魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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時系列を間違っていたので差し込みです。
この後にも何話か「北の大地へ」のナンバリングで更新します。



北の大地へ・1

グラメウス大陸

第三文明圏を構成するフィルアデス大陸の北東側、細い地峡で繋がった不毛の大陸。

遥かな昔この大陸より【魔王ノスグーラ】が現れ、世界を滅さんとした。

魔王は種族間連合と【太陽神の使い】に敗れ、グラメウス大陸へと逃げ帰り、フィルアデス大陸と繋がる地峡には【世界の扉】と呼ばれる城壁が築かれ分断された。

以降、魔王との最後の戦いに挑んだ勇者と彼等に付き従った勇敢な戦士達を除き、人の立ち入らない魔物の世界である。

 

 

 

「新世界のフロンティアか!?」

そんな見出しの新聞が発行される程度には神聖ミリシアル帝国との交流と共同の研究の場で、グラメウス大陸の存在を知った日本皇国はざわついた。

寒冷地帯で不毛な大地だと言うがこの世界の誰も、それこそ列強から文明圏外国に至るまで、領有権を主張していない広大な大地だ。

日本政府()()()()()()統治の問題などから、広い新領土が欲しかった訳では無かったが、そこに有るかもしれない手付かずの地下資源の存在を夢想した。

 

地下資源自体はクイラ王国との取引で、安定した量の輸入が約束されてはいるものの、日本と国交を結んだ国の多くで今、地下資源--特に鉄の需要が増している。

日本による開発支援や航空戦列艦の売り出し等が理由だ。

文明圏外国や文明国は勿論、列強ムー国にパーパルディア皇国の一部(主に皇国海軍)でも、日本製鋼材の輸入を希望する声が上がっている。

外貨獲得や資源を独占すると起こるであろう国際社会からの反発の事を考えれば、その事自体は悪い事では無い。

が、日本としても新しい[タカアマハラ]の建造や【天津神】の増築に、海軍軌道艦隊の艦隊獲得などで鉄資源は大量に消費する予定だ。

クイラでの産出量を上げれば対処でき、クイラ政府としても輸出額が増えるのは歓迎するところなのだが、資源の枯渇を恐れた日本によって、採掘量の急激な増加にはストップが掛けられた。

加えて、地下資源の全てをクイラ一国に依存するのはどうなのか、と言う考えもあってグラメウス大陸の調査/開発に前向きになって行く。

 

 

 

グラメウス大陸への進出を決定した日本皇国であったが、この大陸は人間とは決して相入れる事の無い魔物が蔓延り、【魔王】などと呼ばれるモノが封じられているとされる大地だ。

加えて言えばあの神聖ミリシアル帝国が、手を出さずに放置している大陸でもある。

いきなり調査団を送り込む事はしなかった。

 

先ずはグラメウス大陸に関する情報を更に集める事から始めた。

そこで目を付けたのがトーパ王国だった。

フィルアデス大陸北部、グラメウス大陸と繋がる地峡のおおよそ中間地点、南北に存在する細い地峡で繋がった島国で、アルタラス王国と同じく文明圏外国としては軍事力を有している国家だ。

「自分達こそ人類の守護者であり文明圏だとか、列強国だとか言って繁栄を謳歌出来ているのは、トーパ王国があってこそだ」と豪語する彼等ならば、グラメウス大陸とそこに棲息する魔物についての知識は豊富に有るだろうと考えた為だ。

また、実際にグラメウス大陸へと進出する際、直接乗り付けて安全地帯の確保を行ったとして、魔物が逃げ出したりしてトーパに殺到して万が一にも【世界の扉】が破られでもしたら、世界中から非難の目が向けられるだけでは済まないだろう。

そこで国防総軍はトーパに本拠地を置かせてもらい、そこから制圧地域を広げていくと言う計画を立てた。

 

 

さて、この日本皇国によるグラメウス大陸開発計画は日本皇国外務省からトーパ王国の外交部に伝えられた。

 

「グラメウス大陸の調査と開発を計画していて、その障害となり得る魔物に関する知識を教えて貰いたい。また、軍の戦闘によって逃げ出した魔物等が貴国へと殺到する可能性もあるので、防御を固める為にも【世界の扉】周辺の土地を一時的に貸して欲しい」

 

と言う内容だったのだが、コレを伝えられた時トーパの外交官達はハッキリ言って日本人の正気を疑った。

グラメウス大陸はトーパは勿論、他の文明圏外国や文明国、列強国すら領有を主張していないので、あくまでも“手付かずの土地”と言う側面だけで見れば、日本が好き勝手に切り取ろうが自由だ。

だが、グラメウス大陸はただの手付かず土地では無い、無数の魔物が蔓延るからこそ手付かずな土地だ。

ゴブリンこそ【世界の扉】の上から矢を射掛ければ容易に倒せるが、オークとなると騎士10人が組織的に動いて漸く倒せる様な怪物だ。

しかも、そのゴブリンとオークとて10年とか100年とか言った間隔で、ふらふらっと【世界の扉】の付近へと迷い込んで来る位だ。

【世界の扉】が作られ、4人の勇者と魔王討伐隊の10,000人を見送り、旅立ちの時の「1年経っても帰らなければ迎えに来てくれ」と言う約束通りに勇者達と討伐隊の捜索が行われて以降、グラメウス大陸奥地へは誰一人として足を踏み入れておらず、どれ程の魔物が棲息しているのかはトーパですら分からないのだ。

 

そして何と言っても【魔王ノスグーラ】の存在がある。

唯一グラメウス大陸から帰還した勇者ケンシーバの伝えた事によると魔王を倒しきる事が出来ず、彼を除いた3人の勇者が命を賭して封印したのだと言う。

つまり、いつかは魔王が蘇ってしまうかも知れないのだ。

 

そんな場所に態々本当にあるのかも分からない地下資源を求めて行くなど、正気を疑ってしまうのも仕方が無い事だろう。

 

そう言った事をトーパ外交官は日本外交官にやんわりと伝えた。

トーパも航空戦列艦や歩兵用装備の購入を行なっていて、日本の力を全く知らない訳では無いのだが、それでも【魔王ノスグーラ】に対する遺伝的恐怖は彼等を容易に死地へと送り出す事を吉とはしなかった。

 

日本人にもトーパ人の思いは良く伝わった。

彼等が自分達のことを思って反対していると言う事は。

 

 

だからって諦めるかと言われればそんな事は無いのだが。

 

 

 

 

中央暦1639年10月20日 トーパ王国

 

「これは、凄いな」

 

【世界の扉】を護るトーパ騎士団の騎士モアは、隣に立つ傭兵のガイへと話しかけた。

 

「最初に話を聞いた時には、正直馬鹿な事を言ってると思ったんだがなぁ」

「ああ、如何やら日本皇国とやらは本気らしい」

 

 

彼等の視線の先、【世界の扉】の()()の平野に“要塞”が建築されつつある。

多くの人員が忙しそうに働き、頭上には日本皇国海軍の駆逐艦が張り付き、グラメウス大陸へと睨みを利かせている。

作業を行なっているのは主に日本だが、既に構築された簡易陣地に翻る旗は、日本皇国の物だけではなかった。

 

「あの太陽の旗が日本皇国の国旗で、その側にあるのが確かクワ・トイネ公国とクイラ王国、それからロウリア王国だったか?」

「ああ、もう1つの旗は見た事ないが、その3つに関しては間違いない筈だ。そんな事よりもパーパルディア皇国の国旗に、神聖ミリシアル帝国の国旗まである」

 

他にもネーツ公国を始めトーパ王国と国交のあるフィルアデス大陸北部のいくつかの国家の国旗もあるのだが、2人にとっての1番の驚きは日本のグラメウス大陸進出に列強国が2カ国も賛同している事だった。

 

「列強国まで参加するなんて、勝算が有るって事か?」

「少なくとも日本皇国には2つの列強国を動かせる影響力があると言うことだ。そんな国が本腰を入れてやると言うのだから、何かしらの勝算はあると言う事だろう」

 

パーパルディアはそれ程でも無いが、ミリシアルは相当に大規模な部隊を派遣して来ている。

グラメウス大陸への進出に当たって、日本は幾つかの国に声を掛けた。

目的はグラメウス大陸での安全確保の為だ。

資源を求めて進出するのだが、「島」や「地域」であれば日本だけで対処できるが相手は「大陸」だ。

いくらなんでも日本単独で全てを抑えるのは数的に無理がある。

そこで先ず世界最強の国家である神聖ミリシアル帝国へと声を掛けた。この世界最大の軍事力を有するミリシアルとなら、グラメウス大陸の完全制圧は出来なくとも、日本単独よりは広い範囲の制圧が可能だ。

 

ミリシアルとしては最初にこの話を持ちかけられた時、実はさほど乗り気では無かった。

確かにグラメウス大陸にあるかもしれない地下資源に、興味が無い訳では無いのだが、あくまでも「あるかもしれない」である事に加えてトーパと同じく、やはり【魔王】や古の魔法帝国に対する恐怖感というものが、どうしてもついて回ったのだが。

 

「古の魔法帝国とやらが作り出したという【魔王】一体に怯えていて、それを作り出した帝国そのものに勝てるつもりでいると?」

 

実際にはもう少し丁寧な言い回しだったが、意訳すればそのような事を日本に言われたミリシアルは酷くプライドを刺激された。

「いずれこの世界に帰還するラヴァーナル帝国を打倒する」事こそを国是とする神聖ミリシアル帝国にとって、それは受け入れ難い事であった。

最終的に皇帝の決定の下、「グラメウス大陸に残っているであろう、ラヴァーナルの遺跡等の発見と回収」を名目に、日本皇国による【新大陸開発協定】へと参加する事となる。

 

また、もう1つの列強国であるパーパルディアであるが、こちらは勢力圏とは言えないものの、影響力を持つ地域の側で軍を動かす事から、話を通す事なく進める事で要らぬ勘繰りをされない様にと話をもって行った所、外務局等の「日本皇国の戦力データを取りたい」との思惑もあり、少数だが部隊が派遣される事になった。

 

それから、モアとガイに判らなかった日章旗の側にある旗は地球の国際連合の旗であった。

何故そんなものが有るのかと言えば「日本皇国が制圧した地域を将来的に“国連主導の国家”として独立させる」為の実績作りが目的であった。

 

それは日本国内の“難民”問題に端を発する。

 

 

 

 

“難民”、それは様々な理由で日本皇国で新年を迎えようとしていた外国人達の事をさす。

彼等は日本の転移に巻き込まれ、本国に帰る事が出来なくなってしまった。

現在は各国大使館や日本政府が支援を行なっているが、本国が存在しない異世界である以上、資金源の存在しない大使館の資金には限界があるし、日本としてもいつまでも“難民”として抱えていられる余裕は無い。

“難民”の数はおおよそ250万人以上、その大半が観光客でありな当然日本国内に生活基盤を持たない。

人道的見地から支援を行なってはいるが、このまま唯々支援を続けると言うのは負担でしかないし、国民の批判を浴びかねない。

今でこそまだ不満は大々的に政府へと向かってはいないが、転位から既に半年以上経ち日本政府と大使館連との間で行われた取引で用意された働き口で働いている人々は兎も角、「自分達は日本皇国に巻き込まれた被害者だ」と労働を拒否しておきながら支援は受ける、と言った者達に対してネット上ではかなり過激な意見も出て来ている。

 

「排斥運動が表面化するのも時間の問題である」との意見もある。

 

排除する事自体は不可能では無いが、その過程で暴動は起こるであろうし、もし地球に戻る事が有れば排除した人々の国との間に問題を抱える事になる。

あと国内の人権団体とかも大騒ぎするだろう。

そんな時に降って湧いたのが手付かずの土地--グラメウス大陸の存在であった。

魔物こそ存在するが、人が誰も住まない誰の物でも無い土地。

日本政府は大使館連に対して、この新大陸での建国を提案した。

 

先ず日本皇国が土地を確保(当然魔物の排除と安全圏の確保も含まれる)し、居住区を整える。

その後、日本国内に居る外国人に「いつか地球に戻る可能性を待って、日本皇国に帰化する」か「新たなフロンティアで生活を始める」かの選択を行なってもらう。

そして帰化を選ばず移住を選んだ人々を入植させる。

そこではグラメウス大陸の地下資源やクワ・トイネ公国では育ち難い寒冷地の作物等の栽培を主産業とする。

尚、居住区等の整備費用に関しては毎年定額で返済する。

 

と言う提案であった。

 

これに大使館連は飛びつく、事はしなかったが慎重な様子を見せながらも肯定的であった。

グラメウス大陸は誰も住まない土地であるとは言うが、枯れた土地であると言う。

地下資源や寒冷地作物を産業とすると言っても、地下資源はあるかどうか判らないし、作物も育つかどうか判らない。

そんな所に、住む場所は用意してやるから移住しろと言われても「はい分かりました」とはいかない。

それに「建国」とは言うが、それぞれの大使館が日本にいる国民を集めてそれぞれバラバラに建国するのでは無く、「纏めて1つの国とする」と言う提案であった事と、初期費用を全て日本皇国が負担する以上、毎年定額での返済と言っても返済期間中は日本の言いなりとは行かずとも、属国に近い扱いになるだろう。

 

そうして返済期間が終わった頃には、日本皇国の属国と言う立場は内外共に揺らがないものになっている可能性も高い。

かと言って「帰化」したとしても、結局はグラメウス大陸の開発に送り込まれる可能性が高い。

それならばまだ多数の国のごった煮の様な国でも、「主権」の約束されている建国の方が幾分かマシだ。

 

結局、大使館連は「グラメウス大陸に取り敢えず地下資源が無ければ話にならない」とし、各大使館の駐在武官やとある理由で台湾自治区に入港していた米海兵隊を中核に“難民”から志願者を募り、一応「グラメウス大陸の制圧に参加した」と言う実績を作る為に「国連軍」として派遣する事とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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