魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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対岸の火事か、それとも......

「パーパルディア皇国にて内戦勃発」

と言う一報に、

日本皇国政府と国防総軍は我が耳を疑い。

アルタラス王国王ターラ14世はポカンとした表情で聞き返し。

リーム王国は千載一遇のチャンスに湧いた。

 

 

日本皇国としては既にパーパルディア皇国の市場に参入出来ているならまだしも、漸くその兆しが見えて来た程度の段階である為、周辺各国へと飛び火さえしなければ然程問題なかった。

懸念事項としては西海岸で陸軍部隊を乗船させていた艦隊だが、コレがアルタラスを侵略する為の戦力なのか、海側からエストシラントを強襲する為の戦力なのか、今一判断がつかない事が挙げられる。

 

内戦を起こす前に外に敵を作るような真似をするとは考えられず、状況的にコレは元々アルタラスへと侵攻する為の戦力であったと考えられるが、内乱へと至った現状においてそのままアルタラスへと派遣される可能性は()()()()()()()無い筈だ。

とは言え宇宙から俯瞰的に見下ろしているだけなので、そもそも内乱自体どの様に別れているのか判らないし、この戦力がどちらに付いているのかも現状判らない。

一応、一連の事態に合わせて「邦人保護」を名目にアルタラスへと海軍一個戦隊(巡航艦1隻と駆逐艦4隻)が派遣されている為、最悪の場合でもアルタラス王国海軍の航空艦と航空戦列艦と合わせれば、問題無く対処出来ると判断され、監視を継続というところに収まった。

 

結局パーパルディアの内戦に対応して、日本政府が指示したのは外交官の速やかな帰国で、国防総軍が新たに指示したのがグラメウス大陸に居るパーパルディア部隊の監視だけであった。

まぁ帰国を指示した外交官からの報告で内戦の構造を知ると「現政権(皇帝派)に倒れられると困る」と、なんとか皇帝派を援護する口実作りに頭を悩ませる事になるのだが。

 

 

日本皇国が提供してくれる情報から、パーパルディアは攻めて来る気満々だと確信していたターラ王は内戦勃発の報告に、一瞬理解が追いつかなかった。

それはそうだろう、パーパルディアは明らかにアルタラスに喧嘩を売ってきたし、アルタラス進攻部隊と思わしき戦力の移動も確認されている。

迎え撃つ為、戦力を集結して待ち構えていたのだが、まさかのコチラを放置しての内戦だ、ターラ王がポカンとしてしまうのも仕方が無いだろう。

とは言え、パーパルディアの脅威が完全に去ったと言う訳では無いのがもどかしい。

日本はアルタラス進攻部隊と思われる陸軍部隊は乗船した船から降りておらず、艦隊自体今にも出港しそうな姿勢を見せていると言ってきている。

日本軍はこの戦力が皇帝派か反乱側かの判断は付けられないが、内戦が起こっている現在の状況において、どちら側の戦力であったとしてもアルタラスへと侵攻してくる事は、まずあり得ないだろうと判断している様であるが......どうにも嫌な予感がしてならない。

 

ターラ王の懸念は続けて齎された情報にあった「陸軍は皇都防衛軍を除き反乱側にある模様」と言う情報を見て、さらに強くなる。

反乱側の陸軍戦力を乗せたままの海軍艦隊が、皇帝派にあるとは考え難く、この艦隊が陸軍の排斥に動いたり、同じく西部海岸に居る他の艦隊が陸軍を乗せた艦隊を放置している以上、西部3個艦隊は全て反乱側にあると考えるべきだ。

今の所東部の2個艦隊は動きを見せていないとの事だが、最悪皇帝派にはエストシラントの3個艦隊だけしか付いていない可能性もある。

 

そうすると、戦力的に見て皇帝派はジリ貧で、反乱側は余裕がある事になる。

皇都防衛軍と皇都3個艦隊はおそらく装備・練度共に他の部隊よりも高い筈であるが、それでも多勢に無勢である。

それに反乱側は皇都の艦隊を無視しても何ら問題無いのだ。

陸上戦力で圧倒している以上、エストシラントを含む皇帝派をジリジリと締め上げていけば良く、態々海軍を動かす必要も無い。

皇都の艦隊が西部あるいは東部の艦隊を討伐に動くかもしれないが、幾ら最新の装備が優先されている皇都艦隊であっても、1個艦隊ないし2個艦隊で同数や上回る数の艦隊を相手に、無傷で勝利出来る筈もなく。

確実な勝利を求めるならば全力出撃しかないが、そうすると討伐対象にならなかった方の艦隊が、エストシラントに陸軍兵士を満載して押し寄せるだろう。

そうなってしまえば最早、皇都防衛軍だけで守り切れる筈もなくあっという間にエストシラントは陥落するだろう。

となると、皇帝派は容易に艦隊を動かす訳にはいかなくなり、結果として反乱側の艦隊は自由に成る。

 

ならばその自由になった艦隊と、余裕のある陸軍戦力でもって、アルタラスへ進攻して来る可能性が全く無いと言い切れないのが、パーパルディア皇国人と言う人種だ。

何せ連中は「アルタラス王国なぞ片手間で制圧出来る」とか本気で考えているだろうし、既にアルタラス攻めをするのだと考えているであろう準備済みの兵士達は「同国人同士で殺し合うよりは文明圏外国で好き勝手やりたい」と考える可能性が非常に高い。

 

そう考えるといよいよもって、アルタラス侵攻が後回しにされる可能性は限りなく低いとターラ王は確信する。

故にアルタラス王国軍へはパーパルディアが内戦に入ったとしても気を緩める事なく厳戒態勢を維持する様にと指示が出された。

 

 

パーパルディア皇国の内戦に、頭を抱えたのが日本皇国とアルタラス王国であったとすれば、歓喜したのがリーム王国であった。

リーム王国はパーパルディア皇国の北東部に位置する文明国で、フィルアデス大陸の第三文明圏内序列では、パーパルディアとその属国パンドーラ大魔法公国に次ぐ2位の地位にいる。

軍需産業に力を入れており、第三文明圏及びその周辺国家の中では列強であるパーパルディアを除けば最強クラスと言える国家で有るのだが、そのすぐ南にパーパルディア皇国が存在する事によって、その拡大を阻まれてきた歴史がある。

 

また、文明圏と圏外の境に位置する事から、常日頃から南のパーパルディアに劣等感を感じ、北のマオ王国に対して優越感を感じる事で心のバランスを保っている国民性な国なのだが、野心と言うものに事欠かない国でもある。

領土拡張の機会を虎視眈眈と狙っており、パーパルディア皇国での内戦というニュースは正に千載一遇のチャンスと言えた。

 

パーパルディア中に張り巡らせた諜報網から、陸軍は皇都防衛軍を除いて反乱側にあり、そちらには戦力的余裕もある事は分かっているが、それでも「内戦」だ。

一つの国の中で同国人同士が殺し合うのだ、減るのはパーパルディアの兵士だけ、強敵が自分達で勝手に戦力を減らしてくれるのだからありがたい事この上ない。

「パーパルディアの全土を制圧」などと言うのは流石に夢を見過ぎだが、直接接する属領とあわよくば皇国の工業都市であるデュロを落とす事ができれば、パーパルディアの技術とその生産設備をそっくりそのまま手に入れる事が出来る。

 

問題はそのデュロにある皇国陸軍三大基地だ。

日本皇国との交易で手に入れた新兵器があれば、装備で本国軍に劣る属領統治軍を退ける事は程難しく無いと考えられるが、デュロにいるのは正真正銘の皇国軍で、しかも相手は基地と言う名の要塞の中に居る。

仮に日本製の武器を使用したとして、容易に落とせる様な相手では無い。

そしてこの基地の部隊はリーム軍がデュロにまで到達する前に、或いはリーム軍が南下を始めパーパルディア皇国領内に足を踏み入れた時点で、迎撃の為北上して来る可能性が高い。

双方ともに総力を上げた内戦ならば兎も角、反乱側は皇帝派に対して戦力的に優位で余裕があるのだから。

 

そこで、属領を一つ落とし防備を固めてデュロの部隊がどう動くか様子を見よう、という方向で話が纏まろうとした。

 

したのだが

 

デュロの間諜からデュロを泊地とする皇国海軍第7艦隊と、陸軍に大々的にでは無いものの動きが見られるとの報告が入った。

最初はエストシラント攻略の為の動きだと考えられたのだが、報告には兵士達がしきりに「日本」と口にしているとあった。

 

何をもってしてパーパルディアの内戦に日本皇国が関わってくるのか、ハッキリ言って全く判らなかったのだが、リーム王国はコレを天啓と捉えた。

パーパルディアは一度日本に邪魔をされる形でフェン王国への懲罰行動を失敗している。

アレを行ったのは第3外務局隷下の国家監察軍であったが、列強国の威信が傷付けられた、というのは確かな事だ。

あの事件がきっかけで、多くの国がパーパルディアにそっぽを向き日本へと近付いた。

 

だが、今日に至るまで監察軍の指揮官である第3外務局長も皇帝も、日本への報復行動には出なかった。

フェンで何が起こったのか、よく分かっていないのならば未だしも、しっかりと把握していたにも関わらずだ。

それが日本皇国に対して肯定的な、あるいは融和的な外務局への、ひいては外務局の行動を許す皇帝への不満となって内戦へと発展した。

 

因みにリーム王国人は、結果的に軍のほぼ全てに叛逆された皇帝ルディアスを「ざあまみやがれ」と笑った。

 

と、それは兎も角。

人と言うのは余裕があると、いらない欲が出てくるものである。

陸軍のほぼ全てに、海軍の半数以上を掌握した反乱派はだからこそ欲を出したのかもしれない。

あるいは日本側に話の通じる外務局に助力しようと言う動きがあるかもしれないと、冷静に判断しての戦略的な行動なのかもしれないが。

 

どちらにせよ反乱派が直接か()()()()()()「フェン王国への懲罰」を行うという形でかは分からないが、日本に対して何らかの牽制を行おうとしているのは、間違い無いと見ていいだろう。

日本とフェンの関係性が必ずしも良いものではないというのはリームも掴んでおり、フェンへの侵攻があった場合日本が動くと言い切れない所もあったのだが、「一度は救った国を見捨てた」と取られるのを日本が嫌がれば動く可能性は侵攻を防ぐにしろ、侵攻後にしろ十分に有り得る。

 

また、反乱派の牙が直接日本、あるいは()()()()()()()*1であるロデニウス大陸へと向けられたとなれば、報復にデュロの基地を焼き払う位はやってくれるかも知れない。

そうでなくとも直接動いた艦隊と、輸送船に乗船しているであろう陸軍兵士の行き先はあの世へと強制変更されるだろう。

 

そうなればデュロを落とす際の最大の障害が消える事になる。

 

そう考えたリーム王国は、最終的に戦争の準備をしつつ動きを見せるデュロの部隊の動向を注視しつつ、属国と属領の地下組織を煽り、日本に対する動きが本当にあった場合には日本に働きかけ、障害を排除してもらう様持って行くと言う方針を固めた。

 

 

 

 

 

パーパルディア皇国で内戦が勃発して数日。

グラメウス大陸の要塞【ポラリス】にて日本皇国及び神聖ミリシアル帝国の将官級による会食が行われた。

日本皇国派遣軍司令官の野坂中将はその場で、非公式かつミリシアルの指揮官チョーク少将の私的な発言として

 

「ミリシアルは日本がパーパルディアの内戦に介入したとして、コレを非難する事はない」

 

と告げられたと本国へと報告している。

 

 

 

*1
リーム王国の主観、というか側から見ると少なくともロウリア王国は日本の属国に見える




何やら飛び火してきそうな日本とアルタラス。
新しい薪をくべる気満々のリーム。

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