ、勿論です。では先ず人工衛星について簡単にご説明しましょう」

 

宮野がそう言ってモニターを操作すると、数種類の人工衛星を写した写真が表示される。

 

「これらは転移前、我が国が運用していた人工衛星です。ご覧の様に一言で人工衛星と言っても複数の種類があり、見た目は勿論その機能も違って来ます。生活に関わりのある気象衛星や、軍の運用する軍事衛星等があります」

 

気象衛星は兎も角、軍事衛星と聞いて眼の色を変えたミリシアル人が数人いるが、取り敢えずスルーする。

 

「我が国が運用していたものではありませんが、軍事衛星の1つにGPS衛星と呼ばれるものがあります。これは全地球即位システムと呼ばれる、衛星測位システムを構築する衛星で、地球上で現在位置を測定する為の物です」

 

モニターにはGPS衛星のCGモデルとその軌道モデルが表示される。

 

「GPS衛星はこの様に高度20,200kmの準同期軌道と呼ばれる軌道を周回していおり、我が国が地球にあった時点での運用数は31基。

全て同じ、と言う訳ではありませんが、同程度の衛星軌道にあり、尚且つ基数も近しい事から、我々は僕の星にはGPS衛星と同じかもしくは似通った役割があったものと考えています」

「それは、一体どの様に使うものなのでしょう?」

「そうですね、あくまでもGPS衛星の場合ですが、簡単に説明するとGPSとは地球上の何処にいても自身の位置を瞬時に割り出す事が出来るシステムです。GPS衛星の発信する情報を受け取りその情報から高度な計算機が計算を行う事によって、自身の位置情報を割り出します」

「成る程、そのGPS衛星と僕の星が似ていると?」

「ええ、もっとも現状入手可能な情報からの推測ではありますが。GPS衛星の運用高度は高度20,200kmで、僕の星が存在するのは高度20,250km。運用基数はGPS衛星が全部で31基、確認された僕の星の数は34基と、あくまでもこの2つのデータが近しいと言うだけです」

 

この推測通り、僕の星なるものがGPS衛星と同じ物であればサクッと回収して、分解して調べたい所ではあるが、相手は数万年間存在し続けると言うトンデモ存在だ。

迂闊に手を出して、防衛機能が作動したりすれば目も当てられない。

 

「ふむ、防衛機能に関しては気にし過ぎても、仕方がないのではないでしょうか?」

 

宮野の話に耳を傾けつつ、資料を読みふけっていたメテオスが声を上げる。

 

「それは何故でしょう?」

「いえ、ラヴァーナル帝国は基本的に自分達以外を見下した種族だった、というのもありますが、奴らは転移に際して【魔王】という遺産を残していきました、その魔王自体は【太陽神の使い】によってグラメウス大陸へと押し返されました。そしてトーパ王国に残る神話ではグラメウス大陸とフィルアデス大陸を隔てる壁を作った後、4人の勇者によって封じられたと言います。しかし、魔帝はその事を知らず、魔王によって人類は滅ぼされるか、そうでなくとも発展など出来る筈がないと考えているのではないでしょうか?」

 

魔王はグラメウス大陸から現れたという、それは偶然置いて行かれたのではなく、わざと置いて行かれたのだとも考えられる。

それに、宇宙に浮かぶ僕の星にかける保険とは一体どういうものなのか。

光翼人とやりあったというインフィニティドラグーンすら、空力の及ばない宇宙に至る事は出来なかったという。

ミリシアルも日本と接触するまでは、宇宙に関しての知識は空力が通じない場所、僕の星が浮かぶ場所、程度の知識しかなかった。

つまりラヴァーナル帝国の遺跡にすら、僕の星以外に宇宙に関する物が残っていないのだ、無論そういったものは本国の外には持ち出されなかったとも考えられるが。

どちらにしろミリシアルの常識では、平然と地上と宇宙を行ったり来たりする日本がオカシイのだ。

 

「警戒をするに越した事はありませんが、警戒しすぎて身動きが取れなくなるのもよろしくはないでしょう」

「そうですね、ではこちらの船外作業チームに僕の星回収を依頼する事としましょう。十分な安全対策を取った上で、精密分析する事とします」

 

 

 

*1
宇宙条約で宇宙に兵器である航空艦を配備出来なかったのは勿論、宇宙空間での全長50m以上の艦船の運用も禁止されていた。これは宇宙条約締結時に航空艦技術を有していた日本皇国と連合王国に、頭上を抑えられるのを避けたい各国の圧力によるものである。

*2
個人的なものでも、日本人の方がミリシアル人より繊細な魔力制御ができた。




僕の星の数とか高度は独自設定

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