魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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政治

国交の断絶を通達し、駐留していたパーパルディア皇国第3外務局の大使の強制送還を行ったアルタラス王国は、ただちに国内からのパーパルディア排除に乗り出した。

カストは勿論、第3外務局の出張所の職員は衛兵から飯炊き雑用に至るまで、全て本国へと送り返した上で出張所の建物は破壊した。

魔石等の商取引で訪れていた商船なんかも、悉く港から叩き出し入港は勿論、領海内への再侵入を禁止しそれを破った場合は拿捕ないし撃沈すると通達する程徹底したモノで、

 

それは最早、事実上の宣戦布告であった。

 

いくら第3外務局が態度を軟化させていようが、パーパルディア皇国の顔面に泥を投げつけるがごとき行為を皇帝が許す筈が無い。

皇帝は大なり小なり日本皇国の存在を気に掛けているという話だが、かと言って文明圏外の蛮族とするアルタラス王国の行為を許すかどうかは別だ。

すぐにでも監察軍ないし皇軍が送られてくるであろうと、アルタラス王国は直ちに戦時体制へと移行。

パーパルディアと面する北部沿岸部の揚陸可能な地点の沿岸要塞へと陸軍が集結し、海軍も従来帆船に日本の技術によって改造が施された魔導戦列艦がル・ブリアス沖に集結。

その国ごとの教導を面倒に思った日本の提案によって、ロデニウス大陸で一元的に行われていた操艦訓練に参加していた航空駆逐艦1隻以下5隻の航空戦列艦も直ちに呼び戻された。

 

さて、パーパルディア皇国へと事実上の宣戦布告を行ったアルタラス王国であったが、一つ重要な事を忘れていた。

それが何かと言うと、日本皇国との軍事同盟の内容である。

 

アルタラス王国と日本皇国との間で結ばれた軍事同盟の定める所では、「両国が第三国から宣戦布告を受けた時、参戦の要求が行われた場合には直ちに参戦する義務が生じる」としている。

 

つまり、受け身の戦争の場合のみ要請に基いた参戦義務が生じるのであって、能動的な戦争の場合では参戦の“義務”にはならない。

今回の場合、きちんとした外交文書等による宣戦布告は行われてい無いものの、国交断絶と領海内への侵入船の拿捕ないし撃沈と通達を行ったのはアルタラスの方でパーパルディアでは無い。

 

「宣戦布告はアルタラス王国から行われた」となる訳だ。

 

ターラ14世は命令を行った時こそ頭に血が上っており、この事を失念していたのだが、基本的な命令を出し終わって少し落ち着いて冷静になった時、宰相から指摘されてこの事を思い出し頭を抱えた。

とは言え、今更出した命令を無かった事にはでき無いし、そんな事をパーパルディアが許してくれる筈も無い。

なので、日本皇国へとパーパルディアからの要請文を差し出し、恐る恐るお伺いを立てる事になる。

虫のいい話だが、「この要請文がパーパルディア皇国からの事実上の宣戦布告である」と解釈され、先に宣戦布告を行なったのはアルタラスでは無くパーパルディアであると判断される事を祈って。

 

 

「成る程、アルタラス王国の仰る所は理解しました」

 

日本皇国外務省アルタラス王国担当の鈴原は、アルタラス王国の駐日大使と現在日本の大学に留学中であるルミエス王女から、とある説明...いや、“嘆願”を受けていた。

 

内容は「対パーパルディア皇国戦において、軍事同盟に基づいて支援を要請する」と言うものだった。

日本皇国とアルタラス王国間で結ばれた軍事同盟では、戦争が起こった際に「要請を受ける事によって参戦の義務が生じる」が、それは翻って「要請のない限り参加する義務は無い」という事で、パーパルディア皇国との間で戦争が起こると言うのであれば普通に“要請”とすれば良い。

 

それが、2人がさも“嘆願”であるかの様な態度で挑んで来たのか疑問であった鈴原だったが、聞き進める内に2人の態度について得心した。

現在アルタラス側からもパーパルディア側からも明確な「宣戦布告」はまだ(・・)なされていない状態だ。

しかし、アルタラスは既に国家全体で戦時体制へと移行を始めており、ロデニウス大陸で教導中の航空艦隊を本国へ移動させている。

対するパーパルディアに関しても、アルタラスと同じ様に戦時体制へ移行すると言った様な事は無いが、どうにも西海岸に展開している海軍艦隊と、一部陸軍部隊に動きが有ると【天津神】から報告が来ている。

 

それらの動きが始まったのが、アルタラス王国がパーパルディア皇国との国交断絶を宣言してからだと言うのだ。

宣言に合わせて、アルタラス国内に居たパーパルディアの大使が強制送還されており、国内に滞在していたパーパルディア商人は追い出され、今後一切のパーパルディア船籍の船の領海侵入を拒絶したと言う。

 

確かに、見方によってはアルタラス王国が宣戦布告をしたともとれかねない行動ではある。

とは言え、アルタラス王ターラ14世が何の理由も無くその様な事を行った訳ではなく、どう好意的に受け取っても「有り得ない」と言うか、そもそも好意的に受ける等不可能である“要請書”が、パーパルディアから通達されたのが理由だと言う。

 

アルタラス王国がパーパルディア皇国に朝貢していた事は、鈴原も知ってはいたが、提示された要請書に書かれた内容はアルタラスの主要産業である魔石鉱山の差し出しに始まり、アルタラスが正当な対価を持って日本から得た技術の開示、極め付けは王女ルミエスの奴隷化と、アルタラスによる誇張の為の改変等が行われていないとすれば、確かに正気を疑う様な内容だ。

パーパルディアに滞在している外務省職員からの報告では、近頃文明圏外国を担当する第3外務局は、日本皇国と関わりのある国に対する態度をある程度軟化させているとの事だったが、この態度の変わり様は一体何なのか。

それこそ「アルタラスが日本の威光を借りてパーパルディアと決定的に決別しようと考えて仕組んだ」と邪推してしまいかねない程の掌返しだ。

 

「我が国の行動がそのまま戦争の引き金を引きかねない行為であった事は重々承知しております。我が国は長年パーパルディアの暴圧を受けてきました、今より進んだ技術を手に入れる為、逆らったとして相手になどならない現実。それらを前に、私達は耐えてきました」

 

資料に目を落としたまま考え込む鈴原に、ルミエスが静かに語りかける。

 

「パーパルディアが領地を求める事は他国からの話で知ってはおりました。しかし、それらはその国にとっても利の有る場所であったのです、我が国に提示された様な国の財源の根幹に関わる場所が求められた事はこれまで有りませんでした」

 

他国で行われた領地の差し出しが、二つの国にどの様な利をもたらしたのかは解らないが、確かにアルタラスが要求された魔石鉱山は王国の財源とも言える重要なもので、ここがパーパルディアに抑えられるのは正直なところ日本としても面白く無い。

アルタラスは適正価格で輸出してくれているが、パーパルディアがふっかけてこないとは限らない。

 

「また、貴国から日本皇国から購入(・・)した技術を開示せよなどと言う要求は、断じて受け入れ難い事です。その様な事をしてしまえば、我が国に貴国を裏切る事になってしまいます」

「ご自身の事に関しては、どの様にお考えですか?」

「スズハラ殿!!」

 

駐日大使が声を荒げる、デリカシーの無い質問だと言うのは重々しょうちしている。

しかし、それでも鈴原はルミエスの意思を確認したかった。

これがもし、アルタラス王国による狂言であった場合、ルミエスが日本皇国に留学中と言う、ある意味絶対的に安全な場所にいる事を良い事に組み込まれたという可能性もあり、それ程重く受け止めていない可能性もある。

 

「私の事はそれでも構わないのです」

「殿下!?」

「私の身ひとつで民を守れるのであれば、私ごときパーパルディアに身を捧げましょう」

 

「皇族の誰かとの婚姻」ならまだしも、要求されているのは「奴隷化」だ。

しかも、駐アルタラス大使の言では国として、あるいは皇帝が望んだ訳ではなく「大使が上司への貢物として個人的に求めた」ものだった。

どう考えても、一国の姫君に対する要求では断じて無いし、まともな扱いを受けられるとは到底考えられない。

 

にも関わらず、彼女は「それでも構わない」のだと言い切った。

その瞳は真っ直ぐで、ただ国の事を考えている様に見える。

あるいはアルタラスの謀った事であったとしても、彼女自身は何も知らされておらず、彼女にとっては間違いなくパーパルディアの暴挙であるのかもしれないが。

 

「不躾な質問失礼致しました。ルミエス殿下の御覚悟この鈴原しかと見せて頂きました」

 

そう言って頭を下げる。

裏側がどうであろうと、彼女の覚悟は本物だった。

 

「いえ、構いません。それでスズハラ様」

「この場で即座にお応えする事はできません。なんと言っても“戦争”の事ですから。ですがすぐ様政府へと掛け合いましょう、場合によってはお2人には直接政府と話していただく事になるかと思います」

「わかりました。どうぞ宜しくお願い致します」

 

一先ず「アルタラス王国が宣戦布告した」とされなかった事に安堵しつつ、ルミエス達は深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

「なかなかに上手く行ったでは無いかアルゴス」

 

アルタラス王国による事実上の宣戦布告と言う報告に、慌ただしく終わった会議。

事実確認と調査の為に慌てて動き出したカイオスとエルスタインを横目に、ゆったりとした動きで部屋を移ったアルデは上機嫌だった。

 

「ははっ第3外務局の副局長殿が上手い具合にやってくれましてな」

「成る程。次期(・・)外務局長の椅子でも約束してやったのかね?」

 

メイドに注がせたワインを片手に尋ねると、アルゴスは大きく頷いた。

 

「ええ、現局長殿は何やらお疲れの様ですからなぁ。まぁ、もっとも?あくまでも口約束(・・・・・・・・)ですがな」

「はっはっはっ、確かにな。ま、奴が従順でいれば今後も使ってやれば良いさ」

「おっしゃる通りですな」

 

楽しそうに、嬉しそうに笑い合う2人。

 

「して、この後の動きはどうなっている?」

「既にアルタラスへ上陸予定の部隊へ移動命令を出しております。輸送手段に関しては賛同してくれた海軍第4・5艦隊が受け入れ準備を進めております」

 

パーパルディア皇国軍内部において、陸軍では日本皇国の航空艦に対する知識をそれなりに持つメイガの指揮する皇都防衛軍を除く全ての陸将達が、彼らの企みの賛同者であった。

海軍に関しても、皇都エストシラントの港を母港とする第1・第2・第3艦隊に関しては、直接航空艦を見た事と日本の航空艦の導入を求めているバルスのお膝元である事もあって、最初から声をかける事はなかったが。

直接航空艦を見たことの無い西部の第4・第5・第6艦隊と、東部の監察軍東洋艦隊と同じくデュロを母港とする第7第・8艦隊はそれぞれの思惑から彼らに賛同者した。

第4・第5・第6艦隊はバルスへの敵愾心を持つ貴族指揮官が多い事から。

第7・第8艦隊は下に見てはいても同じ場所を家としていた東洋艦隊を撃破した日本皇国に思う所あって。

 

「我らは偉大なるパーパルディア皇国、世界の頂点たる列強国だ!他者の顔色を伺うなどあってはならん事だ!!」

「さよう、卑怯な奇襲(・・・・・)で旧式の監察軍を破ったからといい気になっている蛮族におもねる必要など断じて有り得ません」

「そして我らは陛下のお心を惑わす奸臣共を排除する」

 

彼等はフェン事変において、監察軍東洋艦隊が撃破された事を話の途中で日本が奇襲を行った事によるとしていた。

そもそもこちら側が先に手を出したと言う事を棚に上げて。

そして、皇帝ルディアスが日本皇国への手出しを慎めと言ったのは、彼らの言うところの奸臣が唆しての事であると決め付けていた。

 

「アルタラスを滅ぼし、奴らが肩入れしているロデニウス大陸を滅ぼしてやれば、愚かな蛮族と言えど皇国の力を思い知り、自らの行いを恥じ入り許しを求めてくるだろう」

「許す代償は技術の献上と全ての国民の奴隷化と言った所ですかな?」

「はっはっはっそれはいい!!」

 

上機嫌になったアルデはグラスを持ち上げる。

アルゴスもそれに合わせてグラスをもちあげ、

 

「偉大なる世界帝国パーパルディアに!」

「パーパルディア万歳!!」

 

 

 


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