「間も無くアルタラスのワイバーンの作戦行動半径!!」
「うむ。対空魔振感知器に反応はまだ無いか?」
「は、それがその......」
第5艦隊司令にしてアルタラス侵攻部隊の総司令を務めるシウスの問いかけに、彼の乗艦である120門型超フィシャヌス級魔導戦列艦【パール】の艦長が言いづらそうに答える。
「何かあったのか?」
「はい、少し前から対空魔振探知器の受信器が飽和状態を起こしておりまして」
「飽和?どう言う事だ?」
対空魔振探知器とは[魔素]を利用して空を飛ぶワイバーンをできる限り遠くに居る時点で発見する為に作られた、[魔素]が消費され[魔力]が精製・使用されている状態を感知する対空レーダーだ。
[魔素]を使用しているものが空にあれば、探知範囲内であれば捉える事ができ、それを持って周辺国に対し優位に立っているのだが、今回に限ってはそれが裏目に出てしまった。
「原因は?」
「不明です。一度起動し直してみましたが変わらず」
彼らに原因がわからないのも無理は無かった。
そもそもからして、この現象を引き起こすこととなった原因である日本皇国艦隊としても、この様な現象が起こるとは想定外であったのだ。
そう、パールディアの誇る対空魔振感知器を所謂ホワイトアウト状態にせしめたのは、日本艦隊の対物索敵レーダー[シナツヒコ]が原因であった。
[シナツヒコ]と名付けられたこの[魔法]は、[結界魔法]に分類される[魔法]だ。
[術式]を展開する航空艦を中心に半径150kmの球状結界を展開し、その中で動く空気の流動、風の動きを掌握し結界内に存在する“動くもの”全てを大小問わず補足する。
[術式]の作動中、結界内にある[魔素]は常に少量ではあるものの消費され続ける。
今起こっているのは、それを探知した対空魔振探知器が空間中のあちこちで消費される[魔素]を感知し続けている事に加えて、本来ならば対空魔振感知器で感知する事が想定されていない膨大な魔力反応、つまり航空艦の[魔力炉]が消費する[魔素]と発する[魔力]によって、飽和状態を起こしホワイトアウトしていると言う状態である。
地球の国家であれば、魔法陣営にしろ科学陣営にしろ[魔力]の探知以外の索敵手段を持っているし、[結界魔法]に使われている[魔力]を特定して、レーダーからは除去する技術もあった。
が、パーパルディアの対空魔振感知器ではそれが出来ない為に、日本としてはただの索敵手段である[シナツヒコ]が、意図せぬジャミングの役割を果たしていた。
「故障、いや本艦の対空魔振感知器だけか?」
「いえ、他の搭載艦からも同様の報告が挙げられています」
「......敵による何らかの工作か?」
「まさか!?蛮族共にそんな事が出来得る筈がありません!!」
【パール】1隻が搭載する対空魔振感知器が、この様な状態になっているのならば兎も角、艦隊に所属する対空魔振感知器を搭載した艦全てが同じ様になっているともなれば、故障では無く何らかの外的要因が加わった結果かと首を捻るシウスに、まさかそんな事が有る筈が無いと艦隊参謀が首を振る。
「蛮族、アルタラス王国で無くとも“偽帝”ルディアスに与した皇都の艦隊、と言う可能性もある」
「いえ、ですが。対空魔振探知器の受信器を飽和させる装置が開発されたなどと言う話はてんで聞いた事が有りません」
「中央の連中が隠していた、と言うのも十分にあり得る。まぁいい、対空魔振探知器が効かぬのならば竜騎士達に目視で探させよ。取り敢えず通常の索敵に加えて50騎ほどを上げろ。航空参謀、運用については任せる」
「はっ!」
シウスの命令を受け、艦隊の前衛に展開する竜母からワイバーンロードが飛び立たんと準備を始めた。
しかし、彼等がその翼を広げ大空へと飛び立つことは二度と無かった。
ドカァァン!!
空の彼方から飛来した必殺の飛槍が、前衛の竜母4隻と12隻の魔導戦列艦を容赦無く吹き飛ばした。
その中にはたまたまではあったものの、前衛中央に位置した【パール】も含まれた。
○
「対艦誘導弾第1波全弾着弾!目標艦全艦の爆沈を確認!!」
「ッ敵艦隊内での通信量増大!現在解析中ーー解析出ました!第1波攻撃目標に敵艦隊旗艦が含まれていた模様!!」
「おおっ」
【神通】CICは俄に沸き立つ。
全くもって狙った結果では無く、ただ大型でアルタラス海軍の脅威となり得る敵艦を優先しただけであったが、それが結果的に敵艦隊の指揮の混乱を齎したと言うので有れば、ラッキーパンチだったと言えるだろう。
「流石に大国、それも列強とされる程の国家の仮にも正規軍である以上、指揮系統の移行は問題無く行われるとは思うが」
「いえ、どうでしょう?我が国はこの世界の軍事事情の全てを知った訳では有りませんが、少なくともパーパルディアは勿論、上位列強とされる神聖ミリシアル帝国やムー国ですら、長距離攻撃が可能な対艦誘導弾を保有していないのは間違いない様ですからあるいは」
「ふむ。余りにも未知の攻撃過ぎて混乱が大きくなる可能性があると?」
「は。可能性としては無くは無いかと」
この世界において対艦攻撃というと、艦艇どうしであれば艦砲で。
航空攻撃ならばワイバーンかミリシアルの天の浮舟かムーの飛行機械による、命中率もそんなに良くない攻撃位なもので。
敵艦の姿すら見当たらない様な状態で、突然艦艇が爆発した様にしか見えない誘導弾による攻撃は確かに、彼らにとっては未知過ぎるものかもしれない。
「まあ、敵が混乱してまともに戦闘出来ない状態になってくれるのであれば、ありがたい事に変わりない。アルタラス艦隊がぶつかるまでに出来るだけ数を減らすとしよう」
「はい、出来ることをやらずに悪戯に被害を出す訳にもいきませんから」
旗艦を含む大型の魔導戦列艦と、複数の竜母を一瞬にして沈めたとは言っても、押し寄せる敵艦隊の数は未だ300を割らない。
そんな数の敵が相手では、マ・ハーヨコに残されているアルタラス艦隊がどれだけ装備面で対等であっても多勢に無勢。
敵を幾らか食い潰せても、艦隊全滅と言うのも十分に有り得る。
「艦長、誘導弾第二射を後方の竜母に。小物相手は艦砲で良いだろう」
「では後方の竜母を叩き、敵が近づくのを待って艦砲による攻撃に切り替えます。砲撃の目標は、そうですな次席指揮官の乗っていそうな大型艦を優先して狙う、と言うのはどうでしょう?」
「うん、それで行こう」
即座に敵艦隊の後方を固める竜母に対して、対艦誘導弾による攻撃が実施される。
旗艦を含む複数艦艇の突然の轟沈に、混乱の最中にあった竜母達は結局哨戒に飛んでいた少数のワイバーンロード以外を空に上げることも叶わず、船も人もワイバーンも諸共冷たい海に沈んで行った。
○
アルタラス王国海軍 マ・ハーヨコ防衛艦隊【シディ】
「【神通】よりッ!敵竜母を殲滅との事!!また、第一次攻撃にて敵旗艦と思わしき艦艇を撃破!!敵艦隊は現在混乱中との事!!!」
「「「おお!!」」」
通信士の殆ど叫び声みたいな報告に、聞いていた幹部たちが歓声を上げる。
「未だ哨戒に飛んでいたワイバーンは残っている様ですが、それもじきに撃墜されるでしょう。上空の脅威は取り除かれました」
「うむ、これで我が方の不利な条件が一つ減った」
参謀の言葉にタランド提督は大きくうなづいた。
「しかし、敵旗艦撃破とは本当なんでしょうか?」
流石の日本でも、最初の攻撃で旗艦を撃破し得るなどとは思っても見なかった【シディ】の艦長が首を傾げる。
「ふむ、その辺り日本はなんと言っているのだ?」
「は、日本艦隊としても、我が軍にとっての脅威である竜母と大型の魔導戦列艦の排除を優先した結果で、意図して行ったものではなかった様です」
「なるほどなぁ。で、敵の混乱は間違い無いのか?」
「それは間違い無い様です。傍受した魔信では次席指揮官は誰かを問う魔信が殆どだとか。しかし、その次席もどうやら竜母やその他の大型艦と共に沈んだらしく」
「指揮系統の回復には時間を要するか!」
「おそらく」
アルタラスにとっては実に都合の良い話しだが、それは最初の旗艦撃破は兎も角、第二次攻撃以降第18戦隊が敢えて指揮権を引き継げる位の者が乗っていそうな大型艦を優先して狙っているのが原因だった。
最もその選別方法は「相手は砲門数イコール正義みたいな、多砲門の戦列艦を運用しているから、砲門数を大きく出来る大型の艦艇に乗ってる奴の方が偉いだろう」と言う考えからくるわりとイイカゲンなものだったが、それで結果は出ている様なので榊准将はそれでよしとしていた。
「通信!!全艦に通達せよ、全艦全速前進!!」
「はっ!!」
兎も角、敵が混乱してくれているのであれば有り難いに越した事は無い。
タランドは大きく声を上げる。
「では提督!いよいよ!」
「そうだ!!敵に突入して暴れ回る!!奴らどうせ我々の攻撃が自分達に通じるとは思ってもいまい!改造魔導艦をもって最大射程で一斉射!その後敵艦隊に入り込み暴れに暴れまわるぞ!!」
べつに自らを犠牲にしてでも一矢報いるとかそう言うことでは無い。
敵は現在混乱している、その上長年格下として見下してきたアルタラスの攻撃によって被害が生じれば、更なる混乱を齎す事が出来るだろう。
「【神通】より『貴艦隊ノ突撃ニ合ワセ本戦隊ハ援護ヘ移行スル。貴君ラノ武運ヲ祈ル』と!!」
「華を持たせてくれるか!!有難い!!」
日本艦隊としては別に、全て自分達で終わらせても良い筈だ。
というかそうした方が圧倒的に早く終わるし、犠牲も出ないだろう。
混乱しているとは言え、相手は強大なパーパルディアの腐っても正規艦隊の一つ。
間違い無くアルタラス艦隊では犠牲が出る。
邦人保護と言う目的はあるものの、だからと言って全て自分達だけで終わらせるのは
全滅でもされれば政治的に問題になりかねないが、要はやりようである。
適度に
タランドとしてもそれは有難かった。
彼我の戦力差を鑑みれば日本の手を借りれる事は、有難いし恥ずかしい事だとは思わない。
が、かと言って軍人として、アルタラスを守らんとこの道を選んだ一人の武人として、思う所が無いのか?と問われればそん事は決まっている、悔しいに決まっているし、恥ずかしいに決まっている。
お前達では国を守る事も出来ないと言われて、悔しく無い軍人となんて居る筈がない。居てたまるか。
だからこそ、手伝いを受けていようが。
振るう力が与えられたものであろうが。
自分達の手でやる事が重要なのだ。
「日本艦隊の指揮官は話の分かる武人の様だ!気合を入れよ!彼等にアルタラス海軍の武勇を見せるのだ!!」
「「「おうッ!」」」
マ・ハーヨコ防衛艦隊は全速で敵艦隊へと向かって行く。