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パーパルディア皇国第3外務局 局長執務室
「さて、カスト。戻って来て早々ではあるが、何が有ったのか話してもらおうか」
カイオスはアルタラス王国から強制送還され、エストシラントに到着したばかりのカストを即座に呼び出していた。
「も、勿論です局長閣下」
帰還早々にカイオスに呼び出される、までは
「アルタラス王国の国王が、突如出張所を訪れ軍をもって制圧を行ったのです!私を守ろうとしてくれた衛兵は数名、斬られてしまいたした!そうして奴らは私達を拘束すると、港に停泊していた連絡船に我々を押し込み、軍艦で追い立てたのです!」
カストは身振り手振りを交え、まるで演劇の役者かの様に語った。
「では、何故アルタラス王国がその様な行動に出たのか。心当たりはあるかね?」
「調子づいたのでしょう。ニホンなどと言う国の後ろ盾を得たからと来年度の朝貢をしないなどと言い出し、それに対し我が国が譲歩したからと、自分達はパーパルディア皇国から譲歩を引き出せるのだと勘違いし、思い上がったのでしょう」
自分がアルタラス王へと送りつけた要請書の事など、おくびにもださずまるでアルタラス側に非があるかの様に語る。
カイオスはその言葉に「蛮族風情に譲歩の姿勢を見せるからつけあがったのだ」と、アルタラスだけで無く、その様に指示を出したカイオスへの非難が含まれている事に気が付いた。
「皇帝陛下のご温情を蛮族共は勘違いをしたのですね」
「デミトラ」
カイオスの後ろに控えていたメガネを掛けた男が声を発する。
第3外務局副局長のデミトラだ。
「皇帝陛下のご温情を勘違いしたとして、何故外務局の出張所の強制排除に国交断絶と事実上、宣戦布告とも取れる様な行動に出る?これまで我が国に差し出した奴隷の返還を要求してくる、と言うのであればまだわかるが」
「さて?アルタラス王国が実際に何を考えているのかなど、どうでもいいではありませんか。重要なのはアルタラスが我がパーパルディア皇国に対し宣戦布告を行った。それのみです」
「アルタラスはまだ宣戦布告はしていない」
「“事実上”のなどと言って濁していますが、アルタラスの行いは紛れもなく宣戦布告でしょう」
カイオスの視線が、エルトのリウスの、そしてこの部屋にいる者全ての視線がデミトラへと向けられる。
ただ1人を除いて。
「国家間のやり取りだ、正式な文章が交付されない限り宣戦布告とはならない。今はまだ最後通牒の段階だ」
「国家間の正式なやり取りなど、列強国か百歩譲って文明国との間での事でしょう。アルタラス王国は文明圏外国です。ご納得頂けないのならば言い換えましょう。アルタラスはパーパルディアに叛逆したのです」
全員の視線が、意識が、カイオスとデミトラのやり取りに向けられ、自身から外れた事を確認したカストはゆっくりと扉へと近づく。
「アルタラス王国は主権を持つ歴とした独立国だ、我が国の属国では無い。である以上、外交は正しく行われなければならない」
「蛮族の献上品に対して多少の褒美をやるのが、列強国たる我が国と文明圏外国との正しい外交であったと記憶しておりますが、私の勘違いだったでしょうか?それともそんなに日本皇国へおもねる事が大事ですか?」
「なんだと?」
小馬鹿にした様なデミトラの台詞にカイオスは眉をひそめ、エルトとリウスもまた怪訝そうにしている。
「貴方は...いえ、貴方方は口を開けば日本日本と。皇帝陛下へと日本を擁護するかの様な奏上を行った事と言い、日本と関係のある蛮族共に対する譲歩を行おうとしたりと。まるで日本の意を受けて動いているかの様ではありませんか」
芝居がかった仕草で手を広げ、やれやれと言わんばかりに首を振るデミトラ。
「我々が日本の意を受けているなどと、言い掛かりにも程がある!!」
「事実などどうでもよろしいのです。要するに
思わず声を荒げたリウスに対しデミトラは、それが事実であるか、言い掛かりであるかは関係が無いと吐き捨てる。
「お三方は最近お疲れの様です。少し、お休みになられてはいかがですか?」
➖バン!➖
勢いよく扉の開く音がした。
カイオス達が思わずそちらへ目をやると、扉を開いたカストと完全武装の衛兵の姿があった。
衛兵達は素早く部屋の中に入るとエルトとリウス、第1外務局長と第2外務局長である2人に武器を向け、同行していた2人の秘書にも同じ様に武器を向けた。
「これはなんのつもりだ!!」
勢いよく振り返り、椅子から立ち上がりデミトラへと掴みかかろうとしたカイオスの視線に、突きつけられたピストルの銃口が飛び込んで来た。
「お静かに」
「デミトラッ!キサマ!!」
デミトラは額へ突きつけたピストルの引き金に平然と指を掛けており、
立ち上がろうにも立ち上がらずカイオスはそのまま椅子に戻る事となった。
「クーデターのつもりか?」
「クーデター?何を言うのかと思えばクーデターと?これはクーデターではありませんよ、我々は陛下の御心を惑わす奸臣を排するのですから、クーデターとは言わないでしょう」
絞り出す様に言葉を発したカイオスに対し、デミトラはなんでも無いかの様に答える。
「我々が陛下のお心を惑わしただと?」
「ええ、東の果てに現れた蛮族の国家を他の文明圏外国よりはマシかも知れませんが、それを殊更大きく語りまるで文明国、いや列強国かの様に扱い。あまつさえ蛮族共に甘い対応をする許しを得るなど。
これを奸臣と言わずなんと言います?」
「貴様それでも外務局の副局長かぁ!!今の文明圏外国の情勢を何も知らないとでも言うつもりかッ!!第3外務局長の副局長がッ!!」
カイオスの怒鳴り声にもデミトラは涼しい顔のままだ。
「存じていますよ。日本は必死になって武器を配っている様ですね」
「は?」
「確かに、多少なりとも技術があるのは確かな様ですね。ですが、日本は圧倒的に数が少ない。何せ奴ら島国です、大陸国家である我が国と比べれば悲しくなる程の数しかいないのでしょう。
だからこそ、必死になって仲間を作り、自分を大きく見せようとしている」
「何を、言っている」
デミトラの主張はカイオス達には点で理解出来ないモノであった。
確かに日本皇国と言う国は島国ではあるが、イコール人が少ないという訳では無い。
と言うか、純粋パーパルディア皇国人が大凡7,000万程なのに対して、日本人は億を超えている、圧倒的に負けているのはこちらの方だ。
軍人の数こそ確かにパーパルディア皇国軍の方が多いかもしれないが、それは日本皇国軍の方が進んだ技術を有する為に、なんの生産性も無い軍人を馬鹿みたいに「兎に角数を揃える」なんて事をしなくても良いからだ。
諸外国に売り出されている兵器に関しても、日本からしてみれば鎧袖一触で蹴散らせる様なものでしかなく。
まともに戦力として数えていない可能性の方が遥かに大きい。
そんな事は第3外務局が文明圏外国から集めた情報や、日本皇国の登場以降協調を図ってきた第1・第2外務局から回されてきた情報にキチンと目を通していれば、問題なく知ることの出来る情報だ。
副局長であるデミトラの権限で閲覧できる資料に、それらは間違いなく書かれているのだから。
「最初に神聖ミリシアル帝国を利用し、必要以上に自分達を大きく見せてしまったが故に、我が国に攻め込まれてしまえばメッキが剥がれ、あっという間に滅んでしまうからこそ、必死になって防波堤を築こうとしているのですよ奴らは」
得意げに語るデミトラの声が遠くに聞こえる。
カイオスは目の前が真っ暗になった様に感じた。
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文明国でも余り見ない、列強国と比べても勝るとも劣らない大きな建物。
幅広く取られた道路には、馬の引かない馬車の様なものが行き交い。
夜であると言うのに昼間と変わらない程に明るい。
暗転
馬の下半身に人の上半身を持つ巨大な鉄騎兵が、隊列を組み大地を揺らしながら駆け抜ける。
その姿は雄々しく力強い。
分厚い鎧に身を包んだ鉄騎兵が左手に持つ盾にはクワ・トイネ公国とクイラ王国の国章が刻まれている。
ふ、と上空に視線が移り、空を駆るワイバーンの姿が映る。
否、ソレは生物のワイバーンでは無く、絡繰仕掛けの人工の竜。
編隊を組む絡繰の竜の翼をにはクワ・トイネにクイラ、更にはアルタラス王国や幾つかの文明圏外国の国章が刻まれている。
再び暗転
再び明るくなると、光の翼を広げ先導する巨大艦に続き空を行く10隻以上の戦列艦。
「我こそは空の女王」と言わんばかりのその姿は、紛れもなく強大な艦隊そのものだ。
帆の張られていないマストには文明圏外国の国章が揺れている。
艦隊が速度を落としたかと思えば徐に舷側の小窓を開き、そこから魔導砲が迫り出して来た。
➖ダダダン!➖
一矢乱れぬ砲撃だ。
しかも!
➖ダダダン!➖
次を撃つまでの時間が短い。
また暗転
明るくなると、巨大艦で編成された艦隊の姿が映る。
先頭を行く一際大きな船には
甲板上の魔導砲が
そして
➖ダン!ダン!ダン!➖
間違いなく連射した!
それだけでは無い、先頭を行く船の魔導砲からは光り輝く光線の様なモノが発射された。
その姿はまるで、古の魔法帝国の対空魔光砲をより強力にしたかの様だ。
「・・・・・」
巨大艦の砲撃を最後に終わった映像を無言のまま、また一から再生する。
彼、パーパルディア皇国皇帝ルディアスはもうこの映像を何度も何度も見返していた。
神聖ミリシアル帝国製の撮影魔導具で撮られたこの映像は、パーパルディア皇国の皇帝子飼いの影によって、ロデニウス大陸で撮影されたものだった。
第3文明圏の外、東の果ての蛮地に突如として現れた新興国家【日本皇国】。
文明圏外の蛮族である筈のその国は、世界第一位の列強国神聖ミリシアル帝国が“対話”を求めて
特に関わりの深いクワ・トイネ公国とクイラ王国に至っては既に、文明圏外国の枠を飛び越え、文明国のそれに届くどころか追い越さんとするばかり。
文明国の中にも、日本皇国と国交を結び国力を伸ばさんとしている。
特にパーパルディアの北東に位置するリーム王国は日本主催の【新大陸開発協定】にも参加しており、国力を伸ばす事に貪欲な様だ。
掴んだ情報によると未だ、日本とリームの間では航空艦の輸出に関しては合意がなされていない様ではある*1が、日本の巨大艦でなくとも、文明圏外国が導入しつつある航空戦列艦でも数を揃える事が出来れば、リームは虎視眈々と狙っている北方の属領へと手を出して来かねない。
だと言うのにも関わらず、今足下がぐらつきつつある。
「陛下。
「ルパーサか」
相談役とは言え、皇帝の私室に断りもなく入って来たルパーサを咎める事も無く、ルディアス帝の視線は映像から離れない。
指摘された通り、映像が届けられてから時間が有ればずっとこれを見ている。
「以前、日本の裏にはミリシアルがいるのではないか?と言った事を覚えているか?」
「はい。日本の関わる出来事に、何らかの形で帝国が関わっていた事から、タイミングが良すぎると仰られていました」
「だが、これを見て確信した。ミリシアルは何も関わっていない」
いずれ追い越し、パーパルディア皇国こそが世界の頂点へと立つ。
皇帝に即位してから、幾度もそう明言して来た。
「だからこそ」と言うべきだろうか、ルディアス帝は国で1番神聖ミリシアル帝国と言う国について知っているつもりでいる。
領土を広げ、国を大きくして尚、手の届かない背中。
それ程までにミリシアルは偉大で強大な国だ。
圧倒的な技術力を持つ彼の国は、その技術を外へ出す事が殆どない。
この映像を撮った撮影魔導具も影が密輸したものだ。
軍事技術に至っては尚更だ。
技術そのものは当然として、出来上がったものすら数世代レベルで旧式となった物が、裏で流れているかどうかと言った程度。
陸軍が密輸した対空魔光砲も、たった一つの型落ち品を密輸するのにかなりの労力を必要とした。
そんな国が裏にいて、その技術を使用しているのだとしたら、兵器の輸出なんて事は先ず行われないだろう。
だか、日本皇国と言う国は積極的に兵器の輸出を行なっている。
それに、ミリシアルに詳しいと自負するが故に、ルディアス帝は断言出来た。
日本皇国の技術はこと軍事技術に関して言えば、神聖ミリシアル帝国のそれを超えているであろうと。
いや、軍事技術で超えているのであれば、民生技術に関しても超えていると考えて然るべきだろう。
「勝てると思うか?ミリシアルの背中にすら届かんのだ。その更に先を行く日本の背中は、見えすらしない......勝てると思うか?」
「陛下......」
その言葉はルパーサに話しかけると言うよりは、自分自身に問いかけているかの様だった。
「それで、ルパーサよ何か用があったのでは無いか?」
ルディアス帝は漸く映像から顔を逸らしルパーサを見る。
「はい。アルデ皇軍総司令官殿が謁見を願っております」
○
「つきましては皇帝陛下、アルタラス王国を討ち滅ぼします故、どうか号令を頂きたく」
アデルは恭しく頭を下げた。
第3外務局副局長のデミトラから「事は成った」との一報を受け、「アルタラス王国からの宣戦布告」に関する報告をルディアス帝へと奏上し、「アルタラス王国討伐」の勅命を願っている所だ。
アルタラス王国軍など別に監察軍でも蹴散らせるが、今回は「見せしめ」の様も含む。
その為、皇軍を持ってより圧倒的に、より残虐的に殺す必要がある。
既にデミトラが半数以上を掌握している監察軍と違い、皇軍を動かすには皇帝の赦しが必要となる。
「アルタラス王国は真に宣戦布告を行なったのか?」
「は、第3外務局副局長のデミトラが確認しております」
どうにも慎重な様子を見せるルディアス帝に内心首を傾げながら答える。
「あの国にはムーの作った飛行機械用の滑走路があった筈だ、そこにいるムー人についてはどうする?」
なる程、皇帝の懸念はムーだったか。
「は、それにつきましては既にムーの大使館へと連絡済みで、戦争が終結する迄は国外へと退去させるよう要請しております」
「では日本皇国に付いてはどうだ。彼の国の人間もアルタラスには居た筈だな?」
「は、いえ...」
日本皇国、忌々しい名前が聞こえた。
「どうした?」
「いえ、日本皇国には、未だ通達は行なっておりません」
と言うかするつもりなんて無かった。
今回アルタラス王国を選んだのには属国や属領などに対する見せしめだけでなく、「日本に手を出させる」という目的もあったからだ。
皇帝から「手出し無用」とされてしまっている以上「アルタラスに居る日本人が巻き込まれて、それに怒った日本が戦争を仕掛けてくる」というのが理想的な形だ。
日本人が逃げ遅れたのはアルタラスの責任で、巻き込まれてしまった事は悲劇であるが、致し方ない事であったが別に「日本人を狙って殺した訳では無く」こちら側から「手を出した」訳では無い。
最終的に戦争を仕掛けてくるのは日本で、パーパルディアは仕方無く応戦しこれを撃破し併合する。
これがアルデ達の描いたシナリオであった。
もし、これをカイオス達が知れば「日本皇国の能力を一切考慮しおらず。また、日本皇国とアルタラス王国の間で結ばれた軍事同盟すら完全に無視した*2」馬鹿の描いたシナリオだとこきおろしただろう。
「何故ムーと違って、日本皇国には通達を行わない?」
「ムーは列強国であります、しかし日本は!」
「文明圏外の蛮国であると?」
「は」
ルディアス帝の鋭い視線がアルデへと突き刺さる。
「お前は、なんの資料も読んでいないのか?情報局が上げてきた報告も、第1外務局の報告も、軍事関係は優先してお前に届けられている筈だろう?それにだ、グラメウス大陸に派遣している部隊からの報告も、そろそろ入って来ている頃では無かったか?」
「は...それは、いえ...」
ルディアス帝に指摘された通り。
日本皇国に関連する資料と銘打たれている物は勤めて目を通さずにいた。
いや、最初の頃こそ目を通していたのだが、そこに書かれていたのはどれもこれも眉唾で。
自国はおろか、かの神聖ミリシアル帝国に関する資料でも見た事の無いような事が書かれており、どうにも胡散臭くなって読むのを辞めてしまった。
陸軍派の計画に賛同してからはより一層、目を通さなくなった。
「アルタラスに手を出せば確実に日本は出てくる。そう成った時どの様にして勝つつもりだ?」
「こ、皇帝陛下が何を仰います!!我が皇軍は世界最強の軍!日本軍など容易く蹴散らしてご覧に「何が容易くだたわけが!!」
ひっ」
アルデのなんの説得力も無い言葉はルディアス帝の怒鳴り声にかき消される。
「お前は日本皇国軍の何を知っている!リンドヴルムより間違いなく強力なあの鉄騎兵の力を!ワイバーンロードよりも強大な!あるいはオーバーロードよりも強大かも知れない絡繰の竜の力を!何よりも、あの空飛ぶ軍艦の力を!お前は知っていると言うのか!?今の発言は!それらを全て完全に把握した上での発言だろうな!?」
ルディアス帝は玉座から降り、アルデに詰め寄って捲し立てる。
皇帝らしからぬそんな姿は長年使えるルパーサですら、一度も見た事が無かった姿であった。
「良いか!アルタラス王国を攻める事は許さん!!国交の断絶で魔石の輸入が途絶えるのは痛いが鉱山は他にもあるのだ!あの国から攻めてくるメリットなど無いのだから放っておけ!!」
ウチのルディアスさんはこんな風になりました。
いや、原作でもミリシアルにはまだ届かない的な事言ってたから。
多分、冷静に分析出来る時間と情報さえあれば、まともな判断出来る人だとは思うんですよね。