魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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アルタラス島沖大海戦・3

第1艦隊竜騎士隊(1stFDK)が第4艦隊へと襲いかかった。

 

先にも述べた様に、パーパルディア皇国海軍において同等の相手と戦う場合、竜騎士隊の攻撃時の運用は基本的に哨戒に着く20騎と100騎の直掩騎を残して、120騎をもって行われる。

その為、先程第3艦隊竜騎士隊(3rdFDK)と戦った部隊が全て撃墜された第4艦隊竜騎士隊(4thFDK)にしても、20騎の哨戒騎と100騎の直掩騎が残っていた事になる。

 

とは言え、その150騎全てが艦隊上空にあったのかと言うと、そうではなかった。

4thFDK直掩騎120騎の内、艦隊上空を飛行していたのはその哨戒20と直掩50の合計75騎。

75騎の竜騎士達は艦隊が第3艦隊後方にあるからと、艦隊の保有する全竜騎士240騎を投入して来た1stFDKの前に呆気なく蹴散らされ、残る50騎も優先的に狙われた竜母と共に飛び立つ事もままならず、爆炎の中に消えた。

 

そうなって来るともう第4艦隊には一瞬にして空を支配した1stFDKに対しなす全ては殆どない。

意外に思うかも知れないが、パーパルディア皇国海軍の艦艇には対ワイバーン用の兵装というものが存在しない。

それはひとえに

 

「蛮族共のワイバーンが、我が国の誇るワイバーンロードの防空網を突破し艦隊は肉薄する事などあり得ない」

 

と言う奢りから来る物であった。

無論、文明国や文明圏外国のワイバーン相手であれば確かにそれで良いものの、パーパルディア皇国が仮想敵国と定めるムー国の飛行機械や、世界最強の国家たる神聖ミリシアル帝国の天の浮舟相手にはそんな事を言っていられるはずも無いので、ミリシアルから対空魔光砲を密輸入して対空兵装の研究は行われていたが、現状のパーパルディアの技術では対空魔光砲の製造・量産など夢のまた夢である。

そうなると、バリスタなんかの対空兵装を装備すると言う話も出てくるのだが、それでは結局飛行機械や天の浮舟相手では嫌がらせにもならず、その他の相手にはそもそも接近される事も無い為、結局は装備される事はなく、対空魔光砲の研究を続けつつワイバーンロードに更なる改良を加え、空戦にて対抗すると言う方向へと舵をとっていった。

 

その結果が、海軍艦艇の持つ対空兵装が水兵のマスケットくらいと言う、ミリシアルやムー、日本皇国からすれば耳を疑う様な現状であった。

そのマスケットにしても、運良く竜騎士に当たるか、さらに運良くワイバーンロードの目にでも当たらない限り、無力化する事は難しい。

空中にあった75騎が多少なりとは削ったとは言え、相手はそれでも200を超える数がある。

第4艦隊の艦艇は次々と爆炎に飲まれていく。

 

更にそこに増速してきた第3艦隊の魔導戦列艦からの砲撃が加わる。

 

 

 

「パーパルディア皇国海軍、皇帝派艦隊と反乱艦隊は砲撃戦へと移行したものと思われる!」

 

アルタラス王国海軍旗艦【エルム・アルタラス】のCICにレーダー士官の声が響く。

 

【エルム・アルタラス】はアルタラス王国が日本皇国から購入した航空駆逐艦だ。

艦名はアルタラス王国の言葉で「アルタラスの栄光」となる。

 

元は日本皇国海軍の最新鋭艦である【島風型駆逐艦】から見て3つ程前の艦級で、島風型の就役に伴い退役したものがレストアされアルタラス王国海軍へと売却された。

売却額は元々退役後には標的艦となる予定で既に武装などが取り外されていた事もあり、退役前より多少グレードダウンした状態に再武装された上でほぼ捨て値の様な値段で、アルタラス王国は上質の魔石の日本皇国は対する輸出優遇の確約と現物の魔石で支払いを行った。

が、それでもアルタラスからすれば相当の負担であり、結果として希望していた魔導戦列艦全ての航空戦列艦への変更は見送られる事になり、航空戦列艦は最低グレードの物を5隻購入、魔導戦列艦は半数を日本の技術支援を受けて強化。

残る半数と魔導戦列艦では無い艦艇に関しては維持費削減の為、非魔導艦は【エルム・アルタラス】以下航空艦隊の標的艦になり、魔導戦列艦の方は魔導戦列艦を持たず、航空戦列艦をまとまった数購入する財力も無い文明圏外国へと格安で売却された。

 

そうして何とかギリギリで編成されたアルタラス王国海軍航空艦隊は、日本皇国海軍が航空戦列艦購入国に対してロデニウス大陸にて行っていた合同教導に参加していたが、パーパルディア皇国との決定的決裂からの事実上の宣戦布告を行った事により、急遽アルタラス本国へと呼び戻されていた。

 

到着した日には式典が開かれ、国中から王都ル・ブリアスに集まった国民達に、その姿と艦首に描かれたアルタラス王国の国旗を見せつけ、国民達はその姿に大いに沸き立った。

 

式典の後、日本からの情報でパーパルディア海軍第4艦隊第5艦隊からなる侵攻軍が出港したことを知ると、侵攻軍は大量の戦力揚陸させる為、王都より北に40kmの地点にある長く続く海岸線を狙って来るものと想定し、アルタラス海軍は海軍軍長ボルドが直接指揮を執り【エルム・アルタラス】以下6隻からなる航空艦隊を展開させていた。

 

【エルム・アルタラス】CICのディスプレイに表示される海図には、レーダー情報がオーバーレイされボルドや艦長のイグノア以下、幹部達がそれを覗き込む。

 

「皇帝派は約束を守った、という事かな?」

「は。現状の動きを見る限り、そう考えても宜しいかと」

 

ボルドの言葉にイグノアが頷く。

彼らの視線の先、海図に表示されるレーダー情報によると、先ず東進してきた反乱派に属する第4艦隊と思われる艦隊に、南下して来た皇帝派と思われる艦隊の後方から現れた竜騎士隊による空襲の後、反乱派艦隊と皇帝派艦隊は同航戦による砲撃戦を始めている。

 

「ふーむ」

「どうかなされましたか?」

「いや、うん。我が目で見ても未だ何とも信じ難いな、とな?」

 

首を捻ったボルドにイグノアが声を掛けると、彼は苦笑しながらそう言った。

ボルドが言いたい事はイグノアにもよく分かった。

日本皇国を通して、パーパルディア皇国第3外務局から

 

「アルタラス王国へと侵攻せんとする者達の行動には、皇帝陛下ならび第3外務局の意思は全く介在していない。

貴国と我が国との間で起こった出来事は全て皇国と皇帝陛下へ叛逆した者によって企てが原因であり、我がパーパルディア皇国は全力を持って叛徒の試みを阻止せんとするものである。

パーパルディア皇国はアルタラス王国との対話を望む」

 

と言った旨の新書が届けられた。

当然、これを受け取ったアルタラス王国国王ターラ14世以下、王国首脳部はまともに受け取らなかった。

正確に言えば「皇帝の意向とも第3外務局の方針とも違う思惑」が働いて、あの様なふざけた「要求」が為されたのであろうという事はなんとなく理解した。

実際の所、パーパルディア本国からやって来ていた第3外務局の局員は、これまでのパーパルディア人の態度からは考えられない程丁寧な態度であった。

そして交渉の内容も同じ様に、これまでのパーパルディアからすると考えられない様なものであった。

例えその態度のその交渉内容の裏に、第3外務局ややって来た局員の「アルタラス王国のバックにいる日本皇国に対する畏れ」が見え隠れしていたとしても、彼らはアルタラス王国を取るに足らない蛮族の集まりでは無く、一つの国として尊重していた。

皇帝もその動きに起こる事も、第3外務局局長を罷免する事も無く黙認していた。

 

だと言うのに手のひらを返したかの様な「要求」。

そこに皇帝の意思も第3外務局の意思も介在していなかったと、そう言われれば納得し得る所も確かにあった。

 

しかし

 

だが、しかし

 

「我がパーパルディア皇国は全力を持って叛徒の企みを阻止せんとするものである

 

この一文だけは正直信用ならなかった。

パーパルディア皇国は現在、親書をよこした第3外務局が属する所の皇帝派と、皇国租領王とか言う皇族を担ぎ上げた貴族を中心とした反乱派に別れて内戦中だ。

聞こえてくる話によれば未だ本格的な軍事衝突は起こっていないようだが、戦力に乏しい皇帝派からすれば反乱派がアルタラスに侵攻すればその分“敵”の数が減るのだから、どちらかと言えば歓迎する事なのでは無いか?と言う疑問から来るものだった。

 

それにいくら二つに別れて争っているとは言え同じ国の人間同士、好き好んで殺し合いをしたいとは思わない筈だ。

 

「叛徒の企みを阻止する」と言われても素直に信用出来ない。

今更言葉や皇帝の威光なんかで反乱派の侵攻軍が止まるとは思わないし、それを止めようと思うと実力行使しか無くなる。

艦隊に対する実力行使となると、穏便に済ませるとして同数の艦隊で進路を塞ぐかぶつけて止める位だろう。

もっとも、それで上手く行くとするならばそれは侵攻軍が大人しく皇帝派の軍門に降った時ぐらいのものだ。

無抵抗なんて事がある筈ない。

 

そうなると、止めるには戦闘をもって侵攻軍を粉砕するしか無くなる。

同じ国同じ海軍の仲間同士で、殺し合わなくてはならなくなる。

もしかすると、それが内乱最初の本格的な軍事衝突となり、本国側でも本格的な戦闘が始まる引き金になるかも知れない。

 

政治的な判断が出来る海軍上層部は兎も角、末端の水兵達がそれを受け入れらるとは到底思えなかった。

例えばそれが皇帝を守る為であるならいざ知らず、守る対象はこれまで散々蛮族と見下して来たアルタラス王国だ。

「そんなのはごめん被る」と反乱派に奔ってしまう兵士が出てもおかしく無いだろう。

 

そもそもこの親書すら欺瞞で、「アルタラス侵攻を止める」言って艦隊を出撃させ、西から来る艦隊と合流させてアルタラスを侵攻する腹づもりである可能性も無いとは限らない。

第3外務局と皇帝が融和策に舵を取っていたのは確かではあるが、しかしその時点から既にこちらを欺くつもりであったとも考えられる。

 

第3文明圏やその周辺の文明圏外国にとってパーパルディア皇国とは、そう簡単に信じられる様な相手では無いのだ。

彼らが如何に言葉を重ねようと、これまでの蛮行の数々がそれを塗り潰してしまう。

第一に昨今の融和策にしても、パーパルディアという国が方針を完全に転換したと言うよりは、アルタラスを筆頭に文明圏外国の背後に日本皇国の影が見え隠れし始めたからだろう。

 

兎も角「信用」するのは難しかった。

 

「交戦中のパーパルディア海軍、反乱艦隊皇帝艦隊共に間もなく先頭が我が国の領海へと侵入します!」

 

故にアルタラス政府は未だ正式な回答を行なっていなかった。

 

「皇帝派は宣言通りに動いた。まぁ傍受した魔信によればアルタラスでは無く、自分達の誇りとやらを守るためらしいが......」

「一応、我が国へと侵攻している敵を押し留めているのは事実です」

 

パーパルディア皇国海軍の皇帝派に属すると見られる艦隊は、政府の宣言通り反乱艦隊に対して容赦なく襲い掛かった。

「皇国海軍の誇りを守るため」とはしているが、実質的にはアルタラス王国を守る為に本来は仲間である存在と戦っている。

 

「あちらさんは誠意を見せた。ならば我々もそれに応えるべきだと思うが?」

「あの2つの艦隊のどちらがどちらに属するのか、正確に見分ける事はできません。であれば我が国の領海を侵犯した者を纏めて叩いたとしても、言い訳は立つでしょう」

「ほう」

 

攻撃対象から皇帝艦隊を除くべきかと言うボルドの問いかけに、イグノアは鋭い視線でディスプレイを見ながら返す。

その言葉にボルドが興味深そうな視線を送り、CICに居る士官達からも視線は感じないものの、こちらの言葉に意識を傾ける気配を感じる。

何より背後に静かに佇む、急遽の実戦投入に際して補助を目的に乗船したままの、日本皇国海軍の教官からの視線が厳しいものに変わるのを感じた。

 

「しかし、それでは後々政治的に問題になります、なんと言っても相手は共闘したいと言ってきているのですから。

また、パーパルディアの戦力が削れる、と言うのは歓迎すべき事態では有りますが。それが過ぎて皇帝派の戦力が著しく削れ、これまでと変わらない、いえともすればこれまで以上に苛烈な思想を持つ反乱派が覇権を握る事となれば、我が国のみならず周辺国家にとっても大きな脅威であると言えるでしょう。

提督、日本海軍からの情報では南下してきた艦隊が皇帝艦隊です、警告の後東進してきた反乱艦隊のみを攻撃すべきだと具申します」

 

イグノアの言葉を受け、ボルドは一瞬瞳を閉じて思考する。

確かに彼の言う通りパーパルディア皇国全体の戦力が削れるのは正直言って、諸手を挙げて歓迎したい事態だ。

だが、だからと言って反乱艦隊と纏めて皇帝艦隊を攻撃して沈めてしまう、という訳にもいかない。

なんと言っても相手は態度を軟化させ融和姿勢をとる皇帝派に属している、そんな存在をここで沈めてしまえば皇帝派の態度を変えてしまう可能性が高い。

 

「よろしい。レーダー!両艦隊の魔力反応は!?」

「は!既に分類済みです!」

「よし!火器管制!!皇帝艦隊の魔力反応を攻撃対象から除去せよ!通信!航空戦列艦各艦にもその旨打電!!」

「「アイサー!!」」

「全艦砲撃戦用意!!警告射撃の後、侵略者供を排除する!!」

 

【エルム・アルタラス】以下、アルタラス王国海軍航空艦隊が動き出す。

 

 

 

 

 

 


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