魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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火種は燃え上がり

「余はカイオスを呼んだのだが?」

 

己の叱責にアルデがすごすごと引き下がっていった後、ルディアス帝は直ぐに第3外務局へと連絡させカイオスを呼び出していた。

アルタラス王国へ直接対応している第3外務局の把握している情報を聞く為であったのだが。

今、ルディアス帝の前で膝をついているのはカイオスではなく、副局長のデミトラであった。

 

「は、カイオス局長におかれましては急病でお倒れになりまして。陛下のご質問には私がお答えする様にと、仰せつかりました」

 

実際にはカイオスはエルトとリウスと共に、第3外務局で軟禁されているのだが、馬鹿正直にそれを話す訳にもいかない。

予定通りに事が進んでいれば、文明圏外の国に迎合しようとする奸臣を排したと、胸を張って報告していた筈なのだが。

アルデが叱責され、アルタラス王国への出兵も許可されなかった事から、どうにも思った通りの状況では無いと判断し、カイオスは病気療養に入ったと説明する事になった。

 

「そうか。では変わりにアルタラス王国の一連の動きに関して、第3外務局が掴んでいる内容を説明せよ」

「は!去る11月15日、アルタラス王国軍が第3外務局の出張所を()()し衛兵数名を殺害、駐アルタラス大使カストを拘束、第3外務局の保有する連絡船をもって「その様な事を聞いているのでは無い!」ッ!」

 

アルタラス王国軍が第3外務局出張所を制圧して、大使等を強制送還して国交断絶を通達して来たなんて事は、既にアルデからさも「アルタラスが先に手を出して来たのだ」と言わんばかりの言い回しでもって聞いている。

 

「現状に至るまでの経緯は既に聞いている!余が聞きたいのは何故アルタラスがその様な行動に移ったのかと言う事だ!」

「あ、アルタラス王国は日本皇国の後ろ盾を得た事により増長し、来年度からの朝貢に関する陛下の御慈悲を過大に捉え、自分達は皇国に対してもの言える存在であるのだと、思い上がったが故の行為であると、第3外務局では判断しております」

 

デミトラはルディアス帝の剣幕にビクビクしながら答える。

 

「余は日本皇国に関する事柄は、外務局長達へと一任している。我がパーパルディアと文明国や文明圏外国で行われて来た、献上品に対する技術の下賜に関して、日本との国交があるからと来年度から行わないと言い出した国への対応含めてだ。

そしてアルタラスもまた、同じ様に我が国とのやり取りを無くすと通達して来ていたな?それに関して第3外務局は高純度魔石の輸入だけは確保しようと協議をしていた筈だ。

カイオスの途中報告ではアルタラスが日本へと輸出している金額での魔石の購入と言う方向で話が纏まりつつある。

そう聞いていたのだが?」

 

客観的に見て、パーパルディア皇国と日本皇国の技術力は圧倒的に日本皇国の方が高い。

日本皇国は他国に対して寛容であり、法的に輸出が認められていない技術はあるものの、金額的に購入可能なものであれば普通に売ってくれる。

それだけで無く、さらに多くの物を購入出来る様になるための国内開発にも、気前よく金を出してくれるのだ。

例え売却される技術の大半が民生用のもので、日本から見てみれば少々古臭いものであったとしても、土地や奴隷を差し出し、屈辱的な思いをして手に入るパーパルディアの技術よりも()である。

であれば多くの国がパーパルディアから離れて行こうとするのも、あるいみ当然と言えば当然だろう。

 

影響力の低下という面では問題であるし、メンツが潰されているという思いも無い訳では無いのだが、その様な国は大半が文明圏外の国である為、ルディアス帝としてもそこまで深刻には受け取っていない。

第1外務局からは日本皇国はパーパルディア皇国の属領や属国に対し、手を出す事は無い*1とハッキリ明言したと報告を受けている。

 

ルディアス帝とて「日本皇国は文明圏外の新興国である」という情報しか受け取っていなければ、この様な事は断じて受け入れ難いものであったが、幸いにしてと言うべきか日本皇国という国は、最初の接触からしてインパクトのあるものであった。

日本の勢力圏であるロデニウス大陸へと送り込んだ私的な間諜(皇帝の影)からの報告でも、その力の一端は感じ取る事が出来る。

 

故に文明圏外の国々対するカイオスの融和的方針を咎める事は無かった。

 

「にも関わらず、アルタラスが此度の様な行動に出たのは、それ相応の理由があっての事であろう。何故それを第3外務局が把握していない?」

「そっ、それにつきましては...いえ、その...」

 

答えられない。

答えられる筈がなかった。

どう見ても、日本との戦争を望んでいないと思われる皇帝に対して、まさか馬鹿正直に「日本とアルタラスに先に手を出させる為に、アルタラスが到底受け入れられる筈の無い“要求”をカイオスが行なっている交渉を無視して行なった」などと、答える訳にはいかなかった。

 

そんな事をすれば最後、間違いなく罷免されるし下手すれば反逆罪で投獄されるかもしれない。

そうなれば、アルデや陸軍派貴族達は間違いなくデミトラを切り捨てるだろう。

 

「もう良い。やはりお前では無くカイオスに尋ねるとしよう」

「で、ですがその、カイオス局長は、病気療養に......」

「ならば見舞いも兼ねればいいだろう」

 

不味い不味い不味い。

デミトラは必死に考えを巡らせる。

ルディアス帝が本気でカイオスの見舞いも兼ねて、話を聞きに行こうとするのであれば、当然カイオスの屋敷に先触れが出されるだろう。

そうなれば、彼が屋敷に帰っていない事も、急病で倒れたなどと言う連絡が無い事もバレてしまう。

屋敷の使用人を抱き込めているならまだしも、彼らはカイオスの信頼厚い者達だ、金だなんだで抱き込める様な相手では無いし、変に接触すればそこから計画が漏れかねないと、接触すらされていない。

 

どうすればいい?

 

ルディアス帝の先触れに先んじて使用人に手を回す?

 

いや、無理だ。

難しいからと今まで接触も無かった相手、城からの使いより先に屋敷につく事はできたとしても、僅かな時間しか得られないだろう。

となると、その僅かな時間で使用人を抱き込むなど不可能。

 

いや、味方につけるのが無理ならば脅すのはどうだ?

 

だめだそれも無理だ。

脅すとなればそれなりの“武力”が必要になる。

そのためには一度第3外務局に戻って、こちら側に付けた衛兵を連れて屋敷に向かわなければならない。

そんな事をしていればどうしたって、屋敷に着くのは先触れより後になってしまう。

 

城の衛兵を使えれば良かったのだが、彼等の中でこちら側に居るのはほんの僅かな数だけで、しかもその僅かな数の衛兵はアルデの側に居る。

アルデの下に行って衛兵を貸してくれるよう頼む事をしていれば、第3外務局に戻るのと対して変わらない時間が掛かる。

しかも、城の衛兵を連れ出したとなればたとえ間に合ったとしても、疑念の目を向けられるのは間違いない。

 

まてよ?

さっきルディアス帝は「アルデに聞いた」と言っていた。

実際に計画ではアルデがルディアス帝に、アルタラスとの開戦の許しを得ていた筈だ。

だがアルデからは計画進行の連絡が来ず自分が、正確にはカイオスが呼び出されている事と、ルディアス帝の態度から察するにアルタラスとの開戦は許されていない。

となると、アルデは陸軍司令と共に「計画の変更」を行う筈だ。

 

計画が変更されるとなると、想定されるのはルディアス帝の押し込め・暗殺・他の皇族を担いだクーデター。

兎も角、他国の影に怯えて文明圏外の蛮族の行動を許すルディアス帝に「皇帝の資格無し」と行動する可能性が極めて高い。

何せ、陸軍とこちら側に付いた海軍の艦隊は許しが得られる事を前提に()()()()()()()()()()()()()、最早後戻りは出来ない。

 

ならば、ならば先んじて行動に移すか?

自分がここでルディアス帝を......

 

 

深い思考に嵌り周囲への注意が疎かになっていたデミトラは、その瞬間まで謁見の間に新たな人物が入って来た事に気付け無かった。

 

「随分と考え込んでいるじゃないかデミトラ」

「は?」

 

肩に手を置かれ、話しかけられるその瞬間まで。

その声に、この場で今、聞くはずのない声に、デミトラの思考は一瞬にして現実に戻された。

 

「ば、ばかな......」

 

恐る恐る振り向いたその先には、第3外務局で軟禁されている筈のカイオスの姿があった。その背後にはエルトとリウスの姿まで見える。

 

「な、そんな!誰が裏切った!?」

「裏切ったのはお前だろう?私を陛下を、何よりもこの国を」

 

思わずと言った様子で声を荒げるデミトラに、カイオスは静かに語りかける。

 

「裏切っただと?私が?ちがう!!私は、私達は!!この国を正そうとしただけだ!!蛮族に迎合し!陛下のお心を惑わせる貴様ら奸臣を排するのだ!!」

 

そんなカイオスの態度が癪に触ったのか、立ち上がり一気に捲し立てるデミトラ。

 

「裏切ったのは私では無い!貴様らだ!貴様らが国を!臣民を裏切った!!そして、それは皇帝ルディアス!!貴方もだ!!」

「貴様ッ!!」

 

カイオス達だけでなく、ルディアス帝にも噛み付き、詰め寄ろうとするデミトラ。

咄嗟にカイオスとリウスによって押さえ付けられる。

それでもデミトラは口を閉じ無い。

 

「貴方が!貴方こそが裏切った!!誰よりも誇り高かった!!誰よりも苛烈だった!!そんな貴方の今の姿は何だ!!日本皇国など等いう文明圏外からやって来た聞いた事もない様な国に遠慮し!!その影に怯えて蛮族共の行動を赦そうとする!!

本来の貴方であれば!文明圏外国の台頭など等!許す筈が無かった!!愚かしい蛮族の愚かな行動を!赦す事など無かった!!

違うか皇帝ルディアス!!違うと言えるのかぁ!!」

 

デミトラの叫びが謁見の間に響いた。

 

 

 

「陛下はアルタラスとの開戦をお認めにならなかった、と?」

「ああそうだ、酷く日本軍を恐れ、アルタラスから攻めてはこないのだから捨て置けと」

 

アルデの言葉に、アルゴスは信じられないとばかり頭を振る。

 

「まさかそこまで()()()()おいでだったか......」

「その様だな」

 

2人揃って溜息を吐く。

日本皇国に迎合したカイオス達奸臣によって、ルディアス帝が誑かされた。

それが彼等にとっての真実だった。

 

彼等のルディアス帝に対する忠誠は確かに本物ではあった。

彼等はルディアス帝の即位によって引き立てられ、現在の地位についたのだから。

この10年で、「大国」でしか無かったパーパルディア皇国をさらに大きくして来た。

「大国」から「列強国」と呼ばれる国へと押し上げた。

ルディアス帝は間違いなく覇者であったから、若い皇帝に使われる事も苦では無かった。

 

だがいつからだろう?皇帝への忠誠だけで無く、「自身の利益」を求める気持ちが大きくなっていた。

ルディアス帝が「きちんと報告された事」を割とそのまま鵜呑みにする事をいい事に、征服地で行われている皇帝が許した事以上の行為にも、「利益」次第ではだまっている様になった。

 

そうして得られる富と、フィルアデス大陸で最強の「列強国」である自分達へと向けられる周囲の恐れと畏れを含んだ視線に、優越感を感じソレに酔う様になった。

 

自分達の利権と優越感を守る為にも、パーパルディア皇国と言う国は覇者であり続けなければならい。

それが彼等に共通した認識であった。

属領や属国の蛮族など、搾取の対象でしか無い。

蛮族同士の関係性に考慮し、その連携に()()()()()情報し、まるで()()()()()()()()扱うなどあってはならない。

だから到底、ここ最近の外務局の動きを認める事も受け入れる事も出来はしないし、それを許容しているルディアス帝にも不審の目を向けるのも仕方が無い事であった。

彼らにとってルディアス帝と言う人物は自分達と同じ様に、あるいは自分達以上に蛮族に対して容赦の無い人物の筈であった。

 

「陛下は、陛下は変わってしまわれた」

「それもこれも蛮族やミリシアルに迎合する愚か者共のせいだ!」

 

ルディアス帝にとって不幸だったのは、彼自身が優秀であり過ぎた事だろう。

正しい情報さえ掴めれば多角的に物事を見る事が出来、理想を掲げても現実を見る事が出来る彼は、無意識の内に他者にもそれが出来るのだと考えてしまっていた。

自分が見出し、実際に優秀であった者達ならば、自分と同じモノを見る事が出来同じ様に考える事が出来ると。

 

だが彼の指導によって得た「勝利」が、多くの者の目を曇らせた。

 

アルデ達だって、かつてはきっとその様に出来たのだろう。

しかし、度重なる勝利が、上を目指すのでは無く下を踏み付ける事に満足を得てしまった彼等は、いつの間にかルディアス帝と同じモノを見ている様で見ていなかった。

 

変わってしまったと言うのであれば、それはきっとアルデ達のほうだろう。

 

「まぁ、既に奴らは排した。流石に殺す事は()()出来ないが➖バタンッ!!➖なんだッ!?」

 

今はまだ出来ないが、いずれエルト達を殺してしまおうと言い掛けたアルデの言葉は、何者かが勢い良く扉を開けた音に遮られた。

怪訝な目を向けるアルデとアルゴス。

仮にも王城内の皇国軍総司令官の執務室、その奥にある私的スペースだ、許しもなく入って来れる者などそうはい無い。

転がり込む様に入ってくるとなれば尚更に。

 

「なんだ貴様!」

 

入り込んで来た者の姿、本来なら入ってくる事すら許され無い様な存在である衛兵に、アルゴスが声を荒げる。

 

「まあまて、アルゴス。見た事がある顔だ、確か謁見の間の守衛に紛れ込ませた者だ。なにがあった?」

 

その衛兵が自身が抱き込んだ物だ者だと気付いたアルデが問う。

 

「きっ緊急です!デミトラが謁見の間にて暴露し(はき)ました!謁見の間には第3外務局にて幽閉されている筈の各外務局長の姿も!!皇帝陛下は皇都防衛軍にお二人の身柄を拘束する様御命令なされました!!」

 

「「なっ!?」」

 

想定外の事態である。

デミトラが召喚された事は知っていたが、寧ろ彼がカイオスのやっている事を含め糾弾し、自分達の正当性をルディアス帝へと訴えてくれれば良いと思っていたのだが。

生憎と、アルデ達の期待に応えられるほど、デミトラは役者では無かったらしい。

 

「アルデ閣下!どうなさる!?」

「周囲に待機している者を集めろ!我々が抜け出す時間を稼ぐのだ!!」

 

アルゴスに問われたアルデは開いたままの扉の向こう、執務室に待機するこちら側の衛兵達に命令を下す。

報告に来た衛兵の言葉に驚愕の表情を浮かべていた彼等は、その命令を受け弾ける様に動き出した。

 

 

 

カイオス達の登場によって、感情を爆発させたかの様にルディアス帝に詰め寄ったデミトラは一転、慟哭しながら自分達がどれだけ国を皇帝を思い行動しようとしたかを語った。

アルデ達にとって余計な事に、何を行ったのか、計画の中心が誰であるのかもしっかりと。

 

ルディアス帝達自身、デミトラの訴えに感じ入る事が無いでも無かったが、ルディアス帝は赦す事なくカイオス達を()()()()()皇都防衛軍に対し、アルデ及びアルゴス以下エストシラントにいる計画派の拘束を命じた。

 

皇帝の命を受け、計画の芽を知っていながらも報告出来なかったら事を謝罪すべく、自ら皇城へとやって来ていたメイガはすぐ様動いた。

皇城内の衛兵全てを信用する事が出来なかった為、カイオス達の護衛と、最悪の場合を想定し皇帝の護衛の為連れて来た兵士に謁見の間の防備を固めさせると、念の為城門から入ってすぐの所に待機させていた部隊に、アルデ達皇城内にいる計画派の制圧を命令。

また、皇都防衛軍の基地に対して、エストシラントを遠巻きに包囲を命じた。

包囲を遠巻きとしたのはエストシラントの市民に、突然皇都防衛軍が皇都を包囲、しかも外向きで無く内向きに包囲するとあっては要らぬ不安感を与えてしまうと判断した為であったのだが、残念な事にこれは失策となってしまう。

 

 

「急げ!急げ!!」

 

皇城へと突入した皇都防衛軍部隊は順調にアルデの執務室へと向かっていた。

アルデ達が何処にいるか迷う事が無かったのは、皇帝が拘束を命じた瞬間に報告へと走った怪し過ぎる衛兵を「アルデ達の居場所がわかればありがたい」と、拘束させず追いかけてさせたからだ。

 

執務室まであと少し、ここまでは一切の妨害が無かった。

つまり相手は防御を固めたか、あるいはやけになって皇帝の命を狙いに行ったかなどちらか。

そう考えた部隊長は声を張り上げる、すると先頭を走っていた兵士が声を上げる。

 

「前方!バリケード!!ッ!?伏せろー!!」

 

➖パパパンッ➖

 

パーパルディア皇国軍の兵士であれば聴きなれたマスケットの発砲音。

 

「ぎゃっ!」

「ぐあッ」

「ガァッ!」

 

咄嗟に伏せられなかった何人かが凶弾に倒れる。

 

「くっ盾持ちは前にでろ!!」

 

部隊長の命令に、盾を持っていた為に少し遅れていた兵士達が前に出て壁を作る。

 

「撃ち返せ!!」

 

➖パパパンッ➖

 

命令一下、兵士達は起き上がり、膝立ちになって盾の隙間から発砲する。

 

「ぐっ」

「ぎゃァッ」

 

しっかりとしたバリケードが築かれている為に、被った被害と同等とは行かないものの、相手側にも被害を与える。

 

「これは完全な反乱だぞ!!メイガ閣下へご報告しろ!!」

 

後ろの方に居た兵士が片道を引き返し姿勢を低く走り出す。

 

➖パパパンッ➖

 

部隊長の声はバリケードの向こう側にも聞こえていたであろうに、衛兵達は変わらず撃ってくる。

元からそういう覚悟であったのか、それとも開き直っているのか。

 

「くそったれが!撃ち返せ撃ち返せ!!」

 

➖パパパンッ➖

 

バリケードは有るが、やはり練度の差であろうか。

どちらかとと言えば室内での近接戦に長けた衛兵は徐々に、マスケットを撃つ事を専門とする防衛軍に撃ち負けて行く。

衛兵が相手になる可能性が高いと、マスケットを装備した部隊で先行して正解であった。

暫くして反撃が無くなった。

 

「前進しろ、ゆっくりでいい」

 

盾持ちを先頭に、ゆっくりジリジリと近付いて行く。

バリケードの向こうから起き上がってくる気配は無い。

やがてバリケードまで辿り付き、一部をどかして内部に入り込むと、油断する事無く1発ずつ頭に叩き込む。

 

「制圧を確認」

「よし、続いて室内を制圧、皇軍総司令官閣下及び陸軍総司令官閣下を拘束する」

 

緊張した面持ちで扉へと近づく。

外にいた衛兵達が全てとは限らないのと、仮にも自分たちの遥か上の上官が相手である事が、若干彼等の動きを固くさせる。

 

盾を持った兵士2人を先頭に、その影からマスケットを構えて突入なら姿勢を取る。

最後尾の部隊長が準備が整った事を確認し、ハンマーを持った筋骨隆々な兵士に頷く。

 

➖バンッ➖

 

思いっきり叩きつけられたハンマー、鍵がかけられていたり、扉の前に何かが置かれている様な事は無かったらしく、勢い良く開く。

 

「行けっ!」

 

すかさず室内へと雪崩れ込む。

 

「動くなっ!」

 

声を張り上げるが、執務室にはアルデの姿もアルゴスの姿も無い。

 

「奥だ」

 

不自然に開いたままの私的スペースへと続く扉。

そこから中へと踏み込むと、そこにもアルデ達の姿は無く、代わりに年若いメイドが1人。

 

「ッまてっ」

 

怯えた様子のメイドが手にしたモノに気付いた誰かが声を上げる、彼女の手には一振りのナイフ、その切っ先は彼女自身の喉に向けられている。

 

「早まるなっ!」

 

部隊長が止めようと動くが、一歩遅く。

ナイフは彼女の喉へと突き刺さり、身体が崩れ落ちる。

 

「くっ衛生兵ッ!」

 

幸いにして、深くは刺さっていない様子だ。

おそらく覚悟を持ってやった訳ではなく強制されたのだろう、彼女の手つきに躊躇いがあったおかげだ。

メイドを駆け寄った衛生兵に任せ、部隊長は部屋の調査を命じる。

アルデ達の姿がない以上、ここからは既に逃げられている。

この執務室は角部屋で有る為、バリケードの向こう側から逃げたと言うのは考え難く、となるとこの部屋の何処かに隠し通路の類がある筈だが......

 

 

 

 

結果的に、あの後アルデ達が皇城内で発見される事は無かった。

 

既に皇城からは逃げ出したものとして、皇帝の許しを得て慌てて包囲を縮めた皇都防衛軍や、あちら側に付かなかった衛兵を使ってエストシラント中を捜索したが、それでも彼等を発見拘束する事は叶わなかった。

 

 

翌日、皇帝の命令として全陸軍に対し国内での捜索命令が出される事となったのだが、その命令が発せられるその直前。

皇国全土に対する広域通信が行われた。

 

発信源は聖都パールネウス

 

発信者はパーパルディア皇国租領王シルディウス

 

発信内容はルディアス帝の政策の否定と

ルディアス帝を排し自身が皇帝となるという宣言

 

かくして列強国が一角

パーパルディア皇国を二分する内戦が始まった。

 

*1
日本皇国としては属領・属国含めパーパルディア皇国として認識している。故に、それに手を出すのは内政干渉であるという判断を下した。


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