魔法日本皇国召喚   作:たむろする猫

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接触・外務局員ヤゴウの日記1

あの日の日本皇国の外交官との会談の後、クワ・トイネ公国は「国交を結ぶにしてもお互いの事を知らなさすぎる」と言う理由で、日本側に対して相互に使節団を派遣する事を要請し日本もそれを快諾。

外務局の職員、ヤゴウもその使節団のメンバーに選ばれた1人だった。

 

 

●中央歴1639年1月29日

 

今日外務局の職員に対し、新興国へ使節団を派遣する旨が通達され、私もその使節団のメンバーに選ばれた。

使節団が向かう新興国の名は「日本皇国」、そうつい先日巨大な飛行船(日本の外交官によると航空艦と言うのが正式名称だそうだ)に乗って我が国にやって来た国だ。

 

帰り際同僚に今回の使節団入を羨ましいと言われた。

まぁ、気持ちはわからないでも無い。

この世界特に我が国が存在する「文明圏外」と呼ばれる地域は、強大で強力な国が少ない事もあって、割と良く国主が変わるとか言った事態が起こる。

そう言うことが有ると都度使節団を派遣するのだ。

使節団に選ばれる事自体は名誉な事では有るのだが、羨ましいがられるかと言えばそうでも無い。

理由としては政変の煽りなどで、派遣先の国内情勢が不安定で有ることが多い事が上げられる。

治安の悪化程度で有ればまだマシで、旧支配勢力によって使節団が襲撃される事も無いとは言えず、実際に記録にもある。

他には我が国は近くの文明圏の影響を受ける事によって、それなりの文化水準にあるが、派遣先の文化水準は我が国よりも断然低い事の方が多い。

 

そして何よりメシが不味い。

 

我が国は大地の女神の加護により、家畜ですらうまいメシを食っているが、かつて使節団が派遣された先では酷い例だが、歓待の席で我が国の家畜でも食わん様な料理が出されたと言う。

もちろん、嫌がらせだとかそんなものでは無く精一杯のもてなしでだ。

なので、使節団として派遣されるのが羨ましいかと問われれば、実はそんなに羨ましくは無かったのが定例だ。

しかし、今回の派遣先は違う。

 

「日本皇国」巨大な船を空に浮かべる事が出来る国。

外交用の特別な船かと思えば、量産されている軍用艦だと言う。

 

今回の使節団派遣は歴史的なモノになりそうだ。

私も歴史に名を残せるかも知れない。

 

●中央歴1639年1月30日

 

今日使節団のメンバーが集められた。

メンバーの人数は5人、全員が外務局の人間だが内1人だけ「日本皇国の軍事力を見る」為、軍務局よりハンキ将軍が出向と言う形で参加している。

会議では今回の使節団派遣の目的が説明された。

使節団派遣の目的として最も大きいのは「日本皇国が果たしてどの様な国であるのか」だ、我が国にとって脅威となり得るのか否か。

巨大な船を空に浮かべ航行させる技術を保有している事は分かっているものの、国民性などは分かっていない。

あの船を見てわかる事と言えば戦っても我が国の海軍では勝てないかも知れないという事位だ。攻撃手段は分からないがあの巨体だ、海に降りる時に下敷きにされれば我が軍の軍船など、ひとたまりもないだろう。

故に知らなければならない。

日本皇国の人間はどの様な人間なのか?何故我が国と国交を結びたがっているのか?覇権国家なのか?ロウリア王国の様に亜人を排斥する文化なのか?その軍事力は如何程のものなのか、日本の弱点になり得る所はあるのか?細かいところまで上げればキリが無いのだが、大枠としてはこの辺りだろう。

 

日本皇国の主張する「転移国家」と言う所には些か疑問を抱かざるを得ない。

まるでムーの神話の話だ、ムー人曰く本当に有った事らしいが他の文明圏の国々からすれば御伽噺に過ぎないのだが。

と言っても、日本皇国の主張を完全に否定出来ないのもまた事実だ。日本側が本国が存在すると主張している海域は小さな群島はあっても、海流だとかの条件も悪く人なんて住んで居なかった筈だ。

例えば第3文明圏の文明国であるパーパルディア皇国の支配から逃れた人々が、運良く流れ着いたりしてそこで国を造ったとしても、あんな物が作れる様に成長するまで他の国、特にパーパルディアが気付かないなんて事が果たして有り得るのかと言うと、それはあり得ないだろう。

一瞬で成長しない限り国の成長にしろ技術の成長にしろ、段階を踏む必要性がある筈で、その間にパーパルディアが気付くだろう。

そして気付いてしまえば技術的に成長している国をパーパルディアが放置しておくとは思えない。

それこそ「古の魔帝国の遺跡」とやらがその群島に有ったとすれば、あり得ない事でも無いのかも知れないが、いや例え遺跡があったとしてもそれの解析や技術を使うのは簡単な事では無い筈だ。

 

●中央歴1639年2月6日

 

今、日本皇国からの迎えの船に乗船している。

最初にやって来て外交官を乗せて来た船で向かうのかと思ったのだが、アレは軍艦であると言う事もあって他国の人間をそうそう簡単に乗船させる訳にもいかないと、代わりの船がやって来た。

 

そして今乗っているのがその船で、最初の船よりは小さいもののその白い色と光の翼がとても美しい船だ。

「旅客航空船」と言う名の船だそうで、その名通り国内外の離れた所への旅行などの際に使用する船との事で、信じられない事に僅か2時間程度の時間で日本に着くとの事だ。

これには軍務局から出向して来て乗船前に船旅に対する文句を言っておられたハンキ様も唖然としておられた。

実際ハンキ様が仰られていた様な湿気やカビ臭さなどは無く、船内は光の精霊でも飼っているのかとても明るい。

揺れなども殆どなく離水した際に微かに揺れたかな?くらいであった。

水の節約なんかの必要も無く、それどころか頼めば色々な種類の飲み物が出てきた。

 

正直言って、この様な物を作り出す国が出来たばかりの新興国などとは考えられないし、直接彼らの船を見ていない同僚の「どうせ蛮族だ」などと言う言葉には絶対に賛同出来ない。

もしかすると、そうもしかすると、認め難い事だが、彼らから見た我々の方が蛮族に見えているかも知れない。

 

●1639年2月7日

 

信じられない程の発展具合だ。

到着したと言われ下船した我々が降り立ったのは、我が国最大の港であるマイハーク港ですら足下にも及ばないであろう、凄まじく巨大な港だった。

我々の乗って来た物と似たような形の船が大量に並んでおり、クワ・トイネの如何なる建物よりデカイのではないかと思える様な、そんな建物が建っていた。

それだけでももう十分な驚きだったのだが、我々はこの後更に驚かされる事となった。

ホテルに移動すると乗せられたのは乗って来た船よりは小柄な、それでも馬車なんかよりはよっぽどデカイ、リムジンバスと言う四角い船だった。

我々が乗り込むとスルリと動き出したバスは「それではこれより地上へ降下します」との言葉と共に空中へと身を踊らせゆっくりと降下を始めた。そして促され窓の外を見やると凄まじく巨大な、それこそ最初に見た航ですら霞む様な巨大な島が空に浮かんでいた。

 

自分が今何を見ているのか、思考が追いつかなかった。

我が国に来た船ですら停泊している姿は小島と見紛う大きさであったというのに、アレはなんだ。

最早島ではなく大地だと言っても過言では無いだろう。

そう考えた私の考えは当たっていたらしく、アレは「タカアマハラ」と呼ばれる人工の大地で、我々が最初に降り立った港がアレであるとの事だった。

ソウオンタイサクや安全面への配慮とやらで、陸地から少し離れた海の上空に存在しているらしい。

 

船だけで飽き足らず大地まで空に浮かべてしまうとは、我々は一体どこに来てしまったと言うのか。

 

●中央歴1639年2月8日

 

昨日はホテルにて日本皇国の基礎知識に関する教育を受けた。

その過程で聞かされた車という乗り物に関するインパクトは凄かった、馬車の様な車輪を持つ乗り物なのだが馬が引いておらず、程度の差はあれど1世帯に1台は保有しているとの事で、その車が走る道には常に何十台何百台と走っており、その流れを管理する信号機の指示を守らないと犯罪となってしまうとの事だ。

 

また、車の他にもチラホラと見られた「ホウキ」にも驚かされた。

見た目は掃除をする為の道具であるホウキそっくりなのに、なんとかの国の国民はそれに跨って低空を飛行しながら移動していたのだ。

驚いた他のメンバーが尋ねると元の世界では車以上に普及していて、子供でも乗ることの出来る乗り物だと教えられた。

 

一般的な乗り物だけで無く、今日は軍用の乗り物についても目にすることが出来た。

ハンキ様の要望で軍の基地を見学出来る事となり、私もそれに同行した。

昨日降り立った港と同じ様に空に浮かぶ島に案内された。

そこには、我が国に訪れた航空艦と同じ船やそれよりも巨大な船が何隻も停泊しており、彼等の言った量産されている船であると言う言葉が、偽りのない事実であるとそう認識せずにいられなかった。

 

まず案内されたのは「キリュウ」の駐機場という所であった。

そこには白く我が国のワイバーンよりも巨大なワイバーンが十数騎いた。

その大柄で力強い印象を受けるワイバーンの姿に驚いていた私たち2人は、整備責任者と紹介された軍人の説明によって更に驚愕してしまった。

彼の口から出た言葉は、彼等のワイバーンは生物では無く人工的に作り出された機械式の兵器であると言う言葉だった。

ワイバーンの品種改良なら文明圏では行なっていると聞いた事はあるが、人がワイバーンを創り出すなど聞いたこともない。

驚く私達に「証拠を見せましょう」と彼が1騎のワイバーンなら近づき、その胸部部分に何かしたと思えばパカリと開いてしまった。

手招きされ近づき覗き込むと、中が空洞になっていて椅子の様な物が見えるなど確かに生物では無いのだと、納得する他なかった。

この時点でもう十分に驚いていたのだが、続く説明で私達が見学したワイバーンは哨戒や少人数の輸送を行う為の機体で、戦闘用では無いと言う事。

陸軍が戦闘用のキリュウを保有しているが、それも現在では主力の航空戦力では無く、あくまで地上戦力に対する航空支援の為の機体であり、主力の航空戦力はまた別にあるとの事だった。

 

その主力航空戦力も見学させて貰えた。

それには、はっきり言って我が国のワイバーンは疎か、少なくともロウリアのワイバーンでは相手にもならないだろう。

人の創り出した物が音よりも速く飛ぶなど、ワイバーンでどうやって対抗しろと言うのか。

 

今日の基地見学は実に有意義であったが、精神的に凄く疲れた。


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